この終末世界の異譚秘話   作:十三

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0号アンビーが復刻されたので、電気強攻が欲しかった自分は1凸&餅武器引きました。
ついでにアリスとアストラの餅武器も引きました。

こんな私に妄想エンジェルガチャを引く余力はあるのでしょうか(震え声)。



この話を書くに当たって『輝きのモーメント』をもう一度おさらいしました。
アストラ様とイヴリンさんの関係尊すぎて最高。


先達の手引き

 

 

 

「朱鳶よ、また根を詰めておるのか」

 

 新エリー都ルミナススクエアに拠点を置く、新エリー都治安局(N.E.P.S)・ヤヌス区分局。

 区分局の中でもかなり広域の捜査権が与えられているここでは、舞い込んでくる案件の数も必然的に多くなる。

 そんなヤヌス区分局の一角、都市秩序部・捜査課。主な任務はルミナススクエア市街で発生する事件調査や事故処理。時によってはホロウ内で起きた事件の対処も行っていた。

 

 『特務捜査班』は、そんな捜査課の中でも特に実力派の治安員が揃うチームとして知られていた。

 その一員にして治安局屈指の武闘派でもある青衣(チンイー)は、デスクに腰掛け若干舟を漕ぎかけていた上司の前に白湯を差し出した。

 

「あぁ、青衣先輩。ありがとうございます」

 

「礼は無用。ここ数日は帰宅もしておらぬであろう。初志貫徹はぬしの美徳であるが、精魂果てては意味もあるまい」

 

「休める時に休む程度の良識はあるつもりです。今は休めないというだけで」

 

「消化できぬ有休を金銭に変えたぬしが言うても納得はさせられぬぞ。……どれ、我にも見せてみよ」

 

 そう言って青衣は上司のデスクに手を伸ばし、書類の一枚を盗み見る。

 その様子を咎めるでもなく眺めている女性――朱鳶(しゅえん)こそがこの『特務捜査班』の班長であった。未だうら若き女性の治安官ではあるが、局内屈指のエリートとして頭角を現している実力者。

 そんな女性でも二徹もすれば判断力が鈍るのか、青衣から渡された白湯が高温であった事を忘れて容器を手にした結果、「あっっっっっつい‼」と叫んで放り投げ、危うく手を火傷しかけていた。

 

「青、衣、先輩。淹れてくれたのは大変ありがたいんですが、私がこれで火傷しかけるの二度目なんですけど……」

 

「おぉ、それはすまぬ。未だに下手を打つと人の子の適温を忘れてしまうのでな。不徳の致すところである」

 

「まぁ、はい。お陰様でちゃんと目は覚めましたので」

 

 デスクの近くに置いておいたタオルで手を拭き、その後白湯が散った床を拭いてから朱鳶は再び椅子に座り直す。その間に青衣は書類の大半に目を通し終わっていた。

 

「成程、先刻起こった誘拐事件の報告書であったか」

 

「はい。二週間前に起きたホロウ内での拉致・暴行事件。事件そのものが比較的早期に解決したのが不幸中の幸いではありました。……いえ、軽々しくこのような言葉を使うべきではありませんね」

 

 朱鳶が苦い顔をしたのは、その誘拐事件が早期に解決した理由が治安局の尽力のお陰ではなく、誘拐された当事者の命がけの行動の結果であったからである。

 治安局のメンツを潰された、などとは毛ほども思っていない。むしろ守るべき市民を命の危機に晒してしまった事に対して罪悪感を覚えていた。

 

「スウェイン坊やか。昔からちょくちょく我らが対応はしていたが、よもや囮の少女を使ってまで攫われるとは思わなんだ」

 

「彼の家族関係を見ればいつこのような事が起きてもおかしくはなかったんですが……それにしたところでこの事件には不可解な点があります」

 

「ふむ」

 

 ペラペラと報告書をめくっていく青衣。すると、とあるページで手と目線が止まる。

 

