サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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上陸:伝説を探して

翌朝、海を染める朝焼けがすっかり消え去った頃。

トロデ王操る魔法船は、僕らと共に目覚めたように地図に示された地点へ進み始めた。

この船は帆船じゃないから、動かさないように操縦すればせいぜい海の上を漂うような速度で前に進むに留まるみたいだった。

 

僕たちはすぐに戦える準備をして、ミーティアは馬具を着け、それぞれ甲板でその時を待っている。

 

それにしても、海図に示された地点と「推定神鳥の島」は少し距離がある。

どうやって島に乗り込むのか想像もつかないな。

 

なんか、みんなの話を総括するとこの魔法船を手に入れた時は精霊? のチカラを借りてミーティアの歌とハープの調べで荒野に放置されていた船を「呼び覚ました海の記憶」で海まで運んだらしい……けど……。

 

いやはや言葉にしても意味不明すぎて目撃できなかったのが悔しい。

でもさ、これまで無茶苦茶な奇跡を起こしてきた一行に加わったわけだし、こう考えてみると崖の上に船で行くくらいなんとでもなる気がする! ……よね?

 

「そろそろじゃぞ~!」

 

トロデ王の言葉通り、ゆっくりと例の岩場が近づいてくる。

滑るように船が岩場の隙間に入り込む。

 

すると、突然、海面が光り始めた!

いや、光っているのは岩に囲まれた例の岩場だけで、海図に呼応しているかのよう!

 

「わ……」 

 

白い光が船の周りを取り巻く。

そして眩い光が、海面に見えざる巨大なペンで線を引くように描かれていく!

 

くねくねとした線はまるで道のよう。

そうして、光で作られた不思議な海路が海上に現れた!

 

「そういえば海図になんか……」

 

僕は階段を上るのも惜しくて、そのまま強くジャンプして操舵席に飛び込んだ。

操舵を握るトロデ王に会釈し、海図を確認すると……。

 

「これは……海図と同じ線が海に描かれている……」

 

「本当ですじゃ、紙切れに書かれたものが現実に投影されるとは……」

 

他のみんなも操舵席に集まってきた。

 

「それじゃあこの光の海路に沿って進めばいいってことか?」

 

「あからさまに怪しいけれど、邪悪な雰囲気はないし……」

 

「トロデのおっさんの操舵技術が試されるってわけでがすな!」

 

「ええい、やればいいんじゃろ! 皆の者、また配置につくのじゃ!」

 

トロデ王が腕をふるい、くねくねとした細い海路を見事な技術で走破していく。

少し遠回りだけどこの道は例の島に近づいていくようだ。

 

あれ、この「光の海路」って、このまま進むと……。

 

「ね、ねぇこれってまずくない?」

 

「このままじゃぶつかるぞ、トロデ王!」

 

「分かっとる! じゃがいきなり操舵が効かなくなったのじゃ!」

 

「なんだってぇーッ! 兄貴、もうぶつかりやすよ!」

 

こんな岸壁に速度も落とさずにぶつかっちゃ、間違いなくこの船はバラバラになってしまう!

「ルーラ」で逃げるか、それとも海に飛び込むか……!

だけどもう呪文を唱えて船の上に散らばっている全員を捕捉出来るほどの時間はない!

 

気づくと傍にミーティアがいて、僕はせめて彼女だけでも逃がそうと手を伸ばしかけ、

 

『大丈夫、一緒よ』

 

ミーティアが優しくそう言った気がして、僕は一瞬呆けたように固まった。

 

みんなが顔を覆う。

目を背ける。

 

僕は、伸ばした手でそっとミーティアの背を撫でた。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

 

気づくと僕らはまったくの無傷のまま入り江にいた。

 

「な、な、なんじゃったんじゃ……」

 

「……やれやれ、散々不思議なことを体験してきたが今度は幽霊みたいに壁を通り抜けちまった。俺たちは天国にでもいるのか?

