「せいっ!」
僕の掛け声と共に振られたのは僕の手に握られた剣。
その剣で狙ったのは、僕の最終警告に全く耳を傾けずに僕へ攻撃を仕掛けてくる黒いドラゴン達だ。
既に僕は4分の3くらいドラゴン達を倒しているのだが、ドラゴン達は全く臆する事なく、僕を攻撃しようとしてくる。
僕は最初、その姿と僕の言葉に耳を傾けない事から、コイツ等には全く知能がない生物なのだと思っていたのだが、少し戦った今はそんな事ないような気がしていた。
なぜか? それは――
「おっと! 今度は連携攻撃なんてしてくるのか……」
――それは、コイツ等の攻撃パターンが度々変わっていたからだ。
最初はバカの一つ覚えみたいに突撃しかしてこなかったのが、次第に爪で僕を引き裂こうとしてきたり、口から炎を吐いたりと、さまざまな攻撃を繰り出すようになっていた。
なにより、たった今された攻撃は1体のドラゴンが僕を噛み砕こうとして突撃してきて、それを僕が回避してカウンターを入れてやろうと握る剣に力を入れた瞬間、違う1体が僕を引き裂こうと爪で攻撃を仕掛けてくる。
それも僕が何とかギリギリの所で回避して、今度こそカウンターを入れようとすれば、次は3、4体のドラゴンが僕に向かって炎を吐いてくる。
それを回避したり、斬ったり、バリアで防いだりして僕が自分の身を守ると、先に攻撃してきた2体のドラゴンは既に僕から離れており、僕は今の攻防で1匹たりとも倒せず終わってしまう。
そんな攻撃をされたのだ。
こんな事はどう考えても知能がないとできない芸当だろう。
「くっ……! あんなに連続で攻撃されるんじゃ、カウンターで確実に倒すのはもう無理だな……」
残りのドラゴンの数はざっと見た感じでは20数匹だ。
最初にクロウに相手しろと言われた通りなら、最初ここには100匹のドラゴンがいた事になる。それが残り20数匹なら、随分と数を減らす事ができたと思うのだが
「流石にそろそろしんどいな……」
やはり3年も真面に実践どころか訓練も受けず平和に暮らしていたせいだろう。僕の体力と魔力の消耗が激しいせいで、既に僕は疲労感が凄い事になっていた。
「やっぱ管理局の人間じゃなくても、体くらいは鍛えておくべきだったかな……?」
ずっとコイツ等と戦って分かったのだが、コイツ等は普通の攻撃を繰り出しても全くダメージは受けなかったのだが、雷か炎のどちらかを纏った攻撃ならダメージを与える事ができた。
それはつまり、魔力を込めた攻撃か、ドラゴンの力が込められている攻撃ならダメージを与えられるかの、どっちかと言う事だ。
そして、僕1人でもここまで数を減らす事が出来たドラゴン達に、かなり強いはずのなのは達がボロボロにされたと言う点から考えて、コイツ等はドラゴンの力が少しでも使われていないとダメージを与える事ができないのだろうと僕は思う。
もちろん、これは僕程度の頭で考えた事だから、それが正解かどうかは分からない。
ただ、それが正解であろうと不正解であろう僕にとってはどっちでも構わなかった。
なんせ僕は何も考えずともドラゴンを倒す事ができるんだから、そんな事を気にする必要はまるでないのだ。
「まぁ、魔力を込めた攻撃じゃないと倒せないなら、魔力を込めて攻撃すれば良いだけの事だし問題はないね。ただ、単純に僕の魔力が最後まで持つかは問題だけど……」
僕の目の前に残っているドラゴンは20数匹。
しかもドラゴン達をカウンターで倒すのは既に無理な状況に加えて、僕の残りの魔力も後わずか。
更に言うなら、この後レオを連れ戻しに行った先でも戦闘を行う可能性がある。
誰がどう見ても絶望的な展開だ。
けど
「まぁ、自分が絶望的に不利な展開なんて毎度の事だし別にいっか」
僕は昔から自分が有利な状況よりも、不利な状況でいる事の方が多かったんだ。
なら、そんな事は今さら気にするような事ではない。
