鋼鉄の牙、乙女の幻想   作:竹河参号

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02.乱入

 ざわめく群衆を掻き分け、アンジェリカの前に現れたのは、二人の男だった。

 

 

「はい、は~い! 俺が決闘の代理人に立候補しま~……あれ?」

「……え?」

 

 

 アンジェリカともう一人の男、それぞれが間抜けな声をあげて、最後の一人――ハーヴェイを見た。彼はいつもの三白眼のまま、もう一人の男に向かって機械音声を投げた。

 

 

『――Mr.リオン・フォウ・バルトファルトで違いないか』

「え、はい」

 

 

 ハーヴェイの記憶に間違いがなければ、確かリオン・フォウ・バルトファルト氏――新しい浮島を発見し、学園入学前に男爵位を得た稀代の冒険者だ。果たしてそれは合っていたらしい。

 

 

『状況が状況なので挨拶は割愛させていただく。Ms.レッドグレイブの代理人に立候補する意向があると見るが、相違ないか』

「あー、えっと、そのつもりだったんすけど……」

『――僕は退いた方がいいか?』

「あ、いや、お構いなく」

『そうか。では失礼』

 

 

 リオンに一通り断りを入れると、ハーヴェイはアンジェリカに向き直った。

 

 

『Ms.アンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ、単刀直入に申し上げる。アナタに“交渉”を申し込みたい』

「こ……交渉?」

『そうだ。僕ことハーヴェイ・フィア・スピアリングの指定する条件を勝ち取れるなら、アナタが発起したこの決闘に当たり、アナタの決闘代理人として立候補する。少なくとも、そこのMr.バルトファルト以外に対抗馬はいないようだが、いかがか』

「条件……だと?」

『難しいことではない。アナタの利にもつながる、単純なことだ』

 

 

 状況として、決闘代理人としての立候補なのは間違いない。だが、そこに条件を付けてくる者など前代未聞だ。かつてない事態に、群衆のざわめきも止んだ。

 

 

「おいおい、お前ら、何もんだよ?」

 

 

 噛み付いてきたグレッグに、ハーヴェイとリオンが一瞬だけ視線を向けた。

 

 

『――で? ご返答はいかがか』

「おい、無視するんじゃねぇ!」

 

 

 流れるように無視するハーヴェイは、怒るグレッグをよそに、アンジェリカを急かす。彼女はひたすら困惑するだけだった。

 

 

「……その、条件とは……?」

『“戦場を整えろ”』

「……???」

 

 

 奇妙な要求に、アンジェリカの困惑が深まる。表現がよく分からない、何が言いたいのだ?

 

 

『御覧の通り、僕の実働能力は著しく偏っている。最低限、対等な条件で戦える手段が限られている以上、それを阻害する要因は排除したい。アナタが発起した決闘である以上、その段取りはアナタにお任せしたいと思っている』

「……具体的には?」

 

 

 「御覧の通り」と言われても、アンジェリカは“戦争屋侯爵”スピアリング家の三男が入学していることしか知らない。どうやら(おし)で、魔導具(マジックアイテム)で代替しているらしいという噂は耳にしているが、その実働能力など、まるで未知数だ。

 

 

『まずひとつ、えーし、……魔導鎧、による戦闘。――これは、必要条件。決闘では一般的と聞いているし、これは絶対に譲れない。万一それ以外の形式になるなら、悪いが撤回させてもらう。アナタの負けも確定したようなものだ、諦めて観念して欲しい。

 つぎに、搭乗機体はそれぞれが調達するか、互いに同一機体。――これも、必要条件。自機持ち込みが最上だが、最悪、互いに同じ機体なら勝負にはなるだろう。

 最後に、集団戦ではなく一対一の繰り返しによる団体戦。――これは、十分条件。多対一はいつものことだが、望んで不利を抱える理由もない。最低でも五対一の状況は回避していただきたい。

 ――経費及び報酬については、あとで細かく詰めさせていただく。まずはお膳立ての段階だ。いかがか、Ms.レッドグレイブ』

 

 

 随分と詳細な条件だ。魔導鎧による決闘そのものは主流ではあるものの、ここまで形式を指定するのは学園史上彼が初めてだろう。というより、ここまで詳細を詰めなければならない現状こそが異常事態と言える。

