鋼鉄の牙、乙女の幻想   作:竹河参号

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06.決闘 (3)

 ハーヴェイとケイトの様子にちらちらと視線を遣りながら、ジョニーはいまひとつ集中できない様子だった。

 

 

「――な、なんか……すげぇまったりしてますね」

「あ? あー、坊ちゃんのことかい」

 

 

 一方、ラスターは慣れたものなのか、ほとんど意識を向けていない。駆動系をチェックし、マガジンを交換し、魔石ジェネレータの残量をチェックする。

 ハーヴェイは今、ケイトの膝に乗り、後ろから抱きかかえられている。その表情はいつもと変わらないが、見る者が見れば、リラックスしている様子が分かるだろう。

 

 

「はい。そ、その……例の仇名のこととかあるから、もっと、その……」

「冷徹無比。血も涙もない“スピアリングの殺戮人形”に相応しい、氷のような冷たい男――そういう風に見えたかい?」

「えっ、い、言っちゃっていいんですか」

「いいさ、いいさ。何しろご本人が認めてらっしゃる」

「は、はぁ……」

 

 

 からからと笑うラスターに、ジョニーは思わず面食らった。あの高貴にして卑賎な少年は、そんな忌み名を気にしていないというのか。

 ラスターは整備の傍ら、どこか懐かしむような表情を浮かべた。

 

 

「坊ちゃんは、昔っから大人びた物静かな子なんだが、ちょっと厄介な悪癖があってなぁ……ときどき、さっきみたいな癇癪を起こすことがあって、そのくせそれを無理矢理自分の中で収めて我慢しようとする。周囲に当たり散らしたりしないから、安全っちゃあ安全なんだが、無理してるのはあの通り丸分かりだから、まぁ皆心配する。

 ただ、ケイトはああいう感じだから、お構いなしに甘やかすんだ。坊ちゃんもケイトには心を開いてるから、なすがまま。――で、ああいう絵面がよくできあがるってわけさ」

「は、はぁ……、……その、なんていうか……」

「――分かるよ、言いてぇことがあんのは」

 

 

 ラスターの説明に、ジョニーは何とも言えない表情を浮かべた。ラスターはそれを否定しなかった。

 

 

「ちょっと不健全な関係だよな。旦那様も、ちょっとばかり心配してなさるらしい。

 ……でも、気にしなくていいんじゃねぇか? 本人たちが不幸なわけじゃない。周りを不幸にするわけでもない。誰も不幸じゃないなら、外野がとやかく言う話じゃねぇだろ」

「……そっすね」

「さ、そんな与太話はどうでもいいんだ。坊ちゃんの愛機だ、点検はきっちりやれよ」

「はい!」

 

 

 ラスターの言葉に、ジョニーは気を取り直して点検作業に戻った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 がしゃんがしゃんと舞台へ進み出るアロガンツに対峙したのは、クリス・フィア・アークライトが搭乗した青機だった。大剣を両手に構え、さらに背に複数の剣を背負っている。青機はアロガンツと正対すると、左足を突き出し、右手にまっすぐ掲げた大剣に左手を添えて構えた。

 

 

『――俺は二人のように油断しない。最初から全力を出す』

『そうか。なら、俺も全力を出そうか』

 

 

 クリスの宣言に、リオンはふんと鼻を鳴らした。相手が変わったとはいえ、油断は禁物。リオンとて、それは承知の上だ。

 

 

「じゃ、一番のブレードを」

 

 

 リオンは――傍らに浮いている金属球、ルクシオンに命じた。自分で操作しない辺りいい度胸である。

 がこん、と一番コンテナから()()が取り出された。長い柄、水平の足かけ、横幅広く湾曲した刃――スコップである。

 

 

「あれ!?」

【前回、一番にはスコップを収納していましたね】

「ブレードを出せよ!」

【一番を指定したのはマスターです】

 

 

 コントのようなやり取りが、アロガンツのコクピット内に響いた。ざわざわと騒ぐ観衆をよそに、クリスが不快げな声を上げる。

 

 

