準備を完了し、ついにイベントがやってきた。今回は九人での参加である。
「目指すは上位で!」
「異議なし!」
ギルドを立ち上げ、このゲーム初の団体戦。少数精鋭の力を見せつけてやろうと意気込んで、九人揃って光に包まれてバトルフィールドへと転移した。
光が薄れ、九人の目の前に見えたのは緑色に輝くオーブとそれが乗った台座である。ここが自軍であることはすぐに理解出来た。広い部屋から伸びる通路は三本。サリーとカスミは台座の後ろ側にある二本の通路を素早く探索して戻ってきた。
「こっちは行き止まりで水場があるくらいだったよ。休めそうだね」
「こっちは特に何もなかった。まあ、横になることは出来るだろうな」
「てことは、残る一本が地上へ向かうルートか?確かに防衛しやすそうだ」
一本道なら背後からの奇襲など起こらないな。
「じゃあ、私達は攻撃に」
「おう、予定通りいこう」
「頑張ってこいよー」
時間が惜しいとばかりに攻撃組の三人は自軍から飛び出していった。残った面々はイズさんから渡されていたローブを着る。イズさん自身もそれを着て、自軍に座りこむ。防御力も何もない、ただ外見を隠すだけの布の装備。遠目に見たときにメイプルやセツナと気付かないようにする物。釣れたプレイヤーにはめっぽう効くのである。メイプルとセツナはヤバイの象徴だからだ。
ヤバイと思えなければ六人の手によって貴重な命を一つ持っていかれる。
「誰か来たらマイとユイに倒してもらうんでしたっけ?」
「そうね。取り敢えず、三人がオーブを持ち帰ってくるのを待ちましょう」
「それまでは少なくとも使徒たちはだせないか…」
六人は入り口を警戒しつつ、体力を消費しないように待機することにした。
クロムとカスミはオーブを持ってメイプル達の元へ先に戻ってきて、オーブを自軍に置いてきた。
「やっぱりサリーすごいね!」
「ああ、掠め取ったと簡単に言ってるが……誰にでも出来ることじゃない」
サリーについて話しつつ防衛するメンバーを決める。そしてメンバーはカナデ、ユイ、マイ、メイプル、俺に決まった。
「俺達は取り敢えず奥にいるぞ」
「危なくなったら……ならないわね」
「ああ、凌いだら私達三人は偵察と削りに出るとしよう」
戦闘が可能になったイズも含めた三人で偵察部隊を屠るらしい。
「じゃあ、私は【水晶壁】を使えるように大盾を変えておこう」
メイプルは攻撃をしない予定なため、【水晶壁】での妨害に徹することに決まった。
「私達は大槌は一本にしておきますね」
マイとユイは切り札を隠しておくことにする。
「じゃあ俺も一本だけにしとくか」
「僕も余り消耗したくないかなー」
そうして待ち構えること十五分。次から次へと殺気立ったプレイヤーが飛び込んできた。
中規模ギルドの面々が鬼の形相で雪崩れ込んだ先には五人の防衛戦力。距離を詰められる前に魔法部隊による面攻撃で倒そうと考えた彼らは、予定通り面攻撃に成功した。
しかし、爆炎が消えた後に現れたのは無傷のまま歩いてくる五人。一人はプレイヤーの背中の光り輝く天使の翼だった。彼らが魔法攻撃を防いだと思えるそのプレイヤーを倒しに向かうのは当然である。その際に大槌と大剣を装備している三人を後回しにしたが、それは悪手だ。
「【水晶壁】!」
走り抜けようとしたプレイヤー達が、突然現れた水晶の壁に衝突してよろめく。そして、それは致命的な隙となる。
「「【ダブルスタンプ】!」」
「【大切断•首】」
