鋼鉄の牙、乙女の幻想   作:竹河参号

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12.黒騎士と戦争屋侯爵

「報告! 公国軍、応答ありません! モンスターたちも客船を集中攻撃しています!」

「“ルクシオン”の報告通りだな」

「客船へは先に到着しそうです。このまま乗員の救助は任せますか」

 

 

 ここまでは予定通り。さらに、ルクシオンの先制攻撃によって敵艦隊に動揺を与えることに成功したらしい。ここからは、“戦争屋侯爵”の仕事だ。

 

 

『HQへ報告! 実働部隊、全隊出撃準備完了しています!』

「“牡羊(アリエス)”、“牡牛(タウルス)”、“双子(ジェミニ)”、“(カンケル)”、“獅子(レオ)”、“乙女(ヴァルゴ)”! 公国艦隊への攻撃を開始し、これを排除せよ!

 “天秤(リブラ)”、“(スコーピオ)”、“射手(サジタリアス)”、“山羊(カプリコーン)”、“水瓶(アクアリウス)”、“(ピスケス)”! 客船付近のモンスターを駆除し、“ルクシオン”の乗員救助を支援せよ!」

『了解! 各隊出撃せよ!』

 

 

 首席隊長モーガンの号令と同時に各艦船が前進し、次々にAC小隊が出撃していく。客船の状態を注視すべく、中央スクリーンにその様子を表示させた幹部たちは、その客船から一機の人型兵器が飛び出していくのを目撃した。

 

 

「あれは……?」

「魔導鎧――でしょうか。それにしては……」

「重量二脚――いや、それよりも大きいな。例のロストアイテムの一つか……?」

 

 

 リオンが駆るアロガンツだ。“黄道十四宮(ゾディアック)”でも運用されていない巨大な機体に、幹部一同は困惑した。遺失文明は、あのような巨大兵器を駆っていたというのか。

 

 

「報告! ルクシオンより暗号通信を受信しました! “マスター・リオンが敵鎧部隊と交戦中”とのことです!」

「了解。第二隊から第七隊宛に、友軍識別タグを交付しろ」

 

 

 ともかく、味方なら問題ない。船員に命令を下すと、幹部たちはアロガンツへと注意を向けた。

 コンテナから武装を取り出したアロガンツは、モンスターを次々に撃破し、同時に襲い掛かってくる鎧部隊を撃墜していく。

 

 

「……素人にしては順調ですね。それにしても……」

 

 

 巨大な黒機が構えるブレードとライフルは、モンスターたちを容赦なく叩き潰し、黒い煙とともに消失させていく。その一方で、魔導鎧に対しては頭部を撃ち抜いたり、四肢を斬り落としたりと行動不能にさせたきり、追撃する様子がない。一番手早く撃墜できるはずのコクピットに至っては、狙う様子すらない。

 

 

「――無力化ばかり、か。良くも悪くも、素人らしい」

「ハーヴェイ様からの報告は本当のようですね。機体性能はともかく、本人が戦争慣れしていない」

 

 

 その様子を、“蛇遣い(オピュクス)”幹部たちは何とも言えない表情で観察していた。敵対者の撃破は速やかに、確実に、効率的に行うべきであり、その生存を考慮して戦闘すべきではない――これが自軍ならば、即座に呼び戻して機体から強制的に降ろし、後日始末書を書かせるところだろう。だが、リオンはただの貴族であり、ただの冒険者だ。練兵された戦士ではない彼に、同じことを強制するわけにはいかない。自分たちが殺戮者であるという自覚があるからこそ、それを強要できなかった。

 状況が変わったのはその時だった。

 

 

「報告! 敵艦隊より新たな魔導鎧部隊の発進を確認しました! 機体色は黒――黒騎士隊です!」

「ちっ、この段階で切ってくるか……!」

 

 

 公国軍の精鋭、“黒騎士”。公国でも選りすぐりの騎士のみが入隊を許されるその部隊は、“黄道十四宮(ゾディアック)”をして油断ならない脅威と認定せしめている。数で勝るからと油断していては、足を掬われる脅威だ。

