「パパ、レオ!」
魔法陣が爆発し、爆風がパパとレオを襲った直後、私はパパ達の名前を大声で叫んだ。
「…………」
けれど、二人からの返事は一向に返ってこない。
「そんな……」
今は土煙のせいで何も見えないけど、爆発する直前にパパがレオの事を庇っている姿が一瞬だけ見えた。だから、もしかしたらレオはほとんどケガをしてないかもしれないけど、パパは完全に直撃していた。仮にギリギリの所でバリアが間に合っていたとしても、パパが無傷でいられる可能性は極端に低い。むしろ、動けない位の大けがを負っていてもおかしない位だ。
「は……早くパパ達を助けないとっ……!」
パパが大けがをしているかもしれないと考えると体が震えてきて、まだ土煙も治まらないうちに爆発の中心地へと向かおうと、わたしが足を一歩踏み出した瞬間だった。
「ぶはっ! さすがに今のは死ぬかと思ったぞ、こんちきしょう!」
土煙の中からパパがレオを抱えて飛びだしてきた。
「パパ! レオ!」
二人の姿を目で確認できた私は、何も考えずパパに飛びつくかのように抱き着く。
わたしの中ではパパがわたしを受け止めてくれて、そのまま無事だった事を喜びあうものだと思っていたんだけど……。
「いくよ、ヴィヴィオ!」
パパは感動の再会なんてどうでも良いかのように、パパに飛びついたわたしをレオとは反対の腕で抱きかかえると、そのまま出口に向かって一直線に走り出してしまった。
「あのー……パパ? どうしてそんなに急いで出口に向かってるの?」
「どうしてって、何言ってるのさ!? こんな所で爆発なんて起こされたら、こんな遺跡なんて一瞬で崩れて生き埋めにされちゃうじゃないか!」
「あ、なるほど」
一瞬、わたしとの感動の再会よりもハンナを追いかける事の方が大事なのかと思ってしまった事に罪悪感を感じてしまう。
普段から優しいの知ってるけど、わたし達を助けるために子ども二人を抱えたまま必死で出口まで走ってくれてるパパの真剣な顔がかっこよくって、ちょっとドキドキしてしまう。
なのはママやフェイトママは、普段は優しいけどいざという時は頼りがいがあって、かっこいい姿に惚れたのかな?
なんて考えていると、パパはおそろしく速い速度で出口までたどり着いてしまった。
「見えた! 出口だ!」
パパがそう叫んだ瞬間、今パパが走っている通路の奥側。つまり、今パパが全力疾走して通ってきた道が崩れてきた。
「パパ、大変! どんどん崩れてきてる!」
「くそっ! 音がしてるから、そんな気はしてたけどやっぱりか! まだ皆を遺跡の外に出せてないっていうのにっ……!」
パパの言葉を聞いて、わたしもまだママたちを遺跡の外に出していなかった事を思い出す。
「あ! ほんとだ! ど、どうしようパパ!? このままじゃ、ママたちが生き埋めになっちゃうよっ……!」
「…………」
わたしの問いかけにパパからの返事は返ってこない。
さすがに今回ばかりはお手上げなんだろうか?
「ど、どうしよう……」
こんな事になるなら、ママたちを遺跡の中に運ぶんじゃなかった。
パパを助けようとして、レオを探しに行って逆にわたしが人質になってパパに迷惑をかけて、今度もパパを助けようとしてママたちを遺跡に運んだら、それも今となっては逆効果。
全部わたしのせいだ。パパを助けたかったのに、わたしがパパの足を引っ張ってる。
そう考えると、わたしは目から涙がこぼれ落ちそうになった。
「ヴィヴィオ。泣くのはまだ早いよ。その涙は皆を助け終わるまで取っておくんだ」
「え?」
パパの一言で零れ落ちそうになっていた涙が一瞬で引いていく。
まだ、皆を助けられる手段は残されてる……?
