その稀血うさぎは鬼との生活を謳歌する 作:時長凜祢@二次創作主力垢
急いては事を仕損じる・・・・・・急ぎたい気持ちはわからなくもないけど、急ぎ過ぎては上手くいかないことが増えてしまうだけだから、時には息抜きをするのも大事だとのんびり屋さんな発言を無惨様にしてから一ヶ月。
無惨様は、これまでのように、沢山の研究や仕事をこなしながらも、時折しっかり休む機会を設ける様になった。
私が指摘した通り、やはり無惨様の研究はどんな方向から進めても技術的に限界が近づいてきていた様で、最近はそのことに対してイライラをしっぱなしだった様だ。
“確かに・・・・・・私は少しばかり急ぎ過ぎたようだ”・・・・・・あの後彼が口にした言葉は、渋々と言った雰囲気ではあったが、本心からの言葉だった。
まぁ、認めたくはないが、認めざるを得ない・・・・・・が一番当てはまる感情だったけど、冷静さを取り戻したのか、自身が根を詰め過ぎてしまっていたことに気づくきっかけになったらしい。
そんな無惨様に、私は提案した。
研究や仕事を続けるのはもちろんあなた次第。ですが、続けるにせよ、たまにはゆっくりと羽を伸ばしましょうと。
それに思うところがあったのか、無惨様は試しに休んでみることも時折挟んでみると口にして、その日の会話は終わらせた。
それからと言うもの、無惨様は人間を使った「青い彼岸花の情報収集」や、「日光を克服する鬼の試行」や、自身の手持ちにある「研究器具を使った実験」をこれまで通り行いながらも、時折休むようになった。
時には私を城の外に連れ出し、夜の世界を散歩して、時には稀血を使った晩酌を行い、私にそのお酌を命じ、時にはあまり興味を持っていなかった小説を読み漁り、私が気に入ってる小説の話を聞いてきた。
その全てに私が対応すれば、無惨様もたまに力を抜くことができるようになったのか、これまで以上に繰り返し行ってきたことに力を入れることができるようになったと私に伝え、どこで買ってきたのか、明治の時代ではかなり高価な洋菓子であるフルーツのジャムが使われたタルトをご褒美として渡してきた。
この時代、タルトってあったの・・・・・・?と最初は困惑していたが、どうやら都市部には洋菓子のお店や、洋服を取り扱う呉服屋がちょくちょく出回っているようで、外国との貿易が本格化し始めた頃から、人が集まる地域では、そう言った店が増えているのだと教えてくれた。
そう言えば、無惨様の人間擬態中のお仕事部屋にはカレンダーがあったな・・・・・・。
西暦からして、明治時代後期っぽかったし、明治初期から西洋文化は少しずつ入っていたから、後期にまでなると、都市部は西洋文化の広がりがかなりあるのか・・・・・・。
それならば、洋菓子店や喫茶店が増えていてもおかしくないし、タルトも食べれなくもないな・・・・・・,
まぁ、かなり高価なものだった気がするけど・・・・・・。
「わぁ・・・・・・!外国のお菓子なんてありがとうございます!ですが、これってかなり高級だったのでは・・・・・・?」
「確かに、一般の菓子に比べたら値は張ったが、それなりに貯えは持ち合わせている。
実験に使う道具を一式集めることに比べれば、気にする程のものでもない。」
「な、なるほど・・・・・・。本当に無惨様は金銭的な余裕がかなりあるんですね。」
「それくらいせねば、千年の時を太陽の克服に費やすことなどできるはずなかろう?」
「それは言えてますねぇ・・・・・・」
貯えがあるのは当然であると、ハッキリとした声音で口にする無惨様に、少しだけ苦笑いをこぼしてしまう。
だけど、久々に食べることができる洋菓子は、素直に嬉しいため、遠慮なくいただくことにした。
「ん〜・・・・・・!すごく甘くて美味しいです!初めて食べました!」
もちろん、前世を含めたら初めてではないが、この時代の私は初めて口にするもののため、体がその甘さにかなり驚く。
そうそう。前世でも初めてタルトを食べた時はこんな感じだったっけ・・・・・・なんて、この体で感じる初めてのことに感動しながら、一口、また一口とタルトを口にした。
「・・・・・・洋菓子を買った店で、これに合うのは紅茶だと聞いた。」