 青衣はベテランの治安官である。容姿こそ第二次性徴を迎える前の少女のそれだが、その正体は「玉偶」と呼ばれる知能機械人(アンドロイド)であり、稼働年数が長い分様々な事件に相対してきた。

 そんな彼女は、後輩であり上司でもある朱鳶の懸念を考えすぎだと思う事はなかった。実際、この事件の実行犯たちへの取り調べに青衣も同席していたのだから。

 

「確かに、歌姫殿を狙った身代金の要求……という単純明快なものでは無かったか。奴らしきりに「頼まれてやっただけだ」と喚いておったの」

 

「それが責任逃れのための虚言であれば良かったんですが……調査部に依頼して調べてもらったところ、実行犯たちが使っていた口座の一つに前金と見られる大金が振り込まれていたことが発覚しました。振込日は、事件の三日前です」

 

 その金額明細が記載された箇所に目を通す。

 新エリー都きっての歌姫の家族を誘拐するという行為は、リスクにしてもリターンにしても巨大なものになる。加えてアストラ・ヤオの所属する帝高エンターテインメントグループはTOPS財政ユニオンの一つである『高志ファイナンス』の傘下である。TOPSにしてみても文字通り「金の生る木」であるアストラを危機に晒すような真似が発覚すれば、実行犯に対する報復は口に出すのも憚られるほどの苛烈なものになるだろう。

 

 実行犯からすれば、それこそ相当な(ディニー)を積まれなければ受けたくもない仕事であるだろう。事実、明細にあった金額は長く贅沢三昧をしようともどうにかなる程度の金額が記載されていた。

 

 しかし、()()()()。青衣はそう思った。

 

 以前、家族への過度な取材行為に憤慨したアストラが上層部に直訴したことにより、高志ファイナンスが歌姫の機嫌を損ねないようマスコミ関連企業に圧をかけて取材の一切を停止させたことがあった。

 ヒットチャートを出し続け、女優業でも結果を出し続ける彼女が何より嫌うのが家族への悪意ある干渉だ。その最たるものであるとも言える誘拐・監禁など、生涯楽して暮らせる程度の金額が対価でもなければ釣り合わない。

 

「誘拐事件を実行したのはホロウレイダーであろう? 金策方面には粗があるはずであるが……繋がる”糸”は掴めぬのか?」

 

「辿ってはいますが、幾つかのダミーカンパニーと偽口座を経由しています。この糸を解くには時間がかかるでしょうね」

 

「ふむ、殊の外慎重な黒幕であるな。それだけ実行役の事を信用していなかったとも言えるか」

 

 もしくは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、である。

 この誘拐事件が実行されたのは、それなりに大規模なコンサートの当日であった。黒幕の狙いが焦燥に駆られたアストラがコンサートを中止する事で生まれる帝高が被る負債と説明責任――つまるところ()()()()であったのならば、これ程露骨なトカゲの尻尾斬りにも納得が行く。

 

 実際、帝高エンターテインメントグループには敵も多い。元々は帝恩という名の小規模な会社であったのを、伝説のミュージシャン、ヨラン・デウィンターを引き抜いたことで一気にTOPSの傘下にまで上り詰めた経歴がある。

 ”成り上がり”というのは否が応にも同業他社の妬み僻みを買う。元々帝高よりも大規模な会社であったのであれば尚更だ。

 そしてそれは帝高自体も十分理解している。恐らくは彼らも今回の一件に関して独自に調査部門を動かして探っている頃合いであろう。

 

「まこと、芸能の世界とは魔境であるな。それに限らぬともいえるが」

 

「えぇ。捜査の方も煮詰まってきましたので、アストラさんの方に許可を取って、スウェイン君の方にお話を訊きに行こうと思っていました。その準備を――」

 

「では、その役は我が担おう」

 

 青衣のその言葉に、朱鳶は薄く隈が滲み始めていた両目を開いて少しだけ呆然としていた。

 

「何を呆けておる。個人への聞き込み調査など幾度も行ってきたであろう。我が出来る仕事であるのならば、ぬしが赴かなくとも良いであろう」

 

「し、しかし。この件は責任者である私が――」

 

