第1話
とうに日の暮れた鎮守府でただひとり。手を動かしても手を動かしても永遠に減らない書類の山、山、山。持っていたペンを机に転がす。疲労で頭も回らないからと執務室に設けられているテレビを点けた。
ニュース、ドキュメンタリー、ドラマ、アニメ、バラエティー…。チャンネルをかえる度にため息が出そうになる。どれも面白くないしつまらなそうだからだ。リモコンの電源ボタンに親指を添える。消してしまおうか。しかし提督はテレビを消さなかった。
画面に釘付けになる。映し出されていたのは制服を着た学生が校舎の屋上と思われる場所から叫んでいる様子。番組内容はこうだ。普段言えないことを学校の屋上から叫んでみよう。若者らしい、青春の一ページというやつだ。
提督には分からなかった。なぜそのような番組から目が離せなかったのか。いつもなら下らないと一蹴していたようなそんな内容なのに。テレビの中である学生が叫ぶ。
「誰か僕とHしてください!!!」
画面を越えて悲鳴と爆笑の渦が提督の耳に届く。叫んだ当本人は照れくさそうに頬を赤らめていた。番組出演者たちの反応もそれぞれ、手で顔を覆う者もいれば腹を抱えて笑う者。提督はどうだったか。彼は画面越しに固まっていた。
しばらくの間、彼の時間は止まっていた。それほどに衝撃だった。雷にうたれたような感覚だった。そして芽生える、憧れや尊敬に似た想い。奮い立つ。もう随分と忘れていた熱さが全身を駆け巡る。
もうだいぶご無沙汰だった。それこそ軍に入って艦娘の指揮を始めてからそういうことは出来ていなかった。ひとりで慰めることさえ滅多に出来ない。だって忙しいから。いつしか男として生まれた喜び、性の喜びは忙殺されていた。
しかしそれでもゆっくりと時間をかけて彼の中で欲望は育っていく。そもそも美人でカワイイ艦娘たちに囲まれていたら男の本能が黙ってはいない。誰かひとりでもいいから好きなようにしたいと思うのが本能だ。それを忙しさで忘れ、理性が止めていた、いたのだが。たまりにたまっていたものがある学生の言動で溢れだす。もう収まりがきかなかった。
人は食べなければ生きられない。眠らなくては生きられない。しかしSEXは?別にやらなくたって生きていける。なくたって生きていける。
…本当に?
長い長い人の歴史の中でこんな場面は何度だってあったはずだ、それは英雄であれ有象無象の一人であれ関係ない。どうして今まで築き上げた信用や地位を失うとしてもやってしまうのか。必要だからだ、食事睡眠とあわせて。セックス。セックスがしたくてたまらない。たとえ一瞬の快楽の為にその後の人生全てを台無しにしたとしても。それに値する、それ以上の快楽がそこにあるからだ。
漏れなく提督もそうだった。
ピンポンパンポーン。
「誰でもいい。誰でもいいから俺とセックスしてくれるやつはいないか。もう我慢出来ないんだ。頼む後生だからやらせてくれ。執務室で待っている。誰か来るまで俺は待っているからな。頼む、頼むよ…」
提督の切実な想いは鎮守府に瞬く間に広まったことだろう。放送マイクから顔を離す。心臓はバクバクと脈をうっていた。
最後は惨めに懇願するような形になってしまったが、それとは裏腹。提督の心は晴れやかで、同時に興奮していた。まるで飢えた獣のよう。ふぅ、荒々しく息を吐く。
ウッ!!!
