ねえオリ主、走るのやめなよ   作:散髪どっこいしょ野郎

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後編

「あ゛ー疲れたぁ……」

 

「ここ最近の出走ペース凄かったからな……。お疲れ、レイク」

 

 

 トレセン学園の教室にて、レイクトゥワルツは机に突っ伏していた。

 

 シンボリルドルフに敗北した後、未勝利戦線は脱却できたがそれからというものかなりのハイスピードで出走を強制されていた。

 

 学友、カツラギエースは彼女を案じていた。無論カツラギエースに限らず彼女を知る多くのウマ娘が心を砕いていたのだが、それが届いているのかとなれば微妙なところである。

 

 心配しているウマ娘の中には彼女のトレーナーに意見する者もいたのだが、当のトレーナーは頑として受け付けない。全ての言葉をシャットアウトしているようだった。

 

 

(今度たづなさん辺りに相談するべきか……?いくらなんでも出走ペースが異常すぎるぞ……)

 

 

 レイクトゥワルツは既に七つのレースに出走している。デビューからまだ間もないウマ娘が、だ。連闘も当たり前のように行われている。

 

 では上を目指しているのかと問われればそれも否であり、プレオープンかオープンレースにしか出ない。あまりにもちぐはぐだった。

 

 

「……レイク。なんかあったらあたしに相談しろよ」

 

「おーう……ありがとなぁ、エース」

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 俺の走りは最後方から一気にブチ抜くやり方だ。それ故か、重賞には出走していないのだがそれなりのファンを獲得した。

 

 

「なートレーナー、重賞には出走しねぇのか?」

 

「勝てないレースは出さない。契約時に言ったはずだ」

 

 

 ……シービー、エース、ルドルフ。アイツらと戦うためにはもっと上を目指したい。

 

 そのためにはもっと強くなんねぇとな。否が応でも重賞に出られるくらい強く。

 

 ──なんて、思っていたが。この時の俺は知らなかった。コイツは、トレーナーは最初から俺を輝かせる気など無かったということを。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「行けー!ルドルフー!」

 

 

 季節は巡り、ルドルフは皐月賞の冠を手にした。アイツならきっと無敗の三冠ウマ娘になれるだろう。

 

 ……うん。いいレースを見た。俺も頑張んないとな。

 

 

「やっほー、レイク」

 

「ん、シービーじゃん。アンタも見に来たのか?」

 

「将来ルドルフと走ることにもなりそうだしね。敵情視察、ってとこかな?」

 

「エースはどうしたんだ?」

 

「エースは学園で見てると思うよ。きっと今頃抑えきれなくなって走ってるんじゃないかな」

 

「ははは……そうか。……俺も出たかったなー、皐月賞」

 

「キミの実力的に出ると思ったけど、どうしたの?脚痛めたりとかしたの?」

 

「トレーナーがな」

 

「あー」

 

 

 今日俺は一人で観戦に来ている。トレーナーは『仕事が忙しい』とか言って付き合ってはくれなかった。

 

 俺が出走するのは相変わらずプレオープンとオープンレースだけ。そろそろ重賞に出ときたいのだが、まだ実力が足りないのか……?

 

 

「そうだシービー。帰ったら一本だけ付き合ってくれねえか?」

 

「いいよ。ルドルフの走りにあてられた?」

 

「まあそんなとこだが……三冠ウマ娘にどれだけ通用するか試したくなってな」

 

「ふふ、やっぱりキミって面白いね。芝2000mでいい?」

 

「おう」

 

 

 シービーは既に三冠ウマ娘。コイツ相手に勝てればトレーナーも認めてくれるかもしれない。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「だー!ちくしょー!負けたー!」

 

「ハァ……ふー、凄いねレイク。ここまで戦えるなら普通にGⅠも狙えるんじゃない?」

 

 

 結果は負け。人数は二人だけだったためバ群問題を考えなくて済み、ほぼフルスペックを発揮できた。それでも尚細かい駆け引きや仕掛けるタイミングが合わず敗北。

 

 ……でも、手応えはあった。これだけ()れたならトレーナーも重賞に出してくれるんじゃないか?