 一方、そんな無理押しに気分を害したのか、グレッグが再び噛み付いた。

 

 

「おい、仕切んじゃねぇよ。そんな話、通るわけねぇだろ? お前が形式を指定してるようなもんじゃねぇか」

『僕からの条件提示は以上だ。後はアナタ次第だ、Ms.レッドグレイブ』

「だから無視するんじゃねぇ!」

 

 

 もはや振り向きもしないハーヴェイの振舞いに、短気なグレッグは再び吼えた。

 一方、アンジェリカはハーヴェイの言いように戸惑いを覚えた。詳細とはいえ、こちらの有利に繋がるものはひとつもない。あくまで、対等な勝負に持ち込むための条件だ。

 

 

「……勝てる、のか?」

『そのための手段が得られるならば』

 

 

 アンジェリカの問いに、ハーヴェイは即答した。まるで確定事項、とでも言わんばかりに。

 迷いないその言葉に、群衆は一瞬だけ沈黙すると、爆笑した。

 

 

「ちょっと、聞いた!?」

「勝つつもりだって。本当に身の程知らずよね」

「あいつ、笑いを取る才能はあるみたいだな!」

「ぽっと出が何言ってんだよ、バカじゃねぇの!?」

 

 

 思わず唇を噛むアンジェリカとは裏腹に、ハーヴェイはまるで気にした様子がない。平静な三白眼のまま、リオンの方を向いて機械音声を鳴らした。

 

 

『――ときに、Mr.バルトファルト』

「はい?」

『生憎と、僕は貴族社会の作法に疎いのだが……他人の後ろでひそひそと笑いものにするのは、“()()()に相応しい振舞い”なのか?』

 

 

 群衆の嘲笑が止んだ。リオンへの問いに見せかけた、「お前たちは貴族に相応しくない」という糾弾だ。それに気付けないほどの愚昧がいなかったのは、幸いと言っていいか、どうか。

 ようやく沈黙が訪れたホールで、しかし納得できない者が一人だけいた。

 

 

「……理由を、教えて欲しい。この状況で、私の側に付く理由を」

 

 

 アンジェリカである。激情のままに手袋を叩きつけたはいいものの、このような四面楚歌は想像して然るべきだった。それを思い知った今だからこそ、この冷静沈着な少年の意図が読めない。彼は何のために、この絶望的な決闘に関わろうとしているのか。

 問いを突き付けられたハーヴェイは、しかし答えず、ユリウスの方に向き直った。

 

 

『――ユリウス・ラファ・ホルファート王太子殿下。御身に我が言葉を奏上する機会をお与えいただきたい』

「!?」

「お、俺か!?」

 

 

 急に水を向けられたユリウスは、咄嗟に応答ができなかった。アンジェリカに味方する理由のはずなのに、どうして相手方のユリウスに言葉を述べるつもりなのか。

 とはいえ、ハーヴェイの無機質な機械音声は撤回する様子がない。ユリウスが拒否できる理由はなかった。

 

 

『僕のような卑しい身の上で、御身に直接言葉を申し上げるべき立場でないことは重々承知ですが、――その上で、なお、申し上げたいことがあることを、どうか御理解賜りたい』

「……いいだろう、許す」

『殿下に諫言申し上げる。このような()()()はほどほどにお止めいただきたい』

「!?!?!?」

 

 

 ユリウスの許しを得た途端、ハーヴェイは待ち構えていたかのように言い放った。あまりの問答無用ぶりに、一同は度肝を抜かれた。

 

 

『このような評価を申し上げるのは大変心苦しいですが、宴席の余興にしてはあまりに悪辣に過ぎる。オチもひとつ付いたことでしょう、ここらで一旦お止めいただくのがよろしいかと』

「……この俺が、戯れでこのようなことを言っているとでも?」

『残念ですが、正気であらせられるとは到底。言葉を選ばず申し上げるならば――あまりに無軌道で、刹那的な思考と評するほかありません。“お戯れ”で誤魔化せるうちに、さっさと()()()()()()にするのが上等かと。

 寄ってたかって子爵家の小娘ごときを囲うのみならず、そんな茶番に殿下御自ら混ざり、あまつさえ己が婚約者を吊るし上げるなど。……三流の戯作家気取りとて、書き起こす勇気は持てますまい』

