翌日。再びリオンの邸宅に集まった一同は、“聖樹の苗”を取り囲んでいた。
「さて! まずは“聖樹の苗”の詳細調査といこうか!」
『……解剖などしないで下さいよ、教授』
「勿論だとも!」
ハーヴェイに釘を刺されながらも元気に叫ぶアギラル教授は、しかし今にも“聖樹の苗”を引っこ抜きそうな興奮した様子を見せている。これでも、この場では最年長の人物である。
「さて、残念ながら私は魔法生物学に明るくない。バルトファルト君やルクシオン君から得た“聖樹”の情報をもとに、この苗木の性質を明確にしていこう」
アギラル教授の進行により、まずはルクシオンとリオンの番が回ってきた。アルゼル配下の貴族たちに“聖樹の加護”を授ける。“聖樹の加護”とは別に、己の意志を代弁させる“巫女”を、そして両者を護る“守護者”を一人ずつ選出する。魔力を固めた宝玉を生み出すが、それは種でも実でもない。“聖樹”の子孫たる苗木はよく発生するが、アルゼルの大地には根付かず枯れてしまう――
一通り聞かされたアギラル教授は、ふむと顎に手を当てた。
「……ふむ、興味深い生態だね」
『何か解りましたか?』
「植物の生態と言えば、基本的に“自助”か“共生”の二択が大半だ。自力で生長し強く大きく育っていくか、別の生物と相互関係を築いて生長繁殖していくか。ごく稀な例として“捕食”もあるが、それはこの際置いておこう。
そして、この“聖樹の苗”に限って言えば……“共生”というよりは、“寄生”に近い生態をしている」
「き、寄生?」
「うむ。己の意志を代弁させる“巫女”、そして両者を護る“守護者”、その両名に報いるため魔力を提供する……一見して“共生”のようだが、実態は力関係が傾き過ぎていて、“聖樹の苗”による“寄生”――あるいは“巫女”と“守護者”による“搾取”でさえある。
そもそも、“守ってもらう”という発想そのものが“寄生”だよ。その個体なりに充分に育った植物にとっては、捕食されることすら繁殖行為のうちだ。それを回避しようとする知性は、植物として異常としか言いようがない」
「アルゼルの“聖樹”自体は、そんな感じはしませんけど……」
「ここまで体積差が狂ってしまえば、力関係も逆転するさ。それに“巫女”と“守護者”という概念、そして魔力を提供する関係そのものは消えていないのだろう?
――いや待て、それが未だ継続されているということ自体、異常な状況だね。ここの“聖樹”は、もう守ってもらう必要がない」
「それが……」
そこで、リオンとルクシオンから追加の情報が告げられた。“巫女”と“守護者”は“加護の紋章”を剥奪され、そのまま死亡してしまったのだと。
「失われてしまった? “巫女”と“守護者”、“聖樹”にとっての優先存在が?」
『それが、例の議長襲撃事件に繋がっている……?』
“巫女”と“守護者”の死――つまり共和国議会議長レスピナス家の襲撃事件だ。ただでさえきな臭い事件が、俄かに不穏な空気を帯びてきた。
「ルクシオン君、何か情報はあるかい?」
【関係者の情報によると、先代の“巫女”と“守護者”は、六大貴族の騙し討ちによって紋章を失い、そのまま殺害されてしまったそうです】
「“聖樹”にとっては下位者でしかない貴族たちに? それこそ、“巫女”と“守護者”自身が自由意思で放棄するような罠でもないと成立しないだろう」
【原因は判明していないそうです】
「そして現状、“聖樹”は新しく“巫女”と“守護者”を選定していないと……」
