トランス・ライヒ2007   作:takanoko

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リア凸

「とりあえず、逃げるよ」

 

「.....」

 

美桜の手を引く力がよりいっそ強くなり、転びそうになりながらも

走り続ける。

なぜばれた?時間帯だって、選挙カーの巡回時間は避けたし

来てもマイクはミュートにしたはず。

外の景色が映るものはすべ移さなかったはず。

 

何だ何がいけなかったの?

未来で流行る曲をアカペラしたこと

貧乳を免罪符に、男を自称して乳首に絆創膏を張って

半裸で配信したことか?

 

たしかに、チラ見せやちょっと可愛い声で

こんなに大金を落とす奴らを見て、ちょろいと思ったことはあったけど

 

それはそれ、こっちは一刻も早く体を取り戻したいのだから。

それの何が悪いの。

 

「へばらない、走るよ!」

 

「ヒーヒー、お前、化け物か何か」

 

「あんたが、体力が無いだけ」

 

化粧雑貨の前に急に引き込まれ、店員に

「すみません、ちょっと眉やってくれますか」と大きな声で美桜が頼む。

店内は客も多く、テスターを試す人で賑わっている。

 

俺は半ば放心状態で椅子に座らされ、

プロの手つきでリップが一塗りされ、頬に薄くチークがのる。

いつもの自分と、目の前の顔が微妙に違って見えた。

唇の色と髪に巻かれたリボンは自身の容姿を引き立てる、

しかし、ストーカーと言う未知の恐怖と美桜奇っ怪な行動に

表情を引きつらせるも、印象は確実に変わる。

 

「ちょいちょい、星凪ちゃん表情硬くな~い、すいません店員さん

うちのつれ、前世がチベットスナギツネなの」

 

「いえいえ、そんなことありませんよ、お連れの方が化粧一つで

ここまで、綺麗になるなんて私も驚いてしまいました。

どうです、この着けまつ毛の試供品なんかいかがですか?」

 

「お、お前」

 

ぴくぴくと表情を引きつらせる顔も

店員の熟練の技術によって、

リップをひと塗りするだけで顔の印象がくるりと変わった。

鏡の中の自分は、さっきまでの硬直した表情が少しやわらいで見える。

唇の赤が、まるで別人の「表情」を先に作ってしまうようだ。

 

「お似合いですよ〜。この色、肌が明るく見えますね」

 

店員はプロの口調で、さりげなく褒める。物怖じしている星凪に対して、手早くチークをぽんぽんと入れる。頬に伝わる温度と、

ふわっと舞い上がるパウダーの香りが鼻をくすぐる。

 

「あら、可愛い」

 

「可愛いですねお似合いですよ」

 

「え、えっと、ありがとうございます……」

 

美桜と店員に面と向かて可愛いと言われ、

顔を赤くしながらしおらしく、なったのを見て

美桜は可愛いと言い続け、星凪の顔をさらに赤くした。

 

「あ、これとこれ貰っていくから、お釣り貰っといて!」

 

「ちょっと⁉、お客様!」

 

店員の静止する声を無視して美桜がまた俺の手を引いてはしりだす。

 

「とりあえず、適当に話を合わせとけ」

 

「なんの?」

 

通路にはちょうど数人の女子高生が飲み物片手に

キャッキャと笑い声を上げる彼女たちに、星凪は思わず硬直する。

 

「マジで?」

 

「じゃあ不審者とトークする?」

 

「それは無理」

 

女子高生の集団の後ろに付く。

で、女子高生らしい会話って何?、知らないよそんなの

 

「でさでさ」

 

「まじ~ちょ~ウケる」

 

さっぱりわからん、美桜は当たり前のように会話に溶け込む

 

「うちはスピットのマーリン君押しかな~」

 

「まじ~」

 

「星凪ちゃん誰推し~?」

 

何が、誰推し~だよ知らないよ、めっちゃアイコンタクト取ってくるけど

わかんないよ、俺は見た目は女子だが、中身は野郎よ?

 

「え.あ、私もマーリン君かな~」

 

「げぇ!被り、ガンなえ~」

 

だから何だよ、そのアイコンタクトわかんねぇよ!