「み、皆を助けられるの!?」
「ちょっと危ないかもしれないけど、ヴィヴィオとレオが手伝ってくれたらなんとかね」
「手伝う! 皆を助けるためなら何でもするよ!」
「ぼ、僕も手伝う!」
「ありがとう」
パパはそう言って、ここに来てから初めてニコリと笑った。
なんでかな?
ちょっと危ないかもしれないと言われたのに、わたしはパパの笑顔を見たら何でもできるような気がしていた。
☆
ヴィヴィオとレオを抱えたまま出口にたどり着いた僕は、二人を下ろしてから一秒と経たずに遺跡の中に戻っていた。
なぜ戻ったのか。そんな理由は簡単だ。皆を助ける。ただそれだけのためだ。
「いいね、二人とも! 危ないと思ったら直ぐに遺跡から出るんだよ!」
「「はい!」」
僕が一切後ろを振り返らずに叫ぶと、二人から元気の良い返事が返ってくる。
うん。本当に二人とも素直で良い子だ。
二人のためにも、皆のためにも僕が頑張らないとね。
「二人とも準備は良い?」
僕はなのは達が横になっている場所より少し奥に入った所で足を止め、二人に声をかける。
「ヴィヴィオはいつでも大丈夫!」
「ぼ、僕も大丈夫!」
「オッケ! じゃあ、始めるよ」
そう言ってから僕は目を閉じた後、一つ深呼吸して息を整える。
そして、僕は再び目を開けたその瞬間。
「はあああっ……!」
僕は残りの魔力全てを倒壊していく遺跡の中に向かってぶっ放した。
その魔力が直撃した瞬間、さっきまで崩れてきていた遺跡の一部であろう瓦礫の動きが止まった。
「い、今だ! 早く皆を!」
「「はい!」」
僕が叫ぶよりも先に動き出していたヴィヴィオとレオの二人は六課の皆を引きずるような形とはいえ、一人ずつ確実に遺跡の外へと運び始めた。
今回僕が二人にお願いした事。それは、できるだけ短い時間で皆の事を外に運びだす。それだけだ。
普通に考えたら、すでに倒壊し始めていた遺跡から皆を救出するのは無理だ。どうやったって時間が足りない。
でも、それは逆に言えば時間さえあれば救出できるという事だ。なら、少しの時間だけでも僕が倒壊を抑えれば良い。
そう結論を出した僕は、倒壊してくる遺跡の中で一気に魔力を放出する事で倒壊しようする力を逆に押し返す事にしたのだ。
もちろん、押し返す力弱かったり、僕の魔力が足りなければ失敗しただろうし、その場合は六課の皆はもちろんヴィヴィオやレオも生き埋めになる危険もあったわけだけど……。
まぁ、ヴィヴィオやレオを巻き込むのにかなり抵抗はあったけど、ヴィヴィオが凄い責任を感じてそうだったから結局巻き込む事にしたんだけど、それは正解だったみたいだ。
正直、常に魔力を放出し続けてる今の僕には、ここから一歩たりとも動く余裕はない。
結果論だけど、二人に協力してもらって本当に良かった。
「くっ……! これ、結構きついっ……!」
「頑張って、パパ! 後はエリオとキャロ、ティアナさんの三人だけだから!」
僕が限界に近いのを見越してエールを送ってくれるヴィヴィオ。
娘が応援してくれてるんだ。ここはパパとしてはなんとか踏ん張り切りたい所。
僕は最後のひと踏ん張りと言わんばかりに全力で魔力を放出した。のだが……。
「くそっ……! ダメだっ。もう持たないっ……!」
僕の最後の頑張り虚しく、奥の方から徐々に瓦礫が崩れてくる。
それを認識した僕は、チラリとヴィヴィオ達の方に視線を向ける。
今現在、レオはシグナムを外に連れ出し、ヴィヴィオはティアナを運んでいる最中だ。それも、もう後二メートルも進めば外に出られる距離まできている。
となれば、残るはエリオとキャロの二人だけ。
ここで二人にエリオ達を任せたのでは確実に間に合わないだろう。そうなると、最後に残された選択肢は一つ。僕が二人を抱えて外に出る。これしかない。けど、僕が二人を抱えた所で間に合うかどうか微妙な所だった。
なんとかギリギリ間に合うか? いや、絶対に間に合わせる!
