その稀血うさぎは鬼との生活を謳歌する   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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稀血のうさぎは夏祭りに行く

 あれから今日の作業を全て終えた無惨様。

 私はと言うと、無惨様から許可をもらって無限城に持って帰った三冊の本を、拡大鏡を使いながら読み進め、待っている間の時間を潰していた。

 

「うさぎ。これに着替えてこい。足にはこれを履け。」

 

「?わかりました・・・・・・」

 

 そんな中、無惨様から声をかけられた私は、問答無用と言わんばかりの様子で、一着の浴衣と一対の下駄を手渡された。

 現在の私が身にまとっているのは、無惨様の職場にいる時に着ているお客様対応用の洋服。

 このままじゃダメなのかと思いながらも、隣の部屋にいる鳴女さんの元に向かい、着付けをしてもらいながら浴衣に袖を通した。

 

「あ、ウサギ。」

 

「そのようですね。柔らかい薄青色の生地に、草花模様とウサギが散りばめられています。」

 

「だよね。私がうさぎだから?」

 

「そのようですね。」

 

 無惨様ってば安直〜・・・・・・と思いながら、しっかりと着付けをしてもらった私は、すぐに無惨様の元へと戻る。

 

「無惨様。着替えて来ましたよ?」

 

「そのようだな。」

 

 私の格好を視界に入れると同時に、無惨様は、いつも私がつけている月夜のウサギを模した簪を、別の簪に入れ替える。

 ん?と思い、今いる部屋の中にある鏡に向かってみると、そこには、月と星が散りばめられたような夜空が揺らいでいた。

 

「え?え?」

 

「たまにはそのような装飾がついている物をつければ気分転換になるだろう。」

 

 新しい簪に混乱していると、無惨様は私を部屋から連れ出し、鳴女さんの元へと足を運んだ。

 

「鳴女。ここの近所に飛ばせ。」

 

「かしこまりました。」

 

 同時に、鳴女さんへと声をかけ、一枚のチラシを見せて指示を出す。

 その瞬間、べべんと琵琶が辺りに鳴り響き、私と無惨様は、どこかの道に飛ばされていた。

 

「ここは・・・・・・」

 

「さっさと行くぞ。」

 

「え?あ、ちょ、待ってくださいむざ・・・・・・じゃなくてお父様!!」

 

 急な展開に状況が飲み込むことができず、あわあわと慌てふためきながらも、外にいる間の関係性・・・・・・養父と養子の娘として過ごしている時の呼び方で無惨様を呼ぶ。

 カラコロカラコロと足早に下駄を鳴らしながら、先を歩く無惨様の後を追ってみれば、トントコトコトンと軽快な太鼓の音が聞こえて来た。

 

「・・・・・・へ?」

 

 急に聞こえて来た音に驚いて、目を丸くして視線を向ければ、沢山の屋台と人々で賑わっている祭りの姿。

 

 

「行きたかったのであろう?何が楽しいのかは知らんが、お前は私の言うことをしっかりと聞いているからな。褒美くらいは与えてやろう。」

 

「!ありがとうございます!」

 

 まさかの事態に最初は驚いてしまったが、ご褒美としてお祭りに連れて行ってくれたのだとわかり、笑顔で無惨様にお礼を言う。

 私が無邪気に笑うからか、無惨様は呆れを示す灰青の光をまといながらも、祭囃子が陽気にこだまする祭りの場へと歩き始める。

 先程まで足早だったが、今は私がゆっくりと祭りを周れるようにしてくれているのか、歩くペースがかなり落ち着いていた。

 とは言え、これだけ人がごった返していると、下手したら無惨様と離れてしまいそうな気もするな・・・・・・。

 

「お父様。手を繋いでも構いませんか?人が多いので、小柄な私は流されてしまいそうです・・・・・・。」

 

 一か八か、無惨様に手を繋いでもいいか問いかけてみれば、彼はビビビッと電気が走ったような黄色の光を一瞬まとう。

 しかし、すぐに自身がいる場所がどれだけ人がいる場所かを確認しては、深く溜め息を吐いた。

 

「全く・・・・・・だからこのような場には出たくないんだ。」

 

 そして、軽く文句を口にしながらも、ぶらぶらと揺れている私の小さな手を、大きなその手で握りしめてくれた。

 鬼の始祖と言えど、子供が怪我をしないように抱っこすることもできるからか、握られた手に痛みはない。

 程よく、だけど、離れたりしないようにしっかりと握りしめられた手は、人よりちょっぴり体温が低いけど、確かな温もりがある物だった。

 

「ふふ、ありがとうございます、お父様。」

 