 

「生きてるわよ。多分、見た目は崖だけどあのあたりだけは本当は洞窟かなんかで普通に通れる。それを何らかの魔法で偽装して隠していたんじゃないかしら」

 

「この海図の通りに進めばその洞窟に向かって真っすぐ進むって訳だね。確かに、洞窟で下手に尻込みされたらむしろ危険だから操舵を利かなくするのも理にかなっているかも」

 

「はぁ、にしても説明を書いとけって話でげす。寿命が縮んだでがすよ……」

 

まあ目的通り「神鳥の島」に上陸することはできたって訳で。

 

船から馬車を下ろして普段通りの布陣になった。

周囲に道らしきものはなく、人工物のようなものも見当たらない。

あの魔法のかかった洞窟? を抜けなくては上陸もできないなら当然だけど……遠目には鳥ではない姿の魔物も見えるから、もしかしたらこの島には独自の生態系があるのかも。

 

「人里があるのかはわからんが、まあ探して損はしないじゃろ。神鳥レティス、もしくは人里を探しに出発じゃ!」

 

「にしてもここ、暑いわ……」

 

確かに、この前までオークニスの雪景色にもみくちゃにされていたのに今度はとてもあたたかい。

気候も独特なのか、植物も他で見かけたものとはずいぶん雰囲気が違う。

防寒具は必要なさそう。

 

僕らはでこぼこと起伏のある島をおそるおそる進んでいった。

一面草原のようで、時折不思議なかたちの木が生えていて、他では見たこともない魔物がいて。

そしてそいつらは結構手強くて。

 

特に大きなワニの魔物なんて、まさしく「魔物」としか言いようがない。

あんな巨体が俊敏に襲ってきて無事な人間がどれだけいるだろう。

しかも結構好戦的。

戦い甲斐はあるけれど、こんなのが他の大陸では闊歩してなくて助かったというか……。

 

かと思えばスライムがその辺をぴょんぴょん跳ねていたり、いやあれは別の鷲みたいな魔物に追い掛け回されているのか……なんて、普通の生態系も垣間見える。

別世界に来たみたいだ。

 

にしても。

神鳥レティスの見た目が分かってないのは結構問題かもしれない。

小鳥ってことはないだろうけど、どれくらいの大きさなのか……魔物みたいな見た目だったら気づかずに攻撃してしまわないか? とかも。

 

ほどなくして、僕らは遠目に人工物を見つけた。

天然の岩の塊のはざまに、アーチがある。

おそらく天然の要塞に作られた村だ。

 

「あのアーチ、明らかに人工物だね」

 

「住民がいるかも。行ってみましょう」

 

「おいおい、いきなり入っていって警戒されないか? あれが魔物の集落じゃない保証はないんだ」

 

「まあ人間じゃなくても村を作ってるならそれなりに話が分かる連中だと思いやすがね……」

 

「うむ、今回はヤンガスの言うとおりじゃ。村を作るだけの協調性があるなら魔物に話を聞いても価値があろう。問題はほぼ間違いなく外部との交流がないような場所ゆえ、警戒されることは間違いないことじゃが……まあそこは頑張ってもらうしかないの」

 

少しの作戦会議をして、いつも通りトロデ王とミーティアには留守番してもらうこととなり。

僕らは村に入っていった。

 

 

 

 

 

◇

 

 

 

 

 

レティシア。

最初はちょっと警戒されたけど村の名前を教えてもらったあたしたちは、思ったよりもすんなりと村の人間に受け入れられたみたい。

というか、旅人は珍しいは珍しいみたいだけど外から来た人間が全くいない訳でもないみたいで。

たまーに、あたしたちが通ってきた見えない洞窟……を難波しながら通り抜けちゃった外の人が来るみたい。

難破したみたいなのにたくましく雑貨屋を営んでいる商人とか、割と最近流れ着いたみたいだし、話を聞くに神父様も流れ着いた人みたいだし。

なんだ、海図がなくても来れないことはないみたい。

普通なら断崖絶壁に囲まれている島をぐるっと回ったらそこで諦めちゃうから知られていないんでしょうね。

 