『……なんのつもりだ? そんな道具は、この場に相応しくない』

『……んんっ、――それを決めるのはお前じゃないよね?』

 

 

 クリスの指摘に対し、リオンは取り繕うように言い放った。挑発のつもりか、とクリスがいよいよ苛立つ。

 その様子を見ていたハーヴェイとケイトは、共に胡乱げな顔で舞台を見つめていた。

 

 

「……何してるんすかね、あれ」

『んー……どうだろう。挑発のつもりかな』

「いやでも、スコップて」

『スコップも立派な工兵装備だよ、近接戦闘にも耐えうる。ただ……仮にも“剣豪”相手に向けるほど、有利な装備とは思えないな』

 

 

 それを言うなら、そもそも近接戦闘を挑むこと自体が悪手だが。何しろ“剣聖”エドモンド・フィア・アークライト伯の実子、そして彼自身が王国からのお墨付きを拝領した、まさに“剣豪”が相手である。それは魔導鎧越しであっても、十全な技量を発揮するだろう。素人に毛が生えた程度のリオンに、勝ち目はない。

 しかし、リオンは武装を改める気はないらしい。スコップを両手に構え、審判の前で青機と正対した。

 

 

『はじめっ!』

 

 

 合図とともに、アロガンツへと一直線に吶喊する青機。一方、アロガンツはそれに応じることなく、バックブーストを噴かせて退避した。重厚なアロガンツを無理矢理後退させる強烈なブーストは、その噴炎だけで青機を怯ませるに余りある。何を、と一瞬だけ迷いを見せたクリスを捉えたまま、リオンは口を開いた。

 

 

「ルクシオン、ドローンを展開しろ」

【了解。ドローンを展開します】

 

 

 ルクシオンの応答とともに、アロガンツのコンテナから複数の球体が飛び出した。小さな銃口を備え、ブーストを噴かせて滞空するそれは、合計八基。

 

 

『――なっ!?』

「射撃開始、っと」

 

 

 驚愕に思わず足を止めた青機を取り囲むように、八基の球体ドローンが飛散し、リオンが操縦桿のトリガーを引くと同時に射撃を開始する。機関銃の一斉射撃に、クリスは慌てて逃げ惑った。一発一発は小粒でも、八基から襲われれば小さくないダメージが蓄積していく。防御ばかりでは勝てないと、ドローンを攻撃しようとするも――

 

 

【無駄です】

 

 

 制御しているのはリオンではなくルクシオンだ。ヒトならぬ機械による並列操縦は、一基たりともクリスの剣に捉えさせず、的確に回避しながら死角を取り、さらにダメージを蓄積させていく。

 

 

『くそっ――この――!』

 

 

 棒立ちのアロガンツを放り出し、ドローンを破壊しようと躍起になるもするすると躱され、次第に追い詰められていくクリス。その様子を見て、ハーヴェイはリオンの戦術を理解した。

 

 

『……なるほど、ブラフを兼ねたのか。近接戦闘に応じると見せかけて、本命はドローンによる包囲射撃、と』

「そうなんすか?」

『たぶんね。……たぶん』

 

 

 いまひとつ自信のないハーヴェイだが、リオンの技量が明らかになっているのは現実だ。剣術の勝負に囚われているクリスの弱点を見抜き、ドローン射撃という最適解を導き出す観察眼。スコップという場違いな道具で相手の苛立ちを煽ると同時に、近接戦闘に応じると錯覚させる狡知。さらに、八基のドローンを同時制御する優れた空間認識能力と操縦技術。――最後に関しては、リオンの実力でないことが遥か後に明かされたが。

 一方、ついにクリスを舞台際へと追い詰めたリオンは、悠然と歩み寄りながらスコップを突き付けた。

 

 

『はい、詰みね。負けを認めてくれるかな?』

『お前は! お前はこんな戦い方で満足か! 騎士道の欠片もない。こんな戦い方をして!』

『言いたいことはそれだけかな? これは試合じゃない。決闘なんてどんなに取り繕っても殺し合いだろうが。銃に頼ったら駄目? そんなルールは聞いていないね。そもそも、お前ら五人を二人で相手している俺たちこそ同情されるべきじゃないのかな?