僕は瞬時にその判断を下し、二人に向かって大声をあげた。
「二人とも離れて! 後の二人は僕が運ぶから!」
僕の言葉に二人がちゃんと認識できたどうか僕は確認する事ができなかった。
なぜなら……。
「あ、危ない!」
なぜなら、叫び終わった直後に僕の魔力は完全に尽きてしまい、かろうじて止めれていた遺跡の崩壊が猛スピードで再開したのだ。
「くそっ!」
僕はレオが叫んだのとほぼ同時に動きだし、なんとか二人の事を抱えて立ち上がる所まできていた。
そこでようやく僕が出口に視線を向けると、そこにはティアナを運び終えたヴィヴィオと心配そうに僕の方を見つめるレオの姿が映った。
これで後は僕が二人を連れて脱出するだけだ。
僕は文字通り最後の力を振り絞り、足腰に力を入れ、思いっきり地面を蹴って出口から飛び出した。
その瞬間。
ガラガラガラッ!
僕らが飛び出した瞬間、遺跡は完全に崩壊し、僕らの目の前には辺り一面に瓦礫の山が出来上がっていた。
まさに間一髪。
ギリギリの、本当にギリギリの所で僕らは全員を救出する事ができたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……。た、助かった……」
「パパ!」
最後の力を使い果たし、地面の上で大の字になって倒れている僕にダイブするかのようにヴィヴィオが飛びついてきた。
「ぐえっ。ちょ、ちょっとタイム、ヴィヴィオ。今はちょっと、もう動けるだけの――」
体力がない。そう言おうとして僕は口を閉じた。
「皆が無事でよかった……。ぐすん……。皆が無事で本当に良かったよぉ……」
「……よしよし。よく頑張ったね、ヴィヴィオ。ありがとう。ヴィヴィオ達のおかげで皆の事を助ける事ができたよ。手伝ってくれて本当にありがとう」
そう言いいながら僕はヴィヴィオの頭を撫でた後、一人でもじもじしていたレオへと視線を向ける。
「レオも本当にありがとうね。ハンナに捕まって怖い思いもしたよね。もう大丈夫だからこっちにおいで?」
まだ起き上がれるだけの体力が戻っていないので、地面の上に横になりながらレオに向かって僕は右腕を伸ばした。
ちょっとだけ。本当にちょっとだけ、またレオには無視されるかもしれない。
そんな心配が僕の頭を一瞬よぎったが、そんな心配は全くいらなかったみたいで、レオは涙と一緒に鼻水を流しながら、僕の方へと駆け寄ってきた。
「ぐすん……。えーん! 怖かったよぉ」
ぐはっ!
レオが泣きながら勢い良く僕に向かって突進してきたせいで、レオの頭が僕のみぞへと直撃し、一瞬気を失いそうになる。
い、痛い……。もしかしたら、今日一痛かったかもしれない……。
けどまぁ、そんな事よりも僕はようやくレオが心を開いてくれた事が嬉しくなり、痛みなんて一瞬で忘れてしまっていた。
「よしよし。レオもよく頑張ったね。……二人とも、本当にありがとうね」
僕はこのまま、二人が泣き止むまで頭をなで続けたのだった。
因みにだけど、二人が落ち着いた後シャーリーに直接連絡し、皆を救出した事と帰り道が分からない事を説明して迎えにきてもらい、倒れている皆を病院まで運ぶ手伝いをしてもらった。
幸いにも全員命に別状がないようで、それを聞いた後ヴィヴィオとレオ……ついでに僕を入れた三人は、安心したからなのか六課の隊舎で死んだように眠ったのだった。