五月のお茶会。「開催すべし」という強制力こそなくなったが、人は前例を好むイキモノだ。学園の各教室が賑わう中、ハーヴェイらは相変わらず身内だけの、ささやかなお茶会を開いていた。
『アーロン、食べ方が汚い。そんな風にがっつくな』
「へぇーい」
『お茶も音を立てて啜るな。下品だぞ』
「へぇーい」
アーロンの一挙手一投足を咎めるようなハーヴェイの叱責に、さしもの彼も鬱陶しげな顔を隠せなかった。
「いいじゃないっすか~、どうせ兄貴たちしかいないんだし」
『普段から気を付けていないと、咄嗟の場で素が出てしまうものだ。訓練だと思え』
がぁぁーと面倒臭そうな悲鳴を上げるアーロンに対し、ハーヴェイは厳しく言い放った。
茶葉より銃弾、作法より剣戟のスピアリング家とはいえ、貴族同士の付き合いから縁を切ることができるものではない。その傘下に加わる者として、最低限の気品と教養を叩き込む――それが、今のハーヴェイに課せられた課題だ。そうでなければ、わざわざ学園に通わせる意味がない。
一方、アデルは扇で顔を隠したまま、そんな二人の様子を静かに見守っていた。
「アデル様、今日は不機嫌ですね」
「当たり前よ。婚約者に色目を使われて、愉快ではいられないわ」
ケイトの言葉に、アデルは不快げな様子を隠し立てもせず愚痴を垂れた。普段は気品を崩さない彼女がここまで感情的になっているとは、よほど腹に据えかねているらしい。
『そうへそを曲げるものじゃない。らしくないよ、アデル』
「お茶会をやってくれって話っすよね? そんなに目くじら立てるモンすか?」
「まぁ、この学園でお茶会のお誘いなんてねぇ……」
発端は数日前、ハーヴェイに向かって複数の女子生徒が、「お茶会を開いてください」と懇願してきたのだ。この学園においてお茶会と言えば婚活の準備段階であり、ざっくばらんに言えば「婚活の場を設けて下さい」と言っているようなものだ。それを目の前で見せられた
「少し前まで“戦争屋侯爵”“殺戮人形”と忌み嫌っていたくせに、爵位を授かった途端へりくだってくる連中なんて、胸糞悪いったらありゃしない。
それに、自分で設えて招待するならともかく、“催してくれ”なんて、厚かましいにもほどがあるわ」
本当にもう……とアデルは忌々しげにため息を吐いた。これが縁故のある家系の子女なり、個人的な付き合いのある人物ならばまた違ったかも知れないが、どうにも相手が悪かった。こういう色眼鏡の使い方は、彼女が最も嫌うところである。
「そもそもお茶会なんて、ヒマな女かヤワな男がやるモンでしょ。何で男が開催するしきたりなんすか?」
「え、そういうものじゃないです?」
「まぁ、冒険者上がりの貴方が疑問に思うのはそうかもね……」
アーロンの何気ない問いに、ケイトとアデルは今更のような疑問を覚えた。戦闘も労働も男の役目、なのにお茶会まで男が催し、女のためにもてなすというのは、いささか奇妙に映る。
――これにも、例の女性優遇が絡んでいるのだろうか。ハーヴェイはそう直感した。
『……あまり笑えない真相が絡んでいるが、聞きたいかい』
「え?」
「……そういえば、外国では珍しいって言うわよね。“ホルファート王国の闇”でも聞かせてもらえるのかしら?」
思わず口を突いて出たハーヴェイの言葉に、アデルはふふとあくどい笑みを浮かべた。陰謀論も酒の肴、貴族たちにとっては絶好の餌である。横でちょっと引いているケイトやアーロンを尻目に、アデルは少しだけ身を乗り出した。
……ただ残念ながら、真相は彼女の想像以上に苦く重々しく、そして危険な代物だった。ホルファート王国の失態の始まり、その歴史的経緯に、さしもの彼女も陽気ではいられなかった。
「――なるほど……権力と財貨の集中、価値観の刷り込み、その結果生じた婦女たちの暴走――……確かに、笑い話にはできないわね」