 一気に緊張が走った司令部に、ひとつの通信が届いた。

 

 

『Z3-1よりHQへ! “牡牛(タウルス)”による友軍機の援護と黒騎士隊との交戦を上申します!』

「HQ承認! ただし撃退のみにとどめ、深追いはするな!」

『Z3-1了解! ――Z3総員、友軍機を支援せよ!』

 

 

 ――脅威には違いない。故にこそ、部隊連携はきっちり訓練している。数で劣る相手に後れを取るほど、“黄道十四宮(ゾディアック)”の訓練は甘くない。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 一方、黒騎士隊五機に取り囲まれたアロガンツは、連携攻撃で絶えず襲ってくる敵機に苦戦を強いられていた。

 

 

「こいつら全員チートかよ!」

 

 

 ライフルを向けても射線を避ける。ブレードを振っても後退して躱す。機体性能こそ勝っているが、パイロットの練度が違う。

 いい加減苛立ったリオンは、ライフルを乱れ撃ちブレードを振り回すも、精彩を欠いた一撃は何者をも捉えることなく、虚しく空振りするだけだった。

 ――その背後に、一機の黒騎士が迫った。

 

 

『消えろ、王国の化け物』

【マスター!】

 

 

 反応が遅れた。いや装甲で守れるはず。ぎらりと光る大剣にいやな汗が流れ――

 その黒騎士の背中を、二基の魔導ミサイルが襲った。

 

 

『――むっ!』

 

 

 咄嗟に飛び退いた黒騎士の目の前で、ミサイルががぱりとその表面を割り、中から八つの子弾が飛び出した。改めて敵機を捕捉し再追尾するマイクロミサイルの群れに、黒騎士は大きく旋回しながら回避を強要された。

 九死に一生を得たリオンは、ぶわりと汗を吹き出した。心臓がばくばくと高鳴り、手が震える。あれが――“死”の感覚か。そんなリオンを乗せるコクピットへ、オープン回線が強引に繋がれた。

 

 

『――バルトファルト!』

「うわっ!?」

『こちらスピアリング侯爵軍“黄道十四宮(ゾディアック)”、第三隊“牡牛(タウルス)”である! これより貴様の戦闘支援を開始する!』

 

 

 聞き覚えのある、鋭い大声。ルクシオンの言っていた友軍か。

 

 

「この人は――」

【ハーヴェイの次兄、セドリックですね】

『どうした、バルトファルト! 応答せよ! 困難であれば即時離脱を命令する!』

 

 

 見れば、総勢十二機の魔導鎧がこちらに急速接近している。黒騎士隊の倍もいるとなれば、自分が出張るまでもなく勝てるだろう。リオンは急激に安堵した。

 

 

「か、帰ろっかな……」

【判断は任せますが、黒騎士たちが逃がしてくれるかどうかは別問題かと】

 

 

 コクピット内で及び腰になるリオンへ、ルクシオンが指摘した。

 一方、同じように増援を捉えた黒騎士たちは、その手に憎悪を漲らせながら剣を構えた。

 

 

『“戦争屋侯爵”め……まとめて滅ぼしてやる』

『Z3総員、散開せよ! 的を絞らせるな!』

 

 

 号令と同時に、“牡牛(タウルス)”のACが散開した。それと同時に、背部から十二連の魔導ミサイルを打ち上げたのは――まさかの四つ足を備えた機体。

 

 

「あ、あれ、鎧!?」

【あれが“アーマード・コア”です。各部位をパーツ化したことで、既存のデザインに囚われない柔軟な設計を可能としています】

 

 

 第三隊“牡牛(タウルス)”隊長セドリック・フィア・スピアリング、乗機“雄牛星(アルデバラン)”。ACで初めて確立された『四脚』の機体は、魔導ミサイルとグレネードによる火力支援を担当する。

 そのまま、“牡牛(タウルス)”とアロガンツ、対する黒騎士隊との混戦が始まった。先と異なり、残り四機は“牡牛(タウルス)”が連携しながら抑えている。アロガンツはアルデバランの支援を受けながら、黒騎士一機との対峙に集中することができた――というか、させられた。