それから。

村人は「レティス」を探しているって話をするとわりと好意的だった。

なんでも、この村は神鳥レティスを崇めているみたいで……。

でも、本人……本鳥は随分前からいないみたい。

神様だって目に見えないもの、神鳥だって実在しなくても不思議じゃないわ。

 

でも、聞き込みをしていると親切な村人が村長さんなら詳しいかもって教えてくれた。

 

「村の真ん中に立派な止まり木があるし、何か儀式をすると見えるようになるとか、抜け道があるといいんだけど」

 

「他の村人が別の場所にも止まり木があるって言ってたわ」

 

「実在の裏付けならいいんだけど」

 

「期待半分で行こうぜ。そうそう、聖地ゴルドには見上げるほどの女神像があるらしいな。で、神様が実在するかっていうと……」

 

ククールが大げさに肩をすくめた。

 

「ま、麗しの女神様なら実在すると思うがね」

 

「そもそも僧侶だよね君」

 

「兄貴、こいつは破戒僧でがすから……」

 

まあこれ、あんまり期待して落ち込むなっていう婉曲表現なのよね。

毎回やってくれるのはある意味親切なんじゃないかしら。

 

村の奥の村長さんの家に行くと、あたしたちは温かく迎えてもらった。

村に宿がないから今日はここに泊ってもいいとまで言ってくれて……なんて親切なのかしら。

ここのところ、誰かのお世話になりっぱなし。

出来ることがあったら恩返しができたらいいのにな。

魔物退治とかなら役に立てるかも?

 

「神鳥レティスについて、村長がお詳しいと聞きました。ご教授願えますか?」

 

丁寧にエイトが頼むと、村長さんは嬉しそうに頷いた。

 

「よそ者にしてはいい心がけじゃ。良かろう、レティスの伝説について語ろうか……」

 

すらすらとなにも見ずに村長さんは語ってくれた。

レティスというのはこの世界と異世界を行き来する能力を持っていること。

それはレティスにだけ与えられた特別なチカラだったということ。

だけどある時、異世界の邪悪な存在がこの世界を狙って、異世界を繋ぐ巨大な門を作った……。

 

邪悪な存在って、きっとラプソーンのことだわ。

 

レティスは邪悪な存在の企みを阻止するために自ら異世界に渡り、門を閉じた。

しかし、それでチカラを使い果たしたレティスはこの世界に戻ってこれなくなってしまい、この世界にはレティスの影だけが見えるようになった。

レティスは完全にチカラを失ったわけではなく、レティスの影は異世界の破れ目を開くことがあるとも言われている。

それが何かは分からないけれど、異世界に行くことはやめておいた方が賢明だ、行かない方がいいとも……。

 

でも、今のレティスがいるのも異世界よね?

じゃあ危険を承知で異世界に行くしかないんじゃ……。

 

話を聞き終わったころ、あたしたちは今日はもう遅いから、と寝床に案内してもらった。

みんなで話し合いたいところだけど、行くなって止められているのに村長さんの家で堂々と話すのはちょっとね。

エイトが少し村から出て簡単なあらましをトロデ王と共有してきてくれて、今晩はこのまま休んで、明日の朝に出発しようということになったみたい。

 

もちろん、話し合わなくてもレティスの影を追いかけて行世界の破れ目を探すんだってことは決まってた。

 

 

 

 

夜、目を閉じて。

すっごく静かで……。

 

村の人も寝静まり、みんなもすっかり眠ってしまって。

 

あたしの意識も眠りに落ちる寸前、遠くの方でなにか……なにかの、鳴き声みたいなものが聞こえたような……。




闇の世界ってラプソーンの出身地ですがそれにしても小物しか遭遇しないのは不思議
ラプソーン封印から時間が経ちすぎて別の勢力がトップなのかもしれない
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