「紅茶・・・・・・ですか・・・・・・?」
「ああ。緑茶が主流であるこの国では、名を知る程度が殆どであろうが、入り込んではいてな。
取引先の人間からも渡されたことがある。淹れ方を知る者もいたな。富裕層の方では、度々飲まれていることがあるそうだ。
英国の方では、紅茶が日常的に飲まれているそうでな。学ぶ機会があったと言う人間に淹れ方を見せてもらったことがある。
利用できそうな知識ゆえ、一応、取引などをする際に使える程度に取り入れてみたが、味の良し悪しは知らん。」
そう言って、無惨様はケーキを食べる私のすぐ側に紅茶が入ったティーカップが乗せられたソーサーを置いてきた。
何度か瞬きをしていると、彼は再び口を開く。
「それを買った店の人間曰く、菓子を口にして茶を飲むそうだ。この国に長らく根付く茶の湯の文化と似たような物が英国にはあるらしい。」
「なるほど・・・・・・」
まさか、無惨様が紅茶を淹れてくれるとは思わず、少しだけ呆けてしまう。
だけど、出された紅茶はとても良い香りがして、タルトを一口食べた後、少しだけ紅茶を口内へと流し込む。
「!・・・・・・美味しいです、無惨様。お紅茶を淹れてくださりありがとうございます。」
「・・・・・・ただの気まぐれに過ぎん。」
「それでも私は嬉しいので、感謝の言葉は述べますよ。与えられた物に対する感謝を述べることは、どのような場所であろうとも礼儀ですから。」
「・・・・・・フン・・・・・・。」
利用できる程度に学んだだけだと口にしても、とても美味しい紅茶とタルトをもらえたことがとても嬉しくて、笑顔で感謝を無惨様に述べれば、彼は、軽くそっぽを向いてしまう。
彼の周りを揺らぐのは、ふわふわと柔らかな薄紅色。表情からは読み取れないが、なんだか少しだけ照れているように見える。
無惨様でも、そんな感情を抱くことがあるんだと思い、小さく口元に笑みを浮かべ、タルトと紅茶を口にする。
少しだけ甘さが強いけど、紅茶がうまく調和してくれているおかげで、すごくバランスが取れている。
そんなことを思いながら飲食を続けていると、横から無惨様の手が伸びてきて、タルトを刺していたフォークを腕ごと引っ張られた。
「おわ!?」
「・・・・・・これのどこが旨いの全くかわからんな。」
「ええ!?ちょっと無惨様!!人が食べてるのを勝手に食べないでくださいよ!!」
「お前が間抜けヅラを晒して一心に喰らい付いているから気になっただけだ。」
「間抜けヅラって・・・・・・!!確かに黙々と食べていたのは否定しませんけど!!」
急になんだと思ったら、あっさりと食べられてしまった一口のタルト。
千年も生きていれば、食事をしたとしても味などわからなくなるとか言っていた彼が、自身の栄養にすらならないタルトを食べてしまうとは思わず、不意打ちで行われた出来事に、つい抗議の声を挙げてしまった。
・・・・・・いや、これじゃあ私が食い意地張ってる人間にしか見えないけど!!
折角久々に食べたタルトなのに!!
「人間が食べる物は栄養にならないんじゃなかったんですか?」
軽く拗ねた感情を抱きながら、無惨様に問い掛ければ、彼はすぐに口を開いた。
「確かに栄養にはならんな。予想通り、あまり味もわからぬ。」
なんの影響も齎さない・・・・・・予想通りの返答に、だったら食べるなどくちをとがらせる。
そして、静かに口を開いた。
「人間なんて血と脂肪と筋肉の塊な上、中には胃酸だったり普通に排泄する必要がある物質だったり骨が大量にあったりな生き物なんですから、長年食べ続けていたらそりゃ味覚なんてぶっ壊れますって・・・・・・。
家畜を肉として食う時も、魚を食らう時も、骨抜きや臓腑抜きをしたりするでしょう?」
「・・・・・・言われてみればそうだな。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・。」」
無意識に告げた言葉により、その場に沈黙が訪れる。
あれ?冷静に考えたら鬼ってかなりとんでもない物を食べてないか?
中には丸々一人全部食べるのだっているわけだし、無惨様は原作の後半で鬼殺隊を大量に食らっていた際、結構ガッツリ食べてたよね?
