鋼鉄の牙、乙女の幻想   作:竹河参号

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11.共同戦線

「報告! “ルクシオン”より暗号通信を受信しました!」

「すぐに復号しろ!」

 

 

 第一隊“蛇遣い(オピュクス)”船内。ダルシムの想像通り返ってきた暗号通信を、船員は急いで復号した。

 

 

「復号完了しました! ――“マスター・リオン・バルトファルトの救援のため移動中。乗客の安全確保のため協力を求む”とのことです!」

「なるほど、例のバルトファルトですか……」

「幸運というべきか、悪運が強いというべきか……」

「待て、“乗客の安全確保”……? あそこには、まだ乗客が残っているのか?」

「協力の了解と、詳細情報の要請を送れ」

「はっ!」

 

 

 幹部の命令に、船員はメッセージを作成し、暗号化した上で“ルクシオン”へと送信した。

 しばらくして、ルクシオンからのメッセージが返ってきた。

 

 

「報告! “ルクシオン”より暗号通信を受信しました! これより復号します! ――これは……!」

「何があった?」

「……“公国軍はアンジェリカ・ラファ・レッドグレイブのみを人質とし、残る全乗員の排除を通達。現在、抵抗のため戦闘準備中”とのことです……!」

「まさか……!」

「公国軍との距離は!?」

「距離27.6km! あと30分ほどかかる見込みです……!」

 

 

 想定をなお下回る事態に、幹部たちは歯噛みした。魔法を修めた貴族の生徒たちがいるとはいえ、所詮はクルーズ船。練兵もされていない雑多な生徒集団が、正規軍の攻撃に耐えられるはずがない。ましてや、千を超えるモンスターに囲まれている状態だ。救援に行こうにも、それまで保つか、どうか。

 想定外の事態は、さらに続いた。

 

 

「報告! “ルクシオン”よりメッセージを追加受信しました! ――“マスター・リオンはアンジェリカと公女ヘルトルーデ・セラ・ファンオースの身柄確保を計画中”とのことです!」

「ば、莫迦な……!」

「あれだけの数だぞ!? 正気か……!?」

「何か秘策があるのでしょうか。あの“命知らず”ですし」

 

 

 正気を疑うメッセージの内容に、幹部一同は度肝を抜かれた。

 とはいえ、他に選択肢がないのも事実だ。モンスターの包囲を突破した上で公国艦隊に突撃するより、すでにその内側にいるリオンの方が侵入しやすいという点はある。また奪取対象が僅か二人であれば、貴族子弟全員が人質に取られている場合よりも、負担が少ないとも言える。――それはそれとして、無茶としか言いようのない策だが。

 ともかく、ルクシオンおよびリオンの策略は分かった。こちらの人質を救助した上で、さらに公女を人質に取り、ルクシオン到着までの時間を稼ぐ。選択肢も兵力も限られた状況下にしては、ましな作戦だろう。

 

 

「アンジェリカ様を救出、そして援軍到着までの時間稼ぎとなれば、囮が必要――乗客の生徒たちによる抵抗も、バルトファルトの画策でしょうか?」

「彼には煽動の才能がありそうですな」

「まったく頼もしいことだ」

 

 

 となれば、こちらができることはひとつ。一刻も早く到着し、公国軍を撃退することだ。

 

 

「全艦エンジン総稼働、速度上げ! 一刻も早く合流するぞ!」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 時間を少し下り――リオンがアンジェリカを奪還し、客船に戻ってきたころ。公女ヘルトルーデも連行し、さてどうしようかという状況だった。「いや次の行動考えてなかったのかよ」などとツッコんではいけない。

 モンスター越しに公国艦隊が広く展開し、前後左右上下、六方を包囲している。何か手を打たなければ、逃げ場はない。

 

 

『公女殿下はその身を公国に捧げた! 各艦、総攻撃を開始せよ!』

 

 

 突如、公国軍の旗艦から音声が響いた。拡声器越しにわんわんと響くその声は、味方艦隊だけでなく、その中心にいる客船にも伝わるように轟いている。その内容に、クリスが歯噛みした。

 

 

「まだ生きているぞ。自国の公女に死ねというのか!」

 

 

 その横で、ヘルトルーデは不敵に笑った。まるでこの事態を予見していたかのようだ。

 

 

「――何も分かっていませんね。公国はこの程度では止まりません。私の代わりはいるのです。私は先遣隊を任されたに過ぎない」

「ラスボスじゃなかったのか?」

 

 

 そんなはずは、とリオンは動揺した。この顔は、確かに見覚えがある。“ゲーム”終盤の敵首魁として立ちはだかり、()に大苦戦を強いたラスボスのはずだ。

 そんなリオンの前で、ヘルトルーデは小さく呪文を唱えた。リオンが咄嗟にショットガンの銃口を向けるも、彼女は怯まない。呪文が唱え終わると同時に――客船を囲むモンスターたちが雄叫びを上げた。

 

 

「何をした!」

「やはり覚悟が足りませんね。即座に私を撃ち抜くべきでした。

 ……モンスターたちを支配から解き放ちました。術によって支配されていたモンスターは、破られれば術者を狙ってくる。じき、この船に集まってくるでしょう」

 

 

 無茶苦茶だ。公国艦隊の総攻撃を待つまでもなく、大量のモンスターたちによってこの船もろとも滅ぼされる。アンジェリカは反射的に、ヘルトルーデの胸倉を掴み上げた。

 

 

「そこまで――そこまでする目的は何だ!」

「言ったでしょう。王国を沈めるためですよ」

 

 