 

 

「さっさと撤退しろよ。何でこっちを狙ってくるんだよ!」

【マスターが相手の命を奪わないようにした結果です。そのため、彼らは退くに退けない状況に追い込まれたと推察します】

 

 

 剣筋が鋭く、迂闊に踏み込めない。ライフルを向けても素早く躱し、敢然と攻めかかってくる。

 

 

『若いな。若すぎる。これが王国の騎士か?』

 

 

 黒騎士の隊長、バンデル・ヒム・ゼンデン。既に老齢ながら最強の座を恣にする古強者は、目の前のリオンに向けてそう吐き捨てた。後ろから魔導ミサイルやグレネードを撃ってくる異形の魔導鎧はともかく、目の前の黒機はあまりにも拙い。圧倒的な出力差がなければ、とうの昔に切り捨てていたことだろう。

 

 

『お前らが攻め込むから戦うしかなかったんだろうが』

『――そうだ。儂の時もそうだった。小僧、王国に生まれたことを恨め』

 

 

 それだけ言い残すと、バンデルは改めて吶喊した。アロガンツがライフルを仕舞い、力まかせに殴り返す。従来の魔導鎧に比して圧倒的なパワーがあるはずのアロガンツの一撃は、しかしぎりぎりのところで受け流され、完全に押し返すには至らなかった。

 

 

「機体性能の差があるはずなのに!」

【操縦者の技量の差ですね。ただ――】

 

 

 マスターの悲鳴に対し、さらりと厭味を言うルクシオンは、すぐにアラートを鳴らした。それに重なるように、セドリックの大喝が響く。

 

 

『バルトファルト、下がれ!』

 

 

 咄嗟にバックブーストを噴かせたアロガンツの眼前に向けて、アルデバランがショットガンを撃った。二十の散弾(ペレット)がバンデルに衝突し、その衝撃で強制的に硬直させる。

 

 

【こちらには物量差もありますね】

 

 

 それに重なるように、二連分裂ミサイルと十二連垂直ミサイルが降り注ぐ。咄嗟のブーストで無理矢理凌いでいくも、全弾を避けるには至らず、バンデルの魔導鎧は全身に傷を負った。

 好機。アロガンツは両手でブレードを構え、バンデルへと突進した。

 

 

「おらぁぁぁっ!」

 

 

 技量も何もない、気合だけの一撃。横薙ぎに振るわれるブレードに向かって、バンデルの剣が衝突し――ばきん、とアロガンツのブレードが砕けた。

 特殊金属“アダマティアス”。魔力を宿した特別な金属で鍛えられた長剣は、アロガンツの鋼剣を容易く粉砕した。

 好機。思わず驚愕しブレードを取り落としかけたリオンに向かって、バンデルが吶喊した。相手の装甲も技量も見切っている。このまま仕留め――

 

 

『ぬぅっ!?』

 

 

 アルデバランから放たれた巨大な翠緑の衝撃波が、バンデルの機体を襲った。

 パルスプロテクション。ACに搭載可能なコア拡張機能の一つで、球状の巨大な魔力防壁を設置する。所詮は魔導パルスの防壁であり、アダマティアスの剣を阻むには至らないが――展開の衝撃で、本体をのけぞらせる程度の事はできる。

 思わず怯んだバンデルに対し、すかさず“牡牛(タウルス)”のACがその両翼を捉え、ガトリングで挟み撃ちにした。小粒の弾丸が驟雨のように浴びせられ、がりがりと装甲が削られる。堪らずバックブーストを噴かせた先で、二機のACに注視していたバンデルは――その頭上を取ったアルデバランを見逃した。

 バンデルの頭上から、グレネードが撃ち下ろされた。

 

 

『がはぁっ!?』

 

 

 重い衝撃と爆裂に、魔導鎧がひしゃげる。公国最強の騎士は、しかしACの連携攻撃によって敗北し、そのまま(くずお)れた。

 