 

 

「先に上がるね。楽しかったよ、レイク」

 

「おー、ありがとなー」

 

 

 その足でトレーナー室へ向かい、もっと上を目指したい旨を伝えたのだが……。

 

 

「オレが走れと言ったレースだけ走れ。お前にできるのはそれだけだ」

 

 

 無慈悲一閃。バッサリと切り捨てられてしまった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「あーりゃーりゃーのあーらーらっと」

 

 

 ある日の正午、校内を歩いていたらアイツと出くわした。

 

 

「レイク」

 

「ルドルフ?なんだ?」

 

「……少し、話をしないか」

 

「?いいけど」

 

 

 やってきたのは大樹のウロ前ベンチ。今日は空いていた。

 

 

「聞きたいんだ。君の話を」

 

「?どうしたんだよいきなり」

 

「……友人として、志を共にする者として聞いておきたいんだ」

 

「んー、よく分かんねぇけど……じゃあ俺の家庭環境辺りの話でもすっか」

 

 

 俺には両親がいない。物心がついた頃にはばあちゃんと二人暮らし。

 

 正直言って寂しかった。ばあちゃんは優しかったけど、他のヤツらみてぇに親子の会話とかしてみたかったし、甘えてみたかった。

 

 そんな俺の孤独を癒してくれたのがレースだった。最後方から一気にブチ抜く快感は裡にある寂しさを消し去ってくれた。

 

 俺の夢は、テレビで見るようなすげえウマ娘になること。ばあちゃんに楽させてやりてぇし、カッコいい所を見せてやりたい。

 

 

「……とまあ、こんな感じか。にしてもどうしたんだよ。急に俺の話なんて聞きたがって」

 

「……私の夢は、全てのウマ娘が幸福になれる世界を創ることだ。無論、君にも」

 

「ほー、そりゃまたでっけー夢だな。──いーんじゃねぇか?アンタなら叶えられると思うぜ。世辞抜きに」

 

「……ありがとう。近い将来私は生徒会会長に立候補しようと思っている。そこで、君には副会長になってもらいたいと思い──」

 

「あームリムリ。俺そんな柄じゃねぇから」

 

 

 お堅い役とかは俺に向いてない。ぶきっちょだし。

 

 

「俺と話したがってたのって、そういう理由か?」

 

「不快にさせてしまったらすまない。ただ……生徒会抜きに知りたかったんだ、君のことを」

 

「ふーん。ま、ありがとな。こんな話誰かにしたことなかったから、ちょっと新鮮な気分だ」

 

 

 じゃあな、と言い立ち去ろうとした俺が見たのは、どこか憂いが残る表情で俺を見るルドルフだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はー、はー、はー、はー」

 

 

 息も絶え絶えに電光掲示板を見やる。……ギリギリ、ハナ差で一着。

 

 最近は三連闘することが増えた。ただでさえ早い出走ペースが更に勢いを増している。

 

 で、そんな走りをしていたら不調が溜まっていくのも当然であって。体にガタが来るようになった。

 

 

「……次も、勝ってやる」

 

 

 それでも闘志の炎は消さず。たとえこのまま埋もれていくだけだとしても、俺は全力全開で俺を全うする。

 

 保ってくれよ、俺の脚。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 それから更に時は流れ、ルドルフは無敗の三冠ウマ娘になった。来年から俺たちは高等部だ。それにしても──

 

 

「……はぁ……俺もアンタらと走りたかったなー……」

 

「分かるわレイク。あたしも同世代だったら……」

 

 

 俺のぼやきに答えるのがマルゼン。

 

 

「前にレイクのトレーナーにそれとなく言ってみたけど全然受け入れてくれないからな……本当に辛くなったらあたしに言えよ?」

 

 

 俺を助けようとしてくれたのがエース。

 

 

「最近のキミ、ホントに辛そうだよ。今度一緒に散歩でも行く?」

 

 

 俺を誘ってくれたのがシービー。

 

 

「今の君は進退両難だ。……何かあったら全力で力になる。だから君も私たちを頼ってくれ、レイク」

 

 

 俺に手を差し伸べてくれたのがルドルフ。

 

 今、俺たち五人はクリスマスに慰労会を開いている。忘年会とも言うな。

 

 ジャパンカップと有記念。ターフを駆けるルドルフたちを、俺は見ることしかできなかった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 ルドルフは世代の代表と相成った。そして──

 

 

「「「生徒会長当選、おめでとう!」」」

 

「……ありがとう」

 

 

 宣言通り、生徒会会長に当選したのだ。たまにギラつくけど優しくて聡明なルドルフなら、きっと学園をより良くしてくれるだろう。

 

 

「え、なになに、何の集まり?」

 

「おー、シービーも来たかー。よし、五人でやるぞ、祝賀会!」

 

 

 それからは各々飯を食ったり、レース談義に花を咲かせたりと久々に学生らしいひとときを過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 私はシンボリルドルフ。彼女──レイクトゥワルツとは夜雨対牀の仲……と勝手ながら思っている。

 

 それ故に気がかりだった。彼女のトレーナーはお世辞にも良い人間とは言えない。彼女の才能を食い潰して目先の手柄だけをかすめ取っているようにしか思えなかった。

 

 彼女の末脚は、世界に通用する。……筈だったのだが、あまりにも苛烈な出走ペースを前に近頃は能力を落としつつある。

 

 そんな出走間隔では良い意味でも悪い意味でも有名になるのは必然であり、どれだけコンディションが悪くても出走し続けることからついた異名は『ルドルフ世代の凶つ星』。賞賛と皮肉の混じった通り名だ。

