サザンビークの黒竜殿下【第3部進行中】   作:ryure

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対等のお前

僕は堂々とした足取りで玉座の間へ突入した。

服装のおかげで最初は誰だかわからなかったみたいで、近衛兵たちがチラリとこっちを見ただけ。

でも近づくと誰だかわかったみたいで、すれ違う兵士たちはポカンと口を開けた。

大臣が僕に気づいて、目を見開いたのが見える。

真正面にいたおじ上なんて、顔がわかる距離になるとびっくりしすぎて立ち上がってしまった。

 

旅の三人もこっちに気づいてギョッとした顔をする。

そんなにみんなして驚くことなの?

似合ってると思うんだけど。

 

チャゴスは玉座の間に入った途端、一番最初に気づいてくれたけどぷりぷり怒っている。

 

「やぁ、おまたせ!」

 

「な、な、エイト! なんだその格好は! まるで下々の者の格好じゃないか!」

 

「まるで、じゃないよ。その通り。ごく普通の旅人のような格好を目指したんだからね! いつもの格好なんて『ここにエイト殿下がいますよ!』と叫ばんばかりにわざと目立たせているんだから。

彼らのお目付け役、兼道案内。それからチャゴスが本当に危険になった時に助太刀をするため僕も同行します! ね、おじ上いいでしょう? 僕はひとりでも怪我なく戻ってきたんですから」

 

「む……確かにひとりで王者の試練を乗り越えたエイトがいればなお安全だが……」

 

「それから! 僕が推薦しておいてなんですが、彼らの実力も少し見たくって。ちょっと戦ってみたくなったんです。一階の訓練場で少し手合わせしても?」

 

「それはエイトが戦いたいだけだろ!」

 

「少しチャゴス王子のことを誤解してたわ。少しはまともなことも言うのね」

 

「そのような事はならん。護衛の同行は認める。余計なことはせずに早く出発しなさい。一度無事だったからといって次もそうとは限らない。くれぐれも気をつけるのだ」

 

「……はい、おじ上。

じゃ、チャゴス少し遅れてひとりで出発してね。僕たち城門の外で待ってるから」

 

ダメかあ。

とはいえダメだと言われたら素直に引き下がる。

別におじ上を怒らせてまで手合わせをしたいわけじゃないし。

できれば戦ってみたいなぁ、くらいなもの。

 

それより!

外に出てもいいんだって!

僕の試練じゃなくてチャゴスの試練なのに!

こっちの方が嬉しいかも!

だってお忍びでもこじつけでもないし、速やかに真っ直ぐ帰宅しなきゃならない僕の試練でもない!

 

機嫌よく一行に混ざって外に向かっていると、やっぱり服装が違うからか「エイト殿下」だとは分からないみたいで誰も僕に挨拶してこないし、敬礼されないし、なんならこっちをまじまじ見てくる人だっていない。

今なら人を挟んで、それも侍従をなだめすかしてなんとか買い物してもらってたけど、自分で武器を買ってもバレないかも!

 

僕、一度でいいからブーメランを使ってみたかったんだよね!

習った剣も槍も弓も悪くないけどさ、どれもこれもお作法があって息苦しくて、だから爽快に投げて相手を薙ぎ倒して返ってくるブーメランって素敵だなぁって!

……なーんて。

 

そもそも最低限のお金しか持ってないから、それも外に出られた時に急いでモンスターを倒した時のお金しかないから買い物できるくらいの持ち合わせなんてもう残ってないし。

そりゃもちろん、個人的なお小遣いはあるけれど、それは大切に使い道を考えた上で使わせていただく民の血税というか……厳密には僕「エイト」の私的なお金じゃなくて「エイト殿下」が必要とする身支度金。

それを自分の欲望のために使うのはダメだと思う。

 

……どこかに旅立ってしまいたいのにね。

血税で大事に育てた王兄は行方不明のち死亡、その子どもも生まれ故郷と母の痕跡を探したがっている。

うーん、どこまでも親不孝ならぬ、国民不孝、おじ不孝。

やらかした「エルトリオ」の息子でそっくりに育ったものだからその辺り想定されていたのか、チャゴスより僕の監視や制限の方がずっと厳しかったものね。

だからこそ、今回チャゴスの護衛に同行していいって言われるなんて思わなかった。

 

あ、もしかして、王者の試練を突破したからかな?

