王家の山に着くやいなや、すぐさまトカゲのエキスとやらを浴びて全身生臭くなりながらもアルゴリザードを追いかけ回す。
足音を消して後ろから忍び寄って攻撃し、ある時は餌を囮にし、手当り次第に倒していく。
アルゴリザード以外のモンスターが襲ってくるとエイト殿下も戦闘に参加した。
「命令してくれ」とのことだが本人は気にしなくとも後でトラブルになっても嫌だろ。
ヤンガスもゼシカも同じ意見のようで好きにしてもらっている。
……あれがクラビウス王がのびのび育ててしまったサザンビークの最終兵器か。
おそらく間に合わせであろう安物の剣とは思えない太刀筋でモンスターを次々に真っ二つにする馬鹿力、密集している相手には青く光る落雷の呪文……聞いたこともないがそんな攻撃呪文があったのか……で体力を削ぎ、危険を顧みず懐に飛び込んで次々ぶった斬っていく。
複数人が負傷すると俺の回復呪文を見届けてから別の人間に回復呪文を唱えてくれるし、その呪文は「
正直なところ、アルゴリザードとの戦いに体力を温存できて非常に助かる助太刀だ。
単身王家の山に赴き、一番強かったであろうアルゴリザードを倒し、ピンピンして戻ったのも納得の強さ。
文句の付けようもない殲滅力、支援力、もう全部露払いは任せてしまってもいいんじゃないか。
あと、これは気の所為かもしれないが戦うとやけに生き生きとしている。
……あれだけ強けりゃそりゃ戦うのも好きか。
サザンビークで聞いた数々の噂を思い出す。
当初エイト殿下が城に引き取られた際はチャゴス王子を順当に王の後継とし、後ろ盾のない王兄の子なんて微妙な立場の甥にはお飾りの名誉職でも与えて新しい貴族として苗字を与え臣下にするのではないか……という推測がされていたとか。
蓋を開けてみれば育児が壊滅的に下手くそでただただ甘やかすことしかしなかった王は息子を怠惰なダメ人間にし、甥にも同じだけ甘やかしを与えたせいでやりたいことしかやらずに育ち。
結果として、典型的に肥え太ったダメ人間と人は良いが政治能力のない兵器殿下に育った、と。
クラビウス王が実際どう考えていたかは分からないが、お飾りの名誉職にするなら多少アホで素直な傀儡がいいはずだ。
なのにお勉強だけはキッチリできるし、だれも武力で敵わない、なのにお人好しで騙されやすく政治力がいかにもないように育たれては周囲も止めるに止められず下手に役職を与えれば大惨事になりかねない。
素直なのは良いが、真面目すぎてダメだと思えば意見を変えない頑固さもあるとか。
なんとなく、ここ数日の会話でも納得させられる。
まぁそもそも下の人間からは口答えや意見もそうそう言えるもんじゃないだろう。
権力は本物だしな。
そうして、対抗の王子の人望の無さに加えて国民からは慕われ、人間的には周囲から好かれているのにイマイチ決定的に王子を後継者から蹴落とすこともない微妙な立場の殿下になったようだ。
早くに母親が亡くなった息子を甘やかし、やりたいことをやりたいだけ与え、順当に欲望に溺れて逃げ癖のついた……チャゴス王子はまだ分かる。
人間としてあぁはなりたくないがそんな環境で育てば良く肥育されたワガママに育つのは当たり前のことだろ。
本人がやりたいことをやりたいだけした結果が自国の兵士よりも将軍よりも強い殿下の出来上がり……とは普通想像できない。
「王家の試練」の特性上武芸を極める方向性自体は間違っていない環境で周囲も軌道修正できず気づいた頃には連続備品破壊神・脳筋殿下。
兵士訓練所の残骸の山の創造主。
手合わせで叩きのめされ、うわ言を繰り返す兵士たちを尻目に本人はケロッとしているこの様相。
国防の観点からすれば内側から自国の戦力を削ってくださるありがたい存在だな。
叩きのめされたことで鍛錬になっているならいいが、それにしても死屍累々になっていたベッドの数は圧巻だった。
せめて片方だけでもまともに育てられなかったものかね。
ま、「スペア」なんて発想にもならずに自分の息子を母親ごと捨てた親父なんてクソ人間に比べてみれば息子も甥も分け隔てなく愛情を込めて養育したって点でクラビウス王の方がよっぽど人間できてるがな。
さて、此度の「王者の試練」で主役のはずのチャゴス王子は想像通り、戦闘ではほとんど役に立たない。
アルゴリザード以外と戦う時は知らん顔をして馬車の横で踏ん反り返っている。
アルゴリザード相手だと一応形ばかりは先陣を切って戦うフリはするが、小さなナイフで一刺ししてダメージを与えてるんだか与えられていないんだか分からないような動きをしてから急速にへっぴり腰になり、すぐに逃げ出してしまう。
一応完全に戦線から引いてしまう訳ではなく、離れたところから何やら妙な詠唱が聞こえてくるので遠距離から攻撃するのに切り替えているらしいが、何も起きないので逃げられたのと変わらない。
そのうちにゼシカが吹き出したのでどうやら詠唱自体が間違っているらしいな。
戦闘が終わってゼシカに話を聞いてみる。
チャゴス王子が逃げたアルゴリザードから手に入ったアルゴンハートに夢中になっているうちに。
「あれ、『ベギラゴン』のつもりだったのよ。『ギラ』と『ベギラマ』とごっちゃになってるし、多分魔力が足りないんじゃないかしら」
「エイトでん……エイトはアルゴリザードに閃光呪文は大して効かないって言ってなかったか」
「……ん? 手出しはまずいけど口出しならいいかな。その通り、見た目はトカゲっぽいけどドラゴンの端くれ。竜の鱗は伊達じゃないね」