アギラル教授はふむと考え込んだ。“巫女”と“守護者”による共生あるいは寄生関係は、すでに破綻している。ざっと百年も遡れば、関係維持の必要性は終わっていたはずだ。“聖樹”側にとっても惰性のように続けられていたのか、あるいは“巫女”からの懇願によって継続していたのか。それがここに来て、完全に断絶してしまったと……
『政治的圧力は? “聖樹”の力を経由したものではなく、あくまで政治的に“巫女”と“守護者”を陥れる罠を仕掛けた可能性は?』
【“巫女”を輩出していたレスピナス家は、共和国議会の議長を兼ねていました。政治的な罠も、仕掛けることができる可能性は最も低いかと。
最も可能性の高い“人質”ですが――娘であるノエルとレリアから、そのような証言は得られていません】
「十年前くらいの話なんすよね? その時は覚えてなかったとか、自覚がなかったとか?」
【可能性は否定できませんね。遺臣たちからの情報収集を試みます】
ハーヴェイとケイトの指摘に、ルクシオンはメモリ内のToDoリストを更新した。十年も遡る話ともなれば、当事者であるノエルとレリアも幼児だ。記憶も定かでない時分の証言では、いささか弱いところがある。あるいは娘たちではなく、別の人物が人質に取られたか――どの観点から言っても、再調査は必要だろう。
そういえば、とリオンはひとつ気になることを思い出した。
「そういえば“聖樹”って、苗木自体はよく生えるらしいんですけど、“聖樹”がすぐ枯らしちゃうらしいです。何か関係がありますかね?」
「ふむ――? 推測でしか言えないが……すでに暴走している可能性があるね」
「ぼ、暴走ですか!?」
「え、もう!?」
アギラル教授の言葉に、一同は驚愕した。
“ゲームシナリオ”では、“巫女”を失い人間との意思疎通が取れなくなり、ついに暴走した“聖樹”を倒すことになっている。そのトリガーとなる“巫女”喪失は十年前の事件で満たしているが、『苗木が根付かない』という事象はそれ以前から発生していたはずだ。辻褄が合わない。
「子孫繁栄は生物の基本原則だ。“聖樹”もその本能を有しているようだが、枯らしてしまっては元も子もない。宝玉という余剰エネルギーだの、貴族たちに授ける魔力だの、自身の生存に余裕があるなら尚更だ。子株のために分けてやる理由こそあれ、その養分を奪い枯らしてしまう意味はないはずだ。
無論、これだけ大きければ株分けも困難だろう。栄養の奪い合いも発生する。だがこの大きさなら、株内部の栄養も膨大のはずだ。勝手に成長して勝手に限界を迎えてしまうならまだしも、苗木のうちから意図的に一方的に枯死させる――これも、植物では考えられない行動だ」
アギラル教授の解説に、一同は顔を見合わせ、そして窓の外の“聖樹”を眺め見た。その生態を詳しく知らないアンジェリカやオリヴィアはともかく、リオンやノエルはいよいよ不安げな表情を隠せなかった。これだけ巨大な“聖樹”がすでに暴走し始めているということは、遠くないうちにこのアルゼルが破綻することを意味している。
『不思議な生態ですね』
「まったくだ。これだけ生育に余裕――というかもはや生長する必要さえなく、かつ“巫女”と“守護者”を選び出す知性があるのなら尚更だね。
――何か、作為的に生み出された植物のように思える。その個体の一つが、異常成長してしまったように思えるね」
ハーヴェイの相槌に、アギラル教授もうーんと唸った。これもまた、遺失文明に関わる遺産の可能性があるのか。あるいは、もっと別の何かが――?