あれは実質成人の儀式というかできて一人前という扱いのものだから、十八歳になってしばらく、世間一般から二年遅れでようやく大人の仲間入り扱いされたってことなのかも!

 

外に出ると、そこには彼らの馬車があって、茶色のフードを被った御者が小さく会釈した。

顔はだいたい隠れているけれど、手網を握った手は緑色。

ちらりと見えた唇は血色の悪い紫色。

……まさか、モンスター?

なわけないか。

酷い皮膚の病気か、あるいは()()()()()()のか。

もしくは人ならざる種族の方なのかも。

僕は訪れたことはないけど、昔宮廷魔術師をしていた方の中にはモンスターと暮らしている人がいるらしい。

もし本当にモンスターだとしても、少なくとも彼らとは上手くやっているみたいだし。

盲ているのにぶっ飛んだご隠居のことを思えば大したことないのかも。

だって騒ぎにならないように街の中に入らないくらい、彼? には良識があるんだもんね?

 

……本当に呪われてるんじゃないよね?

これでもし、彼らの因縁の相手である「ドルマゲス」に呪われて姿が変えられた人なら。

年齢も性別も属性もバラバラの彼らが旅の一行として成り立っている理由のひとつなら。

そう、僕と同じように……ある日突然、変えられてしまった人なら。

僕、僕、それを大義名分に城を飛び出してこの人たちについて行きたくなっちゃうよ。

 

だってこのままじゃ僕はどんどん鱗まみれになって、人ではなくなってしまう。

今日だって朝起きたら昨日まで普通の皮膚だったところに小さな鱗が生えかけてた。

さっきだって足の方の鱗が増えている感覚があった。

今は「鱗」のほかの変化はないけど、例えば牙が生えたりだとか、太く鋭い爪に変わるとか、なにか起き始めても不思議じゃない。

おじ上にもチャゴスにも顔向けできなくなっちゃう。

もしかしたら人の形ではなくなって、鱗が増えていくと心まで人ではなくなっていくかもしれない。

そうなる前に飛び出して、呪いを解く方法を探すか行方をくらますかのどちらかしかない。

そもそもが前兆もなくいきなりだったし、どうなるかなんてわからない。

「ドルマゲス」らしき道化師に会ったわけじゃないけど、逆に言うなら会わずしてそんな「呪い」を掛けられるほど強力な魔術師ってことなのかもしれない。

 

仮にそうだとして。

なんで?

なぜ僕を?

何のために?

「ドルマゲス」になんのメリットが?

何も分からない。

情報が足りなくて分からないことは考えたくない。

 

とはいえ実のところ、どっちに転んでも今より僕は幸せだろうな。

このまま「呪い」が進行しておじ上が僕を留め置いても、追放しても。

サザンビークのお城は狭すぎて、僕は広い世界に飛び出したい。

亡き母の痕跡を探し、祖父を尋ね、自身の呪いを解くという大義名分を携えて旅ができたらなぁ!

 

やっぱり僕に王様は向いてないね。

チャゴスが王様にならないと。

破滅願望と冒険意欲に溢れたどうしようもない僕なんかをうっかり玉座に据えてしまったらどうなってしまうかわからないよ。

 

それにしても、あぁ、外に出られるのはいい気持ちだ!

こっそり出ていっても大抵兵士に取り囲まれておじ上のお説教という名の泣き落としが待っていないのは気分がいいね!