「なるほど。ところでチャゴス王子は……何ができるんだ?」
「肉壁。体力は僕の三倍、五倍でもきかないだろうね。十倍以上、いやもっと? チャゴスはとにかくタフだから。あと『ホイミ』だけはマスターしてもらった。これでせめて耐久戦になるかなと思って。そうだ、そもそも『ギラ』自体未習得だね。隠れて練習してるなら別だけど」
「あの様子じゃあな」
「ていうか、そんなにタフならアルゴリザードが疲れちまうまで戦って、ゆっくり倒せばひとりで勝てるんじゃないでがすか?」
「アルゴリザードなら勝てると思うよ。すっごい泥仕合になると思うけど、チャゴスのタフさなら命に別状はないと思うし」
「アルゴリザード、『なら』?」
「ふふふ」
「そういやこれまで採れたアルゴンハート、やけに小さいな。エイトが持ち帰ったアルゴンハートとは別物みたいだ。……『アルゴングレート』だったか? クラビウス王が言ってたのは」
「記憶力がいいね、ククール。別に君たちの戦いは無駄じゃないしこのアルゴンハートを持ち帰っても試練は達成だ。そもそも王者の試練は大きな石を持って帰るお祭りじゃなかったんだけどね」
時代の流れと共により強いアルゴリザード、アルゴングレートを倒す者が現れ尊敬され、エスカレートしていったのか。
インフレーションの最先端で、指でつまめる石ころサイズどころか子どもの頭ほどのアルゴンハートを持ち帰った張本人は頷く。
「おじ上は正しく理解されていると思うんだけどね。チャゴスがどんなアルゴンハートを持ち帰っても認めてくださる。あくまで儀式であって、アルゴンハートがどんな大きさだとしても本人の王の素質には関係ないでしょう?」
「従兄弟殿からすれば大きなアルゴンハートを持って帰った人間にそう思われてちゃ『嫌味』にしか思えないだろ」
「そうかもね。でも僕、戦うことしか得意じゃないし。ほら腹芸とか苦手そうでしょ。チャゴスみたいに立場を利用してうまくやるなんてとてもとても」
肩をすくめる。
返事なんてできるわけもない。
腹に一物抱えた人間に下手に返事してたまるか。
あの噂はあくまで「噂」。
王族たちの腹の中なんて分からない中、事実と妄想をごっちゃにして自分の希望を混ぜ込んだだけの噂話だ。
実際に接したエイト殿下は言われていたような「騙されやすいお人好し」とは思わない。
初対面の旅人の話を鵜呑みにし魔法の鏡を譲ろうと提案してくれ、そのために「恩」を売る方法まで提示したのに乗っかったのは俺たちだが、単なるお人好しではなくなにか裏に目的があるのは間違いない。
分からないことは引っかかるがこっちには他の選択肢はないわけで。
まさしく今の俺たちは殿下の手のひらの上。
ま、精々気に入っていただけるように上手に踊るしかないか。
それにしても。
襲いかかってくるバトルレックスを見ると嬉しそうに駆け寄っていってバッサバッサと斬り捨てていく。
なんて技か知らないが、飛びかかって上から縦に真っ二つといった斬り方でなんとも独特の剣術だ。
ほかの動きは如何にもお上品な王宮剣術とでもいうべき教科書通りな動きだが、咄嗟の動きや一部の特技は取り繕えていない。
俺も聖堂騎士団で武器の使い方や呪文について習ってきたクチだが、「殿下」のそれもお稽古を極めた結果……だが、その上物足りずに独自の動きを習得すればこうなる、といったような不思議な動きをしている。
政治の話なんてされてもこっちも分からないが、案外本人の言うように「戦うことしか得意じゃない」は本当かもな。
護衛を引き連れるはずの立場の人間にしては強すぎる。
「息子たちを甘やかしてきた」という評判のクラビウス王は溺愛している甥っ子を一体何にするつもりだったんだ?
能力が王じゃないだろ、将軍か兵士長にでもするつもりだったのか?
「さっきから小さいのばっかりじゃないか。エイト、エイトの倒したアルゴリザードの巣を教えてくれよ」
「仮に同じ個体を倒してもアルゴンハートだってすぐにできる訳じゃないし意味ないと思うよ」
「そういうものなのか。でも『つがい』も居るんだろ? 父上に言ってたじゃないか。僕のために見逃したっていう」
「うん。でも自分で探してね。君の試練なんだから」
「ちぇー。仕方ない。お前たち、次だ! もっと大きなアルゴリザードを探すぞ!」
なによあいつ、全然戦っていないくせに。
と、気の強いゼシカがぼそりと呟き俺たちは神妙に頷いた。
当然エイト殿下にも聞こえていただろうが、特に俺たちを咎めるでもなく、かといってチャゴス王子を窘めるでもなく。
ただ少し困ったような顔をした。
黙って見ているが……トロデ王も災難だな。
こんな王子が大事な姫君の婚約者だなんて。
いまいち考えていることの分からない変人だが、まだ従兄弟殿下の方ならここまで頭も痛くならなかったろうに。
エイト殿下はクラビウス王から「それはそれは強かった自慢の兄上」の話を耳タコされたので素直に良かれと思って鍛錬に励み→褒められ→呪文を勉強し→褒められ→もっと強くなるために頑張り→褒められ→エンドレス でレベル35くらいの強さになった
(参考:ドラクエ11の将軍グレイグはレベル36で加入する)
サザンビークではルーラという呪文自体を検閲されて彼は知らないので覚えていない(リレミトは使える)
キメラのつばさも殿下と王子にはご禁制されている
城から出るのも基本禁止されている(理由後述)