 いや、すまない。一対一を五回すればいいだけだから、これは同情されなくても仕方がないね。それにしても、圧倒的な差がありすぎるから、確かに真面目に手加減を考えているところだったんだ。君たちの言う正々堂々とした騎士道も――考えてあげようじゃないかっ!』

 

 

 そう言うと、アロガンツはスコップを天高く振り上げ、クリスの大剣へと勢いよく振り下ろした。技術も何もない純粋なパワーが、分厚い刀身に衝突し、ばきんと甲高い音を立てて圧し折る。

 クリスは愕然としながら、圧し折れた大剣を取り落とした。鎧本体も機銃掃射によってひしゃげ、もはや戦闘継続できる様子ではない。

 

 

『莫迦にして……こんな戦いは誰も認めない!』

『結構だ。大事なのは結果だ。お前たちは負けて、俺たちが勝つ。過程なんて気にする奴は少ないからね。あぁ、でもお前たちは頑張った、って言ってやるよ。無様に負けたと言えば角が立つから』

『うわぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 操縦を放り出された鎧から響く、クリスの絶叫。それは、完全な戦意喪失を意味していた。

 

 

『クリス・フィア・アークライト戦闘不能! 勝者、……リオン・フォウ・バルトファルト』

 

 

 審判が判定を下す脇で、鎧の中からすすり泣く声が聞こえてきた。

 

 

『……どうしてだ。どうして私は負けたんだ。誰よりも努力してきた。私は誰よりも頑張って……認められたかったのに』

 

 

 剣術指南役のアークライト家。その才覚を問わず、嫡子として剣の腕を鍛えなければならなかったクリスは、同情されてしかるべきなのかもしれない。

 

 

『不幸自慢はご自慢の彼女にするんだな。同情してくれるぞ』

 

 

 リオンの知ったことではなかった。文字通り吐き捨てるような言葉を残すと、アロガンツはがしゃんがしゃんと背を向けて歩き出した。

 

 

「……最後の追い打ちって、必要でした?」

『そういう気性なんだろう。褒められたことではないが、無用な高貴さを求めても仕方がない。戦士にも、兵士にも、冒険者にも』

 

 

 リオンの容赦ない口撃に顔をしかめるケイトとは裏腹に、ハーヴェイは涼しい顔で流した。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 あっという間に、三戦。予想外の試合展開に、観衆がいよいよざわつき始める。

 

 

「お、おい、クリスが負けたぞ」

「なんだよ。あんなの卑怯じゃないか」

「……なぁ、リオンって単独(ソロ)でダンジョンを攻略して男爵位を得たんだよな? もしかして、強いんじゃないか?」

「ま、待ってよ。ならこのまま勝負が決まるの? 私、全財産を賭けたのよ!」

 

 

 『絶対に勝てる』と高を括っていたはずの賭けが、いよいよ崩壊し始めている。動揺する観衆に紛れて、オリヴィアが悲しそうな声を零した。

 

 

「……悲しいです、アンジェリカさん」

「気持ちは分かるわ」

 

 

 アデルはそれに同情した。『図々しい平民』として孤立していたところを、リオンに助けてもらったという話は聞いている。そんな恩のある人物が、こんな一方的な試合運びをするとは思っていなかったのだろう。

 

 

「リオンさんが勝ったのは嬉しいんですけど、……でも、こんなの酷すぎます」

「莫迦を言うな。気を抜けばバルトファルトも負けていたかも知れない男だぞ。それだけ相手を警戒したということだ」

「そ、そうなんですか?」

 

 

 そんな二人を、アンジェリカが嗜める。卑怯だのなんだの言ったところで、勝たなければいけない戦いなのだ。採れる戦術は何でも採らなければいけない。少なくとも、それだけ手を尽くすに足る強敵だった。

 

 

「アークライト伯爵家は、代々王室御用達の剣術指南役の家系だ。クリスの父、現当主エドモンドは王国一の剣士で、“剣聖”の称号を賜っている。あいつ自身、一段下がるが“剣豪”の称号を得ている男だ」

