鎮守府アナウンス   作:蒙古の尖兵

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第5話

元々は屋外作業の後に汗をさっぱり流したいという要望から出来たらしかった。しかしながらどうやら敷地内のかなり辺鄙なところに設けられたようで。

 

利用者は極端に少ない。それを物語るように蔦が絡み合っている。まさに知る人ぞ知る穴場スポット(風雲談)。それがこの仮設シャワー。頭上高くにシャワーヘッドが三つ、等間隔に並んでいる。仕切りはない。剥き出しというやつだ。

 

「先にシャワー浴びてこいよ」

 

苦し紛れの一言。普段使わないキザな台詞に緊張が滲んでいたかもしれない。声は思ったより震えていた。

 

対峙する艦娘たちは互いに顔を見合わせる。

 

「お、お先にどうぞ?」

 

一応名乗っておきますか、そう言って数分前に自己紹介を済ました駆逐艦萩風も声が震えていた。

 

「お前こそ先に浴びろよ、逃げられたらかなわねぇ」

 

駆逐艦嵐は腕を組む。声こそ震えているが拒否権はないとばかりに仁王立ち。

 

ワイワイキャッキャッ。萩風と嵐の少し後方ではしゃいでいるのは駆逐艦舞風と駆逐艦野分。二人にしか聞こえない声量で何か囁きながらキャーキャー。俺の方をチラチラ見てはキャーキャー。

 

「そう、じゃあお先に浴びさせてもらうわ」シュルパサ

 

そう言って風雲は衣服を脱ぎ始める。そうして俺と長波さまがキョドってる間に脱衣完了。一人でシャワーを浴び始めた。何か考えがあってのことなんだろうけど、男気あふれる風雲に惚れそう…。

 

「わ、わたひは…」アワアワ

 

長波さまは俺のことを見ると顔を真っ赤に染めた。そりゃそうだ。知り合って間もない男の前でそう簡単に全裸になれるわけがない。

 

「長波さまは調子悪いみたいだ。少しそこに座らせて休ましてやってくれ」

 

すかさず助け船。長波さまはあうあう言いながらこの場から少し離れたところに離脱した。俺に背を向けて座ったのは彼女なりの配慮だろう。

 

仕方ない。ここは正念場というやつだ。

 

一足先に黙々とシャワーを浴びる風雲の厚意を無駄にしないためにも。俺は服を脱ぐ。Tシャツ、ズボン、下着…。中学生の前ですっぽんぽんになった。これ、公然わいせつで捕まらないよな!?

 

「…ッ」メソラシ

 

見られているような見られていないような。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。ふと、萩風がこちらを凝視。俺と目が合うと慌てて目をそらした。

 

「へ、へぇ~、度胸あるじゃねぇか…俺はもっと体を鍛えた方がいいかと思うけどなぁ」チラチラ

 

嵐の声は上擦っていた。ついでにさっきまではこっちを監視するように睨みつけていたのが今は明後日の方向を見ている。たまにこちらを見ては目をそらす。

 

キャーキャー!!!

 

舞風と野分はさらに盛り上がりをみせた。顔を手で覆って二人でイチャイチャしている。

 

というか俺も早くシャワーを浴びてしまおう。全裸で中学生の反応をジロジロ確認しているのはまさに性犯罪をしてるみたいでなんとも居心地が悪い。

 

シャワーを浴びている間は無心に徹するよう心掛けた。背中越しに視線を感じる。誰かが見ている、いや自意識過剰か。公然わいせつにあたるのかこれは、などなど。頭に浮かんでは消そうと努力した。てか、水ぬるっ!冷たくないだけまだマシだけど…。

 

「そういえばバスタオルがないわね、誰か取ってきてよ」

 

隣の風雲がそう言ったのを聞いた。隣は振り向けない。俺のために一肌脱いでくれた恩人を裏切れないから。

 

後ろで確かに、と声があがる。じゃあみんなの分取ってくるよ、と次いで聞こえた。どこかへ駆けていく足音が聞こえてすぐに消えた。

 

つまりどういうことだ?バスタオルを取りに行ったのか?何人?誰が?

 

というか風雲は天才か。彼女の一言で自然と監視者を減らすことに成功したっぽい。マジで惚れそう…。中学生(笑)だけど。

 

少し振り向いてみるか…。

 

「わぁ!?」

 

振り向いた途端、萩風が大声をあげた。隣にいた嵐が体をビクリとさせる。

 

なるほど。どうやら舞風と野分がバスタオルを取りにいってくれたようだ。すごい。三対二。形勢逆転じゃないか。

 

さてここからだ。ここからどうする風雲…!

 

「…ふぅ」

 

風雲がシャワーを止めた。俺もそれに倣って浴びるのをやめる。ポタポタ。止めたばかりのシャワーヘッドからは数滴の水が滴り落ちる。

 

「さて、あなた達の番よ?」

 

「え?」

 

え?

 

風雲の発言にその場にいた全員が驚いた。

 

「そ、そうしたいけどまだバスタオルもないし…あなた達はどうするの?」

 

これに関しては萩風の言う通りだ。水を止めたら普通は体を拭く。しかし拭くものがないので行動停止。不自然だ。

 

誰もが風雲の次の発言を待った。起死回生の一手。そうとは言わずともこの状況で自然を装える一言を俺は待った。

 

「私たちはそこで先に始めてるから。ほら、来て?」

 

手を差し出す風雲。

 

え?

 

「な、な、…。もうするんですか!?そんなずぶ濡れの状態で!?」

 

「あら、別にいいじゃない?」

 

「え、ええええええ!!」

 

えええええええ!俺もびっくりなんだが!

 

少し整理させて?シャワー浴びます→水びたしです→そのまま野外でおせっせ…。え?

 

「ほら、早く来て?さすがにこのままだと寒いわ」

 

さっきから目をそらしていたのに。風雲の両手が俺の顔を掴んで彼女の方へと向かせる。ま、まずい!俺は咄嗟に風雲の顔だけを見ることに集中した。下は見ない下は見ない下は見ない…!!!あ、というか風雲さんって近くで見ると顔整ってて綺麗やなぁ…。

 

「ちゃんと抱きしめて?」

 

両手が後ろにまわされる。肌と肌が密着。グッ…!?こ、これはヤバい!ヤバすぎる!!!全身を通じて柔らかな感触が俺の脳を焼ききろうとしている。

 

グイ!風雲の顔が急接近。咄嗟に目を瞑る。

 

「…萩風たちが服を脱いだらそれ奪って逃げるわよ。その時が来るまで辛抱なさい」

 

こっそりと耳打ち。すみません、もう俺は頭がボーッとして使い物になりません。あー心頭滅却心頭滅却ぅ!!!

 

「萩、俺たちも…」ハアハア

 

「え、ええ。そうね…」ハアハア

 

風雲渾身の演技に見事萩風と嵐は騙されているようだった。

シュル、パサっと身に纏ったものが地面に落ちる音だけが妙に耳に響く。

 

「こっちよ」

 

風雲に促されるまま。その間も体は密着し合っている。俺は立ちあがりそうになるものを必死に立ち上がらないよう堪えることで精一杯だ。勃った瞬間にモノがナイフで切り落とされると想像すると何とかなった。

 

そしてこのまま萩風と嵐の隙をついてというタイミングで。

 

「私を置いていかないで…」グスグス

 

消え入るような声と共に長波さまが視界の端に現れたかと思えば。俺は風雲と長波さまにサンドイッチされることになったのだ。

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