魔法少女リリカルなのは バカの参戦Ⅱ   作:セイイチ

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第四話 

 エレンさんに訪問された翌日。

 なのはとフェイトがいないため、最近の僕はヴィヴィオとレオの朝食を作るべく、早起きをしている。

 そして今日もいつものように、朝早くに目を覚ました僕だったのだが

 

 「な、なにこれ?」

 

 今日の朝はいつもと違い、朝一番で驚かされていた。

 何故そんな事になっているのか?

 それは

 

 『見た感じ転送ポートじゃないですか?』

 

 「どこの世界に、朝起きてみたら転送ポートが設置されてるような家が存在するのさ!? だいたい、なんで転送ポートなんて物があるの!?」

 

 昨日寝る前には影すらなかったのに、朝起きて庭を見ると、3人くらいなら余裕で入れそうな広さを持つ転送ポートのようなものが庭に設置されていたのだ。

 

 『マスター。何をやらかせば、こんな事になるんですか?』

 

 「待って! 今、さらっと僕のせいにしたけど、僕は何もしてないよ!?」

 

 『マスターは問題を起こすプロじゃないですか』

 

 「誤解を招くような言い方をするな! それだと、僕がいつも問題を起こしてるように聞こえるでしょ!?」

 

 『………………え…………?』

 

 「ちょっと! どうして、そこでそんなリアクションになるの!? おかしいでしょ!?」

 

 こんなリアクションを取られると、本当に僕がいつも問題を起こしてるみたいだ。

 濡れ衣も大概にしてほしい。

 

 『そうですか? 常に問題を起こしてる気がしますが?』

 

 「………………え…………?」

 

 『待って下さい。その「遂にこのデバイス壊れたか……」みたいな不快な表情は止めてください。間違ってるのはマスターですからね? マスターは問題をかなりの頻度で起こしてますからね?』

 

 「そんな事は……ない。とは言い切れないけど、かなりの頻度は言い過ぎだ!」

 

 『マスターは学生時代に少なくとも週に5回、多い時は10回程問題を起こしていたようですが?』

 

 「待て! その情報はどこから得たんだ!?」

 

 『もちろんハッキングですが?』

 

 いったいコイツはどれほどの情報をハッキングで得たんだ?

 僕の学生時代の事まで知ってるなんて、思いもしなかった……

 

 「……僕の名誉のために一応、言っておくけど、さっきのは言い過ぎだからね? 少なく見積もって、週に2、3回。多くて5回程だからね?」

 

 『それでも多い時は休みの日を除けば、一日に一回は問題を起こしていた計算なんですね』

 

 「あれ!? 少しも名誉が守られてない!?」

 

 おかしい。名誉を守るために言ったはずなのに、全然僕の名誉は守られていないなんて……

 

 「もー。うるさいなー。なに朝から騒いでるの?」

 

 「ヴィヴィオ姉ちゃん、まだ眠いよ……」

 

 と、僕等がバカ騒ぎをしていると、ヴィヴィオはこれから日課の早朝ランニングに向かうつもりだったようなので、トレーニングウェアを着た姿で、レオはまだ寝ていたようで、パジャマ姿で目をこすりながら顔を出してきた。

 どうやら、相当うるさかったようだ。

 

 「あー、ごめん。ちょっと、想定外な事が起こって……」

 

 「想定外? 何があったの?」

 

 『庭を見ていただければ分かりますよ』

 

 「庭? 庭になにが……って、ええぇっ!? なにこれ!?」

 

 ドラグーンに言われて、すぐさま庭に置いてある転送ポートのような物を見てヴィヴィオが驚きの声を上げる。

 だよね! 普通は驚くよね!

 

 「ちょ、パパ!? なにこれ!? 何しちゃったの!?」

 

 『ですよね! とりあえず、マスターが何かしたと思いますよね!』

 

 なんだ? この違いは?

 僕とドラグーンは、今ほとんど同時にヴィヴィオの感性に共感したはずなのに、どうして僕だけこんなに悲しいんだ?

 

 「……ねぇ、ヴィヴィオ姉ちゃん。ここに張り紙が貼ってあるよ?」

 

 僕とドラグーンにヴィヴィオも加えて、僕等3人が騒いでいる間に、レオだけが冷静に庭に設置された転送ポートを見て、そこに張り紙が貼ってあった事に気が付いた。

 なんで一人だけ、そんなに冷静なんだろうか?