 手を握ってくれた無惨様に、笑顔でお礼を口にした私は、辺りにある屋台へと視線を巡らせる。

 祭りの雰囲気を味わいたかっただけだから、あれが食べたいだこれが食べたいだと言うつもりはない。

 見て周るだけでも楽しめるのは、どの時代でも変わらないのだから。

 

「・・・・・・かぐや。食べたい物があるならいいなさい。今日はまだ、夕飯を食べていないだろう?」

 

 そんなことを思っていると、無惨様から屋台で食べたい物があれば言うようにと告げられる。

 まさかのことに一瞬だけ驚いてしまったが、私はすぐに口元に笑みを浮かべる。

 

「やったぁ!実はいくつか食べたい物があったんです!」

 

 無惨様から許可を得られたなら、と私は屋台を見る中で食べてみたい物がいくつかあることを口にしては、何を食べたいのかを彼に伝える。

 一瞬だけ見えた無惨様の顔は、心からの穏やかな笑みだったような気がするけど、気のせい・・・・・・じゃないのかな・・・・・・?

 

 

 

 

 

【side KIBUTUJI.】

 

 

 いつもなら何かを言いたげな様子を見せたりはせず、大人しくしているうさぎが興味を示した夏祭り。

 チラシを取引先として選んだ人間から受け取ってしまった私からすれば、夏祭りなどくだらないとしか言い様のないものだったが、少しの気まぐれ。

 くだらないと切り捨ててしまうよりも、うさぎが大人しく私に従い、私の手元から離れないと言うのであればと、試しに連れ出しても良いと思った。

 

 最初は、私が急に連れ出したことにより、うさぎは戸惑いを浮かべていたが、チラシに書かれていた夏祭りであるとわかるなり、私とは少し違う紅色の瞳を、星屑を散りばめたのではないかと思う程に、輝かせる様子を見せる。

 

 鬼となり、太陽を克服することのみを考えてこれまで過ごしていた私からすれば、何が楽しいのやらと吐き捨てたくなるようなものではあったが、恥ずかしげもなく図々しくなったうさぎは、すでに何かを満喫するということすら忘れてしまった私であっても、楽しげにしていると言うのがわかるほどの無邪気さだった。

 

 ─────・・・・・・そう言えば、うさぎを連れ帰る際、金を押し付けておいた人間は、常に酒浸りになっているのではと思う程に酒臭い男だったな。

 

 うさぎの話からして、近隣に村があるのはわかっていた。

 だが、あれだけ酒精の臭いをまとわりつかせる程に酒を飲むような親の元にいたのだから、村に社があろうとも、縁日など経験する暇はなかったのだろう。

 

 そう考えれば、祭りに行きたいなどと言う考えを持つのも納得が行く。

 何が楽しいのかは、やはりわからぬ物ではあったが。

 

「お父様?どうかなさいました?」

 

「!ああ、祭りなど久々に来た物だと思っていてね。少しだけ意識を飛ばしていたようだ。」

 

「え、大丈夫ですか?ここは普段いる場所に比べて人が多いですし、人酔いをしてしまったのでは・・・・・・」

 

 眉をハの字に下げながら、こちらを見上げてくるうさぎ。

 表情からして、心底心配そうにしていることがわかる物だった。そんなうさぎの頭に、私は無意識のうちに手を伸ばす。

 うさぎから向けられる純粋無垢な感情は、相変わらず心地の良い物だった。

 

「大丈夫。確かに、慣れない場所に来たこともあって、少しばかり意識を遠くに飛ばしてしまったが、疲れているわけではないからね。」

 

 人の姿をしている今、普段のように振る舞うことはできないが、それならば偽りの姿のまま対応すれば良い。

 それに関しては、これから先も鬼狩り共からなるべく距離を取るためにも必要なことのため、特に苦ではない。

 

「そう・・・・・・ですか?はしゃぎ過ぎてしまって、お父様の負担になっていたら申し訳ないのですが・・・・・・」

 

「かぐやは気にせず祭りを楽しみなさい。次にこのような機会はいつ来るかわからないからね。

 仕事の関係上、毎年来ることはできないのだから。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

 それでも気にしている様子のうさぎに、気にしなくて良いことを伝えれば、うさぎは少しだけ考え込むような様子を見せた後、私に少しだけしゃがむようにと手で訴えてくる。

 私に対し指図するとは、とその図々しさに呆れながらも、少しだけしゃがんでやれば、うさぎはその場で背伸びをした。

 

「あの・・・・・・ありがとうございます、無惨様。ですが、本当に辛いと思った時や、無惨様が空腹を感じた時は言ってくださいね。

 見ての通り、私は十分楽しませていただいていますから、拠点に戻ろうと思った時は、いつでもお声がけください。」

 