…気が付くと少し出ていた。幸福、絶頂、そして残されたのは下着についた不快感…。
途端に提督は青ざめた。次いでなんてことをしてしまったんだ、と頭を抱えてその場にうずくまった。床に頭さえうちつけた。
魔法は解けたのだ。今提督の中にあるのは幸福でも興奮でもない。とんでもない痴態を晒したという後悔の念に他ならなかった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
明日からどんな顔をすればいい。いやそもそも明日があるのか。提督は何か胃からこみ上げてくるのを必死に堪えた。冷や汗は止まらず。先ほどまで下半身で龍のように暴れ狂っていたカレはすっかり縮みあがっていた。
コンコン
ふいにドアをノックされた。体はこわばる。普段ならどうぞと入室を促す一言さえ出てこなかった。
「おう、邪魔するぜ」
重巡摩耶。彼女は扉をあけるや否や執務室のど真ん中で震え上がる提督を見つけてニヤニヤ笑った。
「なーにやってんだよ、おめーはよぉ~」
提督が立ち上がれないことをいいことに意気揚々と摩耶は近付く。小馬鹿にするように笑った。彼女の目はギラギラしているようだった。
「急に館内アナウンス入ったからこっちは何事かと焦ったのによう、なんだっけ?俺と何をしてほしいんだって?あぁん?」
摩耶はうずくまる提督の顔をペチペチたたく。ペチペチ。
「恥ずかしいヤローだなぁ、おめーは。マジで食っちまうぞおい」
バタン
「あ、なんか先客いるんですけどw鈴谷たちも混ぜてもらっていいっすかw」
「提督さーん、お望み通り来てやったわよ」
声のした方に提督と摩耶が目を向けるとニヤニヤと笑う重巡鈴谷と空母瑞鶴。
「チッ、最初はあたしんだからな。そこでちょっと待ってろ」
「えー鈴谷待つの嫌いなんで~wwwそれに一緒にやった方が楽しくない?笑」
「提督さん、摩耶は乱暴だろうし私が優しくしてあげる。だから私のところに来て」
「んだと!?」
突然始まった口撃の応酬。提督はわけが分からなかった。しかしこれは好機。なんであれ今の提督は賢者タイム真っ只中なのだ。穴があったら入りたい、埋ってしまいたいくらいの痴態を犯したのだ。ならばやることは一つ。激しく口論する三人娘をよそにコソコソと執務室から逃げようとした。そして執務室の外へ出ようとしたその時。目の前に誰かが立ちふさがる。
「夜戦しよっか!提督!!」
元気な声とは裏腹に目の笑っていない軽巡川内がいた。
「神通と那珂も部屋で待ってるからさ、とりあえず部屋に…いやでもその前にここで一発やってもいいしなぁ、ねぇ提督はどうしたい?」
ニヤニヤ。川内は試すような口調で問いかける。そして提督の服に手を掛けようと…
バタン
「なに勝手におっ始めようとしてんだ。俺も交ぜろ」
「そうよ~抜け駆けはズルいわ~」
軽巡天龍と軽巡龍田。いつの間にか川内を押し退けるように二人は提督の前に立っていた。
「提督は大人だからおままごとみたいなセックスじゃ満足出来ねーだろ、なら川内より俺だよな?」
「はぁー?なに言ってのー!?」
「あらあら天龍ちゃん?ダメよ~?最初にする人はちゃんと公平に決めなきゃ~?ねー?」
天龍に凄まれ、川内に逃がさないと言わんばかりに腕を掴まれ、龍田はニコニコと有無を言わせない。
「勝手に話進めんな!あたしが一番最初に乗り込んだんだからな!?」
「もういいじゃん笑!7Pしよ7P!笑」
「あ、それなら翔鶴ねぇ呼んできていい?」
怒りを露にする摩耶、いつの間にか意見が一致している鈴谷と瑞鶴。
この時点でさすがに提督も理解していた。彼の言葉になんと六人もの艦娘が応えてくれたのだ。一時はセクハラ発言からの社会的死亡まっしぐらかと思われたが、人生意外になんとかなるものなのだ。
提督は覚悟を決めた。恥じらう乙女たち(大嘘)の相手を務めようとした。
「よっしゃ!みんなドーンとかかってこいや!」
しかし一つ知っておかなければならないことがある。性の喜び、性欲は何も男だけの特権ではない。もちろん女性、艦娘にだってあるのだ。そして提督同様、過酷な環境で彼女たちもムラムラ大爆発寸前だった。
性欲に呑まれれば優しいもクソ提督もない。ただただ激しい獣のような交わりが待っていることを提督はまだ知らない。下半身の暴れ竜が彼女たちの淫らな肉壁に挟まれ何度も何度も擦られる。快楽は一瞬。始まってしまったら最後、萎えようが萎えまいが削り取られ、搾り取られ続けるのだ。
「それじゃあいただきまーす♥️」
誰が合図したわけでもなく。地に伏した獲物を食らうハイエナのように。あっという間に彼は艦娘たちに覆い被されて見えなくなった。
いつしか白濁の濃厚な液体は消え、代わりに鮮血が噴き出したとしても貪り続けられる…そんな未来を彼は知らない。
そう、私たちは知らなければならない。覚えておかなければならない。
性欲なしでは生きられない。しかし性欲に全てを握らせてはならないのだ。少なくとも私たちが社会に生きる人である以上は。