 

 彼女のトレーナーは学園内はおろか世間からも良く思われていない。それを理解していないわけではなかろうに、スタンスは変わらない。

 

 

「あ゛~……。肩こりヤベえ……」

 

「……レイク。たった一言でいいんだ。『助けて』と言ってくれ」

 

 

 彼女を学園の空き教室に呼び出す。その一言があれば、私は徹底的に戦う心積もりだ。しかし、

 

 

「あん?俺はまだ大丈──」

 

「君は、大丈夫じゃないだろう」

 

「そうかぁ?40戦したぐらいだしまだまだ行けるだろ」

 

「私は!……私は、君に幸せになってほしい」

 

「いきなりどうしたよ。プロポーズか?」

 

「何故彼にそこまで肩入れする?正直に言って彼は──」

 

「オイオイストップストップ。アンタが悪口言うのは聞きたくねぇ。……アイツさあ、危なっかしくてほっといてられねぇんだよな。……ははっ、こう言うとダメ男に引っかかってるみたいだな。実際そうなんだけど」

 

 

 理解できなかった。どうしてそんな風に笑っていられるのか。

 

 

「アイツは確かにクズだけど、広義的な意味で人間らしくていいと思うぜ」

 

「時々、君の言っていることが分からなくなるよ」

 

「半分も理解してりゃ十分だろ」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「──これが、彼女の成績です。走破タイムから見ても、彼女の実力は私にとっても無視できないものとなっています」

 

「そうか。それで?」

 

 

 彼女のトレーナーは私たちが何を言っても聞き入れようとはしない。だが、これがせめてもの足掻きだ。

 

 

「単刀直入に言います。貴方は、彼女に相応しくない」

 

「……それで?一生徒のお前に何の権限がある?」

 

「──ッ、貴方は、彼女をなんだと思っているんだ!!」

 

 

 怒り心頭に発する、とはこのことを言うのだろうとどこか冷静な頭の片隅で考える。手を出さなかったのは奇跡に近い。

 

 

「ルドルフ、ルードルフ。ちょい落ち着け」

 

 

 いつの間にか部屋に来ていたレイクに引き止められる。よかった。このままこの状況に置かれていたら自分を律せられるかも分からなかった。

 

 結局、その問答は何の意味もなさなかった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?肌ガサガサだぞ」

 

「まあ最近よく走ってるからな」

 

 

 珍しく都合が合ったので俺、エース、シービー、ルドルフの四人で食事をしていた。

 

 肌がガサガサ。それもまあ仕方の無いことだ。一応クリームを塗ってはいるが焼け石に水。

 

 それに加えて最近は連闘に次ぐ連闘で走りも精彩を欠いている。敗北も増えてきた。

 

 どうしたもんかと頭を悩ませていると、意を決したようにシービーが口を開いた。

 

 

「ねえレイク。走るのやめなよ」

 

「なっ!?」

 

「シービー!?」

 

 

 驚愕するルドルフとエース。だが俺はこうなるのを予想していた。

 

 

「…………」

 

「今のキミ、ちっとも楽しそうじゃないよ。そんな走りをいくらしても無意味だと思う」

 

「……かもな。だが、俺はやめねぇ。勝つまでな」

 

「……誰に勝ちたいの?」

 

「秘密だ」

 

 

 それが精一杯の虚勢だった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「頼むトレーナー。ルドルフともう一度戦わせてくれ」

 

 

 薄暗いトレーナー室の中で、レイクトゥワルツは一生に一度の懇願をしていた。

 

 

「ガキの戯れに付き合う気はねぇ。大人しく身の丈にあったレースに出てろ」

 

「勝てなかったら、この命をくれてやる」

 

「……あ?」

 

 

 彼女のトレーナーはかつては熱気に満ち溢れた男だったが、初めての担当ウマ娘、更に言えば将来を誓い合っていた担当ウマ娘に夢が叶う直前で怪我をさせてしまったことで腐っていた。

 

 そのもつれで関係も解消となり、モチベーションも低下。

 

 おまけに同期には差をつけられプライドがぐちゃぐちゃに搔き回されていた。レイクトゥワルツに対する態度は完全に八つ当たりであり、言葉を選ばずに言えば人間としてもトレーナーとしてもカス。

 

 でありながら世間からのバッシングは意に介さないというメンタルが強いのか弱いのか分からない男、それが彼だった。

 

 

「一回だけでいい。それだけ走れたら、後はもう何もいらねぇ。頼む。有記念に出してくれ」

 

「…………」

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 某テレビ局で行われている出走前インタビュー。レイクトゥワルツは、様々な意味で注目を浴びていた。

 

