サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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山吹色をまといながら

約束の日。

自室で着替える前に念入りに全身をチェック。

黒い鱗が大きなホクロと誤魔化すことも出来ないくらいあちらこちらに生えている身体。

手の甲にびっしりと生え揃ってしまったお陰で手袋を外せなくなったし、爪も前よりも分厚く硬い気がする。

そのせいで素手で人前で食事をするなんてしたら、怪しまれるに違いない……。

 

異形化、「呪い」……と思われる症状だけど、トーポが前よりくっついて来るのはちょっと可愛い。

もしかしたらトーポはネズミだから硬いものをかじりたいのかも。

ひっぺがした鱗をあげたら喜ぶかな?

いや、僕の身体から生えてきた得体の知れないものなんてかじって欲しくないからやめておこう。

もしかしたら伝染る、かもだし。

食べるのはチーズだけにしてね。

 

鱗を剥がしとっていた腕にベホマをかけると、緑色の光とともに赤く血の滲んでいた肌が見る間に癒えていき……せっかく全部剥がしたのに元通り鱗も生え揃った。

ま、一抹の期待にかけて自然治癒に身を任せていた時期も下から新しい鱗らしきものが顔を出していたし遅かれ早かれって感じかも。

剥がして放置したらとりあえず治らないかなって考えは甘かったか。

 

いつも通りの服に、手袋をはめて手の甲の鱗を隠す。

腕とか足とかの末端に鱗が多く生えて、身体の中心部や顔には生えていないのは助かったな。

今のところは、だけど。

いつもの剣を背負い、さぁ向かおう。

 

……それにしても。

僕が「呪われた」日にあったことといえば、たしか城の中で変な道化師が目撃された日だった。

誰も大道芸人なんて呼んでいないはずなのにね。

特徴はあの旅人たちが追っている「ドルマゲス」と一致する。

まさかね?

このままじゃ頭から角が生えて、尻尾と爪で戦う小さめのドラゴンに成ってしまいそうだから勘弁して欲しい。

正直、ちょっとこの状況を面白いと思っているけど、それはそれとして素手を晒せないからそろそろおじ上も一向に食事の場に現れないことを不審に思われているだろうから……バラさなきゃいけないよね。

追い出されたらどうしよう。

 

なんて。

考えても仕方ない。

なるようになるし、足掻けるだけ足掻く。

それだけ。

 

自由になれたらそれはそれで嬉しいし、変わらない日々なら幸福だろうし。

あ、でも今より自由が無くなるのは嫌だなぁ……今の時点でも自由、ではないのに。

血税で育てた王子が身分を捨ててそのまま死んでしまったばかりだし、その息子である僕に文句は言えないけどね。

 

「やぁ、おはよう。向かいながら少し話をしよう」

 

城の入口で落ち合った旅人たちを玉座の間に連れていく。

そういえばまだこの人たちの名前も聞いてなかったな。

ちょっと焦っていたのかも。

だってそろそろこっちから打って出ないと……鱗の件がなくても、もう二度と外の世界を見れないかもしれない。

もちろん、僕が父のように飛び出していかないことを望まれているのは知っている。

知っている、けれど。

 

あんなに空は広いのに、こんなに地平線が遠いのに。

果ての見えない海、まだ見ぬ人々、……僕の心は外の世界に憧れ続けてる。

 

「今更だけど名前を聞かせてよ。僕は……今になって僕の紹介はいらない? そうだよね」

 

自己紹介を受けて、変わった帽子をかぶっている男性がヤンガスで、ツインテールの女性がゼシカ・アルバートで、赤い服を着ているのがククールだと教えられる。

よし、覚えた。

 

……アルバート?

もしかして彼女、大臣の息子のラグサットの婚約者じゃないの?

なんて言ったら、薮蛇かな。

 

まぁいいか。

 

「チャゴスからおじ上に話は通してもらっているから、チャゴスの護衛をやることも、あと魔法の鏡を対価に受け取ることも了解をとったから大丈夫。あとは手筈通りに戦ってもらうだけだね……と、言いたいところだけど。

ひとつだけ条件というか僕の希望があるから、玉座の間に行ったら説明するね」

 

「条件、でがすか?」

 

「君たちの不利になるようなことじゃないさ。それにおじ上に却下されたらそれでおしまい」

 

護衛として雇うにあたってやっぱり実力を知りたいってだけだし、いいか。

さて、チャゴスはちゃんと早起きできたかな?

 

そのまま階段を登って、玉座の間に真っ直ぐに向かったけど……いないじゃないか。

 

「よくぞ来た、旅人たちよ。

してエイトよ、チャゴスが試練を嫌がって部屋に閉じこもっているらしいので呼んで来てもらえるか」

 

「土壇場になって、ですか? 扉を蹴破ってでも連れてきますとも」

 

「……うむ。あやつには真面目なエイトの爪の垢を煎じて飲ませなければならんな」

 

まったくもう。

仕方ないな。

 

「チャゴスを逃がさないために着いてきてくれるかな? 退路を塞ぐために立ってるだけでいいから」

 

三人にそう声をかけ、チャゴスの部屋に向かう。入口には困りきった近衛兵たちがいて僕を見るとホッとしたような顔をした。

臣下を徒に困らせるのは良くない。

嫌なら嫌で、正々堂々おじ上の前で試練を拒否した方がまだマシだ。

 

「エイト殿下……」

 

「みんな下がって。僕が連れてきた人たちと一緒に逃がさないように包囲網を組んで」

 

「はっ」

 

鍵のかかった扉を何度もノックするけど反応はない。

 

