その稀血うさぎは鬼との生活を謳歌する 作:時長凜祢@二次創作主力垢
無惨様と過ごすようになり、早くも半年。
基本的には無惨様のお側で過ごし、時には黒死牟に預けられ、勉学や食事を常に行う穏やかな生活にもすっかり慣れてしまった。
この世界、鬼滅の刃の世界のはずなのに、私の周りはずーっと穏やかで、無限城の生活ってこんなに落ち着いた物だったのか・・・・・・と脳がバグりそうになる。
あれか?鬼側のバックルームは本当に研究と食事と仕事だけですってことか?
まぁ、令和に比べたらできることもかなり限られて来てしまうし、それくらいしかやることがないと言えば、なんとも言えないところだけど。
そんなことを思いながら、本日の私は、無惨様の人間擬態時の仕事場である洋館の中にお邪魔している。
なんでも、私があまりにも城内で退屈そうにしているように見えていたようで、たまにはと連れ出してくれたのである。
まぁ、今回は新規のお取引先の人と対談するって話だったしね。
連れ出すついでに、容姿のせいで不自由な生活を送っていた子供を育てている優しい商人の図を植え付けておきたかったのだろう。
実際、無惨様は私が勉学に励む中、たまに首を傾げている姿を見かけては、その度に教えてくれるからね。
他にも、少しだけ休憩をするようにと伝えてきたり、いかにも良い養父をしていますよ〜の絵面を作り上げている。
しかも、無惨様ってばタイミングがめちゃくちゃ良いんだよね。
こっちのお世話をする時、対談の中、相手が疲れてきたかもしれないってタイミングで、相手の休息を挟むついでに、私のお世話をする・・・・・・みたいなことをしてるから。
そのせいか、相手は目の前にいる取引相手は客人に気を遣いながら、養子をしっかりと育て上げるシゴデキ人間だと思い込んでるっぽいし。
実際は、裏で人間をバリムシャしながら生き続け、時にはかなりの被害を出しながら自身の目的を達成しようと動いてる人喰い鬼の始祖なんだけど。
「今日は充実した時間を過ごすことができました。ありがとうございます。」
「いえいえ。こちらこそ、良い取引となり安心しました。」
そんなこんなで終わった無惨様のお仕事。
彼が仕事を終えて、お客様をお見送りする時間となったのを確認した私は、自身が座っていた場所から立ち上がり、テクテクと無惨様の側に歩み寄る。
私が近づいて来たのを見た無惨様は、お館様にも良く似た穏やかな笑み(作り笑い)を見せて、私の体を優しく抱き上げる。
「お前もお見送りをするかい?かぐや。」
「はい。お父様がお客様をお見送りするのであれば、お父様の子である私もご挨拶をするのが礼儀ですので。同じ部屋にもいましたし。」
「そうか。わかったよ。」
いつものように、無惨様の養子として引き取られた娘としての対応をしながら言葉を紡げば、無惨様は穏やかに笑って私の頭を優しく撫でる。
“良い子だね”・・・・・・なんて、心にも思っていないことを口にしながら、頭を撫でて来ているけど、この人もよくここまで良い親のフリができるな・・・・・・。
「とても仲がよろしいようで。」
「ええ。最初のうちはとても警戒をされてしまいましたが、一緒に過ごしているうちに心を開いてくださいましてね。
今では、このように自ら私の方へと近づいてくださるようになったんですよ。」
優しい大人の皮を被りながら、言葉を紡ぐ無惨様。
まぁ、彼がまとう光は、さっさと帰ってくれと言わんばかりの黒と紫が混ざった光なんだけど。
「なるほど。それだけ、娘さんと向き合った結果と言うわけですな。君のような取引先ができるとは、光栄な限り。
そこまで引き取った子供に心を開いてもらえると言うことは、それだけ信頼関係を築き上げる力に長けていることを示しますからな。」
蓄えたお髭を触りながら、言葉を紡ぐ取引先の男性。
彼は、何かを思い出したように、「おお、そうだ!」と口にする。
「こちらに足を運んだ時、実は花火が上がる夏祭りが開催されると言うチラシが配られましてね。娘さんを連れて行ってあげてはどうでしょう?」
そう言って、目の前の男性は無惨様に一枚のチラシを手渡す。
無惨様は一瞬だけ青筋を浮かべそうになっていたが、自身の本性を出すわけにもいかないと思ったのか、チラシを笑顔で受け取った。
そして、取引相手が離れた瞬間、その表情から人のフリをした物が呆気なく崩れ去る。
「くだらん。こんな物、何の意味があるというのだ。」
いつもの無惨様だ〜・・・・・・と思いながら、チラシに視線を向けた私は、何度かその場で瞬きを繰り返す。
令和の時代、社会に出てから夏祭りになど行ったことはあっただろうか?