 恐らく世界最速の末脚。しかしこのところは無茶な出走でコンディションが悪化。果たして『皇帝』シンボリルドルフを相手にどこまで戦えるのか。伏兵となり得るのか。

 

 

「それでは、意気込みのほどよろしくお願いします!」

 

 

 アナウンサーからマイクを受け取り、視線を投げかける取材陣に真っ向から言い放つ。

 

 

「勝ちます。俺。ルドルフに」

 

 

 重賞を走ったことすらないウマ娘が有記念に出走するという異例。

 

 一応重賞未勝利でこのレースを制した者は存在するが、それにしても彼女の存在は大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ~……はぁ~……」

 

 

 深呼吸。もしかするとこれで最後になるかもしれない、唯一にして最大の夢舞台。

 

 光が見える。ここを超えれば、俺は闘士になる。俺の隣には、ルドルフがいた。

 

 

「……出走前に聞かせてくれ。何故君は、そこまで苦しみながらも立っていられる?」

 

 

 サムズアップをしてから、その親指を己の胸に突き立てる。

 

 

「走りで答える」

 

 

それだけ言って、地下バ道を出た。

 

 

『各ウマ娘、ゲートに入りました』

 

 

 最後にもう一度深呼吸。証明してやる。俺という優駿を。

 

 

『スタートしました!』

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 

 枠番に恵まれ、好位置につけている。レース全体のペースを握っているのは、前方のウマ娘。

 

 抑えろ。掛かってもいいから、集中しろ。

 

 

「はっ──?」

 

 

 なんだ、これ。光が、見える。その方向が、空いている。

 

 

「……なるほどな」

 

 

 呟く。これまでのレース経験は、決して無駄じゃなかった。考えるよりも先に体が動いている。

 

 そして、舞台は最終局面へ。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

 

 

 ここまでよく耐えた、俺。余力十分。後は解き放つだけだ。

 

 しかし──参ったな。アイツをブチ抜くには、この直線はあまりにも短すぎる。

 

 だからこそ、このコーナーから全力を出す。俺はコーナリングが下手だ。その分、外へ大きく膨らむが俺の末脚なら行ける。

 

 外に膨らむということは早くに直線へ躍り出すということ。そして、それが最終直線なら──俺が一番速い。

 

 

『大外からレイクトゥワルツ!レイクトゥワルツ上がってきました!』

 

 

 なにが『皇帝』だ。『絶対』だ。アンタを独りにさせるかよ。なあルドルフ。今、俺は最高に楽しいぜ。

 

 吠える、叫ぶ、嘶く。刮目しろ。これが、レイクトゥワルツだ!

 

 世界に罅が入る。

 

 

「オオオォォオオォオッッッ!!!」

 

 

 もう少し、もう少しだけ、更に先へ。

 

 限界を打ち破る。過去の自分を打倒する。それこそが、ウマ娘だ──!

 

 罅が──割れる。この瞬間、俺は世界中の誰よりも速く──。

 

 

「っ、あ」

 

『レイクトゥワルツ!一着は、レイクトゥワルツ!初の重賞、初のGⅠ!悲願の優勝を果たしました、レイクトゥワルツです!』

 

「……俺、勝っ、た?」

 

 

 足に激痛が走る。

 

 ……あー、壊れたな……。だが、魅せたぜ、トレーナー。そして……みんな。

 

 拳を掲げる。太陽が眩しかった。

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

「これでは、海外など夢のまた夢だな」

 

 そう独り言ちるルドルフの表情は、どこか晴れやかだった。

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

「──嘘だろ」

 

 

 レイクトゥワルツのトレーナー、彼は、現実を飲み込めずにいた。粗暴粗雑の限りを尽くした担当ウマ娘が、かつて目指した夢の頂に立っていたからだ。

 

 困惑は当然、説明のしようがない怒りすら湧いていた。それが、誰に向けたものなのかも分からないまま。

 

 この逸材を自分は飼い殺し続けていた。たとえこれからどんな道を辿ろうと、その絶対意識(こうかい)はついて回るだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▫▫▫▫▫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フー!今日の面子最高じゃねぇか!」

 

「やっと約束果たせるね、レイク」

 

「そういやレイクと走るのは今日が初めてだな。あたしが逃げ切ってみせるからな!」

 

 

 ドリームトロフィーリーグ。トゥインクル・シリーズを駆け抜けたウマ娘が立つ、次のステージ。

 

 この時を待っていた。俺の足が治り、みんなと戦える時間を。

 

 シービー、エース、ルドルフ、そして俺。

 

 きっと楽しいレースになるだろう。してみせる。

 

 

「レイク、君は今、幸せか?」

 

 

 ゲート入り直前、ルドルフから声をかけられた。答えは決まりきっている。

 

 

「ああ。最高にな!」

 

 

 ゲートが開く。俺はみんなとやや遅れて、一歩踏み出した。

 

 

 

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