鋼鉄の牙、乙女の幻想   作:竹河参号

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04.決闘 (1)

 決闘当日。爽やかな青空が広がる闘技場へと、一隻の小型飛行船が進入してきた。

 魔導鎧による決闘を前提とした闘技場は、極めて広い。無骨なコンテナを据え付けられたような飛行船は、闘技場の隅に着地すると、ぱかりとその後ろ口を開いた。そこから出てきたのは、深い皺を刻んだ老練の整備工と、まだ年若い青年。二人はパイロットスーツに着替えたハーヴェイの前に立ち、ぺこりと会釈した。

 

 

「こんちわー、坊ちゃん! 派手に打ち上げましたねぇ」

『やあ、ラスター。今回もよろしく頼む』

「へぇい!」

 

 

 気さくに話しかける老練の整備工ラスターは、“黄道十四宮(ゾディアック)”の兵站部隊“(ケートス)”でも熟練の職人だ。学園の決闘程度なら、彼がいれば問題ないだろう。

 その後ろに立つ、緊張した様子の青年に、ハーヴェイは首を捻った。

 

 

『……きみは? 僕の記憶違いでなければ、顔合わせは初めてかな』

「はっ……初めまして! ジョニーと言います! こ、今回、ハーヴェイ様の機体運搬と整備を担当させていただきました! よろしくお願いします!」

「今度からウチに入ってきた新米ですよ。お手柔らかに頼んます」

『よろしく。ラスターは腕利きだから、彼の仕事ぶりをよく見ておくといい。勉強になるよ』

「は、はいっ」

 

 

 ハーヴェイは新米整備工ジョニーに向けてにこやかに挨拶すると、コンテナに入り込み、内階段から愛機“蠍星(アンタレス)”へと乗り込んだ。暗がりの中でハッチから滑り込んだハーヴェイが、魔導紋センサーへと手を置き、機体を起動する。

 

 

【――オペレーティングシステム、通常モード起動。パイロットデータの認証を開始します】

【魔導紋チェック――クリア。パイロット:ハーヴェイ・フィア・スピアリングの認証完了、戦闘モードセットアップシーケンスを開始します】

【魔導インタフェース起動、パーツ連携チェック開始。生体維持管理システム起動、バイタルチェック開始。姿勢制御システム起動、アクチュエータ起動チェック開始】

【頭部連携――異常なし。右腕部連携――異常なし。左腕部連携――異常なし。脚部連携――異常なし。パーツ連携チェック完了、全パーツ異常なし】

【アクチュエータ起動チェック完了。セットアップシーケンスを完了しました。“アンタレス”メインシステム、戦闘モードを起動します】

 

 

 深紅の機体ががちゃりと動き、各種センサーを起動させると、コクピットにヘッドアップディスプレイを映し出す。

 ――アンタレスは、二重関節を備えた重量逆関節機だ。バネのように跳ねる脚部が高い跳躍能力を発揮し、重量以上の高い機動力を発揮する。特に地上~低空では軽量機と同程度の高機動戦を可能とする。武装はリニアライフル、バーストライフル、双対ミサイル、そしてアギラル教授とともに独自開発した特殊ブレード。ミサイルで撹乱しつつ、ふたつのライフルで敵の気勢を削ぎ、隙を見てリニアライフルのチャージ射撃で強い衝撃を与え、大きく姿勢を崩したところを急接近し、ブーストキックとブレード攻撃で仕留める戦術を基本とする。

 既に完全武装されたアンタレスは、そのままのっしのっしとコンテナから歩み出た。ラスター、ジョニー、そしてケイトが見守る中、闘技場の舞台へと進み出る。

 

 

「坊ちゃ~ん! 頑張ってくださいね~!」

『行ってくるよ、ケイト』

 

 

 ケイトの声援を背に、ハーヴェイを乗せたアンタレスが進んでいく。舞台の隅には、アンジェリカとオリヴィア、そしてリオンが立っていた。

 

 

『ごきげんよう、Ms.レッドグレイブ、それにMs.オリヴィア』

「……ああ、もう」

「ご、こぎけんよう!」

 

 

 貴族人生が懸かっているとも思えない気軽な挨拶に、アンジェリカは頭を抱え、オリヴィアは叫ぶように返した。

 問題は、リオンだ。ハーヴェイのように整備工ごと呼んだわけでもなく、にもかかわらず魔導鎧が近くに控えていない。どういうつもりなのだろうか?

