リオンの婚約者オリヴィアと友人ハーヴェイの拉致。
立て続けに行われたホルファート王国への――いや、リオン個人への挑発の答えは、『アインホルンによる単騎駆け』という蛮行だった。
何も知らない余人から見れば、全面降伏と謝罪への前振りか、
なお、旗艦リコルヌをはじめとする第二使節団は、最初に停泊した旧レスピナス領から動いていない。「仲間割れか? あいつは人望がねーな」とせせら笑うラウルト家新当主セルジュの言葉に、六大貴族の誰もが同調した。
とはいえ、向こうから攻め込んでくれるなら好都合だ。防衛戦不敗の歴史によって築き上げてきた戦略、足すことロストアイテムによる改修軍備。アルゼル不敗神話の復活、そのお披露目としては、実に都合がいい
◇ ◇ ◇
――時間を、少し遡る。
半ば押し切られるように四莫迦(とエリク)を乗せ、ラウルト領に向かう支度を整えるアインホルン。その甲板に、六機のACが飛び込むように着陸した。
「――バルトファルト伯爵。我々も同行します」
“
「Ms.オリヴィアもそうですが、隊長を放っておくわけにはいきません」
「分かりました。よろしくお願いします」
その言葉に、リオンは逆らわなかった。「一旦こちらで休憩してください」と船室を指差す少年に、歴戦の兵士たちも思わず面食らった。
「……意外ですね」
「我々の力など借りないものかと」
「皆さんの実力は、よく知ってますから」
「おい、俺たちはどうなんだよ」
リオンの短い言葉に、同行していた四莫迦の一人、グレッグが噛み付いた。自分たちの時は「邪魔だから帰れ」と言ったくせに……とむくれる資格が彼らにあるのか、どうか。
ともかく、ACは一旦船倉に移動させてもらおう。リオンの案内に従い、船倉に入った一同は、
「――それにしても、随分と野蛮な真似をしてくれるね」
むっつりとしかめ面で屹立するアギラル教授とケイトに遭遇した。いつの間に忍び込んだのか、と一同は驚きを隠せなかった。
「ケイトさん、それにアギラル教授。危ないのでリコルヌに戻ってください」
「残念だが、ルクシオン君の協力は得ているよ。ACの調整なら、私がいなくては話になるまい」
有無を言わさぬリオンの言葉に、しかし二人は欠片も動じなかった。
子供相手に侮っているのではない。そのような儒的思想など、教授の知るところではない。
「――私は怒っているんだよ、バルトファルト君」
氏なりにブチギレているのだ。
「私たちのいとし子を拉致した挙句、人体実験の玩具にしようなんてね。君がオリヴィア君のために激しているように、私もこの国ごと滅ぼしてやりたいんだよ」
「坊ちゃんを助けるためなら、どこにだって行きます。誰だって殺します。あたしにも、手伝わせてください」
決して燃え上がらず、しかし沸々と煮え滾るような激情を見せる二人。その怒りに共鳴したリオンは、彼らを否定する言葉が見つからなかった。それに追従するように、ルクシオンがふわりと寄ってきた。
【マスター、五機のACを用意しております。彼らなら乗りこなせると思いますよ】
「いつ用意した?」
【イデアルと出会ってから、色々と準備を進めていました。他には、お友達の皆さんのために、飛行船のパーツも用意しております】
「いやールクシオン君の生産能力は流石だね。まさか旅先でこれだけ用意できるとは思わなかった」
ルクシオンの説明に、アギラル教授は少しだけ笑顔を見せた。パーツ整備はおろか、
「――お前、あいつが敵対すると分かっていたのか?」
【警戒していただけです。本当にここまでやるとは予想していませんでした。イデアルが、一体何を考えているのか分かりませんでしたからね】
まるでこの事態を見越していたかのようなルクシオンの説明に、リオンは目を見開いた。言葉こそ敬意の欠片もない碌でなしのAIだが、これまでリオンに隠れて勝手な行動をしたことは――あった。意外とあった。結構な確率でハーヴェイが絡んでいるあたり、実は彼と馬が合うのかも知れない。何だか毒気を抜かれた気分のリオンは、ルクシオンの誘導のまま船倉に並ぶ機体を見――
「……これは――よ、ろい、か?」
そこに鎮座する五機の異形に、一同は思わず度肝を抜かれた。
――モジュール型魔導インタフェースと
二脚型三機はいいとして――タンクに、四脚。現行の魔導鎧ではまず設計さえ不可能な機体が、現物として鎮座していた。
ダルシムら“
「教授。嘘でしょう教授。いきなりACに乗せるつもりですか」
「なに、彼らも優秀な戦士なのだろう? 少々動かしていれば、すぐに慣れるさ。そのように設計したのだしね」
「しかし、四脚にタンクなど。“慣らし”に一番面倒な脚部ではありませんか」
「実用性で言ったら、ハーヴェイの逆関節の方が難易度高いよ?」
そうは言っても、圧倒的な数的不利を抱える戦場である。そんなけろりとした顔で言ってのけるような脚部でないことは、開発者として一番よく知っているだろうに!