僕がすべき事はただ一つ。
「……よし。行くか……」
覚悟を決めて、少々危険であろうがなんであろうが、僕の体力と魔力が尽きる前に全ての敵を倒す。
僕はそれだけを考えて、目の前にいる残り20数匹のドラゴンの中へと再び飛び出して行った。
「はぁぁっ!」
僕は雷と炎を纏った両手の剣で、一番近くにいたドラゴンに斬りかかっていく。
まだドラゴンドライブは使用したままなので、僕のスピードは普段の2倍以上は確実に速くなっているだろう。 それは間違いないし、そのおかげで100体もいたドラゴンを相手にカウンターを正確に入れる事ができたのだろうとも思う。
けど、人は速さには段々と目が慣れて行き、最後にはあまり速いと感じなくなる。
それはドラゴンの目でも同じだったみたいで、最初は僕の動きにまるで付いてくる事ができずにいたのに、今では僕の動きがしっかり見えてるようで、僕に向かって爪を振り降ろしてきた。
このまま僕が回避せず、ドラゴンに突っ込んで行けば確実に直撃だろう。
けど僕はそれが分かっていながら
「構うもんか! このまま突っ込んでやるっ!」
一切スピードを緩めずに、爪で迎撃しようとするドラゴンに突っ込んで行った。
きっと、なのはやフェイトが知ったら怒るだろうが仕方ない。
もう、僕の動きにドラゴンが翻弄されないのなら、ここで回避して再度攻撃を仕掛けても結果は同じだろう。
だったら、もう力押しで倒すしかない。
僕はそう判断したのだ。
「せぃやぁぁっ――!!」
「ごぁぎゃあぁぁ――――!!」
僕の両手に握られた剣と、黒いドラゴンの爪がぶつかり合う。
大きさで言えば確実に僕が不利だろう。
けど
「ごぁあぁぁ――――!!」
僕はそんな不利な条件なんてものともせず、見事にドラゴンの爪ごと切り裂き、その勢いで首も切り裂いた。
つまり、僕とドラゴンの力のぶつかり合いは僕の勝ちに終わったのだ。
まぁ、僕は元龍なんてチートみたいなドラゴンの力を扱う事ができるし、今はドラゴンドライブを使っているおかげで、身体能力が普段よりも上がっているんだから普通のドラゴンに勝っても何ら不思議はない。
ただ――
「ちっ! やっぱり連続で攻撃してくるのかっ!」
――ただ、敵は今斬ったドラゴンだけではなく、他にも20体以上の知能を持ったドラゴンがいるのだ。
たった今、攻撃を終えたばかりで隙ができている僕をコイツ等が見逃すはずがなく、残りの全ドラゴンが僕に向かって極大の炎を放ってきた。
それに対して、僕は全方位にバリアを張ろうかと一瞬考えたんのだが、それは炎が僕に直撃する寸前で中断した。
もちろん、こんな20数体のドラゴン達の炎を真面に、それも一斉に放たれたものを食らえば僕の体は無事では済まないだろう。
けど、僕は
「テスタロス!」
『了解!』
僕は炎が直撃する寸前に、テスタロスに声を掛けてドラゴンドライブの二属性を、炎の一属性に変更した。
これなら、完全にとは言わないまでも、少しは炎に対する耐久値は上がるだろうと思って、行動に移したのだ。
そしてその目論みは
「けほっけほっ! くそっ! やっぱノーダメージとはいかなかったか」
僕のその目論みは見事に当たり、僕は最小限のダメージで炎の塊から脱出する事に成功した。
そしてその瞬間
「このチャンスは絶対に逃さない! ザボルグ、頼んだよ!」
『ふん……』
今度は雷の一属性に変更した。
これで、さっきの二つの力を使っていた時より速く動けるようになった僕は、未だに僕に向かって炎を放っているドラゴンの下へ一瞬で移動する。
一度は慣れられたスピードも、こっちがより速く動く事ができれば、先程までの慣れなんて関係ないようで、ドラゴンは再び僕の動きに目がついてこれなくなったようだ。
ドラゴンは僕が直ぐ近くにいる事にもまだ気付かないようで、数秒前まで僕がいた場所に炎を吐き続けていた。