 

 

『……Mr.バルトファルト、魔導鎧は?』

「お、お前、自信満々だったくせに用意していないとか言わないよな!?」

「問題ない。到着した」

 

 

 リオンが天高く指を差し、全員がそれに釣られて空を見上げる。そこには、黒い点があった。

 見る見るうちに、その黒点が巨大化していき――巨大なコンテナが、四人の目の前に降ってきた。ずどん、と鈍い音を立てて着地し、衝撃で土煙を飛ばす。

 

 

「うわぁっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 突然の衝撃にアンジェリカとオリヴィアが悲鳴を上げるが、リオンはお構いなしに屹立するコンテナを見つめていた。彼の目の前でばかりとコンテナが開き、その内容物が露になった。

 そこあったのは、腕を組んだ黒い巨鎧。単純な体高で言えばハーヴェイのアンタレスに匹敵し、そして横幅と全体の重量感はアンタレスを超える。

 アンジェリカもオリヴィアも、そして観客席もまた、突然現れた黒機を見て呆気に取られていた。しかしふと、観客席のどこかから忍び笑いが漏れる。

 

 

「ぷっ、何あれ!?」

「だっさー!」

「あんなので勝負するつもりかよ!」

「笑わせてくれるぜ!」

 

 

 押し殺すような嘲笑は一人、また一人と伝染していき、ついに哄笑となって闘技場を覆いつくした。リオンを囃し立てる声音には、侮蔑を微塵も隠していない。

 アンジェリカもまた、不安げな顔でリオンを見やった。

 

 

「お前……これが例のロストアイテムか? ロストアイテムは再現不可能なだけであって、別に強いという意味ではないんだぞ!」

「でも、なんだか可愛いですよ」

『かわ……え、そうか?』

「お前の美的感覚がおかしいのだ。確かに無骨だけではないが、今の戦闘には不向きだ」

 

 

 アンジェリカとオリヴィアがよく分からない会話をしている横で、ハーヴェイだけはその黒機を冷静に観察していた。後から聞いたところによると、“傲慢(アロガンツ)”という名前らしい。

 

 

(重量二脚のHC機体――いや、もう少し大きめの扱いか? あのコンテナは――ハンガーユニットの拡張版か。専用ユニットで携行可能な兵器を増やし、汎用性を上げているわけか。協働は可能だろうが、特に前提としている様子じゃない。役割としては“エンフォーサー”に近いんじゃないか)

 

 

 一般的な魔導鎧どころか、ACの規格すら超える大型兵器だ。確かに攻撃能力を魔法に依存し、本体は高機動に特化しているのが魔導鎧の流行だが、これだけ重厚であれば多少の攻撃はものともしないだろう。中のパイロットさえ振り回されなければ、対等以上に戦える代物だ。

 

 

『いい機体だな、Mr.バルトファルト。大口を叩くだけの度胸はある。――あとは、きみの腕前次第だな』

「え? あ、うん。アリガトウゴザイマス」

 

 

 一人だけ機体を褒めたハーヴェイの言葉が予想外だったのか、リオンはぎこちない礼を述べつつアロガンツの胸元を解放し、その中へ滑り込んでいった。

 リオンが機体搭乗しているところに、反対側から紫色の機体が降ってきた。背には突撃槍(ランス)のような兵装を四つほど背負っている。無防備に胸部ハッチを開けて顔を覗かせたのは、ブラッド・フォウ・フィールドだった。

 

 

「逃げずに出てきたのは褒めてやろう。だが、そんなウスノロな古い鎧を持ち出して、僕の鎧に勝てると思ったのか? 名工に作らせたこの鎧は製作だけでも白金貨で――」

 

 

 何やら始まった自慢話を、ハーヴェイもリオンも無視した。セットアップシーケンスが完了したのか、ごんと重厚な音を立てながらアロガンツが立ち上がる。

 そういえば、とハーヴェイはひとつの忘れものを思い出した。二対五、どちらがどの順番で出るか決めていない。

 

 

『そうだ、Mr.バルトファルト。順番を決めていなかったな。どちらから出る?』

『――――』

『……Mr.?』

『あ、失礼。どっちでもいいですよ』

 

 

 リオンからの不自然な返答に、ハーヴェイは無言で首を捻った。通信機器の不調という様子もない。何があったのだろうか?