「流石のぬしでもこれだけ働き詰めでは判断も鈍るか。平時であれば部下に仕事を振り分ける事もそつなくこなすであろう。我が赴いている間、ぬしはしっかり睡眠を取るが良い。報告は明日行う故な」

 

 額に指を突き付けられ、椅子に深く体を抑え込まれると、朱鳶は観念したように両目を覆った。

 次第に津波のように押し寄せてくる眠気を一時的になんとか追い返しながら、部下でもあり先輩でもある青衣に聞き取り調査を委ねることにし、彼女自身はやや覚束ない足取りで仮眠室へと向かった。

 

「……やはり無理矢理にでも有休を取らせるべきであるか」

 

 まるで自分が上司になったかのような心持ちでそう呟き、青衣は訪問の準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――*―――*―――

 

 

 

 

 

「では、お先に失礼します。また明日、よろしくお願いします」

 

 太陽が赤く染まり始める夕刻、一日の割り当てられた業務を終えたスウェインはそう言って『ヴィクトリア家政』の拠点を後にする。

 

 本日の仕事は老年のマダムからの依頼で、ルミナスモールで買い物の付き添いをするという平和なものであった。武闘派の面が強調される事が多い『ヴィクトリア家政』ではあるが、こういった平和的な依頼も多い。

 とはいえ、依頼主は金銭的に余裕のある富裕層がほとんどである事は変わらないため、接客対応には格別の配慮をしなければならない。しかし今回の依頼は長く連れ添った資産家の夫を数年前に亡くし、残った資産を慈善事業に使いながら余生を過ごす穏やかな人物であったため、必要以上に気を張らなくても良かったのは僥倖であったと言えるだろう。

 経営している孤児院の子供たちのために服を送りたいという内容でルミナスモール中を回りながら荷物持ちをする形にはなったが、疲労度という点ではほぼ無かったと言えるだろう。マダムの話し相手は同行したリナが請け負っていたが、形式的には日雇いになる二人にも気を回してくれる良い顧客であった。買い物の最後に喫茶店で甘いものをごちそうになったとつい言いふらしてしまい、帰還後にエレンに詰められたのも日常の一括りと言ってしまって差支えはなかった。

 

 ボスであるライカンとカリンは別の任務に赴いており、リナは仕事を恙なくやり遂げたスウェインを労った後、拠点の入り口で彼を見送った。

 

「ちょい待ち。アタシも帰る」

 

 拠点の敷地を出た辺りで、背後から声を掛けられる。そこには、学生服の上からパーカーを羽織ったエレンがいた。

 

「どうしたんですか、先輩。まさかさっきの奢ってもらった件でまだ文句が言い足りなかったんです?」

 

「アレは今度アンタに再現レシピで作ってもらうってことで話しついたっしょ。そうじゃなくて、アンタ一応保護対象なの忘れてる?」

 

 ビシッと指を突き付けられて、スウェインは少しばかり申し訳なさそうに苦笑した。

 

 ここ一週間ほど切った張ったの依頼もこなしていたためにやや忘れかけていたところもあったが、そもそもの話として今のスウェインは身の安全のためにオンライン授業で学習を行っている身の上である。

 いくら変装をしているとはいえ、本来であれば外出も極力控えた方が良い身分だ。その辺りの事情は既にライカンがアキラとリン(パエトーン)経由で聞いていたため、スウェインが帰宅する際には人通りが多いルミナススクエアの繁華街まで陰ながら警護する日々が続いていた。

 しかしながら今日はライカンが仕事で出張している日であり、本来であればリナが警護を請け負う予定であった。そこにちょうど自分も帰るからアタシがやるとエレンが割って入ってきたのである。

 

「先輩の手を煩わせなくても大丈夫だと思うんですけどね」

 

「アンタ自分のこと舐めすぎ。ボスにもアタシにも、リナにもカリンちゃんにもタイマンじゃ勝てないでしょ」

 