 

「随分機嫌がいい。言っておくが護衛は遊びじゃないんだぜ、殿下?」

 

「もちろん承知の上。魔物に狙われていても回復呪文も使えるし僕のことは放っておいていいからね。君たちはチャゴスの護衛なんだから。あと、この格好の僕のことはエイトと呼び捨てにして、敬語とかもなしで。誰かにバレちゃ面倒だから」

 

「へいへい」

 

「もしも危険な状態になったらチャゴスを一番に守ってほしい。僕なんて所詮は王位継承権的には王子のスペアなんだ。王子であるチャゴスが一番大事なんだから……」

 

「おい、エイト!」

 

「うん?」

 

いきなり後ろから浴びせられた怒ったような声に振り返るとチャゴスが到着していた。

耳まで真っ赤にして怒っている。

なにかまずいことしちゃったっけ?

 

「やぁ、今日晴れてよかったね。『王家の山』まで馬車に乗せてもらう?」

 

朗らかに話しかけたつもりだったけど、チャゴスの癇に障ったのか余計に激昂して詰め寄られた。

 

「そんなどうでもいいことはいい!

なんだ今のは! もう一回僕の目を見て言ってみろ!」

 

「今日晴れてよかったね?」

 

「その前だよ!」

 

「王子であるチャゴスが大事なんだから」

 

「ぼ、ぼくをからかうな! 分かってるだろ! 何度も言ったよな、ぼくらは対等なんだ! この国で一番偉いのは父上、二番目はぼくであり、エイトだ! ぼくらの間にどっちが偉いとか、どっちを守らなきゃならないとかないんだよ! ぼくかエイトのどちらかがサザンビーク国王になるその瞬間までぼくらは同じ! ぼくが勝手に言ってるんじゃないぞ! 父上だってそう思ってる、エルトリオ様がいないからってエイトが引け目を感じる必要なんてない!」

 

「別に。僕が産まれる前に死んだ父上がいないからチャゴスの方が偉いだなんて思ってないよ」

 

「じゃあなんだ今のは!」

 

「だって。それは『家族』としての意見でしょ。おじ上だって本当に心からそう思ってくださっているのは知ってるよ。敬愛していた兄の子どもなんだから大事に思ってくれているのさ……愛してくれているのを知っているよ。

でもね、君が王子なんだよ。チャゴスが古い約束の通りトロデーンの姫君と結婚し、サザンビークの玉座に座る。僕はその予備だ。予備でよかったよ。予備がいてよかった。本当にそう思う」

 

「口を慎め! エイトにだってエイトにそんな口を聞くのを許さない!」

 

「どうして怒っているの? 王子は感情を制御できるようにならなきゃいけないよ。

でも考えてみなよ、トロデーン王家には姫君がひとりだけ、アスカンタ王国は王妃が亡くなったばかりで子どもはいない、パヴァン王がまだ若くてよかったけど。メダル王のところも王女がひとりだけ。サザンビークだけだよ、複数の王位継承権持ちがいるのは。ま、先代もいたのにひとり出ていったんだけどさ。予備がいるって安心だよね。

この話は終わりにしよ? みんな困っちゃうから早く出発しようよ」

 

「ぼくは知ってるんだぞ。国民はみんなエイトが王様になって欲しいと思っているって」

 

小声で、呟くように言われた。

知ってたんだ。

そりゃそうか。

 

でも僕も知ってるよ。

僕らの普段を知らない国民はそう思っているけれど、官僚や兵士とかの城に務めている人たちの意見は違う。

チャゴスが王様になればサザンビークは不安だろうけど、僕が王様になれば下手すれば国がなくなるって思われてるよ。

 

そうだよね。

僕って結構わからず屋でさ。

こんなにしっかり教育してもらって、大人になるまで育ててもらって、青い血の責務を知っているのに実行する気なんてさらさらないんだ。

これでも自制してるつもりだけど、自由に生きたいのがバレバレなんだろうね。

自分のことしか可愛くないってことさ。

チャゴスよりもずーっと自己中心的なの、バレてるんだよ。

 