 一方、双方から無視されているブラッドは、苛立ちを隠せない様子を見せながら、胸部を閉じた。

 

 

『……お前たちの態度に腹が立つ』

『きみたちからの好感度など端から興味がない。――その金食い虫の粗大ごみに、いくらつぎ込んだのかもね』

『――貴様、僕を莫迦にしているのか!』

 

 

 鋭く放たれたハーヴェイの挑発に、ついにブラッドが怒りを露にする。審判の制止も聞かず、紫機が両手に構えたスピアを突き出した。魔力で輝く穂先が、アンタレスのコアを狙って突き込まれ――

 すい、と無言で払われたリニアライフルの重心がその柄を捉え、ぐらりと穂先の向きを逸らした。

 

 

『なにっ!?』

 

 

 思わぬ方向転換に、紫機ががくんとバランスを崩す。

 

 

『せっかくだ、僕から出よう。重役出勤のMr.バルトファルトに、露払いなどさせるわけにもいくまい』

『あ、すんません……』

 

 

 ハーヴェイの軽口に従い、リオンはそそくさと舞台を降りていった。といっても、その重量でがしゃんがしゃんと重厚な音を立てながらだが。

 

 

『りょ、両者、まずは決闘の誓いを……』

 

 

 開始前からばちばちと散る火花に、審判であるスターク教諭が戸惑いながら言った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「アンジェリカさん! ハーヴェイさん、結構頑張れそうですね!」

 

 

 観客席にて。喜色を見せるオリヴィアとは対照的に、アンジェリカは冷や汗を流していた。

 

 

(フィールド家が跡取りのために用意した鎧だぞ。ただの数合わせの量産品ではない。本物の騎士の鎧だ。それを……)

 

 

 ブラッドの本気の一突きを、まるで振り払うように軽々と躱してみせた。それだけでも、並みの鎧を超えるパワーだ。あれが、噂の“アーマード・コア”とやらなのか。

 それに、リオンの方も安定して動いている。魔導鎧とは文字通り魔力を糧に駆動する兵器であり、つまり体積重量に比例して魔力消費も大きくなるのだ。今はただ歩いているだけだが、その軽快さは従来の鎧とも変わりない。あの重装甲で、それに伴うはずの魔力消費で、どうやって動いているというのだ?

 そんな二人の横に、一人の影が現れた。

 

 

「どうもどうも~」

「あ、ケイトさん」

「お隣失礼しますね~。――緒戦は坊ちゃんからみたいですね。頑張れ~」

 

 

 ハーヴェイの専属使用人、ケイトである。いつものにへらとした気安い様子のまま、オリヴィアの隣に座る。その横顔には、主人の安否を憂慮する様子はまるで見えなかった。

 また、もう一人の女子生徒がアンジェリカの許に歩み寄ってきた。

 

 

「お隣、よろしいかしら」

「――お前は……」

「あ、アデル様だ。ごきげんよ~」

「ごきげんよう、ケイト。今日もかわいいお耳ね」

 

 

 優雅な様子でアンジェリカの隣に座るのは、アデルだ。家柄や立ち振る舞いに反して気安い人物で、普通クラス所属ながら顔が広く、上級クラスであるアンジェリカとも顔見知りだ。一方、今年から貴族社会に関わり始めたばかりのオリヴィアにとっては、初めて会う人物だった。

 

 

「え、えっと……?」

「あら、そちらは……上級クラスの特待生さん?」

「あ、はい、オリヴィアといいます。ごきげんよう……」

「ごきげんよう。私はエッジワース侯の次女アデライン・フィア・エッジワース。彼の――スピアリング家とは古い付き合いでね。つまりあのハーヴェイの、数少ない親友ってところよ」