 

 「張り紙? レオ、ちょっと読んで見て」

 

 「……ヴィヴィオ姉ちゃん。これなんて読むの?」

 

 そう言って、レオが指さした文字は『こ』と言う平仮名だった。

 見た目は7、8歳なのにこの学力。

 レオの頭はかなり悪いようだ……

 

 『親近感が湧きますか?』

 

 「……そうやって、直ぐに僕をバカにするのそろそろ止めてくれないかな?」

 

 僕もう20歳なんだけど……。

 

 『知ってます? バカは死んでも治らないらしいですよ?』

 

 「だから止めてってば! あんまり、この話を引っ張るとボロが出ちゃうでしょ!?」

 

 『……自分でバカって認めてますよ?』

 

 あれぇ!? どうしてこうなった!?

 と、僕とドラグーンが相も変わらず騒いでいる間に、ヴィヴィオがレオから張り紙を受け取り、内容を読んでくれた。

 

 「ええっと、なになに? 『※これは転送ポートです。吉井明久様。アナタの心配を取り除くための装置として、今回の事件が解決するまでの間、ここに転送ポートを設置させていただきました』‥‥‥‥‥‥‥これ、パパのせいみたいだよ?」

 

 『やっぱり、マスターが何かやらかしてたんですね』

 

 一文を読んでから、僕の方をじと目で見てくるヴィヴィオ。

 その目は「何をやらかしたの?」と静かに語っていた。

 

 「ちょ、ちょっとストップ! そう言う疑いは最後まで読んでからにしようよ! もしかしたら濡れ衣と言う可能性も……」

 

 「……確かにそうかもだけど、この一文だけで既にパパのせいって確定してると思うんだけどな‥‥‥‥‥」

 

 それは否定できない。

 僕も立場が逆なら、既に有罪判決を下してると思う。

 

 「まぁ、いっか。じゃあ、続き読むね? 『この装置と同様の物を機動六課にも設置しています。この転送ポートと六課の転送ポートは二つでセット。つまり、これを使えばこの場所と六課を自由に行き来できます。なので、ご家族の皆さんで六課で住んでいただき、娘さんにはこれを使って、学校に通ってもらって下さい』って、え? これって、わたしが使うために用意されたの?」

 

 ヴィヴィオは予想外の事実に、思わず読むのを中断して驚いていた。

 うん。そりゃ驚くよね。

 僕だって驚いた。僕は違う意味でだけど……

 

 「ヴィヴィオ姉ちゃん、続きは?」

 

 「あ、そうだった! ええっと、『吉井明久さんは今週中に六課へ向かうようお願いします。尚、この転送ポートは一回の転送につき3人しか転送できません。また娘さんが休日の日も遊べるように一日に四度の転送が可能になっていますが、それ以上は転移できないので、必要ない時のご使用はお控えください。新生・最高評議会』…………って書いてある」

 

 さっき、六課って単語が出た瞬間に管理局が僕を六課に入れるために送ってきたんだと思ったけど、やっぱり間違ってなかったようだ。

 と言うか、昨日話をしたばかりで、次の日の早朝には届いてるって、どんだけ早いんだよ……

 

 「ねぇ、パパ? これって昨日パパが、「もしかしたら、しばらくの間は六課から学校に通う事になるかもしれない」って言ってた奴だよね?」

 

 「だろうね……」

 

 昨日エレンさんと別れた後、家に帰った僕はエレンさんと話した事をヴィヴィオに話して、ヴィヴィオがレオに話している。

 そのおかげで、ヴィヴィオとレオもこの状況を瞬時に呑み込む事が出来ているんようだけど、こんな物まで用意するなんてやり過ぎだと思う。

 

 「パパを六課に入れるために、お金いくら使ってるんだろう?」

 

 「これ使うのヴィヴィオだけなのにね……」

 

 『まぁ、議長がどうしてもマスターに協力して欲しいと言ってるんですから、これくらいはできるんじゃないんですか?』

 

 たかが僕一人を六課に入れるために、ここまでする新生・最高評議会。

 なんて恐ろしい連中なんだ……

 とは言え

 

 「ヴィヴィオは、この転送ポートを使って学校に通えば、いつも通りの日常に。レオに関しても、仮に襲われたとしても戦える人が大勢いる六課の方が安全。これで僕が管理局に協力するのを拒否する理由は何もない事になるわけだね……」