「そりゃね? 不真面目で試練から逃げるような王子より一応は真面目気取ってる殿下の方がいいでしょ。さ、王者の試練でおじ上の頭より大きいアルゴンハートを持って帰ってみんなを見返してやろう? 山くらい大きなアルゴングレートを倒せば持ってるかも!」

 

「無茶苦茶言うんじゃない!」

 

「だいたい、僕は自分の身は自分で守れるから。知ってるでしょ、食事も忘れるくらいの鍛錬馬鹿だって。今の僕はこの国の誰よりも強いよ。そうでしょう?」

 

チャゴスをひょいと持ち上げて馬車の後ろに収納させてもらう。

狭いとかまだ話があるとか言ってるけど構うものか。

どうせ外を歩かせたら疲れたとかまだかとか無限に文句言うから。

馬車の荷台の紐をぎゅっと縛っておく。

 

「さ、お騒がせしたね。王家の山はこっちだよ。露払いは僕も手伝うから命令でも何でもしてね。よく分からないなら適当にバッチリ頑張っておくから」

 

元気いっぱいをアピールして肩をぐるぐる回してみたけれど、微妙な顔をした三人と、フードで顔は見えないけど御者もきっと同じような顔をしていて、不思議だった。

 

「どうしたの?」

 

「あー、いや、なんつーか。こんなことほとんど初対面の相手に言うことじゃないけどよ……」

 

口ごもる感じだけどククールは口を開いてくれた。

なにか僕が変なことを言っちゃったせいで変な雰囲気になったみたいだから、沈黙のままにしてくれたって怒らないのに優しい人だ。

 

「自己肯定感が低すぎるのも逆に目障りなもんだぜ?」

 

「うん?」

 

「あぁいや、出過ぎた事を言ってしまったか」

 

「いいや。言いたいことは分かるよ」

 

「もしかして分かってて言ってるのか、アンタ。そりゃ随分性格が悪い」

 

「ただ自己中心的なだけ。僕は、僕がサザンビークの王様に相応しくないって言いたいんじゃなくて、なりたくないんだよ。だって……いや……ううん。

とにかく僕ってヘンなヤツでね。自分の立場が恵まれてるのは理解してるのに、望まれていることと僕の願いは食い違ってる」

 

やっぱり会ったこともない父上は偉大だな。

こんなに重くて手放すのも戸惑われるのに、それも僕と違って本当に本当の、正統なる第一王子だったのに。

ひとつの愛のために全てを投げ捨て、振り返りもしなかった。

 

僕にそんな胆力ないよ。

捨ててきた弟が心配にならなかったの。

見捨てた民のことを想わなかったの。

 

僕はチャゴスが心配になって、きっと振り返ってしまう。

おじ上に申し訳が立たなくなって、きっと戻ってしまうよ。

中途半端なんだ。

こんな僕も父上のように心から愛する人ができたら変わるんだろうか。

 

嫌だな、身体にヘンなことが起きているせいで考えがネガティブになってしまう。

治したはずの左手がツキンツキンと痛む。

力ずくで鱗を剥がして、痛すぎて逆に笑えてきちゃったのを思い出して笑えてきちゃった。

 

それっきり僕はできる限り黙って(もちろん、雰囲気が重くならないようにニコニコした顔は保っていたけれど、むしろ余計に『ヘンなヤツ』であったことは言うまでもない)王家の山へ道案内した。

 

道中、モンスターに何度か襲われたけど危なげなく戦えて、久しぶりに傷を気にせずにのびのび戦えたのは心底爽快だった!




若干漂白根性のチャゴス王子はどの国も存命王族が少なく、自身も母親を早くに亡くしている経験から両親のいない従兄弟には命大事にして欲しい
ミーティア姫も母親を早くに失っているし最近セシル王妃が亡くなっていて心底ゾッとしてそう
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