城門前から広場までたくさんの人がひしめきあってる。
軽食や雑貨の出店まであって、ちょっとしたお祭り騒ぎね。
「すごい人だわ。人の熱気で暑いくらい」
「『王子様』より人気者なのは間違いないな。この国のレディたちはあぁいう素朴系イケメンがお好み、か……ふむ。誘い文句としてたまには気分を変えるのを誘うのもありかもな?」
「へいへい、聞いてもねぇこと抜かすなよ……ん? なんか派手な格好をした男が城の方から来たみたいだぜ。兵隊ども引連れて」
「どこどこ? いた!
あれがチャゴス王子じゃない? エイト殿下と似てるデザインの服だし」
「そうか? どっかの貴族の令息じゃねえのか? 言っても従兄弟同士だろ? それにしてはあまりにも似てないような……あぁいや、まぁ、従兄弟だしそんなもんか?」
「あんたとマルチェロよりも似てねぇや!」
「おいヤンガス、せっかく俺が飲み込んだことを言いやがって」
「まー、スラッとした優男とヤンガスより少し細いくらいの太っちょじゃあ優男の殿下の方が人気よねぇ」
そろそろ戻ってくるはずの若い殿下の姿を見るために城門の近くは押し合い圧し合い、といったところね。
周りの噂話はもっぱら、殿下が持ち帰ってくる予定の「アルゴンハート」という宝石の話ばかり。
なんでも、強いアルゴリザードはより大きなアルゴンハートを持っていて、エイト殿下の父である王兄エルトリオはかつてとっても大きな宝石を持って帰ってきたんだって。
だからその息子として期待されているんでしょうね。
まぁ、立場の割に偉ぶってない変わり者の殿下だけど自分の腕には自信があるみたいだったし。
この辺りのモンスターってひとりで相手するには骨が折れるけど、エイト殿下はしきたり通りひとりで行ったみたいだし、そこに対して不安の声が聞こえてこない時点で相応に強いんでしょう。
城で聞き込みをした時にも鍛錬に熱中しすぎて食事に呼んでも殿下は聞いちゃいないから最近王様が落ち込んでるとか、料理番がサンドイッチを届けたとか、あと殿下が木剣で的を破壊しすぎて兵士の練習台がなくなって困ってる、みたいなエピソードとか……いろいろ聞いたわね。
チャゴス王子はわかりやすくワガママな王子様で頼りない、だけどエイト殿下も変わり者で、好奇心旺盛で向いている方向が遊びじゃないだけの傍若無人。
どっちも同じだけ甘やかされた人たち。
そんな印象だったかしら。
ちょっと見物させてもらったらすぐに王様への謁見を頼んでみましょ。
この様子だとしばらく王宮の中も大騒ぎだろうから今日は無理でしょうけどね。
この次に来るって言われてるチャゴス王子の試練までには謁見させてほしいわ。
本音を言えばすれ違いざまににやにやした目であたしの方を見てきたあのムッツリした王子様が出かけているうちの方がいいんだけど、「恩を売る」ために護衛に取り立てて貰いたいからそういうわけにもいかなそうよね。
あーあ、エイト殿下の方は全然あんな様子なかったのに。
むしろあたしたち三人の顔を順々によく見て覚えようとしてくれていたって感じ。
ちゃんとした身なりなのに胸ポケットにちっちゃなネズミを入れてて、話が終わったら白手袋の手のひらに乗せて撫でながら立ち去っていったのよ。
可愛い小動物が好きなスマートな殿下……か。
彼にも問題があるとしても人の胸ばっかり見てくる王子様よりずっと王様になって欲しい、かもね。
なんて考えていると、城門がガラガラと開きそこにはもちろん噂のエイト殿下が。
怪我の様子もなく、周囲ににこやかに手を振りながら城へ向かっていく。
あ、こっちに気づいたみたい。
こっちにも手を振ってくれて、そのままパレードのように人波ごと動いていくのを少し離れたところからあたしたちは見ていた。
いつの間にかチャゴス王子は殿下の隣で何故か胸を張って、なにか熱心に話しかけていて、仲がいいって話は本当みたい。
「まるで英雄の凱旋だな。さ、城に野次馬しに行こうぜ。きっとアルゴンハートのお披露目会をやるはずだ」
あれだけたくさんいた人たちはすぐに散らばって、なにやら忙しそうに働き出したから今日は国をあげてお祝いパーティでもするのかしら?