「凄いんですね」

「あぁ、凄い男だよ」

「……本当にそうかしら?」

「……比較対象が高すぎる。さすがにスピアリングとて、剣術勝負には持ち込まないだろう」

「まぁそうね。そういうところにこだわらないのが、彼の強みだから」

 

 

 アデルの疑心の言葉に、アンジェリカ自身もだんだん自信が無くなってきた。剣の間合いの外から弾幕で擂り潰されたとはいえ、一撃も返せないとはあんまりな結末である。『間合いを詰める技術』も含められるのが、剣術であるはずだ。

 とはいえ、当のリオンがあそこまで徹底した対策を行った以上、「剣の間合いに持ち込ませるわけにはいかない」という程度に脅威だったのは違いあるまい。おそらくハーヴェイも同じように戦い、そして同じように勝利しただろう。もしも魔導鎧ではなく、ただの剣術試合だったとしたら、結果はどうなっていたか。

 

 

(そんな男でも、手も足も出なかった……もしや本当に、殿下と戦うことになるかも知れん。乳兄弟(ジルク)は焦っているだろうな)

 

 

 アンジェリカは闘技場の舞台袖に視線を遣った。次に出るであろうジルクは、本人も魔導鎧も姿を見せていない。ユリウスとマリエ(と、カイル)だけがいた。

 

 

(……殿下)

 

 

 アンジェリカの視線の先では、ユリウスが蒼褪めるマリエを慰めていた。アンジェリカの視線など、まるで気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

『ふぃー、お疲れさまでーす。――なんかすごいまったりしてますね!?』

『やあ、お疲れさま』

「おつかれっすー」

 

 

 “剣豪”クリスをあっさりと仕留め、悠々と戻ってきたリオンは、まったりと座るハーヴェイの姿に驚愕した。何しろ従者ケイトに後ろから抱えられ、だらりと気を抜いているのである。

 

 

『見事な作戦勝ち、と評するべきかな。しかし、かの“剣豪”もとんだ肩透かしだ。きみの真価を引き出すには不足だったかな?』

『はぁ、それはどーも……』

『次はどうする? どうせトリを務めるのは殿下だろうから、ジルク・フィア・マーモリアで確定だが。体裁上、殿下のお相手は僕が務める必要があるから、最後にもう一度きみの活躍を見せて欲しいところだな』

『あー……まぁ、いいですよ。次も俺が出るってことで』

『ありがとう。次こそ、かのMr.バルトファルトに相応しい強敵であることを祈っている』

『は、は~い……じゃ、その前にちょっとトイレに行ってきます』

 

 

 ハーヴェイの褒め殺しにたじろぎつつ、リオンはアロガンツを屈ませると、胸部ハッチを開いてするりと飛び降りた。

 

 

「バルトファルト様、整備は必要ですかい?」

「あー……いや、いいです。そんなに消耗してないんで」

「そうですか、そりゃ失礼しました」

「いえ~、ご丁寧にどうも」

 

 

 ラスターの提案を辞退すると、リオンはさっそうと控室に消えた。ひとまず、気がかりなことはないようだ。あとは――

 

 

「――で、そこの人は何の御用っすか?」

「ひっ!?」

 

 

 ケイトの鋭い視線が、物陰に隠れている人物を捉えた。

 

 

『珍しいね、ケイトの方が先に気付くなんて』

「これでも亜人なんで~。――それで? 御用があるなら伺いますけど。どちらサマです?」

 

 

 主に向けるにこやかな表情から一転、ケイトは物陰へと再び鋭い視線を向けた。もはや隠れられないと姿を現したのは、一人の女子生徒だった。傍らに荷物を抱えたその姿は、ケイトもハーヴェイも見覚えがない。

 

 

「……う、うるさいわね! 亜人の使用人ふぜいが、偉そうに話しかけないで!」

『では僕が承ろう。どなたで、何の御用かな』

「げっ……!?」

 

 

 気を取り直したのか、尊大な態度でケイトを拒む女子生徒。ハーヴェイはケイトの膝から降り、けろりとした顔で機械音声を鳴らした。

 