 

『……王国の騎士共に、負けるわけには……』

 

 

 何とか立ち上がろうとするも、駆動系が損壊している。周囲を見れば、同じように黒騎士たちが次々に討ち取られていた。対単体、対複数において、決して単騎での戦闘に拘らず確実に制圧する“黄道十四宮(ゾディアック)”の戦術理念は、かの“ファンオースの黒騎士隊”すらも上回った。

 

 

『――降伏を勧告する。直ちに武装解除せよ』

『殺せ。降伏などしてたまるか』

『ちっ……』

 

 

 目の前にショットガンを突き付けられながらも、バンデルは吐き捨てるように言い放った。頑迷な老騎士に、セドリックは分かりやすく舌打ちした。

 いずれにせよ、彼ら公国軍にできることはもうない。“黄道十四宮(ゾディアック)”の急襲によって蹂躙された艦隊は墜落していき、魔導鎧も海の上だ。

 

 

【スピアリング軍による制圧が完了しました】

 

 

 これで一安心――とリオンが気を緩めたその時、ひとつの光が降り注いだ。見れば、敵艦隊から照明弾のようなものが降り注いでいる。

 

 

『なに……!?』

「往生際が悪すぎる」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「報告! 敵艦上空に、照明弾のようなものが投下されました!」

 

 

 “蛇遣い(オピュクス)”司令部。彼方からその光を観測していた船員たちは、次にモンスターたちが味方の艦隊へ――正確には、その甲板に待機している“黄道十四宮(ゾディアック)”の兵士たちに向けて殺到しているのを目撃した。

 

 

「何が起きている?」

「モンスターを使役する手段を、公国軍が有しているのでしょうか?」

 

 

 そもそも、ここまで大規模にモンスターを召喚使役できていたことが異常だ。もう一つ二つくらい、打つ手があっても(おか)しくはない。

 

 

「いかがしますか」

「いかがも何もあるまい。――こちらHQ、第二隊から第七隊へ通達! 全力でモンスターを迎撃し、即時撤退せよ!」

『了解!』

「同じく第八隊から第十三隊へ通達! モンスターを追撃し、迎撃支援を行え!」

『了解!』

「HQよりZ3-1へ! 友軍機に撤退を勧告せよ!」

『Z3-1了解!』

 

 

 指令を出しつつ、幹部たちは固唾を呑んで見守った。学生たちの奮闘やルクシオンの攻撃、“黄道十四宮(ゾディアック)”の排除があったとはいえ、元は千を超える大群だ。一瞬でも気を抜けば、あっという間に食い尽くされる。

 徹甲弾が、榴弾が、魔導ミサイルが次々にモンスターたちに襲い掛かり、その数を着実に減らしていく。無限とも思える長い時間をかけた後――モンスターたちは、その全てが黒い煙となって消失した。

 

 

『――モンスターの、殲滅を完了! これより、全機帰投します!』

「HQ了解、よくやった。“(ケートス)”、各隊の受け入れ準備を」

『了解!』

 

 

 荒い息を吐きながら報告する実働各隊に、モーガンは短く労いの言葉をかけた。予想外の消耗戦だった。長々と讃えるより、一刻も早く収容し休憩させるのがいいだろう。

 

 

「HQよりZ3-1へ。友軍機はどうした」

『Z3-1よりHQへ! “ルクシオン”が回収に来るため、撤退の必要はないとのことです!』

「……HQ了解」

 

 

 Z3-1ことセドリックの報告に、モーガンは不可解さを覚えながらも応答した。心中の戸惑いは、幹部たちも共有しているようだった。

 

 

「制圧したとはいえ敵艦上で、撤退しないと?」

「何を考えているのでしょうか……」

「とにかく、“ルクシオン”と合流しましょうか」

 

 

 悩んでいても仕方ない。まずはルクシオンと、それからリオンと合流しよう。

 

 

「全艦面舵、このまま敵艦隊に接近せよ! “ルクシオン”に合流の通告を送れ!」

 

 

 

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