鎧を打つ轟音と首を斬られる音が響き、一撃でプレイヤーが葬られる。鮮血のように飛び散るダメージエフェクトに、彼らは認識を改めた。あの三人はもっとやばいと。【ダブルスタンプ】は一般的なスキルであり、普通ならば耐えられるダメージなのだが、マイとユイはSTR極振りの為、直撃すれば一溜まりもない。【大切断•首】も同じく、使徒のスキルを【眷属支配】によって使えるようにした高火力技である。そこに【地獄楽】を始めとした強化スキルをSTRに全振りしたのだから結果は見ての通りである。魔法攻撃がさらに打ち込まれたが、相変わらずダメージは与えられていない。その間にも避けきれなかったプレイヤーが儚く散っていく。それでも圧倒的人数有利に変わりはなかった。故にまだ退かない。
攻撃役の動きが遅いこと、羽持ちのスキルの範囲らしき光る地面から出ないことから、さらにそれに部屋の広さを考慮すれば回りこむことが出来ると判断した。
「全員!回りこめ!まずはあの羽持ちを倒す!」
その指令に重ねるようにしてもう一つ別の声の指令が五人の方向から飛ぶ。
「二人共!アレで!」
「「はい!」」
彼らにはアレというのが何か分からなかった。そんな中、大槌を持つ二人が真っ直ぐ等間隔に並び走り出した。
「【カバームーブ】!……【カバームーブ】!」
効果範囲を示すフィールドが一瞬にして位置を変える。すると、後衛のいる場所まで光る地面が到達していた。それはつまり、あの二人がやってくるということと同義。
「これっ……は!ひ、退け!」
そう言って危険な二人との距離を確認しようとした彼は、我関せずとばかりに最奥にひっそりと佇んでいたプレイヤーの周りに、本棚が浮かんでいるのを見つけた。
「【影縫い】」
「ついでに【神罰】」
静かに呟かれたその言葉は敵である者達全てを三秒間その場に縫い付ける力。そしてステータスを低下させる効果。
「な、っ……!?う、動けぇぇえっ!」
「ほーれおまけだ。【峻厳】」
必死に足を動かす彼らの元に、ついに二つの絶望が飛び込んだ。さらにそこにバブも付けられた。振るわれる大槌は【魔力障壁】を突き破ってなお止まらずにプレイヤーを粉砕する。効果時間の三秒が終わった時には後衛は壊滅、指揮官は倒され、先行していた前衛は退路を塞がれてしまった。
僅か数分のうちにたった五名に壊滅させられたことで、彼らは理解した。
オーブは諦めて他のギルドを襲った方が何倍もマシだと。
「意外となんとかなるな」
「やったー!勝った!」
「やったね!お姉ちゃん!」
「うん!やったね、ユイ!」
「これなら僕も攻撃に行っても大丈夫かな……」
防衛を終えたあと、五人で再び警戒していたがさっきの奴らは来なかった。一応作戦は成功かねー?
「とりあえずはサリーの自軍の安全確保は完了か?」
「そうだね。あとはこれを何回か繰り返せば狙われなくなると思うよ」
そんな話をしていると、カナデが一人で攻撃に行くと言ってきた。
「カナデは疲れてない?」
「大丈夫だよメイプル。僕は他の皆んなより動いてなかったし。それに行くのはサリーたちが一回戻ってきてからだから」
まぁそれが丁度いいだろ。サリーたちもそろそろ戻ってくるだろ。
サリーたちが戻ってきた。それも少なくないオーブを携えて。サリーが戻ってくる前にもう何回か襲撃はあったが全員返り討ちにした。ちょっと前に帰ってきたクロムたちの方もなんか色々やばいことをしたらしいよ。それと、マイとユイが新しいスキル【飛撃】を獲得して、そのスキル練習に付き合ったりした。
「ただいまー」
「あっ!おかえりサリー!」
「オーブがはい、四つ!」
「「「「おおー!!」」」」
極振り組四人から歓声が上がる。これを守りきればポイントがまた一気に加速するな!