そんな“
【クリス・フィア・アークライトには、速度に特化した軽量二脚を。ブースト効率を最大化し、携行性に優れたレーザーブレードを装備させています。一撃離脱を徹底し、戦場をかき乱してください】
「“剣豪”様には悪いが、乱戦になるため重い物理ブレードは採用しなかった。撃破に拘らず、あくまで挑発のつもりで動き回りたまえ」
【グレッグ・フォウ・セバーグには、防御力と積載量に優れた重量二脚を。緊急時のクイックブーストが重い代わりに、基本巡航速度を高めています。重火器と装甲で敵の注意を惹きつけ、戦場を誘導してください】
「多少の被弾は物ともしないが、それ故に被弾衝撃が蓄積しやすい。適度に動き回り、狙い撃ちにされないようにね」
【ブラッド・フォウ・フィールドには防御力と重武装に優れたタンクを。集められた敵をグレネードランチャーと魔導レーザーキャノン、魔導プラズマキャノンで蹂躙してください。機動力が低いため、囲まれると危険です。超信地旋回でカバーしてください】
「一網打尽に優れた兵装だが、その分リロードが重いよ。特に魔導キャノンのオーバーヒートを起こさないように」
【ジルク・フィア・マーモリアには定点射撃に優れた四脚を。遠距離からスナイパーキャノンとロングレンジミサイルで仕留め、接近されたらガトリングガンで迎撃してください。射撃安定性能を重視しているので機動力が低下しています。移動には注意を】
「滞空が中心の四脚の定石を変えてみた。特にクリス君とブラッド君のフォローに注視してくれたまえ」
滔々と語られる機体説明と戦術指南に、四人は目を見開いた。
「これは――私たちの機体を用意していたのですか?」
【役に立ってもらわねば困りますよ】
「君は本当に僕たちに冷たいよね。だけど、ここまでしてもらったんだ。足手まといにはなるわけにはいかないね」
勿論リオンのアロガンツと、専用エアバイクことシュヴェールトも整備済みである。アロガンツに至っては、追加装甲の調整も済ませている。
とにかく時間がない。一刻も早く機体の『慣らし』を済ませるべく、四人はそれぞれの機体に乗り込んだ。こうなってはどうしようもない……と“
「白い機体? 俺のカラーじゃないな」
【あぁ、そちらは――】
最後のACの前に立ち、怪訝そうな表情を浮かべるエリクに、ルクシオンが説明しようとすると――
「ふははは、久しぶりだな――バルトファルト伯爵!」
朗々とした声が響き、全員の注目を集めた。そこに立っているのは、白いスーツとマントに仮面を装着した、怪しい人物。
「お前は! ……な、なんとかの騎士?」
「仮面の騎士だ。
先の公国戦でも遭遇した、謎の人物。辛うじて思い出したクリスの言葉に、怪人物こと仮面の騎士が地団駄を踏みながら訂正した。
「……何をしているのだね、あれ。ユリウス殿下だよね?」
「さぁ……頭おかしいだけなんじゃないですか」
アギラル教授の問いを、リオンは雑に流した。“
「何でお前がここにいるんだよ」
「義によって立つ君たちを助けに来た、では駄目かな? バルトファルト伯爵、私にも一機用意してもらおう。私の力を存分に使うといい」
【時間がないのでご用意できません。それに、貴方に用意した機体は既にエリクが搭乗していますよ】
「な、何だと!? おい、そこの貴様! 白は俺のイメージカラーだ。図々しい奴め、降りろ!」
「はぁ? 誰のものか名前なんか書いてないだろうが。というか、バルトファルト伯爵の機体だろ。お前の方が図々しいぞ。その仮面もおかしいけど、頭もおかしいのか?」
「貴様ぁぁぁ!」
何やらトンチキな言い争いが繰り広げられている。莫迦莫迦しくなったリオンは、これ以上空気を乱される前に、仮面の騎士ことユリウスを追い出すことにした。
「なら、お前はお留守番で」
「え!?」
「仮面の騎士様はお留守番だ。リコルヌで大人しくしていろ。――あそこは安全だ」
「な、何故だぁ!?」
せっかくの活躍の機会、と意気込んでいたユリウスは、ロボットたちに連行されながら船倉から追い出されていった。
【……エリク・レタ・バリエルには従来の中量二脚を。物理シールドとパルスブレードを装備し、身を守りながら突撃してください。離脱時には肩のチェインガンを活用してください】
「特筆すべきことはない。攻め時と引き時、その見極めに注意して戦いたまえ」
◇ ◇ ◇
数時間後。リオンの駆るアインホルン対共和国総軍による衝突が始まった。
アインホルンによる単騎駆け――圧倒的な数的不利を否めないのが致命的だが、突破力だけを考慮すれば有効な策だ。攻撃対象の表面積の小ささゆえに、味方同士の砲撃が衝突し、面制圧の利を活かせない。結果、強固なシールドで守られたアインホルンは、ほぼ無傷でラウルト領へ侵入を果たした。