 耳元で聞こえてきた言葉に、少しだけ目を見開く。

 しかし、私に言いたいことを言ったうさぎは、心配するような表情を見せたまま、私のことを見つめていた。

 

「・・・・・・相変わらずお前は、私に対してどこまでも無垢なまま気を遣ってくるな、うさぎ。

 ・・・・・・心理的に疲労した際は伝えるつもりだ。それまでは好きにすると良い。」

 

「はい。ありがとうございます、無惨様。」

 

 私の言葉を聞き、柔らかく笑ううさぎは、少しばかり年不相応に見えるような雰囲気をまとう。

 この娘は、時折年齢がよくわからなくなるな・・・・・・と脳裏で考えながらも、真っ直ぐと純粋に慕ってくるその姿は好感しか感じ取れなかった。

 

 ・・・・・・これまでは負の感情しか向けられることがなかった。哀れみや恐怖、もしくは焦燥、そのような感情ばかりが殆どで、純粋な陽の感情に触れて来たかと聞かれたら、触れてはいたが、機会が殆どなかったとしか言いようがない。

 

 かつて、人間だった頃に、妻として当てがわれた女共からも、哀れみや同情、気味が悪いなどと言う感情ばかりを向けられてきて、このように純粋な思いを向けられたことはなかった気がする。

 

 ─────・・・・・・うさぎと過ごし始めてから、このようなことばかりだな。

 

 私の様子を的確に察しながら、様々な行動を見せ、時には呆れを、時には拗ねたような感情を、時には焦りを、時には明るいばかりの喜びを、そして、時にはこちらを心配する感情を・・・・・・労いの感情を向けてくる。

 あまりにも図々しく、あまりにも馴れ馴れしい物だ。だが、真っ直ぐと純粋に向けられる、それらの思いは、空虚だった自分を満たす物ばかりだった。

 

 ─────・・・・・・鬼狩り共が向けてくる物は、怒りと憎しみと言った感情ばかりだからな。うさぎ程様々な感情を向けてくることは殆どない。

 

 ─────・・・・・・あれは鬱陶しい以外の何物でも無い。もしくは、しつこいと言ったところだろうか。

 

 だが、うさぎは違う。確かに、呆れや拗ねと言った負の感情も向けてくるが、それ以上に純粋で、温かさを感じ取れるような感情ばかりを向けてくる。

 聡明でありながらも純粋無垢・・・・・・周りを把握し、自身の身の振り方をしっかりと弁え、時にこちらが呆れてしまう程に振り回してくる予測のつかなさ・・・・・・。

 これまで出会ったことがないような人種ではあるが、変えられない心地良さは、今までの私にはなかった物だった。

 

 ─────・・・・・・まさか、これ程までに見たことがない人種がいるとは思いもよらなかった。

 

 しかし、この心地良さは、これまでにない程、自身の生活を彩る物となっていることは否めない。

 

 ─────・・・・・・太陽を克服することができれば・・・・・・。

 

 “この心地良さを、もっと感じ取ることができるのだろうか・・・・・・”

 

 そんな疑問を脳裏に過らせる中、辺りに笛の音と思われる甲高い音がこだまする。

 程なくしてそれは、大きな爆発音となり、提灯により照らされた祭りの舞台に、さらなる明るさを広げた。

 

「うわぁ・・・・・・!!花火が上がりましたね、お父様!!」

 

 不意に聞こえて来た大きな音に、反射的に視線を向けてみれば、一つ、また一つと、夜空を彩る満開の花が咲き乱れる。

 笛の音、爆発音、パラパラと言う火花を散らす音・・・・・・長く生きてきた中で、ゆっくりと見ることなど一度もなかった火の花。

 チラシには、祭りの終わりの近くに上がると書かれていたが、もうこのような時間だったのか。

 

「・・・・・・お父様?」

 

「・・・・・・花火など・・・・・・いつ頃から見ていなかったか・・・・・・。」

 

「!」

 

 小さく呟いた言葉は、すぐ側にいたうさぎに聞こえていたようで、僅かながらに目を丸くする。

 しかし、うさぎはすぐに小さく笑い、私よりも一回りも二回りも小さい手に力を加えてきた。

 

「・・・・・・あなたが、どれだけ生きることを切望しているのかは、側にいたからわかります。

 だからこそ、早く、もっと早くと沢山の試行錯誤を重ねて、一途に目的を果たそうとしていることも。

 ですが、急ぎ過ぎては逆に躓いてしまうと私は思っています。もちろん、あなたの行動を止めるつもりは毛頭もありませんが、時には穏やかな時間を過ごし、精神的な疲労を軽くして、集中力を改めて高めると言うのも手だと思います。」

 

 どこかハッキリと、透き通る鈴の音のような声音が鼓膜を揺らす。

 静かに声の持ち主であるうさぎへと視線を向けてみれば、うさぎは花火を見つめながら、柔らかく微笑みを浮かべ、空を彩る火の花を、紅色の瞳に映し込んでいた。

 

「稀にでもいいので、少しだけ休んで、頭を切り替えてみてもいいのではないでしょうか?