「どっちかってぇと、悪友って感じっすよね~」

「やだ、失礼な子猫ちゃん。きちんと躾けなさいっていつも言ってるのに」

「アデル様こそ、お口が悪いですよ。にゃにゃにゃ~」

 

 

 平民であるオリヴィアを見下す雰囲気のない、気安い態度に、彼女は思わず面食らった。この学園に入学して以来、リオンを除けばほとんど初めての出来事だ。メイドでしかないケイトとも気の置けないやり取りを交わしている。不思議な人だ、とオリヴィアは目をぱちくりさせた。

 闘技場の舞台では、審判が決闘の誓いを読み上げている。互いに正々堂々戦う、勝敗に関わらず相手を貶めない、たとえ死んでも相手を恨まない――ほとんど形骸化した、形式上の口上だ。それを急かすように、観客席から野次が飛んだ。

 

 

「なんだよ。早く始めろよ」

「俺、殿下に全財産を賭けたんだ。こんな儲け話ないよな」

「俺も実家から金を借りてきた!」

 

 

 観衆の誰もが、ユリウスたちの勝利を――ハーヴェイとリオンの敗北を疑っていない。何しろ決闘と言えば、賭博がつきものだ。ほとんどの生徒がユリウスに賭け、その勝利を確信している。『絶対に勝てる儲け話』に心躍らせ、ここぞとばかりに稼ごうとしているのだ。

 アンジェリカはつい可笑しくなって笑い出した。

 

 

「――っく、あはは、あはははははは!」

「ど、どうしたんですか?」

「――貴女、そろそろ心労で(おか)しく……」

 

 

 突然笑い出したアンジェリカを、両隣のオリヴィアとアデルが心配げに見やる。

 アンジェリカとしては、もう笑うしかない。何しろ自ら決闘賭博を煽り、この状況を作り上げたのはリオン自身だ。ダメ押しに“スピアリングの殺戮人形”が出てきては、『旨い儲け話』など崩壊する。

 

 

「これが笑わずにいられるか! 本当に酷い奴だよ、あの男たちは」

「そんなことありません! リオンさんもハーヴェイさんも、優しい人ですよ!」

「そんなことありますね~、割と」

「そんなことあるわねぇ、かなり」

「えっ」

 

 

 ぷんすかと憤慨するオリヴィアをよそに、アデルとケイトは涼しい顔で言い放った。特にハーヴェイ親しいはずの二人の言葉に、オリヴィアがぎょっとする。え、友達じゃないんですか?

 

 

「それより、お相手の心配をした方がいいと思いますよ~。――坊ちゃんって基本、“相手を殺さない戦い方”ってしたことないですから」

 

 

 舞台を見下ろすケイトの横顔は、すでにハーヴェイの勝利ではなく、それに対峙するブラッドの安否を懸念していた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 ブラッドは焦燥感に駆られていた。

 

 

「なんだ、なんなんだよ」

 

 

 完全に不意討ちだった。そもそもあんな大きいだけの鈍重な機体、咄嗟の反応ができるはずがない。

 ――だというのに、長銃を軽く動かしただけで逸らしてみせた。防御も回避もしない、片手間のような動きだ。

 敵機の体高は6.52m。4m級の中でもさらに小さく軽いブラッドの紫機にとっては体格差の大きな相手だが、対峙する彼にとってはその倍以上に感じるような威圧感を覚えた。

 

 

「こうなれば、こいつを使うしかない」

 

 

 もともと、ブラッドは接近戦が苦手である。加えて相手のあのパワーを回避するためには、採れる戦術は一つしかない。

 

 

『それでは両者――はじめっ!』

 

 

 開始の宣言と同時に、ブラッドは即座にバックブーストで距離を取り、ドローンを起動した。槍の形状をした四基のドローンは、遠隔操作によって四方から自在に攻撃を仕掛けることができる。パイロット自身はドローンの制御に掛かり切りになり、鎧の操縦をできなくなるのが難点だが、一対一の決闘ならば何の問題もない。

 

 

「四方からの同時攻撃に耐えられるわけが――」

 

 

 しかし、ドローンの制御に夢中になっていたブラッドは気づかなかった。

 高速で眼前に迫る、深紅の塊に。

 

 

「――へ?」

 

 

 アンタレスは自ら砲弾と化して、棒立ちの紫機めがけて吶喊した。揃えられた両脚による渾身のブーストキックが紫機に吸い込まれるように命中し、ガァン! と甲高い音と共に紫機を跳ね飛ばす。紫機は数回バウンドして場外に投げ出され、そのまま動かなくなった。

 

 

(――えっ?)