どうやら、コイツ等はここで僕を完全に仕留める気でいるようだけど、残念ながら僕はそこにはいないし、僕はこんな絶好のチャンスを逃すほど甘くはない。
僕は念の為にドラゴンドライブは雷の一属性のまま、剣にも極大の雷を纏わせて剣を振るい目の前のドラゴンを斬り倒した。
「っ!」
もちろん、ギリギリまで他のドラゴンに気づかれないように、声は殺して剣を振るった。
おかげで、他のドラゴンもこちらにはまだ気付いていないようなので、雷のドラゴンドライブのおかげで先程よりも早く動けるのを良い事に、僕は再び無音で1体のドラゴンの背後に回り込む。
そして、また無言で剣を振るってドラゴンを屠る。
それを10回程繰り返した時、ようやくドラゴン達にも限界が訪れて、先程まで放っていた炎が急に止まった。
「っ!?」
僕はそれに気づいて、ドラゴン達が僕の姿がない事に気がついて周りを警戒するんじゃないかと思い、一瞬動きを止めたのだが
「「「ごぁぎゃあぁぁ――――!!」」」
ドラゴン達は僕の姿が見えないのは完全に消し炭にされたからだと思ったのか、空を見上げて雄叫びを上げていた。
おそらく勝利の雄叫びのつもりなのだろう。
そのおかげで完全にドラゴン達は気を緩めており、今ならどんな派手な攻撃でも一撃だけなら確実に当てる事ができると僕は確信できていた。
ならば、こうやって暗殺するかのように、こそこそ1体ずつ倒す必要があるのだろうか?
どうせ炎を放つのを止めたドラゴンを相手に、暗殺みたいな真似ができるのはあと1回か2回が限界だろう。
だったら少々魔力の消耗はきついだろうが、派手な砲撃を食らわせて一気に数を減らすのが得策じゃないだろうか?
そう考えた僕はドラゴンドライブの属性を二属性に戻してからドラゴン達と少し距離を置き、気づかれないように両手の剣に魔力を溜め始めた。
「(ドラグーン? 僕の声聞こえてる?)」
僕はドラゴン達に気づかれないように、いっさい声は出さないでドラグーンに声を掛けた。
『なんです、マスター? 動きは最小限にしておかないと、流石にバレますよ?』
「(うん、分かってる。けど、どうしても確認しておきたい事があるんだ)」
ドラグーンの忠告は最もだけど、僕にはこの一発を撃つ前にどうしても確認しておかないといけない事がある。 だからこそ、僕はこうして魔力を溜めながらもドラグーンに声を掛けたのだ。
『ドラグーンに確認して欲しんだけど、このドラゴン達以外にも敵が潜んでるか確認できる?』
もし、クロウに言われた事がハッタリで、コイツ等以外に敵がいないなら全力を持って、この一撃で全てのドラゴンを屠る事ができる。
逆にクロウの言う通り、まだ姿を見せてないだけで近くに敵が潜んでいるなら、少しでも余力は残しておかないといけない。
だから、僕に取ってこの質問は非常に大事な事なのだ。
『……マスターも大変ですね。昔は目の前の敵だけに集中していればよかったのに、今は次の相手の事まで考えないといけないなんて……』
確かにその通りだ。
たった3年でどうしてそこまで僕が苦労しないといけないんだろう? と、思わなくもないが、3年前のJS事件の時はそれだけ僕が大勢の人に守られていたって事なんだろう。
けど、今この瞬間には僕しか真面に戦える人がいないし、ここまで連れてきてもらった時に約束した事でもある。
こればかりは何と言われようと仕方がない事だ。
なんて僕が考えている間に
『いました、マスター。なのはさん達を除けば、あの遺跡の中で動き回る生命反応が3つあります。1つは不明ですが、残り2つはヴィヴィオさんとレオさんですね』
ドラグーンはサーチを手早く終わらせてくれたみたいで、遺跡の中に敵らしき反応がある事を教えてくれた。
そして、その答えは僕の予想通りであり、やっぱりレオもその敵らしき人物と一緒に……ん?