 

 僕は管理局のトップ陣、特に議長が望んでいるように、六課に入って、六課の担当する事件をする事になるわけだ。

 手段はとんでもない方法だったけど……

 

 「じゃあ、パパもママ達や六課の皆と一緒に、おんなじ仕事をするの?」

 

 「まぁ、”元龍”が絡んでるって言われたらほっとけないでしょ」

 

 なのはやフェイトはもちろん、六課の皆も心配だからね。

 ”元龍”ってポテンシャルだけはかなり高いし……

 と言うか、ここまでされて断る勇気は僕にはない。

 と言うわけで

 

 「ヴィヴィオは学校行きながらで大変だと思うけど、週末には移動するから準備をしておいてくれるかな?」

 

 「はーい」

 

 僕等は六課に移動するための準備を始める事となった。

 

 

 

        ☆

 

 

 

 「ねぇ、パパ? ふと思ったんだけど、この事ママ達に言わなくてもいいの?」

 

 転送装置が届いた日の夜。

 僕は六課に行くための準備を自室にて行い、休憩がてら外の空気でも吸おうと庭まで出てきていたのだが、そこにヴィヴィオが現れて、そんな事を聞いてきた。

 

 「え? 言わないとマズイかな?」

 

 「うーん……。言っといたほうがいいと思うよ? いきなりパパが六課に行ったらビックリすると思うし」

 

 「そうかな? なのはもフェイトも隊長なんだから、僕が言わなくても既に話は聞いてると思うんだけどな……」

 

 僕を六課に入れるために転送装置を送りつけてきたくらいなんだから、最高評議会がはやてに既に連絡していて、そこからなのはとフェイトにも伝わっていると思うんだけどな……

 

 「パパがそう思うなら別にいいけど……。でも仮にママ達が知らなかったらパパ怒られると思うよ? 今回の話はママ達からしたら、なんの相談も無しにパパが一人で決めた事なんだよ?」

 

 ヴィヴィオは少し不安そうな顔で僕の心配してくれる。

 ふむ。

 そんなにヴィヴィオが心配そうにするなら、少しその光景を想像してみるとしよう。

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 ダメだ! これはマズイ!

 僕は二人が六課に行く時、ヴィヴィオとレオを任された立場だ。

 それなのに、もし二人が何も知らなくて、僕がヴィヴィオとレオを連れて六課に行ったらどうなるか?

 

 まず、僕は二人に問いただされるだろう。

 その後、僕が”元龍”に関係があるから六課に協力した事がバレる。

 二人は僕が危険な事に首を突っ込むと、僕を心配してくれてるせいか、必ず僕に対して怒るので今回も間違いなく怒るだろう。

 さらに、今回は僕が六課に協力すると言う事はヴィヴィオに一々転送ポートを使用させると言う面倒をかける事にもなる。

 それを事前連絡なしで、僕等が六課に行った事で二人が知った場合、僕が受けるお説教タイムは倍になってしまうだろう。

 僕としてはそんな事態に陥りたくはない。

 と言うわけで

 

 「や、やっぱり二人には先に言っておこうかな……」

 

 僕はヴィヴィオの忠告通り、二人にこの事を事前に話しておく事にした……のだが

 

 「じゃあ、わたしは引き続き荷物の整理とかしてくるから、パパはママ達に連絡しておいてねー」

 

 ヴィヴィオは僕を一人にして部屋に戻ろうとしていた。

 

 「……え? これって僕が一人で言うの? ヴィヴィオも一緒にいてくれたりは……」

 

 「だって、早く準備しないと間に合わなくなっちゃうじゃん」

 

 確かにその通りだ。

 何も反論できない……

 

 「と言うわけで、わたしは自分の部屋に戻って準備の続きをしてくるねー」

 

 ヴィヴィオは僕が何も言わずに沈黙している間に、自室へと戻って行った。

 小学生の娘を相手にして論破される僕っていったい……

 

 「まぁ、それは今さらか。そんな事より早く二人と連絡取っちゃおう」

 

 僕は直ぐに頭を切り替えて、二人に何と伝えようかを考えることにする。

 我ながら、こうやって直ぐに思考を返る事ができるのは、僕の良い所だと思う。

 

 「ええっと、とりあえず初めは謝罪の言葉から入るべきかな?」

 