 エレンの言葉は、事実であった。

 対人戦闘というものは、余程隔絶とした差がない限りはセンスと経験がものを言う。『ヴィクトリア家政』の従業員として幾度も死線を潜ってきた面々とは、そこからまず違う。

 

 ここ一週間で、スウェインは自分以外の四名との模擬戦闘もこなしていた。その結果として、エレンの言う通り誰からも勝利を捥ぎ取ることができなかったのである。

 ライカンとエレンはそもそもの地力の違いがモロに出ており、リナとは技術力の差で負け、カリンはその持ち前の頑丈さと突破力で小手先の技の全てを潰してきた。

 自分の力を過信していたわけではない。先輩たちを舐めていたわけでもない。ただ純粋な力と技術と経験の差を否応なく突き付けられた形にはなったが――スウェイン自身はその事に落胆はしていなかった。

 

「まぁ、そうですね。ですが戦闘経験がほぼゼロだった僕が皆さんにお相手してもらえるのはとてもラッキーでした。実戦だったら”今回は負けたけど次は対策を練って勝つ”なんて言うワガママは通りませんからね」

 

「…………待って。アンタ今()()()()()()()()()()()()って言った?」

 

「? えぇ。家政に入るまでは戦った事なんてほぼありませんでした。正確に言うと()()()()()()ですけど」

 

 だってそうでしょう? と歩くペースを落とさないままスウェインは続ける。

 

「確かに僕は新エリー都最高の歌姫の弟ですけど、命の危険があるような戦いとは無縁の一般人ですよ? せめて自衛程度はできないとと思って姉さんの護衛の人に戦い方は教えてもらいましたけど、基本的にその人としか戦ったことはないです」

 

 厄介な連中に目を付けられて軽い喧嘩に巻き込まれたことはあったが、その程度はお世辞にも”戦闘”とは言えない。事実上、先の誘拐事件の時のそれがスウェインの”初陣”と言えるものであった。

 

「…………」

 

 エレンは有り体に言うと言葉を失っていた。

 

 エレンは自分が持つ力に対してプライドが高いわけではない。とはいえ、今まで培ってきた戦闘能力はまぁ()()()()であるという自覚はあった。

 生命力と闘争本能に優れたサメのシリオンであるという事を差し引いても、荒くれ者とエーテリアス相手に上回れる程の力はある。木っ端が相手であれば、それこそ数秒もあれば残らずに蹴散らせるほどに。

 

 スウェインを相手に入社試験を行った際も、全力でこそ無かったが手を抜いたつもりはなかった。自分たちと共に轡を並べる仲間になるのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()というラインは彼女自身も理解していたため、ライカンも合格点の基準をエレンに委ねていたのである。

 

 それで、()()()粘られた。

 実際の戦闘であれば、上級エーテリアスを相手取ってお釣りがくるレベルの時間である。組み上げた戦術と身体能力、音動機の練度まで、それこそ粗と呼べる箇所は幾つもあったが、それを見逃しても及第点であるという事は肌で感じた――そう判断できる程度には実力を認めたのだ。

 

「アンタが戦い方を習った人? 相当凄いんだね」

 

「えぇ。僕が姉さんと母の次に尊敬している人です。覚えが悪かった僕に、忙しい間を縫って根気よく教えてくれました。今でも感謝しかありません」

 

 実際、スウェインが鋼糸を使っての戦闘方法の基礎を学び終えるまでにかかった時間は長かった。

 そもそもが扱いの難しい武器である。マトモに扱えるようになるまでに作った生傷は数知れず。一度太い動脈の近くを間違えて自傷してしまった際はアストラに朝まで泣かれたこともあった。

 

 加えて、音動機も扱い方も並行して覚えた。アストラが誕生日プレゼントにと渡してくれた専用音動機《静嵐(せいらん)のライラック》は、確かにスウェイン専用に完璧に調律されたものであった。

 アストラとは違って一度に放出できる属性エーテルの量が少ない分、それを緻密に操作できるように改良され、事実それはスウェインの戦い方とマッチしている。

 

