ねえオリ主、走るのやめなよ   作:散髪どっこいしょ野郎

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前編

「すぅ~……はぁ~……」

 

 

 誰がどう見ても浮き足立っている。それも仕方ない。なにせ俺は天下の中央、トレセン学園に合格したからだ。

 

 ちなみに自分の一人称は『俺』だがれっきとしたウマ娘。沸き立つ闘争心もそこそこに、一歩踏み出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 トレセン学園に入学して数日が経ち、クラスメイトの顔も少しずつだが覚えてきた。

 

 その中でもまずビビッと来たのがコイツだ。

 

 

「よ、ルドルフ!」

 

「ああ、君か」

 

 

 ファーストコンタクトはハッキリ思い出せる。あれは入学して間もなくのこと。

 

 

『──ッ』

 

 

 教室に入った刹那、目を奪われた。

 

 威厳、気迫、凄味。光輝爛々、幾度も果てず。いくら言葉を尽くしても足らない程の存在感。

 

 一目見た瞬間から分かった。コイツは傑物だ。

 

 

『なあ、アンタなんて名前なんだ?』

 

『シンボリルドルフだ。これから一味同心、よろしく頼む』

 

 

 シンボリルドルフ。確かに覚えた。コイツは間違いなく──俺の宿敵になる。

 

 

「レイク……レイク?」

 

「……ハッ!ああ悪い悪い。考え事してた」

 

 

 『レイクトゥワルツ』。それが俺の名前。これからこの学園に名を刻みつけてやる。とりあえず今は──

 

 

「アルミ缶の上にある蜜柑、ふふふ……これが中々面白くてな」

 

「アンタそれは親父ギャグだぞ」

 

 

 目の前の級友の嗜好を心配するべきだろう。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「んー、いい天気だー……」

 

 

 雨、雨、雨。これのどこがいい天気なのかという話だが、これは重バ場で走る絶好の機会である。

 

 ウマ娘たるもの、ありとあらゆるケースを想定しておかなくては。毎回整ったコースで走れるわけでもない。

 

 

「しっかし誰もいねーな……」

 

 

 周囲を見渡してみてもトレーニングに励むウマ娘はいない。せめて相手が一人でも欲しかったが、高望みが過ぎるか。

 

 と、いうわけでストレッチを始めているとソイツは現れた。

 

 

「ねえキミ、アタシと併走しない?」

 

 

 えーっと確かコイツは同じクラスの……まあとりあえず走るか。

 

 

「いいぜ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ぜー……ぜー……強ぇなアンタ」

 

「ふー……ありがと。キミも面白かったよ」

 

 

 コイツつっよ。正規のレースじゃないとはいえ普通に負けた。

 

 息も絶え絶えに芝へ寝転がる。体全体がずぶ濡れになっていくのを感じながら問うた。

 

 

「アンタ、名前は?」

 

「ミスターシービー。キミは?」

 

「俺はレイクトゥワルツ。次は本番で走ろうぜ」

 

「ふふっ、いいねキミ。それじゃ約束しようよ」

 

「おう」

 

 

 なんとか立ち上がり、小指と小指を絡ませる。目の前のウマ娘──ミスターシービーは子供のように笑っていた。実際子供だが。

 

 実を言うとこの併走の前にクラスで自己紹介していたのだが、お互い覚えていなかった。今こうして走って初めて心が繋がった気がする。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いっただっきまーす!」

 

 

 この学園は料理のクオリティが非常に高い。それであって量も確保されているのだから言うこと無しだった。

 

 

「あんたがシービーの言ってたレイクトゥワルツか?」

 

「んお?アンタは?」

 

「あたしはカツラギエース。隣いいか?」

 

「おう。食事は人数多い方が楽しいからな」

 

 

 飯を食うのはわいわいがやがやしてた方が面白い、という理屈は俺が勝手に提唱してるだけだが、カツラギエースもそれに乗り気だった。

 

 

「シービーと走ってどう感じた?」

 

「んー、まずバカみてーに強ぇな。そんでもってスター性がある。……狩り甲斐があるって感じだな」

 

「……ははっ。いいな、あんた。これから同じクラスってことで、よろしくな!」

 

「んー、よろしくー」

 

 

 カツラギエース……エースは、快活で竹を割ったような性格で人当たりがよかった。故に、親交が深まるのも早く。会話の流れで夢っつーか目標を教えてもらったが、非常に好感の持てるヤツだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「いっちに、さんしっと」

 

 

 とうとうこの日がやってきた。

 

 選抜レース。年に四回しかない、トレーナー勢に実力を示す貴重な機会。

 

 ストレッチは入念に。フォームの確認も済ませておく。

 

 SG(スターティングゲート)に入り軽く跳ねる。うう、この圧迫感は何度味わっても慣れそうにねぇな……。

 

 

「────ッ!」

 

 