『なお困るのは、その反動が現在の王国の危機となっている点だ。積もり積もった貴族男性の不満が臨界に達し、この王国を呑み込む大火になり始めている』
「それが、領主貴族たちの不穏な動きの正体ってわけ……」
「困りましたねぇ……」
ハーヴェイによる補足に、アデルとケイトはいよいよ暗い表情に変わった。誰も正解を知らないのが政治とはいえ、ここまで深刻な情勢をもたらしてしまったとなると、どうにも恨みがましい気持ちを抱いてしまう。
一方、アーロンは椅子に身体を預け、興味なさげに頭の後ろで腕を組んだ。ぎぎぃと軋む椅子の無遠慮な音に、ハーヴェイが顔をしかめる。
「王宮もバカだったんすね。自分たちで起こした政策で、自分たちの首を絞めてるってことじゃないですか」
「政治なんてそんなものよ。今正しいと思って進めた施策が、後になって大問題に変貌する。世界史を少し漁れば、前例はいくらでも出てくるわ」
どんな愚策も、無条件に問題があるとは言い切れない。国内政治だけではなく、産業、経済、外国の情勢まで関わってくる。「少し考えれば分かるだろそんなの」などとは、因果が明らかになった後世の人間だけが言える放言だ。あるいは明らかな愚策と分かっていても、世論の圧力を受けて施行せざるを得なかったものとてある。
『それに、その件――まだ動きがある』
「どうしたんです?」
『諸外国の尖兵と思しき勢力が、続々と本土に入り込んでいるようだ。招き入れた連中は明らかになっていないが――“淑女の森”が関係している可能性がある』
「げ。あの品のない年増共?」
ハーヴェイの言葉に、殊更に反応したのはアデルだった。見た目こそ派手な彼女だが、その趣向は落ち着いた気品のあるものを好む。“淑女の森”のように乱暴で倒錯的、そして下品な連中は、彼女が最も毛嫌いするところだった。
「解散させられたって話じゃなかったです?」
『どうも残党が利用されているようだ。ホルファートの国土を狙う外国勢力に目を付けられたか、はたまた混乱に乗じて主権奪取を目論んでいる国内貴族がいるのか……』
「いずれにせよ外患誘致じゃないの。上手く対処しないと、今後の王国を揺るがすことになるわよ」
うーんと(アーロンを除く)三人は考え込んだ。いた時は王国の汚点として散々に迷惑を撒き散らしてきたというのに、いざ排斥しようとすると二手間も三手間もいるなど、迷惑千万である。
三人が悩んでいるその時、ふとアーロンが窓の外に何かを見つけた。
「――……ん?」
「どうしたんです、アーロン」
「いや、あれ……煙じゃないすか?」
見れば、学園校舎に紛れて一筋の白い煙が立ち上っている。匂いなどはしないが、距離からしてさほど遠くなさそうだ。
「火事かしら。様子を見に行ってみる?」
『行ってみようか。誰かの不始末程度ならいいんだが……』
◇ ◇ ◇
そうして歩いていった先、四人は信じられないものを目にした。
「……何、これ……?」
「バーベキューっすね」
唖然として言葉が紡げないアデルの問いに、アーロンが呑気に答えた。
見ればマリエたちが集合し、がやがやと賑やかに騒いでいる傍ら、ユリウスがコンロで火を焚いている。アーロンの見つけた煙は、ここから立ち上っているようだ。頭には鉢巻き、身には袖をまくった制服の上からエプロン、コンロの熱に汗を垂らしながら、ユリウスは真剣な表情で串刺しの肉を焼いている。アデルはいよいよ目が眩みそうになり、傍らのケイトに凭れかかった。
「……学園の中庭で……白昼堂々、火を焚いて……事もあろうに、焼肉……?」
「あ、アデル様、しっかりして! このくらい普通ですよね? そうなんですよね!?」
「普通なわけないでしょ子猫ちゃん!」
「じゃあ何であの人たち平然としてるんですかぁ!?」
アデルの叫びに、今度はケイトが泣き出しそうな声を上げた。