 

 

 それに動揺したのは、ハーヴェイの方だった。確かに機先を制し、予想外の攻撃を仕掛けたのは事実だが、それにしても一撃で倒れるのは脆すぎやしないか?

 

 

『どうした、もう終わりか? 本当に金食い虫である必要はないんじゃないか』

『く、くそっ! 動け! 動けよ――!』

 

 

 駆動系がイカれたのか、紫機はじたばたとみっともなく悶えるだけだった。もはや決闘どころではない、立ち上がることすら困難だ。

 

 

(……想像以下だ。ACSの特許料だけで相当稼げそうだな、これは)

 

 

 ――『姿勢制御システム(ACS)』。新型魔導鎧、もといACの開発途上でアギラル教授が設計した、機体制御システムの要。機体の姿勢を自動で調整し、転倒や墜落を防止すると同時に、被弾角度を調整してダメージを軽減させることを可能とする技術革新(イノベーション)。コクピット内への衝撃やG負荷の緩和にも貢献しており、“黄道十四宮(ゾディアック)”の練度を急速に高めた画期的なシステムだが、スピアリング家はこれを独占せず、魔導鎧業界に流行させようとしている。姿勢制御は魔導鎧の操縦において非常に重要な基本技術であり、それを自動化できるシステムは多くの軍兵が欲しがるだろう。無論、その大本はスピアリング家とアギラル教授の共同開発であるため、特許取得もすでに済んでいる。つまり魔導鎧市場が拡大すればするほど、その基幹システムとして重用され、特許料でガッポガッポ……という寸法である。

 そしてその目論見は、ハーヴェイの想像以上を確信させた。名家フィールド辺境伯として名声を得、その嫡男として(魔法に偏りがちながらも)優れた成績を修め、白金貨を豪勢に注ぎ込んだ専用の魔導鎧を与えられた優秀な戦士――にもかかわらず、その姿勢制御もままならない醜態。これがホルファート王国の軍兵のレベルとしてどの程度か次第で、ACSの市場規模が占えると思っていいだろう。つまり、決して雑兵と言えないはずのブラッド・フォウ・フィールドがこのざまでは、それ以下の未熟な兵士が圧倒的多数ということになる。

 アンタレスは右手のリニアライフルを構え、銃弾を放った。強烈な魔導磁力によって加速された徹甲弾が、ブラッドの機体の右肩関節を撃ち抜き、ぎぃんと甲高い音とともに右腕を弾き飛ばした。

 

 

『うわっ!?』

『関節を持っていかれた程度で狼狽えるな。――続ける気があるなら、相応の敬意をもってお相手しよう』

 

 

 しゅうしゅうと発砲煙を上げるリニアライフルを構えたまま、ハーヴェイは冷たく言い放った。左手のバーストライフルをも突き付け、一歩でも動けば銃火を浴びせるといった気勢だ。

 

 

『み、認める! 降参する! 負けを認めるから! やめて! 撃たないで!』

 

 

 機体越しにその気迫を突き付けられたブラッドは、悲鳴を上げながら降参を宣言した。もはや戦士の誇りもへったくれもない、みじめな命乞いだ。

 観衆のざわめきはいつの間にか止んでいた。最も間近でそれを見守っていたはずの審判すら、唖然と見守るばかりだった。

 

 

『…………審判? 対手は降参したようだが、戦闘続行するべきか?』

『――しょ、勝者! ハーヴェイ・フィア・スピアリング!』

 

 

 殺害予告も同然のハーヴェイの言葉に、審判は慌てて判定を宣言した。誰にも予測できない決闘が、ここに始まろうとしていた。

 

 

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