 俺は他メンバーよりやや遅れてスタート。俺ってば毎回出遅れてる気がするなぁ……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハァッ……ハァッ……ちくしょー、負けかぁ……」

 

 

 やっぱ短距離~マイルは性に合わねえな。エンジンに火がつくまで時間がかかる。かといって中~長距離はスタミナが保たない。これは課題だな。

 

 

「……ラスト1ハロン10秒台!?」

 

 

 誰かが言ったその声と同時に多くの視線が俺へと集まる。これが俺の唯一にして最大の武器。

 

 末脚の伸びと頑丈な足。それが、俺の数少ない取り柄だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 ある日。

 

 

「なールドルフー!聞いてくれよ!俺にもとうとうトレーナーがついたんだ!」

 

「ほう……。それはよかった」

 

 

 またある日。

 

 

「なールドルフ……聞いてくれよ……契約ナシになっちまった」

 

「……それは……残念だったな」

 

 

 レイクトゥワルツのクラスメイト、シンボリルドルフは彼女との対話を好ましく思っていた。

 

 人当たりは出来るだけ柔らかく。しかし名家に生まれた(さが)というものか、威圧感はどうしても溢れ出る。そんな中でも物怖じせず話しかけてくれるレイクトゥワルツは、大切な友人の一人だった。

 

 全てのウマ娘を幸福に。あまりにも大きすぎる宿願。しかし諦めるつもりは毛頭ない。

 

 その自己目標とは別に、博愛とはまた違った個人的な目線で、シンボリルドルフは彼女の幸せを願っていた。

 

 一方で、レイクトゥワルツ。

 

 条件が揃えばだが上がり3ハロン30秒台という前人未到世界最速の足を持っているともなれば引く手あまただったが、如何せん他の部分が未熟すぎた。

 

 スタートが下手、コーナリングがお粗末、ペース配分は乱れまくれ挙げ句には高頻度で掛かる。

 

 作戦などあったものではない、荒削りのレース。しかしそこさえ改善すれば──と多くのトレーナーが群がったがどれだけ指導してもその欠点は一向に直らない。見捨てられてしまうのも、或いは当然のことだった。

 

 

「はぁ……俺だって直してえけどよー、走ってると頭回んねぇしトレセン学園に入学する前も散々改善してみようとしてたけどどうしてもこうなっちまうんだよなぁ……」

 

「しかし君の末脚ならば日本どころか世界を狙えるだろう?そう悲観せずともきっと良いトレーナーが見つかるさ」

 

「一芸特化型だかんなー俺。そこいら認めてくれるヤツがいればいいんだが……。……へへっ、ありがとなルドルフ。話してちょっとスッキリした!」

 

「役に立てたのならなによりだよ。お互いに一意専心で頑張ろう」

 

「おう!」

 

 

 互いに笑み、それぞれ別の方向へ歩き出す。いずれしのぎを削り合う戦友として、微かな闘争心と確かな温もりの残る一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「ハーッ、ハーッ、ハーッ……」

 

 

 全身から滝のような汗が流れる。トレーナーがいない今、独力でとことんまで追い込んでいた。

 

 俺の脚質は追い込み。正確に言えば追い込みの下位互換だ。

 

 俺には判断力と分析力が無い。どこに抜けるかだとかどこで仕掛けるかなどの状況の取捨選択がマジで苦手だった。

 

 だからとにかく経験を積む。考えずとも体が動くようになるまで、徹底的に走るつもりだった。俺の足が頑丈でよかった。

 

 何はともあれちょっと休もう。これじゃあっと言う間に脱水症状だ。

 

 ということで日陰で涼んでいたらそのウマ娘は現れた。

 

 

「ハァイ、レイク!」

 

「おー、マルゼンじゃねーか。調子はどうだ?」

 

 

 同じクラスのマルゼンスキー。エースとはまた違った方向で良いヤツだ。

 

 

「うふふ、今日もチョベリグよ!ところでだけど、併走、どう?」

 

「えー!いいのか!?」

 

「モチ!あなたと走るの、楽しいから」

 

 

 それからは心ゆくまで併走を楽しんだ。これぞ青春、ってヤツだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ごめんね、やっぱりあなたを担当にすることはできないかな」

 

「……またかー……」

 

 

 声はかけられるが正当に契約するまでには至らない。やはり俺の走りはリスキーすぎるのか……。

 

 元トレーナー候補は去り、コースには俺一人が残された。一応門限まではまだ時間あるな。空も赤い。走るか。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

 悩んだ時も悔しい時も走ることでモヤモヤを解消していた。しかしこの頃は走っても気分が晴れない。目の前の課題が山積みだからだ。

 

 

「はー……」

 

 

 息を整え、ならしていると視線を感じた。なんなら走っている間ずっとその視線は俺を射貫いていた。

 

 

「おい」

 

「ん?なんだ?」

 

 

 やってきたのは一人の男。胸にはトレーナーバッジが光っている。

 

 

「オレの担当ウマ娘にならないか」

 