 

『初めまして、僕はハーヴェイ・フィア・スピアリング。先ほどは()()使()()()が失礼したね。仮にもスピアリング侯爵家の子弟ならば、応対に不足はないと思っているが、お名前とご用件を伺っても?』

「え、えっと……リオンの、姉の、ジェナ、といい、ます。ごきげん、よう」

『ごきげんよう。Mr.バルトファルトの姉君か。生憎彼は席を外しているが、言伝があるなら承ろうか?』

「えっ!? え、えーと……!」

 

 

 ハーヴェイの名乗りに、女子生徒ことジェナは動揺した。リオンの姉というのなら何を憚る必要もないはずだが、どういう心境なのだろうか。

 

 

「さ、差し入れを、持ってきた、のだけど、ほ、本人が、いないなら、出直すわ! ご、ごきげんよ――」

『そこまで手間は取らせないよ。その品かい? 代わりに預かっておこう。――ジョニー、受け取って』

「は、はいっ」

「ちょ、ちょっと!」

 

 

 そそくさと逃げようとしたジェナを逃さず、ハーヴェイがジョニーに命じた。命じられるがままにジェナの荷物を受け取ろうとした彼は、その重さに驚愕した。

 

 

「――お、おもっ!? 何ですか、これ!?」

「え、えっと、これは、その……!」

『――ご丁寧に、吸着盤まで用意してあるのか。ふん、随分と豪勢な()()()()だな? この短時間で、よくもまあ用意できたものだ』

 

 

 大の男すら咄嗟では取り落としかける重量、内容物を隠すようにぐるぐる巻きにされ、その上から吸着盤を付けられたそれは――

 

 

「――爆弾っすか」

『だろう。おそらくは魔法信管型、戦闘の真っ最中に、普通の攻撃と見せかけて起爆させる腹積もりだったのだろうさ。

 どこに付けるよう指示された? ジェネレータ付近? ブースター周り? このサイズだと、彼の機体でも機能低下は免れまい。最悪、内装部分まで誘爆する可能性があるな?』

「――こ、この……!」

『残念だがきみの言い分を聞く気はない。だいたい想像できるし、それをぶつけられる筋合いはない。よしんばこの下策が上手く運んでいたところで、“自分の生き残りのために肉親を見殺しにした”という誹りは免れまいさ。――そうして後ろ指差される未来を想像できていなかったのも、その顔を見ていれば分かる。

 ……ああ、それとも、本当は僕の機体に仕込むつもりだったのかな? 殿下の覚悟を問う戦いに泥を塗ることになるけれど、いいのかい? きみを遣った輩の大元は、そこまで思慮できていなかったのかな?』

 

 

 捲し立てる言葉の数々に、ジェナは分かりやすく顔面蒼白となった。すっと逃げ場を塞ぐように立ったラスターに気付き、取り囲まれた彼女は震え上がる。

 

 

「ひっ……!?」

「――どうしますか、坊ちゃん」

『ふーむ……本来なら、一にも二にもふん縛って晒し物にするところだろうが』

「そ、そんな……!」

 

 

 仕込み爆弾で決闘を邪魔するなど、言語道断の悪行である。晒し物にしてしまえば貴族としての立場は地に落ち、二度と名声を得られないだろう。特にこの国において、『奉仕する側』でない女性は、つまり名誉挽回のチャンスを得られず、致命的な破滅に繋がる。

 

 

『――しかしまあ、その素性が本物なら……彼女個人の立場としては、やむを得ない行動だし、情状酌量の余地はある。何よりMr.バルトファルトの身内だ、彼にこそ裁量を委ねるべきだろう』

「――ほっ……」

『まあ絶縁くらいは覚悟しておきたまえよ。僕なら()()()()()を提供する』

「ひぃぃっ……」

 

 

 ハーヴェイの冷たい物言いに、ジェナは再び震え上がった。リオンが実の家族を断罪するほどの悪辣さを持たなかったことは、彼女の最上の幸運と言っていい。

 

 

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