僕はドラグーンの言葉を思い出して、途中で思考停止させた。
今、ドラグーンは何かとんでもない想定外の事を言わなかった……?
「(あのー……ドラグーンさん? 今、なんて言いました……?)」
僕は自分の耳がおかしくなったのかと思い、再びドラグーンに先程の事を確認した。
『ですから、レオさんとヴィヴィオさんの2人と一緒に、謎の生命反応があると言ったんです』
だが、僕の耳はおかしくなかったようで、ちょっと予想外にも程がある言葉が僕の耳へ再び入って来た。
と、同時に僕の今までの思考は全て消え去り
「全力全開! 雷炎龍の粉塵――!!」
僕は少しでも余力を残すなんて事は一切考えず、今現在僕の目に映っている全ての黒いドラゴン達に向けて、僕の全力の砲撃を撃ち放った。
結果
ドオォォ――――――ン!!
完全に油断していた黒いドラゴン達は僕の砲撃を避ける事ができず、僕の砲撃が当たった衝撃で爆音が鳴り響いた。
『……マスター? いったい私は何のために敵をサーチしたんでしょうか……?』
ドラグーンがなにやら呆れた様子で何か言っているが、僕の耳には届かない。
僕はドラグーンに何か言われたようだが、それを完全に無視して
「ドラグーン、今すぐ2人の所まで案内して」
自分の用件だけを突きつけた。
『はぁ……。まったく私の言葉なんて聞いてませんね……。今のでドラゴンドライブを解除されたみたいですけど、本当に良いんですか?』
「何でもいいから早く案内してよ! レオはアイツ等にとっては必要な存在みたいだから今は大丈夫だろうけど、ヴィヴィオもそうだとは限らないんだから早くして!」
この時、ドラグーンは何度も僕に注意の言葉を言ってくれていたのだが、その言葉の全てが僕の耳に届く事はなかった。
☆
明久が黒いドラゴンを全て倒す少し前。
遺跡の前でケガをした六課の皆に応急処置を施した後、ヴィヴィオは悩んでいた。
この後、どうしよう? と。
「皆には申し訳ないけど、わたしじゃ病院にどうやって運べいいのか分からないから、パパが戻って来るまで皆を病院に運ぶ事はできないし……」
全員の応急処置は終わらせたので、本来ならこの後は病院に運ぶべきなんだろうが、先程クロウが言っていたように、ここは無人世界の1つでミッドではない。
つまり、ここはヴィヴィオの全く知らない世界であり、病院が存在するのかも怪しい世界なのだ。
そんな世界で、ヴィヴィオが全員を病院に連れて行くのは無理なので、病院は明久に何とかしてもらうしかない。
ならば、この後自分はどうすれば良いのか?