「……え!?い、いいのか!?」

 

「……契約する前に教えてやる。オレの信条は勝てるレース以外に出さないことだ。それでもいいのなら──」

 

「いいよいいよ全っ然いい!俺をトゥインクル・シリーズに出してくれるってことだよな!」

 

 

 俺は焦っていた。シービーとエースは既にデビュー済み。ルドルフにも声がかかっていると聞き、にっちもさっちもいかない状況だったからだ。

 

 

「言っておくが、オレの命令は絶対だ。オレが走れと言ったら黙って走れ」

 

 

 後で思ったことだが、俺はもうちょっと思惟するべきだった。こんなワケあり娘に声をかけてくるヤツなんて大抵碌でもない。しかし当時の俺はスカウトされたことに浮かれて、まともな判断ができていなかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「今日のトレーニングメニューはこれだ。終わったら報告しろ」

 

「おう!」

 

 

 あいだちないヤツだった。笑顔を見せたことなど一度もなく、淡々と仕事に打ち込んでいる。プライベートでの関わりは一切ナシ。

 

 ……契約してまだ日は浅いが、コイツは俺に一切の興味を持ち合わせていないと見受けられる。他トレーナーのように談笑はせず、心の底から諦念と鬱屈に支配されているようだった。

 

 まあ俺は俺のこと考えりゃいい。メイクデビューはルドルフとかち合うことになりそうだし、そこに向けて修練を積むべきだ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「やあ」

 

「お、ルドルフじゃん。なんか用か?」

 

「少し、宣戦布告といったところかな。隣座るよ」

 

「んー」

 

 

 飯を食いながらものを話すな、というのがばあちゃんの教えなため口の中のものを一気に飲み込む。今日はちょっと大盛りにしていた。レース前だしな。英気を養っておきたい。

 

 

「今度のメイクデビュー、君と肩を並べて走る千載一遇の機会だ。本気でいかせてもらうよ」

 

「へっ、俺の末脚でブチ抜いてやるからな」

 

 

 いつも和やかなルドルフからは考えられない程の闘気。こりゃあ一筋縄ではいかねぇな……。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 と、いうわけでメイクデビュー。調子はまずまず、後は如何に俺のテリトリーで戦えるかだ。

 

 

「……」

 

「……へえ、ガチじゃねぇか」

 

 

 ルドルフの顔はいつになく本気(マジ)だ。そこまで警戒されてるともなれば、血が滾る。

 

 共にSGへと入る。……やっぱり慣れねぇ。

 

 

「すぅ~……はぁ~……」

 

 

 まずは深呼吸。不安や悩みを吐息に乗せて吹き飛ばす。これは一種のルーティンのようなものだ。

 

 

「──ッ!」

 

 

 ゲートが開く。俺はやや遅れながら駆け出した。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

 

 

 レースが後半にさしかかる。もう行くか?いや、まだ溜めとくべきか……?

 

 前を風除けにすれば多少楽になる、という理屈は小学生だって知っている。しかし俺はスリップストリームが大の苦手だった。

 

 だって、前が塞がっていると思いっきり走れないじゃないか。

 

 だから外に逃げる。いや分かってる。そうした分距離が増えて不利なことなんて分かりきってる。だが、俺は俺以上になれない。……!ルドルフが動……かない。

 

 

「チィ……ッ!」

 

 

 あー、ヤバい。今の俺、掛かってる。ルドルフに釣られて勇み足になってた。

 

 いや、まてよ、アイツ、まさか──

 

 ──この場にいるウマ娘全ての位置取りを把握してるのか!?

 

 なんという情報掌握能力。まだデビュー戦だぞ!?いくらなんでも……ってヤバい!本格的にスパートに入りやがった!

 

 

「クッ……!」

 

 

 末脚勝負になれば俺に分がある。だが今回は最悪のパターンを引いてしまった。スタミナがゴリゴリに削られ、俺の土俵で勝負させてもらえなかった!

 

 

「ちくっ……しょおおおおっ!!」

 

 

 まだだ。まだ行ける。俺のただ一つの武器は、まだ死んじゃいねえ……!

 

 そして、結果は──

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「ガホッ、ゲホッ、ハー、ハー……」

 

 

 も、う、体力がすっからかんだ。電光掲示板に目をやる。最終局面だけは自分なりの全力を出せた。しかし……

 

 

「……三着か」

 

 

 見事に作戦負け。やっぱ俺には課題が多すぎるな……。

 

 

「ふー……」

 

 

 はやる気持ちを抑え、ウイニングライブの支度にかかる。の前にまずは、トレーナーと反省会だな。

 

 

「トレーナー……」

 

「これで分かっただろう。お前は末脚がキレるだけの凡骨だ。……これからはお前相応のレースだけ出す。いいな」

 

「……」

 

 

 悪い、シービー。約束守れねぇかもしれねぇ。

 





















トレーナーは普通に節穴だし無能です
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