 

 

 まるで酔っぱらいの妄言のような扱いに、ユリウスが鋭く睨んだ。対するハーヴェイも、退く様子が一向にない。ぴりぴりとした緊張感が、両者の間に走った。

 

 

「っわ、私は――」

『貴様の意見を求めた覚えはない。すっこんでいろ』

「!?」

 

 

 そこに口を挟もうとしたマリエを、ハーヴェイは鋭く遮った。仮にも淑女に対する発言ではない。ユリウスの目つきがいよいよ敵意に満ちた。

 

 

「悪いが、俺は本気だ。ましてマリ――」

『なれど“どうしても譲れぬ”と仰るのなら』

 

 

 そんなユリウスの言葉を遮り、ハーヴェイの機械音声が高らかに鳴らされた。

 

 

『“これ以上は問答無用、あとは剣を以て語るのみ”――僭越ながら、このハーヴェイ・フィア・スピアリングが、その敵役(かたきやく)を務めさせていただきましょう』

 

 

 その言葉と共に、ハーヴェイは深く頭を下げ、恭しく敬礼した。

 ……つまり、何だ。ユリウスの意思表明の補佐として、それに相応しい役者として自ら立つことで、彼の覚悟を演出するということか。

 一同の理解が至ったことを見届けると、ハーヴェイは顔を上げ、改めてアンジェリカに向き直った。

 

 

『――と、いうことだ。説明になったか、Ms.レッドグレイブ』

「そ、その……」

『――ああ、済まない、Mr.バルトファルト。きみ抜きで話を進めてしまったな。僕の()()()という厭な役回りをさせてしまうが、いいだろうか』

「い、いやぁ……その、向こうも五人がかりっぽいし、いいんじゃないっすかね」

『ありがとう。きみが寛容な人物で良かった』

 

 

 まるで万事了解済みのような笑顔を見せるハーヴェイに、アンジェリカもリオンも呆気に取られた。割と衝動的に動いていたリオンは、反論のしようがなかった。

 一方、実はいまひとつ理解に至っていないらしいグレッグが、呆れたように手を振った。

 

 

「何気取ってんだ、お前らじゃ勝負にならねぇよ。目立ちたいだけならさっさと逃げ帰れ、雑魚共」

『――Ms.レッドグレイブ、そろそろ意志は決まったか? 悪いが僕は口下手だ、場を持たせるのにも限度がある』

「おい無視すんなって何回言わせんだよ!?」

 

 

 ハーヴェイはグレッグを完全にないものとして扱っているらしい。唾を飛ばして怒鳴るグレッグをよそに、アンジェリカは頭が痛くなる思いだった。

 とはいえ、選択肢はない。彼女が最後の忠心を果たすには、このよく分からない二人組に縋るしかない。

 

 

「…………わ、分かった。スピアリング、バルトファルト――お前たちを、私の代理人として……み、とめ、る」

『承知した。微力なれど、アナタのために誠心誠意努力させていただこう。――というわけで、早速決闘の段取りを』

「もうほとんど決まったようなものじゃないか!?」

『細かい条件が定まっていない。相手の言質も欲しいところだ』

 

 

 形式ばった口上から一転、急かすようなハーヴェイの言葉に、アンジェリカがツッコんだ。あくまで譲らないハーヴェイに対し、リオンがさらりと割り込む。

 

 

「じゃ、そこは俺が~」

『――だ、そうだ。僕としては異存はないが、アナタはどうだ』

「……もういい……後は頼む、バルトファルト」

 

 

 軽薄な態度のリオンに、いよいよ頭痛がし始めたアンジェリカは、その言葉に従うしかなかった。もはや気力のみで立っているような状態だ。

 

 

「因みにアンジェリカさんの決闘を申し込んだ理由は何ですか? そこ、ハッキリさせて貰わないと困るんですよね」

「……殿下に近づくな。私の望みはそれだけだ」

 

 

 何とか気持ちを切り替え、アンジェリカが答える。もはや彼女を動かすものはそれだけだった。

 

 

「聞いた?」

「嫌だ~、もしかして嫉妬?」

「本当に醜いわよね。魅力で振り向かせられないから力尽くだって」

 

 