まるで一端の職人のような目つきで肉を焼くユリウスもさることながら、それに一切疑問を抱かない残りの連中も異常だ。中庭に面する廊下では、幾人もの通りがかりがひそひそと話をしているが、それらにも一切斟酌しない様子だった。
そこでようやく、ユリウスがハーヴェイらに気付いた。
「スピアリングか。お前たちも食べるか?」
「おっ、気が利くじゃ~ん。いただきまーす」
「こら!」
まるで気にした様子もなく差し出された一本の串を、アーロンだけが何の躊躇いもなく受け取った。相手は仮にも第一王子である。
「……何だこれ……」
「あ……兄上、何をしているのですか?」
どこから何をツッコめばいいのやら、と呆然とするハーヴェイらの元に、一組の男女が歩み寄ってきた。同じように唖然とした表情をしているのは、リオンとエリカである。
『エリカ様。それに、Mr.バルトファルト』
「ご、ご機嫌麗しゅう……」
「お二人も、ユリウス殿下の様子を見に来られたんです?」
「マリエがなかなか来ないから、様子を見に来たんですけど……」
目の前の異様な光景から立ち直れないまま、三人は恐る恐る声を掛けた。どうやらマリエがエリカを迎えに来る予定だったらしいが、いつまで経っても来ないのが気がかりで探しに来たらしい。
で、そんなマリエはと言えば。
「マリエ様、今日のお昼は豪華ですね」
「今の内に野菜とお肉を補給しておかないと」
「……お前ら、不憫すぎるだろ……」
従者カーラおよびカイルとともに、せっせと肉や野菜を口に運んでいた。肝心のエリカがやってきたことにも、まるで気付いた様子がない。普段どれだけ貧相な食生活をしているのだろうか?
(なお最低限の生活費は王宮から支払われているのだが、五莫迦が使い潰してしまったことは内緒にしていただきたい。あのミレーヌ王妃さえ頭を抱えている難題である)
「みんな、今日は騒ぐわよぉぉぉ!」
「おー!」
『騒ぐな、騒ぐな。もう少し品性を持ちたまえ』
ジルクとブラッドはジョッキを掲げ、グレッグとクリスはふんどし姿で串焼き肉を持っている。ユリウスを除く全員が景気よく叫び声をあげる姿に、ハーヴェイは思わずツッコんだ。念のため明記しておくが、ホルファート王国に昼間から飲酒する習慣はない。
同じように混ざろうとするアーロンを何とか引き剥がそうとしていると、ざっと中庭に入る人影が現れた。
「――これがお茶会とは、兄上も随分と落ちぶれましたね」
不穏な台詞と共に現れたのは、濃紺の髪の男子生徒――ジェイク・ラファ・ホルファートだった。背後に乳兄弟オスカルを連れている。
「――ジェイク」
「お久しぶりですね、兄上」
ようやくコンロから顔を上げたユリウスを、ジェイクは目つき鋭く睨んでいた。
……じゅうじゅうと肉が焼ける音が、二人の間に流れた。
「――肉を焼く手を止めろよ!」
「馬鹿! 急に止められるわけがないだろう。少し待て。これを焼いたら話を聞いてやる。いいか、タイミングが重要なんだ」
「私を無視するな! この落伍者め!」
渾身のツッコミすら聞き流すユリウスに、ジェイクの怒りが暴走した。がたんと机を揺らし、まだ焼かれていない串刺し肉を乱暴に薙ぎ払う。がたりと鳴った大きな音に、ようやく残る四莫迦たちが気付いた。
一方、ユリウスはそんな暴挙に目を剥いたかと思うと――即座にジェイクから目を離し、地面に落ちた串刺し肉を拾い上げ、丁寧に泥を払った。
「ジェイク、この肉は俺が育ててきた鶏のマーガレットだ」
「それがどうした?」
「大事に育ててきた。それを今日食べるために、俺は殺したんだ」
「……ユリウス、食べにくい話をしないで……」
『なぜ名前を付けたんです殿下……』