四人の歓声が聞こえて、奥からクロムたちが来る。
奪ったオーブは計八個。
その内三個は防衛に成功し既に元の位置に戻っている。最初にサリー、カスミ、クロムの三人で手に入れたオーブとサリーの奇策で中規模ギルドから奪った二個のオーブである。カスミとイズが持ち帰ったオーブとサリーの持ち帰ったオーブ。計五つを防衛する必要があるため、気の抜けない状況に変わりはない。ただ、守るのはゲーム内最強の盾だ。破れるプレイヤーなんていないんじゃないか?えっ?俺?破れるけど。
「あっ、そうだ!私はオーブだけ盗んできたようなものだから多分その内奪い返しにくるよ。小規模ばかりだけど」
「本当、何回聞いても信じがたいことをしてるよね……」
カナデが呟く。
「おっと、噂をすればってやつだ」
クロムが武器を引き抜き、入口を見据える。そこから次々と突入してきているプレイヤーは明らかに小規模ギルド一つの人数ではなかった。
「人数多くね?」
「多分同盟でも組んだんじゃねぇか?」
まぁオーブこんな溜め込んだらなー。それに数はざっと五十くらいかな?まぁ行けるだろ。メイプルいるし
「ギルドのみんなで戦うのって初めてだっけ?」
「九人全員が戦闘に関わるのは初めてかな?イズさんとか」
「メイプル、いつもの頼む」
クロムがそう言うだけで全員がああアレのことかと理解する。そもそもこのイベントでのメイプルの役割が今の所一つだけだからな。
「りょうかーい!【身捧ぐ慈愛】!」
「【ヒール】」
減ったメイプルのHPはカナデが即座に回復させる。メイプルの前進に合わせて八人が歩を進める。正面衝突した両軍が斬り合う。マイとユイがあちこちからくる攻撃を次々と受けてしまうが、二人が倒れることはない。
「「【ダブルスタンプ】!」」
轟音と共に弾け飛ぶプレイヤーを見て、二人から離れたプレイヤーに襲いかかるのは鉈と刀、そして大剣である。
「おらぁっ!」
「ふっ!」
「【大切断•首】」
三人の攻撃をなんとか躱し、オーブを先に狙おうとする者達もいたが、輝オーブへと向かう者達には爆弾の雨が降り注いだ。
「あら、悪い子ね?オーブだけ狙うだなんて」
イズもメイプルがそばにいれば最早戦闘員と変わらない。十分過ぎる程に脅威となる。それを無理やり潜り抜けた者はめでたくカナデの図書館にご招待となる。
「【パラライズレーザー】」
カナデが放った低威力、高確率麻痺のレーザーが空間を水平に薙ぐ。追加効果が強力なために、届く範囲が狭いことを除けば文句なしだ。ただ、カナデが倒さなくとも後始末をしてくれるプレイヤーがいる。
「ぐっ…がっ!」
「く、くそっ!」
「はーいさようなら」
サリーによって、カナデが動きを止めたプレイヤーはギルドに送還されていく。こうしている間にも前衛の攻撃により倒れる者が次々に出る。気づけば同盟軍は崩壊、心の折れた者から順に敗走に入っていた。
ただ、そんな中で一矢報いようとする者も確かにいた。
「【跳躍】!」
天使の羽を持ち、前線を支えたプレイヤーに一撃加えてやろうと剣を振るったが
「【ディフェンスブレイク】!」
「【ピアースガード】」
防御貫通のスキルは無惨に効力を失った。
迫り来る二つの大槌の気配を背中に感じつつ、最期にそのプレイヤーが見たのはフードを目深に被っていてはっきり見えていなかったプレイヤーの顔だった。
「メイプルかよ……ミスったな」
彼は諦めと共に小さく呟き、大槌にその身を打ち据えられた。残っていたプレイヤー達は全て、オーブに触れることは出来なかった。