 歯を食いしばって絞り出したアンジェリカの言葉を、これ見よがしに嘲る群衆。どうやら貴族(このガキ)共は鳥頭らしい、とハーヴェイは冷ややかな目で睨んだ。

 それらを無視して、リオンがマリエの方を向き直ると、そこにユリウスが立ち塞がった。

 

 

「で、決闘なのでそちらの希望も聞きたいんですけど」

「そこまでして俺たちを引き裂きたいのか。どっちが魔女か分かったものではないな。アンジェリカ、例え俺たちの仲を引き裂いたとしても俺の気持ちがお前に戻ることはない!」

「分かっています。分かっていますが、その者を引き離すのが私が出来る最後の……」

「いや、そういうのは後でお願いします。ほら、そっちの条件を早く出してくださいよ。は~や~く」

 

 

 元婚約者同士の言い争いを、まるで空気を読まないリオンがぱんぱんと手を叩きながら遮る。むっと睨みつけるマリエたちだが、彼はまるで気にした様子がない。リオンに急かされ、マリエが前に出た。

 

 

「わ、私が勝ったら、もうこんな酷いことは止めてください。実家の権力で言うことを聞かせるような真似は……良くないと思います」

「じゃあ、こっちが勝ったら殿下とあんたは別れる。こっちが負けたら、もう関わらないって感じで良いよね?

 なら、次は決闘方法の確認ね。闘技場を借りた鎧での決闘はどうかな? 一般的な決闘方法だと思うし、ハーヴェイさんもそう希望を出してるんだけど」

 

 

 厚かましい被害者面だ、とハーヴェイが冷ややかな目で睨む横で、リオンは相変わらずへらへらとした様子で話を進める。そこに、クリスが眼鏡を押し上げながら鋭い視線を向けてきた。

 

 

「貴様たち、私たちに勝つつもりか? 剣術の授業では目立った腕を持っていなかったように思うが?」

「はぁ? なんで俺たちが負けると決めつけるわけ?」

 

 

 クリスの挑発に対し、リオンが煽り返した。途端、群衆が爆笑に包まれた。

 

 

「おいおいマジかよ、莫迦がもう一人いた!」

「こりゃ傑作だぜ!」

「“三流の劇作家気取りでも書けない”、本当にそのとおりね! こんな展開、一流作家だって書けないわよ!」

 

 

 確かに、外野が笑いたくもなる無茶だろう。一年生としては飛び抜けて優秀な五人であり、何より王太子殿下とそれに近しい四人の五人組である。本来ならこうして、喧嘩を売ること自体が愚行そのものだ。仮にも侯爵家であるハーヴェイはともかく、リオンが関わるにはリスクが大きすぎる。

 そんなリオンの顔を覗き込むように、グレッグが近寄ってきた。

 

 

「そう言えば、さっき女子に声をかけていた連中が、専属使用人に突き飛ばされて会場から逃げていたな。あれ、お前じゃないのか?」

 

 

 リオンの表情が僅かに硬くなった。グレッグの気勢に怯んだのだろうか、それとも覚えがあるのだろうか。

 ――そのどちらでもない、義憤のようなものが湧き上がっていることを、ハーヴェイもグレッグも見抜けなかった。

 

 

「さぁ、帰れ帰れ、雑魚共。お前らのごっこ遊びには付き合えねぇよ」

「――だそうですけど、どう思います?」

『少なくとも、きみは好きにしていい。ただ、僕まで降りると困るのは……“決闘の体裁も取らずに袋叩きにする卑怯者共”の誹りを受けるのは、あちら側だと思うな』

「……なんだと?」

「ヒュウ、冴えてる~」

 

 

 呆れたようにしっしっと手を振るグレッグの言葉を、しかしリオンから水を向けられたハーヴェイは、ただ冷淡に切り捨てるだけだった。リオンの返答越しに侮辱されたグレッグが、分かりやすく額に青筋を浮かべる。

 そこに、ジルクがぱんぱんと手を叩いて仲裁に入った。

 

 

「はいはい、そこまで。せっかくそちらから提示された条件がありますから、お望み通り鎧を使った一対一の形式で行いましょう」

「鎧の規格は? 武装の制限は?」

今日(こんにち)は4m級が主流ですが、さすがに数日で工面するのも容易ではないでしょう。きちんと稼働する鎧であれば、規格は無制限とします。武装も同様に。ただし、こちらは五人。そちらが期限までに人数を揃えるなら五名までの参加は認めます。闘技場は……もう夏期休暇も目の前。終業式の翌日には借りることも出来るでしょう」