行き詰まった空気を替えるべく、アンジェリカは話題を変えることにした。もとより、彼女にとってはこちらの方が本題だ。
「問題は、こうして生き残ってしまった苗木の取り扱いです。リオンが“守護者”に選ばれてしまった以上、アルゼルに返還することはできません。リオンに所有権が認められているうちに、このまま持ち帰ってしまった方がよいと思います」
「確かにその通りだ。“守護者”から引き離されてしまえば、遠くないうちに枯れてしまうだろうね。それでは、どちらにとっても意味がない」
アンジェリカの指摘に、アギラル教授も同意した。“聖樹の苗”は現在、ルクシオンが用意した特殊ケースで“聖樹”本体からの干渉を防いでいる。このままでは苗木はこれ以上生長できないし、かと言ってケースから外してしまうと“聖樹”によって枯死させられる。まさにその死から逃れるために認定されたのが“守護者”であり、つまりリオンが帰るべきホルファート王国でしか生きていくことができない。
「でも、ノエルさんと結婚するなんて……どうしてですか?」
『苗木だけでは片手落ちだ。“巫女”として認定された彼女を、“守護者”であるMr.の傍に置くためだろう』
「婚姻は最も分かりやすい結びつきだ。リオンとともに在る必要上、他家や別の男に渡すことは出来ない」
オリヴィアの疑問に、ハーヴェイとアンジェリカが回答した。“巫女”と“守護者”が対として存在しなければならない以上、その最も分かりやすい形として、婚姻関係を結ぶのが得策だ。
――アンジェリカ本人に、自覚があるのかどうかは知らないが。かつてのレスピナス家と同様、“聖樹の苗”の管理権限を独占したいという考えもあるのだろう。
「で、でも、それっておかしいわよ。あんたたち、婚約しているのよね?」
「将来的なエネルギー問題が解決できるのなら安いものだ」
当のノエルも困惑の表情で問いかけるが、アンジェリカの意識はすでに未来に向いていた。“聖樹”を擁するこのアルゼル共和国の発展ぶり――それを享受できる選択肢があるのなら、採らない手はない。
「時間はかかると思うよ。当面は自己生長で精一杯だ、余剰エネルギーを生産する余裕はない」
【現状の聖樹と同じレベルで恩恵を受けられるようになるには、最短でも300年はかかると判断します】
「だが、将来のホルファート王国――いや、私たちの子孫の宝になる。未来への財産だ。是が非でも欲しい」
アギラル教授とルクシオンの忠告にも、アンジェリカは断固として譲らなかった。百年二百年かかろうと、その先の子孫のために行動するのが貴族の義務だ。
――そのために、女としての幸せを捨てることになろうと。
「そんなの――間違っています」
「――私もそう思うよ」
なお食い下がるオリヴィアの言葉を、アンジェリカは否定しなかった。
一同は、重苦しい沈黙に包まれた。彼らは皆、貴族とその関係者だ。個人ではなく国家のために行動しなければならないのが現実で、その論理を説くアンジェリカに誰も反論することができなかった。
『……きみ自身はどうだ? Ms.ノエル』
「え?」
そこに一石を投じたのは、ハーヴェイの機械音声だった。
『きみの将来に関わる大事だ、きみ自身の意向も重視したい。
このまま流されてしまえば、きみは二度とこの祖国に帰れなくなる。妹君や、ご友人とも疎遠にならざるを得ない。それが厭だというのなら、きみの意志を尊重するべきだと思う』
「お、おい、スピアリング」
王国の利害など知ったことではない、厭ならこの苗木を見捨ててもいい――そう言っているも同然のハーヴェイの言葉に、アンジェリカは思わず狼狽えた。うんうんと頷いているのはアギラル教授だけだった。
『Ms.レッドグレイブには悪いが、所詮は僕たちホルファート王国の都合を押し付けているだけだ。きみが従う理由などどこにもないし、遠慮の必要はない。
勝手に生えてきた苗木を、Mr.が勝手に採取したものだ。枯らしてしまったところで、きみが気に病む必要はない』
「か、勝手にって」
「そういうお話だったと思いますけど~」
ハーヴェイの遠慮のない言葉に、ノエルはしばし沈黙した。確かに、妹のことは心配で――でも、他の友人はエリクとのごたごたで疎遠になってしまって――この国に愛着があるわけでもないし――それに、このまま苗木を枯らしてしまったら可哀そうで――
そんなノエルの思考に、アギラル教授が割り込んだ。
「――言っておくがお嬢さん、君がこの苗木を哀れんでいるのだとしたら、それは考慮から外した方がいい。それこそ、苗木による精神干渉なのだから。