「チャゴス! 僕だよ! 迎えに来たよ!」

 

声をかけても返事がない。

 

「立て篭もっても、扉を蹴破ってでも連れていくよ! 僕は本気だから!」

 

ガタンと物音が聞こえたけど、返事はなし。

 

「仕方ないか。ちょっと僕の剣、少しだけ預かってくれる?」

 

背負っていた剣を鞘ごと外し、一番近くにいたククールに手渡す。

そして全員にさらに下がってもらった。

 

「本当に扉を蹴破るから! 覚悟はいいね?」

 

僕はもう、返事を待たずに思いっ切り扉を蹴飛ばして、蝶番を吹っ飛ばした。

壊れた金属の部品が地面に散らばる高い音が鳴り響き、砕けた木片が飛び散り、扉が折れ曲がるように大きく凹んだ。

すると扉が枠の中で歪にハマったせいで開かなくなったので、もう一度蹴飛ばして扉だったものを取り除く。

床でへしゃげた残骸を蹴り上げ、壁に寄せて、これでよし。

 

後ろからはヒュウと口笛を鳴らされ、パチパチと拍手が聞こえた。

 

「随分派手にやったじゃ……やられましたね」

 

「見ものでがした!」

 

「そう? どうも。ククール、剣預かってくれてありがとうね」

 

「で、殿下。お手数をおかけいたしました……」

 

「いいよ、僕がおじ上に頼まれたんだから。そうだ、ちょっと着替えてくるからチャゴスをおじ上の前に連れて行ってくれる?」

 

「もちろんです!」

 

さてと。

丁度いいし、外に行くための服に着替えてから行こうっと。

チャゴスもきっとすんなり向かってはくれないし、時間はあるでしょ。

部屋の中で真っ青な顔をしたチャゴスが兵士たちに両脇を掴まれ、無理やり立たされる。

 

「ぼ、ぼくは行かないぞ!」

 

「行くんだよ、チャゴス。これはサザンビーク王子として生まれた宿命だ」

 

「エイト! エイトが試練を突破したんだから僕の分なんていらないだろ! 考えるだけで恐ろしい、ぼくはアルゴリザードに頭からかじられて死んでしまう! 生きて帰っても大怪我に違いない!」

 

「大丈夫大丈夫、何のためにふんじばってホイミを覚えてもらったと思ってるの」

 

「あんなかすり傷しか直せない呪文で命が助かるかあ!」

 

「あ、チャゴスの言うことは気にしないで。だってこれはサザンビーク国王の命令なんだから王子が何を言ったって無駄だよ。さぁ連れてって」

 

「はい、殿下!」

 

チャゴスを見送ってから、僕は急いで自分の部屋に戻るとベッドの下に隠していた「普通の服」と「市販の剣」を取り出して装備した。

鏡を見たらどこにでもいそうな旅人って感じに見えるけど、まだ足りない気がする。

 

そうだ、頭にバンダナでも巻いてみよう。

普段は王家の色である緑を基調にした服を着ているから、それと対極の赤いバンダナをね!

山吹色の上着、首まで覆う黒い長袖インナー、その上に青色のチュニック、地味な色のズボンに、簡素なブーツ。

腰にベルトを巻いて、長い裾が暴れないように。

鱗の生えた手の甲を隠すためにインナーと同じ布の手袋を付けて、その上からさらに革製の小手をつけて、これで準備万端。

 

どこをどう見たって普段の僕とは結びつかないよね!

そうそう、手縫いでくっつけた上着のポッケにトーポを入れて。

万が一にもトーポが落ちないように、不格好でも三周縫ったから大丈夫だよ。

ポケットの底にハンカチを敷いて、トーポのおやつの花の種も一緒に入れておこう。

 

これでチャゴスの護衛に混ざってもきっとバレたりしないはず!

 

まぁ、それでも顔をしっかり見たら分かっちゃうかな?

でもあからさまに顔を隠してたらそれはそれで不審者だし、加減が難しいところ。

挙動不審じゃなきゃそうそう「旅人」の顔なんてまじまじ見ないよね。

その辺は気をつけておかないと。

 

地味な色の肩掛けカバンも人を挟んで買ったから、中に薬草とか魔法の聖水とか、必要なものがちゃんと入ってるか確認。

よし、大丈夫!

さぁ、急がないと。

 

階段を駆け降りていると、身体のどこかからパキリパキリと小さな音がする。

きっと「鱗」が増える音だ。

皮膚の下から黒く艶々した鱗が現れて、さっきまで普通の皮膚だったのが、硬質な鎧のように変わってしまう。

 

少し、足の方に違和感がある。

しかも膝の方まで迫ってる。

ここ数日で一気に進行した気がする。

少し前まではぽつぽつと硬い何かが皮膚にくっついている? くらいの見た目だったのに。

今は「鱗」があるところはびっしりと生え揃い、鱗の鎧のよう。

きっと剣で斬ろうとしても中々通らないほど硬質になっている。

不思議なことに身体の動きに支障はないけれど……まるで竜の鱗みたいだ。

自分にドラゴン斬りをしたらよく効いてしまうかも。

 

ああ、僕はいつか家族の前で異形に成り果てるのかな。

姿かたちが変わっても僕は僕のままでいられるだろうか。




クラビウス王は息子にも甥にも基本的に城下町にさえ行かないように命令しているが、まるで聞いていないチャゴス(バレても最後には許してくれるはずという甘え)と基本的には言うことを聞いているが隙あらば変装して別大陸まで行きたがっているエイト(過去に砂漠、ベルガラック、海辺の教会までは攻略されている)
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