女子高生たちは笑いながら肩を小突き合い、そのまま歩調を早める。

美桜は星凪の背中を軽く押し、自然に輪の中へ紛れ込ませる。

 

「トリマ、適当に『マジウケる』って言っとけ」

 

「何がウケるんだよ……」

 

ぎこちなく笑みを作る俺の耳に、背後から足音が近づく気配。

振り返らなくても、あの視線が刺さるように追ってきているのがわかる。

 

「てかてか、話変わんだけど、なんずっとつけてのいない?」

 

「え~ストーカー、マジ怖じゃん!」

 

「マジ、どれどれ!」

 

「ほら、あのカメラ向けてる黒パーカー」

 

「うわぁ、いた、マジもんじゃん」

 

「え~マジ私も見る」

 

「私も私も」

 

女子高生たちのざわめき、ストーカーの姿を見ると、

急にこちら側に向いてきた。

 

「ちょい走ろう」

 

するとJKたちが一斉に走り出す、

角を曲がった瞬間、彼女らはまるで決めていたかのように、

ピタリと足を止め、同じ方向を見やる。

黒パーカーが角から飛び出し、確実にこちらを追っている。

 

「うわ、マジじゃん」

 

「とりま写メっとく?」

 

「え、超ウケる、それで決まり」

 

女子高生たちは一瞬で作戦に移った。

ひとりがスマホを取り出すと、別の子がさりげなく進み出て、黒パーカー腕を引いてぶつかるようなふりをする。

 

「きゃぁぁあ!」

 

「マジのストーカー、初めて見たわ」

 

パシャパシャと写真を撮る、音とJKたちの大騒ぎが響く

 

「うん、なにこれ?、意外と重い」

 

ストーカーの男が落としたものだろうか、どこかで

見たことのある刻印が入った拳銃が入っていた。

 

「え、エアガンを持ち歩いているの」

 

拾った銃を両手で持ち上げると、ズシリと重く、自身の記憶の中にある、

クジで外れを引いた、エアガンよりも重く感じ、

女性になった弊害かと落ち込む。

 

「ルガーP08、ナチスドイツの拳銃だな」

 

「他の拳銃と違う作動機構、いわゆるトグルロックと呼ばれる

構造だな。見た目の動きが特徴的で映画とかで有名だな」

 

美桜が俺が拾った銃の名前を解説する

 

重さ、冷たさ、そして映画でしか見たことない形。

星凪は拳銃をまじまじと見つめる。

 

よくよく思えば俺がこんな目に合ってるのってストーカーに

追いかけ回されて、手紙で怖い思いをして...

こいつ、あの時の痴漢野郎だったのでは。

だって触られた部位をピンポイントで、書いていたことを考えると...

 

「どうせエアガンだろ。」

 

パンッ!

 

乾いた音が、やけに甲高くモールの通路に響いた。

手の中にある、ルガーp08の銃口から煙が昇る

 

火薬の匂いが鼻を突き、反動で星凪は小さくよろめく。

次に男が視線を下に下げるとそこには小さな、

煙が上がりコンクリートの一部を小さく砕いた

 

「「ぎゃぁぁぁ!」」

 

ストーカーと俺の悲鳴が重なる

 

「いきなり、何ブッパなしてんだよ!」

 

「ごめんなさぁぁい!、エアガンだと思ってました!」

 

美桜が手を引く、騒動から離れていく。

 

「ほら逃げるよ」

 

手を引かれ、ついた場所はトイレだった。

ほとぼりが冷めるまでひきこもるつもりなのだろうか?

 

「ちょっとあんた今女でしょ!」

 

「おわ!」

 

当たり前のように男子トイレに入った俺を引っ張って

女子トイレのほうへと引っ張る。

 

「こっから、降りるよ」

 

「え、やだよ....ここ、4階」

 

美桜がトイレの窓を開けて、美桜は先に窓を飛び越える

星凪がのぞき込むと、メンテナンスのために

簡易的に組まれた足場が、風に煽られ音を立てる。

その大きな音を聞いて、委縮する。

 

「玉ぶち抜こうとした奴が今更ビビんな!

それか刑務所行くか!」

 

「わーい、アクション映画大好き」

 

降りるのをごねた途端、ブレザーの下から俺の指紋が着いた拳銃を

ちらっと見せて脅してくる。

 

「おれ、アクション映画、きらい」

 

「やっと撒くことができた」

 

命綱の無いま細い足場を降り、どうにか撒くことができた。

俺たちは、タクシーに乗り、降りる頃には時刻は夕方を過ぎる、

団地内をぼちぼちと歩く。

 

「これどこに向ってんの」

 

「家」

 

「マジで?」

 

美桜の予想外の答えに目を丸くする。

 

「家?」

 

「家だが」

 

案内された場所は学校の休憩室の一室だった。

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