 『とりあえず最初は「大丈夫?」って心配をしてやるべきじゃねえか?』

 

 「へ?」

 

 僕の耳に突如そんな声が聞こえてきた。

 僕は誰かいるのかと思い、声のした方向に視線を向けたのだが

 

 「‥‥‥‥‥気のせいか‥‥‥‥」

 

 そこにはやはり誰もいなかったので、僕の気のせい――

 

 『残念ながら気のせいじゃねぇぞ』

 

 ――なんかではなく、どうやら本当に誰かいるようだ。

 

 「‥‥‥‥‥誰?」

 

 『おいおい。誰とは随分と冷たいじゃないか』

 

 声の主がそう言うと同時に僕の目の前で空間が歪みだし、そこから一人の男。先日、僕等を襲撃してきた男が姿を現した。

 

 「っ!? お前はっ……!」

 

 「よぉ、吉井明久。また来てやってぜ」

 

 そう言いながら、不敵に笑う男。

 まるで、僕が来てほしいと願っていたかのような言い草だ。

 

 「……なにをしに来たの? まだ性懲りもなくレオを狙ってるの?」

 

 まぁ、例えそうでも絶対にレオは渡さないけどね。

 僕は男を最大限注意しながら、睨みつけた。

 

 「まぁ、そう警戒するな。今回はお前に取っては大事な事だと思うから、話くらい聞いとけって」

 

 「話? レオを奪いに来たんじゃないの?」

 

 以前襲ってきた時はレオを狙ってきてたみたいだから、今回もレオが目的だと思ってたんだけ、今回は違うんだろか?

 もしそうなら、話くらいは聞いても良いような気になってくるな……

 

 「ああ。ガキはまだ必要ないからな。必要になったら貰いに行くから、それまではお前が預かっといてくれ」

 

 「預かるのは構わないけど、そっちが必要になっても渡さないからね?」

 

 「じゃあ、その時が来たら全力で守るんだな。こっちは手加減なんかしないからな」

 

 そう言って男は獰猛な笑みを浮かべた。 

 どうやら嘘をついているわけではなく、本気で必要になるまでレオには手を出さないつもりのようだ。

 正直、レオを道具扱いしているようで気に入らないけど、しばらくの間はレオが襲われる事はないみたいだから、そこだけは安心だ。

 けど、いずれ襲ってくると宣言してる奴を野放しにするのもどうなんだろうか?

 やっぱり話なんて聞かずに今すぐに、コイツを捕まえるべきなんだろうか?

 今ならこの周辺にはレオの警護のために数人配置されてるから、皆で協力すれば何とか周りに被害を出さずに倒せる気がするし‥‥‥‥‥

 なんて僕は考えていたんだけど

 

 「あ、先に言っておくが、周りに配置されてた奴らなら既に倒しておいたぞ?」

 

 そう言いながら男が指をパチン! と鳴らすと、男の周りの空間に大きな歪みができて、そこから

 

 ドサドサドサドサ

 

 ここらに配置されていたはずの管理局の魔導師、数十人が地面へ向かって落下していき、他人の山が出来上がってしまった。

 どうやら全員で協力すればコイツに勝てるという僕の考えは甘かったようだ。

 

 「別に俺としては止めを刺しても良かったんだけどな。今回はお前に話があって来ただけだから、殺さないでおいたぞ」

 

 このタイミングでコイツがこんな事をしたって事は、レオの警護のために配置されていた管理局の魔導師程度ならいつでも殺せると言う事を僕に示したかったんだろう。

 管理局の魔導師の人達と協力したところで自分を簡単に倒せると思うなと言う、この男のメッセージ。つまり、こんな市街地で戦闘なんて事になったら、速攻で倒す事はできずに暴れまわる事になり周辺が滅茶苦茶になると言う事だ。

 

 「はぁー。脅迫は犯罪なんだよ?」

 

 「バカでも俺の意図は伝わったみたいだな」

 

 なんで僕は毎回バカ扱いされるんだろうか?

 

 「んじゃまぁ、早速本題に入るとするか。……そうだな、口で説明するより見た方が納得いくだろ。と言うわけで、これを見ろ雷炎龍」

 

 そう言って男が取り出したのは透明な水晶だった。

 これで何をするつもりなんだろうか?