お陰ですんなりと城に入れたし、見張りの兵士に聞いてみれば快く後ろの方だけどお披露目会の見学ができることになった。
玉座の間はとても広くて、毛の長い赤い絨毯が敷いてあって、とても豪華な部屋。
大きな玉座に座った王様はチャゴス王子が歳をとって、痩せていて、背が高かったらこんな感じ? という見た目。
従兄弟にしても似ていないと思ったけれど、ふたりとも父親によく似ているという意味では似ているのかも。
多分、エイト殿下の隣にあったそっくりの男性の肖像画が「王兄エルトリオ」なのだと思うから。
チャゴス王子はお城の中に飾ってあった肖像画とは似ても似つかない太さをしていたけど……見栄っ張りなのかしら。
エイト殿下の肖像画は本人そのまま、なんなら父親そのものの見た目だったけど。
エイト殿下の横にいるチャゴス王子が早く早くと子どもみたいにワクワクした声で催促しているのが聞こえる。
「王者」の儀式なのよね?
先を越されちゃって、チャゴス王子は従兄弟に王座を取られてもいいのかしら?
もしかしたら王位継承権の順番は宝石の大きさによるとか?
だから早く知りたいのかしらね。
緊張した空気の中、エイト殿下の前に布をかぶせた台が運ばれてくる。
「よくぞ無事に戻った。我が兄エルトリオの子、エイトよ。それではアルゴンハートを見せるがいい」
「はい、おじ上。サザンビーク王家の名に恥じぬアルゴンハートだと自負しております」
殿下が布を取り払うと周囲からどよめきが広がる。
あたしの位置からはよく見えないのだけど、ククールが「子どもの頭くらいある」と小声で教えてくれた。
えーっと、そもそも元々どれくらいが普通の大きさなのかしらね?
でもよく知っているはずの人たちがこんなに驚いているくらいだからすごいことなのかしら。
「これは素晴らしい。見事な大きさのアルゴンハートだ。我が兄上にも引けを取らない……さぞかし巨大なアルゴリザード、いやアルゴングレートと戦ったのだろう。その激戦についてはまた夕食の場にてゆっくり聞くことにしよう。
うむ、エイトよ、大事なかったか?」
「ご心配には及びません。差し支えなければもう一度でも……そうですね、あの個体のつがいから取ってきてもいいくらいですよ。チャゴスの分として見逃しましたが」
「言うようになったな。その口の利き方も兄上そっくりだ。
……さて、これでエイトに王位継承権が認められる。もちろん、我が息子チャゴスも試練を受け、最終的にどちらが国王となるのかはふたりのあらゆる出来を比べなければならないがな。
天の兄上もさぞかし息子が誇らしいだろう。立派になったものだ。
それではチャゴスよ。今度はお前が勇気を見せる番だな。我が息子として王兄の子より優れていると証明してみせるのだ。さもなくば王座はエイトのものになる」
「ひぃっ! は、はい。しかし、今日今からというわけにはいきません。本日はエイトを労うパーティがあります! それから、そうだ、バザーのあとでも、大丈夫かと」
「もちろん今日、明日にでも行けという訳ではない。王家の山の整備の時間も必要だからな。しかしバザーの開催まで待つつもりはないぞ。正式な日程は追って決定する。覚悟を決めておくのだ、チャゴスよ」
「はい、父上……」
トボトボと歩きながら下がっていくチャゴス王子と、こちらにまっすぐ向かってきて、「この後前に話したところに来てね」と声をかけて去っていくエイト殿下。
対照的に爽やかな感じね。
ククールは殿下から血の匂いがするとか言ってるし、ヤンガスはあんまり彼の実力を信じてないみたいだけど。
優しそうに見えてあれで結構好戦的なのかしら。
怪我してないし服も綺麗だし、返り血でも浴びたのかしらね。
うーん、試練の前からどっちが王様になった方がいいのかなんて明らかだけどな。
あたしたちの心は多分同じだったと思うけど、こっちには関係ないことよね。
それより魔法の鏡が必要なんだから。
エイト殿下の言った通りにこの前話した部屋に行くと、そこにはチャゴス王子もいた。
女遊びにギャンブルに暴食の上に試練のための鍛錬とか政治の勉強とかサボり続けているが、たまにエイトにふん縛られて強制的に呪文の勉強とかさせられている。
ホイミは覚えた。王家の試練で一行に使ってくれることはない。
従兄弟があまりにも聞いた話を鵜呑みにするタイプなので不安になって少しだけ周りを見る目はついてきたが、相変わらず自分を律するとかはない。
優秀な従兄弟が王様に向いてなさすぎることはよく分かっている。
エイト殿下
兵士用の備品を破壊しまくったら兵士や整備士が困るとかそういう視点はない。鍛錬も勉強も寝食忘れてのめり込むので世話係が発狂している。部屋の掃除もさせてくれないし身支度もやらせてくれないのは王族としてどうかしている。
人の話を本当に鵜呑みにしているわけではなく、「面白いから騙されててもいいや」なので改善しない。甘やかされて育った結果の楽観主義。
やりたいことしかやらずに育ったのでお勉強はできるタイプの脳筋兵器になった。
王宮で先生をつけて学んだのでブーメラン→弓 にスキルが変更。作中では剣しか使わないのでほとんど意味の無い裏設定。ヤンガスの鉄球系と同じようにブーメランも装備可能で通常攻撃はできる感じ。