 もちろん、のんびりし過ぎるのも良くないですが、あなたの様子を見る限り、今の技術では研究に行き詰まりを感じてしまっているようですからね。」

 

 その紅色が私の方へと向けられ、紡がれた言葉は、どことなく幼子を宥めるかのような物だった。

 童扱いするなとは言ったが、うさぎ自身は私をそのように扱っているつもりはないのか、穏やかな声音で緩やかに言葉を奏でる。

 

「ほんの少しの息抜き程度ならば、一旦羽を広げてみるのも悪くないかもしれませんよ?

 もし、息抜きの相手がいないと言うのであれば、私が一緒に息抜きをお手伝いします。

 夜しか動けないのであれば、夜でもできることを少しだけしてみるのも良いでしょうね。

 例えば、お散歩とか、夜空を眺めるだけでも気分は変わりますよ。」

 

 再びうさぎの視線は花火の方へと向けられる。

 それに倣うようにして、同じく空へと目を向けてみれば、高々と大きな花が咲き誇った。

 尺玉と呼ばれる巨大な花火だったのだろう。それが夜空へと消えて行き、静寂と同時に星屑が散りばめられた姿を取り戻した。

 

「あなたがお酒を飲むのかはわかりませんが、もし、口にすることがあると言うのであれば、晩酌にも付き合いましょう。

 まぁ、私はお酒を飲めませんが、注ぐことはできますし、何か不満などがあるのであれば、お話も聞きますよ。

 解決することはできずとも、愚痴をこぼすだけでも良い頭の切り替えになると思います。」

 

 穏やかな微笑みから一転し、無邪気な明るい笑顔を浮かべ、再びうさぎは私の方を向ける。

 

「私は見ての通りですので、あなたが手駒にしている皆さんのような行動を取ることはできません。

 ですが、それでもできることはいくつかあると思うんです。勉学により、知識を身につけ、あなたのお手伝いをすることや、息抜きをするための話し相手をすることなど、ちょっとした裏方仕事ならばできます。

 あなたにとっては利用価値のある都合のいい小娘かもしれませんが、私からしたらあなたは、それでも育ててくれている恩人ですからね。」

 

 “だから、一人で抱え込み過ぎないでください”・・・・・・穏やかに紡がれた言葉は、どこかハッキリと頭に残るかのようだった。

 

 自身にできることを挙げながらも、必要であれば役に立とうと思っているのだと口にするうさぎを、私は少しだけ見つめ返す。

 ああ・・・・・・本当にこの娘は・・・・・・

 

「・・・・・・全く・・・・・・そこまで図々しくなるとは思いもよらなかった。本当に、お前はかなりの変わり者だな、うさぎ。」

 

「変わり者で結構です。私は自身に降りかかる恩を返したいだけですので。

 例え、降りかかった恩が打算ありきのものであろうとも、私にとってはありがたいことですからね。」

 

 緩やかに笑みを浮かべながら、恩を返したいだけだと口にするうさぎに、随分と律儀なことだと呆れてしまう。

 だが、目の前にいる年端もいかない子供の言葉は、どこか深く沁み入るようで、心地の良い温かさを運んでくるのは確かだった。

 

 “まるで、陽だまりのような娘だ”・・・・・・脳裏に過った例え言葉を飲み込みながらも、私は小さく溜め息を吐く。

 

「・・・・・・考えておこう。」

 

「検討して頂けるだけでも嬉しいです。」

 

 短く返した答えに対し、うさぎも短く返答をする。

 冷え切った対応をされようとも、平然と笑顔を見せてくるこいつは、一体何なのか。

 だが、日の光を克服するためだけに生きてきた私の中に、何かしらの変化を与えてきているのは確かだった。

 

 

 

 




 うさぎ
 まさか夏祭りに連れて行ってもらえるとは思わなかったが、しっかりと楽しむことにした稀血の白ウサギ。
 無惨様に対して恩はあるので、恩返しのためにできることをしようと考えている。
 割と図々しいが、無惨様の感情が見えるため加減はわかってるから気にしない!

 鬼舞辻無惨
 日に日に図々しくなるうさぎに呆れながらも、自分自身が見ている世界に、少しずつ変化を感じている鬼の始祖。
 純粋無垢に自身を慕う姿を見せる彼女に、変わり者だと思いながらも、心地良さを強く感じている。
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