 電撃を広範囲にバラまくのはあくまでもブラフ以上の意味はなく、十本の鋼糸に纏わせる電撃をひたすらに収束させ、鋭くする。

 少ない属性エーテルを如何に精密に素早くコントロールし、己の手足のように操るか、その鍛錬に終始した。

 

 それは言ってしまえば、膨大なエネルギーを以て敵を殲滅し、或いは強敵を苦もなげに打ち倒す事を諦めるという事に外ならなかった。

 

「僕には戦闘の才能がなかった。でも才能がない事を言い訳に諦めることはもっと嫌でした。どんなに努力しても追いつけないと分かっていても、その努力すらやめてしまっては「何にもなろうともしない」人間に成り果ててしまいますから」

 

 だから、()()()辿()()()()()()()()()()()()までは行ってやろう、と。その高みに至るまでどれだけ時間がかかっても。

 

「……アンタ、思ったよりワガママなんだね」

 

「そうですか?」

 

「でもアンタに追い越されるのは嫌だから」

 

 先輩としての自負なのか、あるいはただ単に当人の矜持がそうさせたのか。

 エレン本人も柄にもない事を言ったと言わんばかりに頭をかく。そのまま数十秒間、互いに何も言わないやや気まずめの雰囲気が漂っていたが、不意にスウェインが再び口を開いた。

 

 

「先輩、今度は僕から訊いても良いですか?」

 

「なに?」

 

「先輩は、将来なりたいものってあるんですか?」

 

 それに思わず「はぁ?」と返してしまうエレン。つい先日も学校で進路希望と銘打ってそのような事を訊かれたばかりであったため、面倒臭そうに対応してしまった。

 

「アタシのなりたいものに、アンタが関係あるの?」

 

「関係はないと思います。ただ、先輩は将来をもう決めているのかと思いまして」

 

 確かに高校生ともなれば、自らの将来設計を描いている者も少なくはないだろう。好きな事を仕事にしたいと思う者、平凡平穏に身の丈に合った場所で働きたいと思う者、TOPS関連企業に就職してエリートコースを歩みたいと思う者。エレンの周りにも色々な生徒がいた。

 ただし、エレン自身は特に自分の進路を決めているわけではなかった。大学に進学するかもしれないし、このまま『ヴィクトリア家政』で働き続けるかもしれない。あるいはそれとはまた別の道に進むことになるかもしれない。進路希望調査の紙が回ってくる度に憂鬱な気持ちになるくらいには、特定の道に固執していなかった。

 

「そういうアンタはどうなのさ。やっぱりお姉さんの仕事のサポートでもすんの?」

 

 何気なく問うたその言葉。恐らくは余裕綽々の笑みで肯定の返事が返ってくるものだとばかり思っていた。

 家政の仕事の休憩時間も、隙あらば(アストラ)のCDを配って布教活動をしてくる男である。タダならと貰うだけ貰って自宅で流していたらハマってしまい、最近では音楽サイトから曲をダウンロードして通学途中にも聞いている有様である。端的に言うと目論見通りエレンはメチャクチャハマっていた。

 

 つまるところ、『ヴィクトリア家政』の人間は一人残らずスウェインの姉への異常な敬愛(シスコン)っぷりを理解していた。

 だから、将来の道など既に決めているものだと――そう思い込んでいた。

 

「……どう、なんでしょうね」

 

 足を止め、エレンからかけられた言葉を反芻する。

 実のところ、エレンのその予想は間違っていなかった。数年前までは、自分の将来は姉をサポートする職業に就く事だと疑う事はなかった。

 その確信に罅が入り始めたのは二年半前で、最近になってその罅は更に広がり始めた。

 

「多分、僕もエレン先輩と同じだと思います。何になりたいのか、良く分かっていない」

 

「へぇ、意外。アンタもそれで悩むことあるんだ」

 

「分かっていたはずの答えが間違っているかもしれないと分かった時、人はなんでここまで不安になるんでしょうかね」

 

 最初から先が分からない薄暗い道を歩むときは、いくらでも対策ができる。だが途中まで何の障害もなく歩いてきた一本道が急に薄暗くなり、更に先の道が突然枝分かれし始めればその精神的な不安も大きくなる。