「教授まで……」
「苗木を枯らしたくない」という同情をも利用するつもりだったアンジェリカは、痛いところを突かれてしまった。これでは、本当にノエルの意思ひとつですべてが決まってしまう。
やがて意を決したのか、ノエルはおずおずと口を開いた。
「あ……あたしは、その……リオンに助けてもらった、恩があって……それを、返したいと思っていて……
それに……それが、リオンの奥さんになることなら――正直、やぶさかでもないかなーって……」
「……リオンさん」
「ふ、不可抗力だよ!」
頬を染めるノエルの様子に、オリヴィアの視線が昏いものを帯びる。リオンはひぃっと悲鳴を上げた。
「……でも、すでに二人も婚約者がいるリオンに、割り込むのも気が引けるっていうのはあって……」
「そ、そうだよ、俺には三人と結婚なんて無理だよ」
「分かっている。ノエルとリビアを気にかけてやれ。私は――二人のついででいい。無理なら婚約破棄をしてもいいぞ」
「え?」
ノエルの遠慮とリオンの泣き言を、アンジェリカは肯定した。
一同の視線を集めたアンジェリカは、力なく笑っていた。まさに女の幸せを擲つかのような、無気力な笑みだった。
「私が提案したんだ、責任は私にある。それに、女三人の相手をするのは大変だ。お前の場合は事情もあるからな。だから、負担なら私を捨てて――」
「アンジェ、それは……そんなの――!」
「断る! No! いいえ! 嫌です!」
それを、オリヴィアとリオンが遮った。
「リオン、お前――」
「絶対にノゥ! 婚約破棄なんてしません!」
「私だって嫌です! アンジェと離れ離れになりたくありません!」
二人の断固たる言葉に、アンジェリカは思わず瞠目した。
アンジェリカは、すでに一度ユリウスに捨てられている。その後の憮然とした姿を見ている二人にとって、婚約破棄という選択肢は有り得ない。そんな悲しい思いを、二度とさせたくない。
「お前たちは、本当に――いや、私も馬鹿だな」
力ずくで我儘を押し通す二人に、アンジェリカはふふと笑顔を取り戻した。
――そのやり取りをこそ見て、ノエルが尻込みしていることも知らずに。
「甘酸っぱいねぇ。青春だ」
『少し前の王国では考えられない光景ですね』
「外野から色々言われると恥ずかしいんだけど!?」
一方、外野三人はひゅーひゅーと囃し立てるだけだった。政治的な思惑のない色恋沙汰は、見ていて飽きない。特に王立学園の、恋愛もへったくれもない醜態を知っている三人としては。
『――ひとまず、Ms.ノエルの同意のもと、王国に連れていくという結論でいいかい? 具体的な婚姻関係については、一旦棚上げしてもいいと思う』
「は、はい」
「リオン、お前は私たちと一緒に帰るぞ。“聖樹の苗木”とノエルは、絶対に連れて帰る。共和国は対外戦に弱いからな、逃げてしまえば我々の勝ちだ」
ハーヴェイの総括のもと、方針は定まった。ちょうど夏季休暇中だ、リオンも引き揚げるにはちょうどいい。
ただ、リオンはそれを曖昧に誤魔化した。何しろ別の問題が――“ゲーム”の問題が待っている。
◇ ◇ ◇
“聖樹の苗木”の話がまとまった後。リオンとハーヴェイ、そしてケイトは、ユリウスたちの屋敷を――正確には、マリエの許を訪れた。
ちなみについ今朝がた、マリエが怒り心頭に至ってユリウスらを叩き出したらしいが、詳細は後回しにしよう。どうせ下らない些末事である。
『それで――レリア・ベルトレとは、具体的に何者だ?』
「ほぼこいつと思っていいです」
「私を何だと思っているのよ!」
本題は、“ゲーム”の状況を訊くことにある。ジト目でマリエを指差すリオンの様子から見るに、同じように“シナリオ”に介入しようとした輩がいたらしい。マリエは同属扱いされたくないと憤慨しているが、ジト目のケイトがそれを許さなかった。
「……つまり、Ms.ラーファンと同じように、余計な真似して“シナリオ”をこんがらがらせちゃったってことです?」
「失礼ね、このメイド!」
「大体同じようなもんだろうが!」
『“本来の主人公”は? 姉ノエルとはどういう関係なんだ?』
「俺たちはてっきりレリアの方が“主人公”だったんですけど、本当はノエルの方だったみたいです。
レリアとしては“攻略キャラ”の一人エリクとくっつける想定で、自分はもう一人のエミールとくっついてたみたいです」
『……その結果が、DV関係の成立? なるほど、だいたい貴様と同じだな』
「あんたまで!!」