ハーヴェイは、気まずくなって串焼き肉を置いたマリエと初めて同調した。食肉用の家畜も愛情を込めて大切に育てることが、品質向上の観点からも有効であることが近年の研究で明らかになっているが、名前まで付けるのは明らかにやり過ぎだろう。絞め殺す時の罪悪感が大きくなるだけである。
だが真剣に語るユリウスの横顔には、そんな善悪観を超越する何かがあった。あまり正体を探りたくない何かだった。その気迫に、ジェイクは思わずたじろいだ。
「そ、それがどうした」
「いや、お前に怒るつもりはない。だが、食べ物は大事にして欲しい。それだけだ」
「ふん、落ちぶれた貴様らしい台詞だ。お前たちが食べるために殺しただけだろうが。何を偉そうに私に説教している?」
ジェイクの反論は、それもまた正論――と、評してもいいものだろうか。ユリウスらのエゴによって生育と屠殺が行われたのは間違いなく、その意味では確かに、ジェイクに何かを強制する資格などない。
「まぁ、いい。おい、バルトファルト。それに――そっちは、例の“殺戮人形”か」
とはいえ、彼とて畜産の善悪について論議しに来たのではない。ジェイクは兄への興味を失うと、中庭の隅で見守っているだけのリオンらに視線を向けた。
「何度か謁見の間で見かけたが、いつも冴えない面をしている」
「お元気そうで何よりです」
尊大なジェイクの言葉に、リオンとハーヴェイは無感情に頭を垂れた。どれだけ横暴であろうと、彼は王太子。明確な瑕疵がない今の彼に、逆らえる者は存在しない。
「お前たち、私の前に膝をつけ。そうしたら、今後は私の部下としてこき使ってやろう」
その言葉に、リオンがぴくりと片眉を上げた。子爵であるハーヴェイはともかく、いまや侯爵となったリオンに膝をつかせるのは、王太子であろうと無礼である。
「ジェイク、侯爵に膝をつけというのは無礼です」
見かねたエリカがそれを止めようとするが、その姿がジェイクの心の火に油を注いだ。
「黙れ! 王宮では何もしなかった臆病者が、私の前に立つんじゃない!」
即座に手を上げ、エリカを突き飛ばそうとするジェイク。反射的に目を瞑ったエリカの肩に、
「――おらァ!」
「へぶぅ!?」
それよりも早く、何者かがジェイクの横顔に拳を叩き込んだ。
まったく予想外の一撃に、備えの無かったジェイクはきりもみ回転しながら吹き飛び、中庭の柱に衝突した。従者オスカルでさえ反応できなかった衝撃的な光景に、周囲が思わず視線を集中させる。その視線の先、意気揚々と握り拳を掲げるその人物は――アーロンだった。
「ちょっと!?!?」
『アーロンんんんん!? 何をしている!?』
最初に立ち直ったアデルとハーヴェイが、アーロンに向かって悲鳴を浴びせた。当のアーロンは、ぐっとサムズアップしながら答えた。
「何か困ってそうだったんでブッ飛ばしました! “淑女の危機には惜しまず手を差し伸べよ”っすよね!?」
『そうだけどそうじゃない! 相手を考えて行動を選ばないか莫迦者!』
「兄貴は相手を見て喧嘩の売り方選ぶんすか!?」
『そもそも喧嘩を売るなと言っているんだッ!!』
咄嗟にオスカルがジェイクへと駆け寄る脇で、ハーヴェイとアーロンは言い合った。両者の決定的な価値観の違いを、誰が糾弾してやれるだろうか。
頬を赤く腫らしたジェイクが、背の高いオスカルに支えられながら立ち上がった。
「――っき、貴様ぁ……! この私が誰だか分かっていての振舞いか……!」
「ハッ! 王太子だか何だか知らねーが、妹に手を上げようなんて肝の小さい奴なんか興味ねぇよ!」
「そこまで状況を理解していてどうしてこんな蛮行ができるの!?」
アデルの悲鳴は何処にも届かない。呆然と立ち尽くす彼女たちは、我欲が理性を凌駕する瞬間を目撃していた。
憎悪の火を滾らせるジェイクを前に、アーロンはびしりと指を突き付けた。ホルファートの文化でも十二分に失礼な行為である。