 ヘルトルーデの瞳には、狂気的な光が宿っている。王国憎し、その一念だけで稼働する激情の化身――我が身をも顧みないその貌に、アンジェリカは思わずたじろいだ。

 騒然とする甲板上で、ルクシオンがじじっと機械音声を鳴らした。

 

 

【幸運ですよ、マスター。彼らの目論見は外れます】

「どういうことだ?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?】

 

 

 え、とリオンは間抜けな声を上げた。

 

 

【先ほどの艦隊がこの空域に進入中です。先ほど、協力要請が受理されました。

 所属はスピアリング侯爵家――“戦争屋侯爵”の艦隊が、援軍としてやってきます】

 

 

 リオンは反射的にガッツポーズを決めようとした己を、やっとのことで抑えた。敵かと思いきや、まさかの王国軍。それも指折りのスピアリング艦隊だ。

 問題は、彼らがいつ到着するのか。つまり、それまでこの船が保つかどうか。

 

 

「どのくらいで着く!?」

【友軍も速度を上げているようですが――どうしても距離があります。あと十数分はかかるかと】

「ちくしょう、まだまだ踏ん張らなきゃいけないってことか……!」

 

 

 生徒たちは疲弊している。咄嗟の防御魔法で消耗したオリヴィアも、ほとんど立ち上がれない様子だ。それでも、何とかしなければならない。リオンはエアバイクに跨り、ショットガンを構えて叫んだ。

 

 

「とにかく時間を稼ぐ、付き合え!」

【えぇ、どこまでも】

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 一方、公国軍の旗艦。指揮官ゲラットは、苛立たしげに叫んでいた。

 

 

「何をしているのですか! 早く沈めるのです!」

 

 

 指揮をするでもなく、ただ喚き散らすだけのゲラットに、船員の一人が反論する。

 

 

「味方がいるのです! それに、公女殿下はまだご無事ではありませんか!」

「どうして突撃などさせたのです!」

 

 

 前方では、味方艦船だけでなく、この旗艦からも魔導鎧が次々に出撃している。ゲラットの反論に、船員たちは一斉に目を逸らした。作為であることは明らかだった。

 

 

(こいつら――姫様を助けるためにわざと突撃させましたね。砲撃できない理由を作って! 代わりはいるというのに!)

 

 

 ゲラットは苛立ちを抑えるために、己のカイゼル髭を触ろうとして、既に無くなっていることを思い出した。

 自慢の髭だった。毎日手入れをしてきたというのに、リオンの襲撃で気を失っている間に、焼き切られたように無くなっていた。あの小僧だ。あの騎士気取りの小僧を、何としても討ち取らねば気が済まない。

 

 

「――っ! こ、これもあの男が悪い。私の髭を奪ったあの男が!」

 

 

 それが、ゲラットの苛立ちをさらに加速させた。実はルクシオンによって焼き切られたのだが、大した違いはないだろう。

 そんな時、船員の一人が叫んだ。

 

 

「あ、新たな艦影を確認しました! 数は二隻、目算で700m級です!」

「莫迦な! 王国の増援が来るには早すぎます!」

 

 

 ゲラットは咄嗟に双眼鏡を構え、その艦影とやらを目視した。視線の先にあったのは――奇妙な形状の飛行船が二隻。

 

 

「何ですか? 大砲の数が……二門しか見えませんね」

 

 

 飛行船は、旗艦の高度よりも高い。船底しか見えないその姿からは、僅か二門の可動式大砲が見えるのみだった。

 

 

「あの形も不自然です。それに、可動式の大砲? たった二門だけ?

 さっさと囲んで叩きなさい。あんな品のない飛行船は目障りです。浮遊石を回収すれば問題ありません」

 

 

 武装は貧弱だが、大きさだけはある。それを浮かせる浮遊石を回収すれば、より強力な戦艦を作れるだろう――ゲラットにとって、その二隻は絶好のカモに見えた。

 その判断が間違いだった。旗艦命令によって一斉に高度を上げ始めた味方艦隊は、()()()()()()から一斉射出されたミサイルによって、次々に爆撃を食らい墜落していった。

 

 

「な、何が起きて!」

「敵艦からの砲撃です!」

「砲撃!? この距離で届くわけが! ――あぅっ!」

 

 

 動揺するゲラットを乗せた旗艦は、()()()()()()()()()()()に撃ち抜かれ、ぐらりと艦橋を揺らした。

 

 

「い、一体何が」

 

 

 ありえない。いくら上を取られているからと言って、この距離では砲撃が届かないはずだ。そんな高精度な大砲など聞いたことがない。ひたすらに混乱するゲラットは、飛行船の片割れから箱のようなものが投下されるのを見過ごした。

 事態はさらに悪化した。

 

 

『――公国軍に告ぐ!』

 

 

 拡声器によってわんわんと響く音声が、公国艦隊に届いた。

 

 

「な、何事です!?」

「か――艦隊です! 王国の艦隊が接近しています!」

「莫迦な! 早すぎる!」

 

 

 ゲラットが叫んでも事態は変わらない。旗艦の窓からは、十三隻からなる艦隊が高速で接近してくるのが見えた。たなびく旗が掲げるそれは――一つの輝星を取り囲む、十三の星。スピアリング侯爵家の紋章。

 

 

『貴軍は我がホルファート王国の領空を侵犯している! 直ちに武装解除し、領空外へ退避せよ!

 さもなくば――スピアリング侯爵の名のもとに、貴軍を征伐する!!』

 

 

 “戦争屋侯爵”の襲来に、公国艦隊は震え上がった。

 

 

 

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