「よし、今日はこれくらいにしよう。野営中も護衛は任せたからな!」
チャゴスの言葉で一行は野営の準備に入った。
野営地は見晴らしのいい、少し登ったところ。
僕も自分の「王者の試練」の時はひとりで星空の下で眠るなんていう素晴らしい体験をしたけれど、大人数だとどんな感じに振る舞うものなんだろう?
それにアルゴリザードと戦う訳じゃないから僕も参加していいんだよね?
面白そう、なんでもやりたい!
水を汲んでくればいいのかな?
薪を集めてくればいいのかな?
それとも食べられそうなモンスターを倒して持って帰ればいいのかな?
ワクワクしながら指示を貰おうと近づくと、馬車の御者……あの手が緑色の皮膚になっている人……が一行に指示を出しているのに気づいた。
街の中だと誰がリーダーなのか分からない感じで、ほんのりと全員がなにかの指針に従っているのかな?
といった具合の自由な感じに見えたけど、実際はこの人がリーダーだったんだね。
「僕にも手伝わせて。チカラ仕事でもなんでも」
「おいエイト、そういうことは下々の人間にやらせておけばいいんだよ」
「やだね。チャゴスはそんなんだから痩せないんだよ。食事量は大して変わらないのに」
「口が悪いぞ、恰幅が良くて貫禄があると言え! それにエイトは護衛を撒くほど動き回ってるせいでそんな痩せっぽちなんだろうが! この前新人が見失って泣きべそかいてたから寛大なぼくがエイトの代わりに半日の暇を与えてやったんだぞ!」
「そうなんだ。それは悪いことしたな。でも今の状況とは関係ないよね。僕がやりたいの。僕がやりたいことして何が悪いの?」
チャゴスは今日はもう動きたくないらしく、ラグの上に座ってもう靴と帽子を脱いでいる。
「座って動く気ないなら武器の手入れでもしてなよ。脂がついたままにしてたら切れなくなるよ」
それだけ声を掛けて僕は御者に近づいた。
背の低い方だ。
フードで顔も見えないのになんとなく、とても年上で立場があるような雰囲気があって思わず敬語で話しかけた。
「挨拶が遅くなりました。僕はエイト。今はただのエイトとお呼びください」
話しかけると彼は恐縮したようにフードを外して顔を晒す。
手と同じで顔まで緑色の皮膚をしていた。
紫色の唇、尖った耳、緑の肌……角はないけど物語の中のピクシーのよう。
一見魔物のような姿で言葉が通じるか不安になったけど、帰ってきた言葉は流暢な北大陸の発音だった。
しかも、上流階級の。
さっき感じた「立場のあるような雰囲気」は、本物なのかも。
「エイトでん……失礼、エイト殿のことは聞き及んでおります。わしは……うむ……トロチャンと申します。ただの歳だけ食った御者ですじゃ。改まれる必要はありませんぞ」
「ブハッ」
「これヤンガス、高貴なお人の前じゃぞ」
トロチャン?
なにか強烈に引っかかるような……覚えがあるような……。
でもトロチャンなんて強烈な名前なら絶対に覚えていると思う。
多分偽名だろうな。
僕の想像が正しくてこの人もドルマゲスに「呪われた」のなら本来立場があっても正体を明かせないのかもしれない。
突っ込んで聞くのはやめておこう。
「国では立場がありますが、今はお忍び。僕のことも改まらずただエイトとお呼びください。
それから僕も野営の準備をしたくって! ええと、トロチャン殿。僕は何をしましょう?」
「それがご希望なら……ええと……そうじゃ、ククール。ククールが適任じゃ! 一緒に行動して差しあげんか!」
「げっ俺かよ」
「よろしく、ククール。こっちから声をかけておいてやっぱり嫌とか言わないからこき使ってね」
別にひとりでも、誰と組んでも構わなかったのだけど。
行動ついでにまた少し旅の話が聞きたかったから嬉しいな。
ええと、ヤンガスが薪を集めて、ゼシカが火を起こしてる? そしてトロチャン殿はラグを敷いたり食事の用意をしてるから……ククールは水汲み担当だったかな?