「大体なぁ、この人はいずれ俺がブッ倒すと決めたんだ! お前にアゴで遣われるような、器の小せぇ人じゃねぇ! 温室育ちのボンボンは引っ込んでろ!」
「な、なにぃ……!?」
『そこで僕を巻き込むのは何か恨みでもあるのかアーロン!?』
「……それなりにあると思うわよ……?」
威勢よく叫ぶアーロンに、ハーヴェイの悲鳴はおそらく届いていない。ちなみに恨みがあると言っても差し支えない程度には、彼の人生設計を狂わせている。
「スピアリング子爵、これ以上は見過ごせません! 然るべき処罰を下させていただきま――」
「おっと、そうはいきませんよ」
『……は?』
敢然と叫ぶオスカルを、理性ある側と呼んでよいものか。それを遮ったのは、突然割り込んできたジルクだった。
「上級生に向かってその態度はないよね」
「先に無礼を働いたのはジェイク殿下だ」
「おうよ。それを無視しておいて、ジェイク殿下だけを庇うのか?」
「貴方たちこそどこから湧いてきたの???」
見れば残る三人も進み出て、アーロンに加勢するように並んでいる。庇い立てしない辺りに、アデルは何か頭の悪い発想を感じ取った。
「ふっ、ジェイク殿下は元からこの気性なのです。治るならとうの昔に治っている! もう、これは治らない殿下の個性なのです!」
「おい、そこ堂々と言うところじゃないぞ」
一方、オスカルは何故か上着とシャツを脱ぎ、その立派な体格を見せつけながら誇らしげに言い放った。実に頭の悪い絵面が出来上がった。
そのオスカルを抑えながら、ジェイクが頬を押さえたまま立ち上がる。
「さ、下がれ、オスカル。この、不届き者共は、私自ら成敗してやる」
「しかし、殿下」
「ハッ、“成敗”ね! 権力を盾にしないと、気に入らねぇ奴ひとり黙らせられねぇってか! 男らしくねぇヤツだな!」
『なあお願いだからそろそろ黙ってくれないかアーロン!!』
ぎらぎらと瞳を輝かせるジェイクに対し、アーロンが威勢のいい台詞を重ねる。必死に抑えつけるハーヴェイの様子などまるで顧みない態度だ。
ところが、当のジェイクがそれに引っかかった。
「……なんだと――? 貴様、今何と言った」
「殿下?」
「男らしくねぇって言ったんだよ! 貴族も王家も関係ねぇ、男なら男らしく、力で捩じ伏せてみせろ!!」
『力ずくで捩じ伏せるのは文明人の振舞いではない!』
「もう届いてないと思いますよ、坊ちゃん……」
ぐっと拳を握って挑発するアーロンを、そろそろ誰か止めて――いる。ハーヴェイが必死に抑えつけているのだが、哀しきかな現役の冒険者に敵うほど、彼は体格に恵まれていなかった。
「――いいだろう! そこまで言うなら応じてやる!」
しかもジェイクが乗った。駆け引きも何もない、野蛮な挑発に乗った。
彼は懐からさっと手袋を取り出すと、アーロンの顔目掛けて投げつけた。
「決闘だ! 次の週末――それが貴様の最期だと思え!!」
「上等! そう来なくちゃな!」
アーロンはそれをはっしと掴むと、勢いのままに投げ返した。『こういう作法だけ覚えているのは何故なんだ!!』というハーヴェイの叫びは聞こえていない。
ともあれ、これで決闘の契約は成立した。ジェイクは憎々しげな顔を焼き付けるように見せると、さっと身を翻し中庭を出ていった。
「ジェイク殿下、よろしいのですか?」
「あれだけ罵倒されて、黙っていられるものか。この私を前に臆しないというのも、なかなか度胸がある。嫌いじゃない」
「殿下、やはり
「お前は何を言っているんだ?」
大騒ぎに駆け付けた生徒たちがざわざわと話し合う中を掻き分けるように、ジェイクとオスカルは消えていった。
あとに残されたのは、
「……私は……どうすれば……?」
『申し訳ありません、エリカ様……』
蚊帳の外にされて呆然と立ち尽くすエリカと、どこか懐かしげな表情で肉を焼き直すユリウスだった。