 スウェインはそれを不誠実だと捉えた。貫くはずの初志を疑うのは、己に対する裏切りに外ならないと。

 

 

「え? そんなん当たり前じゃん。なんでそんな事で死にそうな声になってんのさ」

 

 ――だが、エレンは何をそんなに悩むのかと言わんばかりにあっけらかんとそう言い放った。

 

「アタシらみたいな学生が最初からなんもかんも分かってるわけないじゃん。アンタみたいにクソ真面目だと考えなくていいトコまで踏み込んじゃうだけで」

 

「そ、そんなものですか?」

 

「言っとくけど、アタシに的確なアドバイスとか期待しても無駄だから。そういうのはボスとかリナとかにすればいいんじゃない? もしくはアンタの先生とか」

 

 ふと気づくと、帰路の分かれ道に辿り着いていた。エレンはそれ以上特に言葉を紡ぐこともなく、軽く手を挙げるとパーカーのポケットに手を突っ込んだまま別の道を歩いて行き、すぐにルミナススクエアの雑踏の中に消えていった。

 一人になったスウェインは、自宅の方に足を向けながら感覚の方に意識を向けた。

 ルミナススクエアの空気がいつもより澄んだように感じた。いつものようにビルの隙間を縫って届く西日がいつもより鮮やかに見えた。頭の中を常に渦巻いていた靄が、少し晴れたように感じた。

 

「……凄いなぁ、先輩」

 

 面倒臭い事を言っていた自覚はある。面倒臭がられて避けられる覚悟もあった。

 だがエレンはそれを「考えすぎ」と一蹴した。遠慮もなく忖度もなく、恐らくはそう思ったからそう言っただけなのだ。

 それでも、その一言が肩の荷の一部を削いだのは確かだった。

 

「お礼にまたケーキでも焼いて行こうかな」

 

 低糖質低カロリーと銘打って免罪符を得られればそれこそホールケーキ丸々一つすら平らげられるエレンの健啖家ぶりを思い出しながら苦笑する。

 ライカン、リナ、カリンの好きなお菓子を頭の中に浮かべ、どの順番で差し入れていこうかなどと考えていると、いつの間にやらスウェインも自宅のタワーマンションの前まで歩き着いていた。

 

「ん?」

 

 タワーマンションのエントランス前。セキュリティの関係で常に二名の警備員が立っているのだが、その二人がサングラス越しにも困惑している様子が見て取れた。

 

「お疲れ様です。どうされたんですか?」

 

 朝のランニング時や帰宅時などに欠かさず声をかけており、ほぼ顔見知り同然の警備員にそう問いかけると丁寧な挨拶を返した後、敷地外の一か所を指さす。

 そこには見慣れた人物が直立不動状態のまま彫刻のように佇んでおり、スウェインが近づくと全身の関節部位が一気に弛緩したかのように動き出した。

 

 

「お会いできて光栄の至り。我は治安官の青衣と申す者。治安局戸別訪問サービスに如何なる御用がお在りか?」

 

「あ、もしもしすみません朱鳶さん。青衣さんの自動対応モードの解除ってどうやるんでしたっけ」

 

 一難去ってまた一難。今日のイベントはまだまだ終わりそうにないなと、スウェインは軽くため息をついた。

 

 

 

 

 

 





■モチーフ音動機解説
 
『静嵐のライラック』

基礎ステータス:基礎攻撃力:600
上級ステータス:エネルギー自動回復50%

『強化特殊スキル』、『連携スキル』が電気属性ダメージを与えた時、チーム全体がターゲットに与えるダメージが15%アップし、装備者の1秒ごとのエネルギー自動回復が0.6Ptアップする。
装備者の『追加攻撃』が敵に命中した時、ターゲットの属性耐性を10%無視する。継続時間20秒。
装備者の『終結スキル』が敵に命中した時、メンバー全員の会心率を15%アップする。継続時間20秒、重複して発動すると継続時間が更新される。

 
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