あ、料理する訳じゃなくて保存食を食べるんだ。
じゃああの鍋は飲み水を沸騰させるためかな?
生水は危険だものね。
勝手に納得しながら桶を持ってククールについていき、想像通りの水汲みの仕事をする。
ふたりで手分けできるから、鍋と桶を一往復でいっぱいにできた。
「かったるいぜ。これがそんなに面白いもんかね? ていうか自分の試練のときはどうしてたよ?」
「あの時も泊まりだったね。飲み水は基本は持ち込んだ分だけで凌いで、足りなかった分は沸かして飲んだけど少しだけ。食べ物も持ち込んだ分だけだったね。ほとんどピクニックだった」
「でも夜はひとりだったろ?」
「その辺狩り尽くしてから聖水を撒いておけば万が一寝てる間に聖水の効果が切れてもわざわざ襲ってくるほど魔物は馬鹿じゃないよ。剣はすぐ抜けるようにしてたけどね」
「なるほど、力技で解決してたのか。あっちは権力で解決しているってのに」
「『王者』の試練ならある意味そっちのが相応しいでしょ」
「そうかもな」
「もしかしてチャゴスの事は好きじゃない?」
「……わざわざ聞かなくたって良いだろ、そんなこと。本当にわかってないなら相当タチが悪い」
「薄々はわかってるさ。とても意地の悪い質問だったね」
「でも少しは見直したよ。出発の時エイトに怒ってたのを見て。『国民に言われてるほど悪いやつじゃない』だったか? その通りだと思ったよ。少なくとも家族愛は真っ当だ」
「でしょう? チャゴスはいつだって僕にちゃんと怒ってくれるんだ。僕の方がよっぽど考えなしで楽観主義で、家族想いじゃないアンポンタンなんだってみんな分かってくれなくって」
「どうだか。理由をつけてここまで着いてきているってことがすべてなんじゃないのか?」
「あれ? あ、そうか。そうなのかも」
ククールに指摘されて、腑に落ちたような気持ちになった。
なんとなく、情の深いおじ上や気にかけてくれるチャゴスよりも僕の感情の方が薄い気がしていて、それが引け目だったのかもしれない。
でも、そうか。
僕もちゃんと「家族」を心配できていたのか。
ちょっと安心した。
僕って見た目も、それ以外も「駆け落ちしたエルトリオ」そっくりらしいから、その。
無意識にサザンビークの大事な家族のことをちゃんと想えていないんじゃないかって、父に似た冷血な自分だと思い込んでいたのかも。
「エルトリオ」が本当に自分の弟をどうでもいいって思っていたかなんてもう誰にも分からない、けれど。
何かにつけてもういない兄と僕を重ねる姿を見て、エイト「まで」いかないでくれって気持ちを隠しもしないおじ上を見て。
偉大な名君でも肉親に傷ついた心まで隠しきれないんだなぁって常々思っていたから。
水汲みから戻り、ククールも武器の手入れに入ったのを見てまだ戻っていない人もいるけど僕も腰を下ろした。
剣の手入れをして、トーポに持ってきたチーズをあげて、頭に巻いていたバンダナで寝床を作ってあげた。
見慣れない布をくんくん嗅ぎ回っていたけどそのうちちゃんとバンダナの真ん中で丸くなってくれた。
チャゴスは僕が汲んできた水が鍋にかけられるのを見てあたたかいスープを期待したようだけど、白湯と保存食を配られて文句を言う。
「ここのところ魚料理ばっかりで飽き飽きしてたところに今度は下々の人間と地べたに座り込んで貧相な食事か……父上、なぜぼくにこんな試練を課すのですか!」
魚料理?
何の話だろう?