 と、僕は疑問に思っていたのだが

 

 「お前、竹原ってドクターは知ってるか?」

 

 「ッ!? その名前をどこで!?」

 

 思いもしない所で、思いもしなかった人物名前が挙げられた事に僕は疑問なんて物は頭から無くなり、驚きでいっぱいになった。

 竹原。僕がミッドに来る事になった原因で、元龍の研究をしていた人物だ。けど、竹原と言う男はもう死んだはずだ。

 そんな人間の名前を再び聞く事になるとは思いもしなかった。

 

 「さぁな。そんな事はどうでもいいんだろう? 俺が言いたかったのは、この水晶は竹原が作った物だって事だ」

 

 ‥‥‥‥どうやらコイツは竹原の事を話す気はないみたいだ。

 コイツが竹原の事をどこで知ったのかは凄い気になる所だけど、この様子だと聞いても答えてくれなさそうだな‥‥‥‥

 僕はそう判断して竹原の事は一度忘れることにして、男の話を聞く事にした。

 

 「簡単にこの水晶の説明をしてやるから良く聞けよ? こいつには対になる水晶が存在して、片っ方の水晶に映ってる映像をもう片っ方の水晶に映す事ができるって代物だ」

 

 「要は生中継されてるテレビみたいな物って事?」

 

 「あー、まぁ、そんな感じだ」

 

 ……微妙だ。

 そんな物をわざわざ水晶で映せるようにした意味があるのかと言う、疑問しか湧かない。

 

 「まぁ、細かい事は気にすんな。とりあえず映すから、お前はこの映像見てろ」

 

 男はそう言いながら水晶に手を当てて、何やら呪文のような物を呟き始めた。

 そして男が呪文を唱え終わると同時に、水晶に映像が映りだした。…………のだが

 

 「………………え…………?」

 

 僕は映像を見て、思わず思考を止めた後、目を見開いていた。

 なにこれ‥‥‥‥‥? なんでこんな事に? 僕は夢でも見てるの?

 僕は目の前で水晶が映している映像が現実の物だとは思えなかった―――いや、思いたくなかった。

 

 「嘘でしょ……?」

 

 僕が男に見せられた映像。

 それは

 

 「なんで……なんで、皆が血だらけで倒れてるんだよ!?」

 

 機動六課のフォワード4人に加えて、なのは、フェイト、はやての隊長3人、そしてヴォルケンリッターの4人までもが気を失い、体の至る所から血を流して倒れている姿を映した映像だった。

 

 「こんなの信じられるわけ……」

 

 「あほか。お前が信じようが、信じなかろうがこれが現実だ。お前に嘘の映像を見せるためだけに、わざわざこんな所に来るわけねぇだろうが」

 

 「………………」

 

 僕は男が無表情のまま、そう言い放った言葉を聞いて、何も言い返す事が出来なかった。

 皆がやられるなんて事を信じられないし、信じたくもない。

 けど、この男の言葉に反論できるだけの材料が僕の手元にはない。

 信じたくなくとも『これが現実だ』と嫌でも思い知らされてしまうのだ。

 

 「……僕に何をさせるつもりだ?」

 

 僕は今にも爆発しそうな怒りを何とか抑えつけながら、そう短く発する事しかできなかった。

 僕が見せられている映像が、本当に今起こっている事だと言うなら、僕は皆を助けに行かなければならない。だが、それをしようにも皆のいる場所がどこなのか分からない以上、皆を助ける事なんて出来やしない。

 僕が皆を助けるためには、今僕の目の前にいるこの男から、皆の情報を引き出さなといけないのだ。それも、できるだけ早く。

 

 「話が早いな」

 

 男は余計な問答が無くなったのが嬉しいのか、嬉しそうな笑みを浮かべる。

 けど、それを見た僕は何も嬉しい事なんかなく怒りがドンドン増していき

 

 「へらへら笑ってんじゃね!! さっさと要件を済まして、皆の居場所を教えろって言ってんだよ!!」

 

 僕はここが市街地である事も、ここが我が家の庭である事も、ヴィヴィオとレオがこの家の中にいる事も忘れて、全身から雷を撒き散らしながら、男に向かって大声で思いっきり叫んでいた。

 

 「うるせぇな。そんなに怒鳴るなよ」

 

 男は飄々としながらそんな事を言ってくる。

 僕はそんな男の態度を見て、既に爆発寸前だった怒りが限界を超えて、理性なんて物を完全に吹っ飛ばし、この場で全魔力を解放しようとした時

 