「・・・・・・夏祭りか・・・・・・・・・。」
記憶を辿る限り、夏祭りに行った記憶は学生で止まっていた。
高校生くらいまでは、近所の夏祭りや、花火大会に行ったし、大学だと友人と一緒にわざわざ遠出してまで大規模な花火大会がある夏祭りへと足を運び、交通費以外のお金を使い切る勢いで、沢山の屋台を周ったりした。
この世界では、そもそも夏祭りの概念に触れていなかった気がする。確かに、近くには村があったし、小規模の神社だって存在していた。
でも、あの酒浸りのクソ親父が祭りに連れて行ってくれるはずもなく、祭りの日もずっと、あの森の中で過ごしていた。
─────・・・・・・夏祭り・・・・・・行ってみたいな。でも、無惨様は行かないよなぁ・・・・・・。黒死牟を連れて・・・・・・いや、無惨様が許可を出してくれるかすらわからないか。
一度くらいは祭りに行ってみたかったけど、流石にそこまでワガママは言えないかと思い、緩くなっている無惨様の腕の中から、地面に降りる。
流石にお客様がいなくなった以上、無惨様と親子ごっこしておく必要もないだろうし、彼にとっても迷惑なことこの上ないだろう。
「何だ?祭りが気になるのか?」
そんなことを思っていると、無惨様が声をかけて来た。
その表情には理解ができないと言わんばかりのものが浮かんでおり、まとう光も困惑と疑問が渦巻いているようだった。
「気にならないと言えば嘘になりますが、一人で行くわけにもいきませんからね。お気になさらず。」
「・・・・・・・・・。」
そりゃそうか、と無惨様の反応を見ながら考える。
彼にとっては生きることこそが求めているもの。死と言う絶対的な終わりから逃れることこそが、何よりも大切なこと。
祭りなんて浮かれ行事に向かうよりは、研究をする方が何倍も有意義な時間になるのだから、興味はない、それどころかどうでもいいし、鬱陶しいと思ってしまう方が自然だ。
寂しくないと言えば嘘になるけど、彼の目的を知っている以上、私がそれらの邪魔をするわけにも行かない。
そう思いながら、私は今いる部屋の中を彷徨き、沢山の書物がある棚へと歩み寄る。
確か、つい最近まで読んだのはここだから、次はこれとこれとこれだね。
「無惨様。こちらの三冊の本、無限城に持って帰ってもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・ああ、構わん。」
「ありがとうございます。」
選択した三つの本を手に取りながら、無限城に持って帰りたいことを手えれば、無惨様はすぐに許可を出してくれた。
無限城で暮らす中、私ができることと言えば読書と勉学のみ。意外にも、無惨様は教えることが上手だから、最近は医学書もちらほらと読み進めることができるようになったし、こうして育ててもらっている以上、何かしらお礼はしないとだからね。
少しくらい、医学の知識を身につければ、何か役に立てるかも。
─────・・・・・・まぁ、一番は青い彼岸花を持って来てあげることなんだろうけど、多分あれ、竈門家がある山の中で自生してると思うんだよね。
─────・・・・・・でも、一年を通して二日から三日の日中のうち数分から数十分の短期間のみで、その年の土壌や気候などの環境の変化によっては開花時期になっても花をつけることなく咲かない時もあるって話だったからなぁ・・・・・・。
これらの条件からして、青い彼岸花を無惨様の元に持って行くのはかなり難しいと考える。
今の炭治郎が何歳なのかは知らないけど、流石に主人公のご自宅付近を何度もうろつくわけにも行かない。
頑張れば彼らと仲良くなって、青い彼岸花が咲いたら教えてもらうなり採取させてもらうなりできるかもしれないけど、彼らに無惨様の望みを叶えるための片棒を担がせるのもね・・・・・・。
私がいる時点で、この世界は完全に原作とは違うパラレルワールドとなっているのは確定だし、こんな世界があっても良いじゃないかと言われたらそれまでなんだけど、どうも、ね。
原作を知っているせいで、彼らが無惨様の野望の片棒を担ぐとか解釈違いにも程があるんだわ。
─────・・・・・・別に愉悦りたいわけじゃないけどさ。折角、大好きな鬼滅の刃の世界に転生したんだし?鬼側とバチバチにやり合う鬼殺隊は是非とも生で見て見たいんだよね。
─────・・・・・・まぁ、無惨様が私を鬼殺隊に間者として送り込むくらいしないとそれは無理な話だけど。
やれやれと溜め息を吐きたくなりながらも、今回選んだ本はどんな内容が書かれているんだろうと思案する。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
私がどれから読もうかと考える中、取引先のおじさまから手渡されたチラシを、無惨様が無言で見つめているとは気付かずに。
うさぎ
研究のためとは言え、なんだかんだしっかりと自分を育ててくれる無惨様に対して、何か手伝えたら恩返しにできるかな?と考える程度には無惨様を慕っている稀血の白ウサギ。
夏祭りに行きたいけど、許してくれないだろうしなぁ、と思いながら、読み漁る本を選ぶ。
鬼舞辻無惨
人のフリをしているのも楽じゃないし、本気で鬱陶しいと思うこともある鬼の始祖。
増えに増えまくった脳があるので、幼いうさぎに対しても丁寧にわかりやすく勉学を教えることが可能なため、度々教えては自身が持ち得る知識を教えている。
いずれは自身の手元に置く中で、自身のやることを手伝わせるために。