確かに俺はいっぱい食べる女が好きだと言ったがそれそのものになりたいとは言って無えんだが〜暴食龍娘のダクファン世界放浪記 作:誤字報告マジでありがとうございます
吹き飛んだ俺の首と俺の目が会う。
「は?」
疑問符が脳内を渦巻く中、俺のかわいい生首さんが、幻影のように掻き消える。
困惑する俺に、ヴィジターが無駄に綺麗なお声で話しかけてくる。
「とまあ。本当なら君をここでこうしてぶっ殺すつもりだったんだけどさ。君をここで殺そうものなら、絶対に十年以内にこの国は滅びる。そして、どうせ滅びるなら君に賭けてみたくなった。生き残った最後の龍種である君に。君があの龍を倒す未来に。龍による滅びを抜けてたどり着く未来に。あの龍をぶっ殺すのに協力してくれない?エフィちゃん。」
「……私が言うのもなんだけど。良いの?」
「まあ、君が第二の暴食の魔王になる可能性は高いしなぁ。一応、今の君は話が通じたり、善良であるとは思うぜ。正直結構好きなタイプだ。常時飢餓地獄の龍種であるにも関わらず、人も喰ってなさそうだし、他者のために遠慮もできる。自分の苦しみを癒すために、人を踏みにじらない。それでも最終的に食欲が暴走して全てを喰らおうとする、龍の性質自体をどうにかできないと結局ね……」
……
「ただ。それでも」
こちらをしっかりと見つめながらヴィジターは言った。
「アレよりは遥かにマシだ。対話の余地も、良心の呵責も、僅かな善性も何もなく、ただ自分の本能のままに他者の命を踏みにじるあのクソトカゲよりは。少なくとも君の心はまだ人間よりだからね。そして俺だって薄汚えクソトカゲに喰われるくらいなら、見た目だけはかわいくておっぱいのデカい君に喰われた方が良い」
冗談めかしてヴィジターがそう言うと俺を拘束した
「お言葉ですがヴィジター様! その結果人類の敵たる化け物が2体に増えるだけという可能性もあります! 下手に協力など持ちかけようものなら、人類に残された最後の10年間もろとも、この龍畜生に貪られるかも知れないんです! このアレックス。あなたに仕えている間、一度でも逆らった事があったでしょうか!? ご存知の通り弱者が踏みにじられていたこの国を、嘘とペテンでひっくり返してくれたあなたに! 私は絶対の忠誠を誓っています!」
そしてパラディンは床に膝をついた。
何をするつもりだと思っているとそのまま流れるように土下座の体勢に移行した。
そこで彼はヴィジターに土下座しながら続ける。
「ですが! 今回は、今回だけは私の言う通りにしていただきたいのです! この、人類に残された最後の十年も、ここでこいつを殺さなければ無くなります! 対話? 協力? そんなの不可能です! 龍とはそういうものだと私は身をもって知っている! 奴らには心がない! 奴らの話すのは言葉ではなく人類を欺くための鳴き声です!」
「…ああ、アレックス。君の言う事は全くもってその通りだ。その通りなんだけどさ……あー、もう言って良いか。この前の三王会議で聞いた話だけどさ。終焉龍の封印に誰かが細工したらしく、封印解けるまであと1年ないんだとさ。残念。君の妻が天寿を全うする前に、世界は滅びるよ。確実に」
あー。このパラディンそういや原作にもいたわ。確か龍に故郷を滅ぼされ、命からがら逃げ出した幼馴染と結婚していた奴だ。そして笑っちゃうレベルで妻のケツに敷かれてた奴だ。
なるほどね。
滅びが十年先なら、十中八九妻が天寿を全うできる以上、ハイリスクな賭けには出たくなかったわけか。
いや、こんな考察してる場合じゃねえな。俺も言う事は言わなきゃあかん
「あのーちょっと良いかしら」
光の鎖でがんじがらめになってミノムシのように床に転がりながら俺は言った。
「人をナチュラルに食人鬼扱いしないでほしいんですけど」
「黙れ! 龍畜生が! お前は……」
ぐるるるるるる……
「ひっ」
「もしかして、こいつ俺達を見て……」
「ヴィジター様! 殺害許可をおおお!」
「そんなにびびんないでよ。私、イライラするとお腹が減って減って仕方なくなるタイプなだけなのよね……」
元人として人なんか食わないっての。人肉の味だってあんまり美味しくなさ……美味しくな……美味しく。いやいかんいかん。
悪い考えを頭をブンブン振って追い払う。
人肉の味に思いを馳せていたらなんだか更に空腹が酷くなったような……ま、まあ、悪人の肉とかなら許され……ちょっと待てだいぶヤバい事考えてないか俺。
「……君はなんだかんだでよっぽどのことがない限り人肉を食わないと思っていたけど、その考えがちょっと揺らいできてるよ」
「ちょっと待ってよ。人肉云々はまあ別の話として、私が全世界を食い尽くすみたいな前提でお話しているけど私はそこまで食いしん坊じゃないんですけど!」
「……冗談だよね」
「頭おかしいのか」
何を言ってるんだこいつという目線が、皿の山と骨の山を往復してから突き刺さる。
「そ、そうだ! ごはんだって頑張れば食べる量を我慢できないことも無いこともありえないわけでは無いかもしれないしそもそも私はそこまで食い意地張ってな」
ヴィジターが何かを目の前に差し出してきた。それを本能が食べられるものだと察知した。
「ごはんんん!」
辛抱たまらず本能のままに齧りついた。
ガブッ! クチャクチャ! うめえ! 焼き鳥かなんかだ!
「ハーピー1/128食! 経験値2習得! 【飛行】習得!」
……
「何か言いたい事ある?」
「……ないです……」
辺りを沈黙が支配した。
「でも……流石に鯨一匹とか食べればお腹いっぱいになるだろうし、そんな世界を喰い尽くす心配は……」
「………………」
「………………」
「………………まあいいや。法国では【次元渡りの腕輪】って言うアーティファクトを国を挙げて捜索している。これ自分が別の次元に行くだけじゃなくて、他者も吹き飛ばせるんだ。【転移無効】みたいな耐性を貫通してね。最悪君が暴走したらこれで別世界に吹き飛ばす。ここよりも遥かに強力な化け物の跳梁跋扈する世界にね」
おお、ちゃんとあれはストッパーになるのか。それは……うん。ありがたい。
直後俺の口から出たのは驚くほど弱々しい言葉だった。
「お願いだから、私が暴走しても元々あなたと私がいた世界には送らないで下さい。パパにもママにも迷惑かけたくないです」
「もちろん。そこは安心してくれ」
「……ありがとう」
「ただ交換条件と言ったらなんだが一つ要求がある」
ヴィジターが人差し指を上げた。
「今日から3日経つまでに、レベルを60まで上げてS級冒険者まで上がって来てくれ。最悪なのは、終焉龍を倒せない程度に弱く、世界を蹂躙できる程強い、中途半端な強さの龍だから。少なくとも強さだけはあると言うことを教えてくれ」
その2時間後、俺は来ていた。【色欲迷宮アラストリオン】。【色欲の魔王】が封印された、世界6大迷宮の一つに。