ヴィヴィオはそれについて悩んでいるのだ。
「今わたしが取れる選択肢は3つ、かな……?」
誰も返事はしないが、ヴィヴィオは自分で確認するかのように今自分が取れる選択肢を声に出しながら、指を順番に折り曲げて行った。
「1つは、パパと一緒に黒いドラゴンと戦う事……」
これは当然、明久が少しでも楽になるように明久の手助けをするためだ。
だが、この選択肢を選んだ場合、自分が本当に明久の役に立つかが心配な所だ。
さっきから明久の戦いを見てヴィヴィオは、ドラゴン達へ攻撃を与えるにはドラゴンの力が込められた攻撃でなければならないような気がしていた。
だから自分の実力がどうとかではなく、ドラゴンの力を込めた攻撃ができない自分では役に立つ所か、足手まといになる可能性が高い事を心配しているのだ。
「けど、2つ目の1人で遺跡の中へ入って行ったレオを連れ戻しに行くって言うのも、やっぱり心配事はあるしな……」
ヴィヴィオがこの選択肢を選ぶか悩んでいるのはレオが心配だからと言うのもあるが、ドラゴン達を倒し終わった後、レオを連れ戻しに行くであろう明久の代わりに自分がレオを連れ戻せたら、明久の負担が少しは減ると思ったからだ。
ただ、遺跡の中にはクロウの仲間がほぼ確実にいるだろう。もしレオを連れ戻しに行った結果、ヴィヴィオとレオの2人が捕まったりすれば、後で余計に明久が辛くなる。
普段ならレオを即座に連れ戻しに行くであろうヴィヴィオが、今回は慎重にレオを連れ戻しに行こうとしているのは、これが心配だったからだ。
「そう考えると、一番心配事がないのは、3つ目の何もせずにじっと待ってる。かな……」
この選択肢を選べば自分が危険な目に合う事はないし、明久に余計な迷惑を掛ける事もない。
危険があるとすれば、もし明久が黒いドラゴン達に敗れれば、今度は自分が襲われる事くらいだ。
だが、そもそも明久が黒いドラゴン達に負けるはずがないとヴィヴィオは思っているので、そんな心配は全くする必要がない。
故に、3つ目の選択肢は一番安全かつ迷惑を掛ける事がない選択肢である事は間違いないのだが
「けど、パパが必死で戦ってる時にわたしだけ何もしないでいるなんてできるわけないよ! わたしだって、少しはパパの役に立たなきゃ!」
ヴィヴィオは明久に迷惑を掛けない事よりも、少しでも明久の役に立つ事をしたいと思い、自分から行動を起こす事に決めていた。
ならば今度は、どの選択肢を取るかだが
「まず3番は却下だから、残るは1か2のどっちか……。で、1は全く役に立たない所か足手まといにしかならないだろうから、残るは……」
ヴィヴィオは少し考えてから答えを出して、静かに遺跡の入り口から奥を見つめる。
ようは、レオを連れ戻しに行く事に決めたのだ。
「ふぅ……。大丈夫。強い人がいたら無理に戦わずに隙を見てレオを連れ戻して、いなかったらレオを見つけだして直ぐにここまで戻ってくれば良いだけなんだから……」
ヴィヴィオは一度深呼吸をして、それぞれの対処法を口に出す。
こうやって予め確認しておけば、いざその時になっても慌てず対処できる。
ヴィヴィオはそう自分に言い聞かせて、レオを連れ戻すために遺跡の奥へ向かって走り出したのだった。
☆
ヴィヴィオがレオを探すために、遺跡の中へ入って行った頃。
「あら? まさか、あなたが自分からここまで来るとは思っていなかったわ」
そう声に出したのは、レイジングハートのような、如何にも魔法の杖と言ったような物を持った女だった。
そして、この女に声を掛けられたのは
「っ!?」
1人で遺跡の中へと入ってしまって行った、レオだった。
「た、助けて! ヴィヴィオ姉ちゃんっ!」
女を見た瞬間、すぐさまヴィヴィオに助けを求めるレオ。
だが、ここまで1人で来てしまったせいで、どんなに大声で叫んでも誰も返事はしてくれなかった。
「何も考えずに1人で出歩いてたくせに、なぜ助けを求めるのかしら? それに、私と貴方は初対面なんだから、そんなに警戒する事ないでしょ?」