 「パパ!? どうしたの!?」

 

 「………………」

 

 家の中からヴィヴィオとレオが僕の声に驚いて飛び出してきたのが僕の目に映り、ここが市街地である事、ここで本気で暴れたらヴィヴィオやレオにも被害が出る事を思い出す事ができた。

 

 「ヴィヴィオ、レオ……」

 

 僕が二人の名前を呼ぶと僕の体内で今にも爆発しそうだった魔力が段々収まって行き、僕の全身から撒き散らされていた雷も収まっていた。

 暴走しかけていた僕は、どうやら二人によって助けられたようだ。

 と、僕が少し冷静さを取り戻した時

 

 「あっ!」

 

 「? どうしたの? ヴィヴィオ姉ちゃん?」

 

 ヴィヴィオは男の存在に気づくと、さっきの僕等の会話を聞いてないため、今回もコイツがレオを狙っていると思いこみ、レオの事を自分の背中で隠してから臨戦態勢に入り、男の事を睨みつけていた。

 ……どうやら今度は、僕がヴィヴィオを落ち着かせないといけないようだ。

 

 「ヴィヴィオ、ちょっとストップ。とりあえず今はレオの事を狙う気はないらしいから、落ち着いて」

 

 「そうそう。君のパパは今、俺の力を必要としてるんだから、パパの邪魔はしない方が良いよ?」

 

 僕がヴィヴィオを止めると、男も直ぐにヴィヴィオに自分を攻撃しないように訴えかけた。

 言ってる事は間違っていないのだが、コイツが言うと何だか凄い腹が立つ。

 

 「え? え? どういう事?」

 

 ヴィヴィオは僕と男の顔を交互に見て、困惑していた。

 うん。そりゃ何の説明もなしじゃ、わけ分かんないよね。

 けど、今はヴィヴィオに細かく説明しているような時間はない。

 僕はヴィヴィオに向かって、今はレオと一緒に家の中に入ってるように言おうとしたのだが

 

 「って、ちょっと待って……その映像って……」

 

 僕が言葉を発するよりも先に、ヴィヴィオは水晶の映像を見てしまった。

 なのはやフェイト達が傷つき、倒れている姿を……

 

 「なにこれ……? どうして? どうしてママ達がこんな事に……」

 

 そう言ったヴィヴィオ目には涙が見えた。

 自分の大好きなママが自分の知らない所で傷ついている。それが悲しくて、もしかしたら二人が死んでしまうかもしれないと言う恐怖。それらを感じているのだろう。

 そして同時に

 

 「パパはママ達を助けに行くつもりなんだよね? だったら、私も一緒に行く」

 

 ヴィヴィオは僕と違って頭が良いから、この状況も瞬時に理解したようだ。

 けど、今回ばかりはその頭の良さが裏目に出て、ヴィヴィオは全く迷うことなく、なのは達を助けに行くつもりのようで、こんな事を言いだしていた。

 

 「……本気で言ってるの? 危ない場所に行くんだよ?」

 

 「分かってる。でも、わたしだけパパたちの帰りを待ってるだけなんてできないよ!」

 

 ヴィヴィオの目は本気だ。

 その表情から遊びで言ってるわけではなく、本気でなのは達を助けたいと思っている事が良く分かった。

 本当なら、僕としてはヴィヴィオをわざわざ危ない所に連れて行きたくはない。

 ないんだけど……

 

 「……僕の言う事ちゃんと聞いてよ? 絶対に無茶したらダメだからね?」

 

 僕は数瞬考えた後、そのヴィヴィオにそう答えた。

 

 「うん。ちゃんとパパの言う事は聞くから大丈夫!」

 

 本当なら、ヴィヴィオをわざわざ危ない所に連れて行きたくはない。

 ないんだけど……正直今回は僕一人だけじゃ皆を助けるのは厳しい。

 不確定要素が多いし、なにより11人全員を安全な場所に運ばないといけない。

 もし敵がいた場合、それを実行するのは僕一人では不可能だろう。

 

 「じゃあ、そう言うわけだから、早く皆の居場所を教えてもらおうか?」

 

 僕はヴィヴィオの協力を承諾した後、男の方に視線を向けて皆の居場所を問い詰めた。

 