まぁでも、ほっとくか。
彼らと過ごした時間は短くて、まだまだ親しいとは言えないんだからわざわざ悔恨になりそうなことは言わなきゃいいのに。
その後も量が足りないだの態度が気に食わないだのブツブツ言っていたけど誰も取り合わなかったので大人しく寝ることにしたらしい。
「おやすみエイト、明日もよろしく」
「おやすみチャゴス。明日帰ったらパーティーだから楽しみにしてようね」
「む! そうだな、それはいいな……」
さて、寝ずの番は誰がやるんだろう?
交代だよね?
僕も組み込んでくれるかな?
それとも、僕がやったように「見せしめ」を何匹か倒しておいて聖水を撒くのかな?
しばらく見ていたけれど、トロチャン殿が聖水を撒いたくらいで別に何もしない様子、みんなで寝てしまうみたい。
僕の時はひとりだったけど、大人数なら案外魔物も寄ってこないもの、だからだよね?
でもこれは「王家の山」だからかも。
人に管理されてない外でやったら魔物はともかく野盗が怖いだろうし。
うーん、とっても話を聞いてみたい。
これまでの旅でどうしてたのかとか、もしかしたら宿がある所とか辺境の教会に着くまでは寝ずに強行突破してたとか、実際の経験を聞いてみたい。
やっぱり毎回そうはいかないよね?
人間、疲れちゃうし。
魔物との戦いだって日によってまちまちだろうし。
体力と魔力が限界なら突破するにもできないかも。
限界なのがひとりなら馬車に乗せてもらえばいいけど、あの綺麗な白馬だって生き物なんだから毎日酷使する訳にはいかないよね。
全部聞きたい。
そんな好奇心がウズウズするけど、トーポが僕に寝ろって意味でちぃちぃ鳴いたから大人しく目を閉じる。
お腹の上にバンダナに包んだトーポを乗せて。
なんだかそこだけ温かい。
普段は枕元に専用の寝床を用意してるけど、小さい時みたいに一緒の寝床で寝るのも悪くないね……。
◇
朝。
何やら騒がしくって目を開けると、青空が目に飛び込んできてここが「王家の山」で外なんだと思い出す。
爽やかな朝の空気を吸い込みながら眠い目を擦って騒ぎの方向に目をやると、そこには嫌がる白馬に無理やり跨ったチャゴスと一生懸命止めているトロチャン殿の姿があって。
チャゴスが白馬にムチを振り下ろそうとした時、僕は頭にカッと血が上るのが分かった。
君に王家の誇りはないのか。
他者の大切なものを無理に取り上げ、痛めつける。
そんなものが王道なわけがない!
怒り。
憤り。
落胆。
強い感情が迸る。
それに呼応するようにビキビキと音を立てながら腕に痺れが走って、嗚呼。
わかる、わかってしまった。
「鱗」が僕をさらに侵食していくのが。
目の前が赤く染まるような錯覚と共に勢いよく立ち上がって僕は吠えた。
トロちゃん→たたかいのきろくで本人が自称していた
以下妄言
呪いで全て奪われるところだったので神まで殺してみせたのが原作のエイト
その身に流れるのが王族の血だったとか関係なくて、大昔に竜神族の方の先祖が暗黒神とバトって遺骸が竜骨の迷宮になっているとかも関係なくて、ただ大好きな女の子と大好きな恩人たちを助けるために奮闘して英雄になったのが原作のエイトなんだ(ろくろを回すポーズ)
レティスがちらっと特別とか言うけれど別にそうでなくても呪いさえ効かなければ(単純にあの日に居合わせないとかで回避さえすれば)同じ道を歩んだであろう善性の人
それでは、運命に出会わずして育ったら?
そもそも運命なら多少道筋が逸れていても出会うから運命なのでは……
その理論だと間違いなくヤンガスの運命の人はエイト(何も運命が恋愛に限るとは限らないし、恋愛的な運命の人にはとっくに出会っている人だし)
なのでこのように問題なく出会っています