レオが咄嗟に助けを求めたのは、この女から明久と同じような感覚を覚えたからなのだが、そんな事を知らない女はゆっくりとレオに近づいていく。
「や、やだ……っ! こっちに来るな――!!」
それに対して、レオは口では必死に抵抗するが、かんじんの足は全く動かせず、女はレオの目の前で立ち塞がるように、レオの目の前で足を止める。
「全く……。うるさいガキね。用が済んだら自由にさせてあげるから、少し黙りなさい」
レオは別に、この女に連れてこられたわけではないのに、女は面倒臭そうにレオの手を引っ張っていく。
口ぶりからしてこの女はレオに用事があり、レオをここまで連れてくるつもりだったのは間違いないだろうが、実際には女がレオをここまで連れてきたわけではないので、女が今ここまで偉そうにレオに命令できるような立場でない。
しかし、レオはこの女には逆らうべきでないと直感で感じ取り、女に抵抗するのを止めて、腕を引っ張られながらも何も口に出すことはなかった。
この女からは、自分の嫌いな明久と同じような感じがする。
けれど、明久のように優しくはなく、自分の気に入らない事があったなら、容赦なくその気に入らないものを潰すような女。
レオはこの女の事は全く知らないが、直感でそんな女だと感じ取っていたのだ。
「ふん。やればできるじゃない」
女は自分の言った通りに黙りこくったレオを満足そうに見つめた。
だが、その目からは明久やなのは達がレオに向ける暖かさのような物は一切感じられない冷たいもので、レオにさらなる恐怖を与えるものだった。
「ほら、ここに書いてある文字を読みなさい。そうすれば、今回だけは見逃してあげるから」
女はレオの腕を引っ張って遺跡の最深部まで連れて行くと、そこに置いてあった巨大な石版の前で足を止めて、レオに文字を読むように促した。
「私達ではこれを読む事ができないの。これを読めるのはあなただけ。……ほら、さっさと読んでくれるかしら?」
女とレオの目の前にある石版には何かが書いている。
それは文字なのか記号なのかも分からないような、見た事もない形をしていた。
確かに女の言う通り、こんな形をしたものを読めと言われても誰も読む事ができないだろう。
なんせその文字はベルカ時代の時に使われていた文字でも、ましてや現在使われている文字でもないのだ。
もし石版に刻まれておらず、そこら辺の紙に書かれていたならば、小さい子どもが何も考えずに落書きした物と言われても、誰も疑う事はなかっただろう。
だが
「この文字は人類が刻んだものじゃない。大昔、まだ7体の龍が暴れまわっていた時代に刻まれた物なの。本来ならこれを読める者はもう存在しないのだけど、あなたにならこの文字が読めるんでしょ?」
女はこの石板に書かれている文字はもう誰も読めない物と言いながらも、レオにだけは読めると断言して、レオに早く読むように促してくる。
「む、無理だよ……。僕、こんなの読めないよ……」
レオは石版を見もせずに、即座に自分では読めない事を女に告げた。
考えてみればこれも当然だろう。女は「あなたになら」と言った。
だが、レオは自分にそんなができるなんて事は知らないし、現代の平仮名すら読む事ができなかったのだ。
どう考えてもそんなレオが、こんなわけの分からない文字を読めるはずがないのだが
「その言葉は見てもないのに言う言葉じゃないわね。それに、あなただってまだ死にたくはないでしょ? これをちゃんと読んでくれたら、あなたを殺すのは止めてあげるわ」
女はさらにレオを脅迫するように、後半の言葉をレオの耳元で静かに呟いた。
それはつまり、今この場で石版の文字が読めないならレオは自分達に取って必要ないから殺す。
女が言ったのはそういう事だった。
「うっうぅぅ……」
レオは涙を零しながら石版へと目を向けた。
この女は本気だ。本気で自分に価値がないと判断すれば迷わず自分の事を殺してくる。
レオはそれを直感で理解し、ただ黙って殺されるくらいならダメ元で石版の文字が読めるか確かめて見よう。そう思ってレオは死を覚悟しながら石版に目を向けたのだが