「えーっと・・・・・・鬼ってなんか、大変ですね・・・・・・?」
「・・・・・・言うな阿呆。」
一瞬のフリーズの末、やっとこさ出てきた言葉に、無惨様が複雑な感情を示すかのような混ざりに混ざった色合いのモヤモヤな光をまとう中、内心で思わず合掌してしまう。
いや、本当に鬼って苦労するわ・・・・・・。人間も苦労するけどさ・・・・・・。
「・・・・・・人間の解体技術でも学ぼうかな。」
「お前は何を言っているのだうさぎ?」
「・・・・・・すみません、かなり混乱しております。」
「だろうな。」
微妙な空気が流れる中、私は少しだけ考え込む。
無惨様は長く人肉ばかりを喰らってきて、それを繰り返し行い続けているため、生きることに必要な義務的作業として食べ続けている。
きっと、こればかりはこれからも変わらないのだろう。生きることに必要なのだから、食べるしかないと振り切って。
「・・・・・・味を変更できないかな?」
「味を変更するだと?」
「はい。私達人間は、食事をする時、必ず肉や魚、野菜等を調理しますから、人肉にも適応できないかと。
まぁ、こればかりは人間である私にはわからないことですけどね。人肉の味なんて知らないし、それに合わせた味付けとかもわかんないので。」
無限城内部や無惨様のお側、黒死牟や鳴女さんと半年間ずっと暮らしていれば、感覚と言うのはかなり麻痺してくる物。
一緒に過ごす過程で、彼ら、または彼女らの側をうろついていれば、必然的にスプラッタなB級映画の如く血塗れな場面に出くわすこともある。
だけど、彼らが生きるために必要なことで、残酷ではあるけど、豚肉や牛肉、鶏肉や魚などの命を食らっているのは人間も同じこと。
彼らにとっては、家畜の肉や、海の魚が人間に置き換わってしまっただけであることを知ってしまっている以上、自分達がしていることと何が違うのだろうとすら思ってしまうようになっていた。
あまりよろしくない流れではあるのだろう。でも、鬼であろうとも生き物であることに変わらず、半年も共に暮らしていれば、ただ食性が違うだけの人のような感覚に陥ってしまうのだ。
もちろん、やっていることは大罪だ。だけど、生きるために必要なことをしている彼らを見ていると、複雑な気持ちになってしまう。
だからだろうか?こんな突拍子もないことを口にしてしまったのは。
・・・・・・うん、きっとそうなのだろう。鬼殺隊にとって、彼らは明確な悪の象徴・・・・・・だけど、私にとっては、食性が違うだけの新たな人種と言う認識しかできなくなっているのだから。
「ふむ・・・・・・お前が言ってることは一理あるな・・・・・・。手間はかかりそうだが・・・・・・」
私の発言に対し、興味を示した無惨様。
まさか、人肉を調理してみると言う考えをこの人は出した事がなかったのだろうか・・・・・・。
「試しに、お料理の経験がある人に話を聞いてみては?」
「であれば、鳴女辺りが良いかも知れんな。確かあやつは、かつて夫がいたはずだ。
もしくは、これまで生み出した鬼共の中から、料理ができる者を探してみるか。ある程度の位置は把握できているのでな。」
私の提案に耳を傾けるのもだけど、サラッと試してみようとする無惨様の図ってかなりシュールだな・・・・・・。
でも、まずは心に豊かさを。少しでも無惨様が穏やかに過ごせるように、何かしらできることをこなすまでだ。
自身にできないことは、提案として提示する。それを試してみるかどうかは、無惨様に一任して。
「短期間だけ導入してみるか。時間の無駄になり得るだろうが、どうせ今はあまり研究も捗らん。
息抜きにどうでも良いことを試してみるのも一興だ。」
そう言って無惨様は、鳴女さんの名前を呼び、私の話をそのまま彼女にしてた。
最初、鳴女はまさかの依頼にかなり驚いていたが、すぐに無惨様の提案に頷き、試行してみることを告げる。
二人のやりとりを離れた位置で見つめていた私は、そのままタルトを食べ切った。
うさぎ
稀に突拍子もないことを口にしては、無惨様から呆れられている稀血の白ウサギ。
この日から、無惨様がなんか普通に人間が食べるような料理を口にする姿を頻繁に見ることとなり、その傍で一緒に食卓を囲むようになった。
それに使われてるの、全部人肉なんですよね・・・・・・?
鬼舞辻無惨
度々突拍子もないことを口にするうさぎに呆れとツッコミを口にする事が増えてきた鬼の始祖。
試しに鳴女に人肉を使った料理を作らせ始め、見た目から人肉入りには見えない料理をうさぎと並んで食べるようになった。
不味いわけではないが、気分転換程度にしかならぬな・・・・・・。