そこから先は、大混戦だ。魔導鎧部隊を出撃させて討ち取ろうとしたところ、たった十数機の
結果、魔導鎧部隊は次々に撃沈。直掩を失った飛行船も砲撃によって次々に堕ちていき、戦場の空は混沌の様相を呈していた。
そして、その戦場を睥睨するように――アインホルンの甲板に、リオンのアロガンツが屹立していた。
◇ ◇ ◇
矢継ぎ早に飛んでくる信じがたい報告に、共和国議会は大荒れだった。
「敵の角付きが止まりません。艦隊は三割を損失しました」
「――何故止まらん!」
「勝てるのではなかったのか!」
生意気な小僧を屈服させ、名誉も実利も思うがままにふんだくることができる楽な戦――そんな楽観視が儚く砕かれた議会は、唾を飛ばしながら口汚く叫ぶことしかできなかった。
一方、それを横目で流しながら、セルジュは苛立たしげにしていた。
「どうして俺は出られないんだ?」
【マスターは司令官代理ですからね。動いてはなりません】
「司令官なんて、なってみると面倒なだけだな。お前が出ればすぐに終わるだろうに」
椅子に腰を預け、テーブルの上で足を組むセルジュは、いかにも退屈そうだ。その物言いに、イデアルが忠告した。
【まさか。ルクシオンはまだ本気を見せていませんよ】
「はぁ? なら、なんで止められないんだよ」
【足止めには充分ですからね。ルクシオンのマスターの性格もありますが、ギリギリまで本気にはならないでしょう。
それに、本体を出してくれれば儲けものといったところです。もっと詳しいデータが取れますよ】
まるで想定済みの前哨戦、と言わんばかりのイデアルの言葉に、セルジュが思わず身を乗り出す。
「お前、まさかこいつらを囮にしたのか? ルクシオンの本体を見る、それだけのために?」
【いえ、そんなことはありません。ただ、マスターが出向いて勝利したとしても、それでは彼らに現実を教えることが出来ませんからね】
「――その考えは嫌いだ。俺が出る。お前も出ろ」
【了解しました――マスター】
椅子を蹴るように立ち上がったセルジュに、イデアルは逆らうことなく追随した。
実のところ、イデアルの作戦の何が嫌いで、自分が何をしたくて、どう動くのが的確で、その結果兵士たちにどんな効果をもたらすのか――たかが冒険者でしかないセルジュに、それらの思慮は及んでいない。
◇ ◇ ◇
巨大なロストアイテムの機構と同時に、青い魔導鎧が飛び出してくる――セルジュの駆る鎧、“
『セルジュ様だ!』
『これで俺たちの勝ちだ!』
『共和国万歳!』
その姿に、兵士たちは歓喜した。にっくき“外道騎士”バルトファルト、それを打ち倒した共和国の希望――これで恐れるものは何もない。共和国の勝利と栄光は、ここに取り戻される。
『隊列、組めェ!』
『――はいッ!』
『気を抜くな、役立たず共!』
そんな兵士たちに冷や水を浴びせるように、鋭い声が飛んだ。容赦ない罵声に、兵士たちは反射的に隊列を組み直した。
『そ、総長!』
『敵は強大だ! セルジュ様がいたとて、我々の果たすべき任務は変わらん! 気を抜かず戦いに集中しろ、役立たず共!』
『は、はいッ!』
通信機越しに大喝を震わせるのは、レッドガン総長
そんなレッドガンの前に、敵の鎧部隊が迫ってきた。
『六機の魔導鎧接近を確認。“
『突撃しろ、役立たず共!』
総長レッドの号令とともに、鎧部隊が一斉に突撃した。総勢五十を超える大軍勢を前に、しかし護国の
『Z9-2よりZ9総員。敵機多数、分断されないよう注意しろ』
『Z9-4了解』
『同じく了解』
雑魚の有象無象は、四人組で何とかできそうだ。敵指揮官セルジュとやらも、アロガンツに任せればいい。つまり自分たちの相手は、狂騒ながらも整然と突撃してくるこの兵団だ。
そうして両者は衝突した。銃火と爆炎、徹甲弾と魔導レーザー、火花と閃光が、戦場の空に交錯する。
『ぐはっ!』
『がはぁっ!』
爆炎を起こし、次々に墜落していく魔導鎧は――レッドガンの方だった。高出力とはいえ配備されたばかりの新型を駆る部隊と、細部まで調整が施され充分に馴染んだ機体を駆る古強者。戦争における武力の優劣は、単純な数の問題ではない。
『くそっ、噂以上のやり手か……!』
『焦るな! 訓練通り、囲んで制圧しろ!』
それでも、レッドガンは一向に折れない。適宜連携を再編成し、絶えず“
『こちらZ9-6。敵部隊、士気低下の様子は見られない。適宜後退を上申する』
『Z9-2了解。フェーズ2完了まで、深追いはするな』
『了解』
焦ってはいけない。気を緩めてはいけない。今はまだ、辛抱の時だ。