動機がどうあれ、事態を悪化させていることには違いない。ハーヴェイにも同属にしか思えなかった。むしろ“ゲーム”に沿わせようとした分、レリアの方が真摯でさえある。
とにかく、DVをやるような男が相手では着地のしようがない。本来彼が授かるはずだった“守護者の紋章”さえ、リオンが掠め取ってしまった現状、路線変更は避けられない。
『それで、そのDV彼氏ことエリクの状況は?』
「……なんか知らないけど、うちに転がり込んできたわ」
『は?』
「なんで?」
「私だって知らないわよ!」
思わず唖然とする二人に向かって、マリエはふんすと憤慨した。
どうやら、ノエルから無理矢理引き剥がした過程でごたごたが生じ、その引責として彼自身は“聖樹の加護”を剥奪され、行き場を失ったのだという。そこでエリク自身や実家の関係者を喝破したマリエの姿に、彼が惚れてしまったのだとか。
「なんか、私のことを“姉御”とか呼び始めて。あいつ自身、もう実家に居場所がないから追い出せないし……なし崩しで、住み込みで働かせることになっちゃったわ」
「……どう思います、坊ちゃん」
『……なんというか……そういう宿命なんだろうな……』
呆れたように横目で問いかけたケイトに、ハーヴェイも閉口するしかなかった。変な男にばかり引っかかるというか、そういう男とばかり関係が生まれてしまうというか。マリエ自身、どこか開き直っている様子が見える辺り、もはや二人には言葉の掛けようがなかった。
『……とにかく、暴走しないよう目を光らせておけ。Ms.ノエルへの執着が残っているかもしれない』
「言われなくても分かってるわよ」
ハーヴェイの念押しに、マリエは当然のように頷いた。実は前世でDV彼氏との付き合いが――というかその暴力が死因らしいという事実は、彼女の名誉のために伏せておくべきだろう。
「残りの“攻略キャラ”さんたちは、どこでどんな状況なんです?」
「六大貴族フェーヴェル家のピエール、同じくグランジュ家のナルシス先生と、ドレイユ家のユーグと、その兄で隠しキャラのフェルナンです」
『……フェーヴェル家のピエール……? 確か、きみと揉めた貴族の子弟という話じゃなかったか?』
「はい。とんだ屑だったのでぶっ飛ばしてきました」
「開き直りましたね!?」
いかにも当然、とばかりに言い放ったリオンを、そろそろ誰か止めるべきだろう。干渉具合で言えば、マリエ以上に過度である。
まあ、肯定的に捉えるならば、軽率に国際問題を引き起こすような傲慢な人間など、端から協力を期待できない。必然と言えば、必然かもしれない。
「“ゲーム”だと、“主人公”に喧嘩吹っ掛けてくる噛ませ犬だったのよ。だから、切り捨てても問題ないってのはあるんだけど……」
『なにか問題でも?』
「レリアが決め打ちでエリクとくっつけちゃったんで、残りの“攻略キャラ”との関係がほぼ無いんです。ナルシス先生とは、俺個人との縁ができましたけど」
「ま、マズくないですか、それ……?」
【以降に関しては、レリアと協議しながら進める必要があるかと】
つまり、“本来の流れ”で必要だった、ノエルを軸にした協力関係を仰ぐことができない。いわんや対立関係を作ったリオンなど論外である。“聖樹”攻略という一大事件に当たって、六大貴族との協力関係を構築できないのは痛い。
『あとの問題は、そのレリアとどう接触するかだな』
「普通に呼び出せばいいんじゃないですか?」
『それはそうなんだが……“ゲーム”を知らない転生者が存在し、“シナリオ”に積極的に干渉しようとしてくる姿勢を、どう捉えられるかが気になってね』
「ぜんっぜん関係ないあたしとかいますしねぇ……」
いくらリオン経由で事情を知っていると聞かされようと、“ゲーム”関係者にとっては異物に違いない。何か裏の目的があるのではないか――そんな疑いを持たれては、元も子もない。
しかし、リオンはけろりとした表情をしていた。
「それなら問題ないと思いますよ」
『というと?』
「あ、そういえばあいつ、“あのゲームを知らない転生者が知り合いにいる”って言ってたわね」
「それに、“攻略キャラ”の一人だって言ってた」
『僕と、同じ身の上の者が――?』
リオンとマリエの説明に、ハーヴェイは目の色を変えた。
『“ゲーム”と関係ない転生者』は、これまで
『できれば、すぐにアポを取ってくれないか。なるべく早く会いたい』
「坊ちゃん?」
『そのレリアとどうやって知り合ったのかも確認したいし、何より彼の素性が気になる』
その人物は、“独立傭兵レイヴン”を知る何者かかもしれない。