 

 

 これで条件は勝ち取った。とはいえ、向こうの言う通り人数を揃えることはできないだろう。これ以上命知らずが現れるとは思えない。

 

 

「まぁ、実質二対五か。行けます?」

『少なくとも、この手合いとこの条件なら。そう踏んでここにいるが、きみこそどうだ』

「まぁ、一対一を五回なら問題ないかな~って」

 

 

 リオンの言葉に、ハーヴェイはけろりとした様子で反問する。リオンも涼しい顔で肯定するのを見て、ジルクがぴくりと片眉を上げた。

 

 

「……本気で勝つつもりですか? 今では珍しいですが、決闘で命を落とすこともあるのですよ」

「知っていますから大丈夫ですよ。それより――」

『――Mr.バルトファルト。ひとつ、確認させてほしいことがある』

「何ですか?」

 

 

 命懸けという本来の絶対律は徐々に廃れ、相手が戦闘不能になった時点で終了。運が悪ければ死ぬ、というのが今の――というか、学園における特別ルールだ。

 ところが、鳩が豆鉄砲を食ったような表情でハーヴェイが割り込んできた。

 

 

『“今では珍しいですが”とは、どういう意図の発言だ? 彼はひょっとして、“魔導鎧による戦闘で人死にが出ないこと”を前提に話しているのか?』

「……そ、そうみたいっす~」

 

 

 まるで人死にが当然のこと、と言わんばかりの質問に、さしものリオンも思わず冷や汗を浮かべた。この人、まさか本気で殺し合いをするつもりか……?

 

 

「……どちらも実績のある方だと聞いていましたが、どうやら期待外れのようですね。相手の実力を測れていないようだ」

「そこまでにしておけ、ジルク。ハーヴェイ、それにリオンと言ったな。冗談では済まされない。覚悟は出来ているんだろうな?」

 

 

 冷ややかに睨むジルクを制止し、ユリウスが二人に鋭い視線を向けた。その先で対峙するのは、王太子相手とは思えない薄笑いを浮かべるリオンと、相変わらず無表情のハーヴェイ。

 

 

「大事な恋人との別れを済ませておけよ、王子様。あれ? 他の四人は関係ないから付き合えるし、指を咥えてみていろ、って方がいいのかな?」

『……発言の機会を賜り、ありがたい限りですが、僕からは既に申し上げました。王太子殿下、くれぐれも後悔なさらぬよう』

 

 

 リオンの挑発に、ユリウスはいよいよ額に青筋を浮かべた。慇懃なだけのハーヴェイの機械音声も、苛立ちを加速させる。

 とはいえ、話すべきことはもう定まった。この場はもうこれまでだろうと、ハーヴェイは踵を返すと、さっとアンジェリカの手を取った。

 

 

『向こうとの話はまとまったようだ。感謝する、Mr.バルトファルト。――さ、あとはアナタとの()()だ』

「ま、待て! 今からか!?」

『……? この針の筵に、まだ留まれると? 思いのほか胆力があるのだな、アナタは』

「そ、そういう意味ではない!」

『では結構。――Mr.バルトファルト、せっかくだからきみも来るといい』

「え、俺も?」

『ただ働きがしたいならお好きにどうぞ。きみの報酬のために、僕が心を砕く理由はない』

 

 

 がやがやとコントのようなやり取りを交わしながら、群衆を押し退けてホールを出ていく三人。その脳裏には、呆然と置き去りにされるマリエたちのことなど綺麗に吹き飛んでいた。

 

 

「……ふふ。あの“殺戮人形”が自ら首を突っ込むなんて。面白いことになりそうね」

「にゃにゃ~……アデル様が、まだ悪巧みを始めてる~」

 

 

 その後姿を視線でのみ追いながら、アデルは嫣然とした笑みを浮かべ、ケイトの畏怖を買った。

 とはいえ、立ち回り次第では『面白くないこと』を見そうな予感だ。さてどう動くべきか――と、アデルは涼しい顔で思案を始めた。

 

 

 

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