「……あ、れ……?」
だが、石版に目を向けたレオは戸惑いの声を上げた。
確かに、自分はダメ元で石版に目を向けた。現代の文字である平仮名すら読めなかったのだから、こんなわけの分からない文字が自分に読めるわけがない。
自分でもそう思って、死まで覚悟して石版に目を向けたのだが
「読め、る……? あれ? なんで僕はこの文字が読めるんだろう……?」
なぜかレオは石版に書いてある文字の全てを読む事ができていた。
「だから言ったでしょ? あなたの力なら、これを読む事ができるって……。ほら、さっさと読み上げなさい。それともやっぱり死にたいの?」
実際問題、女としてはレオが石版の文字を読む事ができるなら、彼女達にとってレオは今後かならず必要な人材だ。
だからレオを殺すなんて選択肢を、この女が取れるはずはなかったのだが……。
「や、やだ……。死にたく、ない……」
「そう。だったら、早く読み上げなさい」
「は、はい……」
女は一度、充分過ぎる程の恐怖をレオに与えた。
その恐怖を忘れない限りレオが女に逆らえるはずもなく、レオには女の言う通り石版に書いてある文字を読むしか選択肢はなかった。
「氷の地にて7体の元龍の力が揃いし時、我は目覚める。
我が目覚めし時、世界は滅ぶであろう。
願わくば、我が目覚める事がない事を我は祈る……」
レオは石版に書いてある文字を全て読み切ったが、何の事か全く分からなかった。
この女には意味が分かるのかレオは少し気になり、こっそりと女を盗み見ると
「だったら、これは何て書いてるのかしら?」
女は懐から一枚の紙を取り出し、それをレオに見せてくる。
レオにはこの女が何をしたかったのか全く分からなかったが、今はこの女に逆らってはいけない事だけは確かなので、おとなしく女に渡された紙を読み上げた。
「氷の龍が目覚めし時、龍神が蘇り、再びドラゴンの世界が築かれるであろう……」
それは石版に書いてある文字に比べるとかなり文字は少ないし、文字も微妙に違う形をしていた。
レオは一瞬、本当にこれで合ってるのか、不安に思ったのだが
「どうやら、嘘をついて適当に文字を読んだわけじゃないみたいね……」
女はレオの事を満足そうに見ていたので、少し安堵した。
しかし嘘をついてとは、いったいどういう意味なんだろう?
レオは女の言った事がイマイチ理解できず、首を傾げた。
すると女はそんなレオを見て、今の言葉がどういう意味なのか話し始めた。
「本当は私、こっちの紙に書いてる内容については知ってたのよ。だからもし、あなたが適当な事を言っていたら、すぐに私はそれに気づく事ができたって事よ」
それはつまり、もし自分が嘘をついて適当な事を言っていたら、自分の事を殺していたと言う事だろうか?
レオは女の言葉をそのように受け取っていた。
「まぁでも、ちゃんと読んでたみたいだからご褒美をあげるわ」
「ほ、ホントに……?」
レオは女の言葉をすぐに鵜呑みにしたりせず、警戒しながら女に言葉を返した。
本当の所はどうか分からないが、レオの頭の中では、この女は自分を殺そうと考えていたような人物と言う事になっている。
そんな人物を簡単に信用しないのは当然の事だろう。
「ええ、本当よ。ただ、今から起こる出来事があなたにとってご褒美になるかどうかは分からないけどね?」
女はそれだけ言うと、レオが遺跡の最深部へ来る時に通った、外へと繋がるたった一つの通路へ杖を構え、通路に視線を向けながら口を開いた。
「もうとっくにバレてるわよ? 隠れても無駄だから早く出てきなさい。それとも、この子にケガをさせたくなかったら出て来なさいと言った方が言う事を聞いてくれるかしら?」
女の突然の行動を不思議に思ったレオも、女と同じように通路へと視線を向けた。
そして、2人が通路に視線を向けてから数十秒後。
「ど、どうも……」
「ヴィヴィオ姉ちゃん!?」
女とレオの目の前に現れたヴィヴィオの姿を見て、レオは驚きの声を上げたのだった。