 「なんでお前がそんなに偉そうなんだ‥‥‥‥‥? まぁ、お前が俺の要求を呑むなら、そこまで連れて行ってやるけどよ‥‥‥‥‥」

 

 「え? 連れて行ってくれるの?」

 

 もちろん、可能な限り相手の要求を呑むつもりだったけど、まさか連れて行ってくれるとは思いもしなかった。

 場所さえ分かれば、後は管理局に乗り込んで、どうにか目的地まで運んでもらうつもりだったから‥‥‥‥‥

 

 「元々そのつもりだったしな。と言うか、そう言うって事はこっちの要求を呑むって事でいいんだな?」

 

 「僕にできる事ならね?」

 

 もちろん、レオを渡せとか、誰かを殺せとか、そう言う内容はできる事には含まれない。

 と言う、僕の考えを男が読んだのか、どうかは分からないけど男が僕に要求してきた事は実に単純な物だった。

 

 「大丈夫だ。俺からの要求はただ一つ。向こうに行ったら、六課の連中を助けるのは構わんが、お前だけは絶対に逃げるな。全ての敵を撃墜、または逃走させるまでだ」

 

 要は、僕だけは死ぬまで戦うか、敵を倒すまでは戦い続けろって事か……

 

 「因みに敵の戦力はどれくらいなの……?」

 

 「こっちは巨大戦力が一人。その他が百ほどだ」

 

 それを一人で倒せと?

 

 「まぁ、どうせお前に拒否する選択肢なんてないけどな」

 

 それはつまり、この要求を拒否すれば皆の所へは連れて行かないって事か……

 それなら、確かに僕に選択肢なんて存在しない。

 と言うわけで

 

 「分かった。その要求を呑むよ」

 

 僕はそう答えた。

 まぁ、ぶっちゃけ皆を助けるためなら少し位の無茶は覚悟してたし、少しくらいの無茶はこっちだって望む所だ。

 

 「なら、交渉成立だな」

 

 男はそう言って、僕とヴィヴィオ、それになぜかレオにも黒い六角水晶を投げ渡してきた。

 

 「ガキも一緒に連れて行けよ。無防備に一人でいたら、俺の気が変わるかもしれないぞ?」

 

 「……だったら、なにも言わずにそうすれば良かったんじゃないの? どうして、わざわざこんな事を……?」

 

 僕は今の今まで男の言葉を信じて、レオを置いて行くつもりだった。

 もし、本当にコイツがそんな事を考えていたなら、僕に何も言わずそうすれば良かったのに、なぜそうしなかったのか?

 僕はそれが気になって、男に聞いてみたんだけど

 

 「さぁ? なんでだと思う?」

 

 男は理由を話す気は全くないような態度を示してきた。

 

 「まぁ、直ぐに答えてくれないなら、今は言わなくても良いよ……」

 

 今はそんな問答よりも、六課の皆を助けに行く方が先決だ。

 と言うわけで、僕はヴィヴィオとレオ、両方を連れて行く事を即断した。

 

 「じゃあ、連れて行ってやるから、目的地に着くまでその六角水晶を離すんじゃねぇぞ?」

 

 「え? それってどういう――」

 

 ――意味? と僕が言い終える前に

 もう一言注意はしたと言わんばかりに指をパチン! と鳴らして

 

 「「「!?」」」

 

 僕等は黒い水晶に吸い込まれるように、水晶を持ってる手から順番に黒い何かに包まれていった。

 

 「俺の力を使ってお前等を転移させる。その黒い物体は、無害だから気にするな」

 

 男がそう説明している間に、僕等の体は既に五分の四ほど黒い何かに包まれていた。

 こんな事が出来る、この男はいったい何者なんだ?

 僕は既に黒い何かに包まれたせいで、声を出せなくなった口の代わりに、目だけで男にそう訴えかけた。

 すると、僕の疑問が伝わったのかどうかは分からないが、男は僕の方を見ながら口を開いた。

 

 「そう言えば、前回会った時に次は名を名乗ると言ってたな……」

 

 男はいたずらが成功した時の子どものような顔をして、続きの言葉を言い放った。

 

 「俺の名はクロウ・ソンブル。光と闇の二つの力を持った、お前と同じ元龍の子孫って奴だ」

 

 クロウと名乗った男がそう言い放ったのと同時に、僕等は黒い何かに完全に包まれたのだった。

 

 

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