その稀血うさぎは鬼との生活を謳歌する   作:時長凜祢@二次創作主力垢

7 / 45
稀血のうさぎは困惑する

「うさぎ。こちらに来い。」

 

「はい?どうしました、無惨様?」

 

 黒死牟と一緒に過ごした日の夜。人間の世界で擬態しながら過ごし、お仕事をこなして戻って来た無惨様の手により、いつもの部屋へと連れ戻された私は、与えられている部屋の中で、無惨様が貿易商の関係者モードの時に使っている屋敷にある本棚から拝借した小説を、拡大鏡を使いながら読み耽っていた。

 そんな中、私に与えられていた部屋に、座椅子を持ち込んで座っていた無惨様に名前を呼ばれ、首を傾げながら歩み寄ってみると、彼の側に、ずらりと何かが並んでいる。

 よく見るとそれは複数の髪飾りで、どれも綺麗な物ばかりだった。

 

「好きなのを選べ。」

 

「・・・・・・え?」

 

 お仕事に使うのか、お仕事により会得したのか、どちらにせよ、沢山の髪飾りがあるなと思っていたら、無惨様から短い命令を下される。

 まさかの命令に、思わず困惑していると、チリッと彼がまとう光が赤に変わり、わずかながら刺々しさを帯びる。

 

「二度も言わせる気か?」

 

「あ、いえ、そう言うわけではありません・・・・・・」

 

 この数ある髪飾りの中から選べと?正気か?と混乱しながらも、無惨様にブチギレたくないと本能的に考え、目の前にある複数の髪飾りに視線を落とす。

 細かい装飾が綺麗で華やかな髪飾り。トンボ玉があしらわれた簪。他にも、あらゆる種類の髪装飾が沢山並んでいる。

 どれも高価そうで、私なんかがつけて似合うのだろうかと思いながら見つめ続けた。

 

 そんな中、不意に、一本の簪が視界に入る。おそらくだが、真鍮が使われている簪で、三日月の夜を思わせる彫刻が刻まれている。

 さらには、三日月を模した彫刻を背景に、一羽のウサギが月を目指して跳んでいるかのような躍動感を持ち、両目に嵌る赤瑪瑙と思わしき石に光を反射させていた。

 

 それを少しだけ見つめた私は、無意識のうちに手を伸ばす。

 刻まれたウサギの両目に嵌る赤瑪瑙・・・・・・不思議な巡り合わせにより、アルビノとして生まれてしまった私や、目の前にいる孤独な人の目を思い起こさせるものだった。

 

「・・・・・・そう、ですね・・・。一つだけ選ぶとしたら、これでしょうか?瞳の位置に嵌め込まれている赤い石が、とても綺麗なので。

 何より、無惨様がつけてくださったうさぎと言う名前が私にはありますし、不思議と惹かれてしまいます。」

 

 両手で簪を持ち上げながら、選ぶのであれば真鍮でできた月とウサギの簪がいいと口にすれば、無惨様は「そうか」と短く言葉を口にしたのち、私が手にした簪を取り上げる。

 なんで取り上げたんだ?と首を傾げていると、無惨様は私の背後にさっさと回り込み、こちらの髪に触り始めた。

 感触から、髪に手櫛を入れられているのだろうか?同時に、髪をまとめられる感覚。

 何が起こって・・・・・・?と混乱して固まっていると、髪に触れていた手の感触が離れる。

 

「えっと・・・・・・何をされて・・・・・・?」

 

「自分で確認しろ。」

 

 現状が上手く飲み込めず、戸惑いながら無惨様に声をかけると、無惨様は私に何かを手渡して来た。

 それは、装飾が綺麗な手鏡で、どことなく上品な雰囲気のあるものだった。

 静かにそれを受け取り、先程まで無惨様が弄っていた自身の髪を映し込めば、ハーフアップのようにして髪がまとめられており、ちょうど結い上げている場所には、先程選んだ簪が挿し込まれていた。

 

「・・・・・・綺麗・・・」

 

 完璧に結われている髪を見て、無意識のうちに言葉を紡げば、すぐ近くにいた無惨様が小さく鼻を鳴らす。

 それは、どことなく満足気に笑っているような音で、何度か瞬きを繰り返したのち、彼の方へと視線を向けた。

 イライラを示すような赤はない。穏やかな黄色と、優しくオレンジが混ざったような、緩やかな光だけが彼の周りに揺らいでいた。

 

「私、髪を結ったのは初めてです。そもそも、誰かに髪を結ってもらったこと自体、初めてなのですが・・・・・・その、ありがとう、ございます。」

 

 まさか、簪を貰えるどころか、そのまま無惨様に髪を結われ、簪も挿してもらえるとは思わず、戸惑いながらも感謝の言葉を述べる。

 無惨様はと言うと、戸惑いを隠しきれていない私に対してイラつくような様子を見せることなく、下ろされている私の白い髪に手を伸ばし、揺らぐ髪へと指を通すように触って来た。

 髪に指を通される際、チラリと見えた無惨様の手には、鋭い爪は見当たらない。

 そう言えば、原作でも無惨様って爪が尖ってる時と尖ってない時あったな・・・・・・なんて、少しだけ考えながらも、大人しくしていると、彼の口元にうっすらと笑みが浮かぶ。

 笑みを浮かべた彼の周りには、赤と紫が混ざり合い、鮮やかな赤紫色とも言えるような光がゆったりと、グラスに満たされた水のような揺らぎを見せており、膨れ上がっているようだった。

 

「今日はもう直ぐお前が眠る時間だ。その髪は解いて構わん。だが、明日、起床したら必ず簪と髪結紐を持って私の元に来い。わかったな?」

 

「わかりました、無惨様。」

 

 彼の指示に静かに頷けば、無惨様は再び満足そうな様子を見せて、部屋にあった座椅子から立ち上がる。

 多分、今日もまた、彼は日の光を克服できる鬼の試行、および、青い彼岸花の捜索を行うのだろう。

 まぁ、最近は、私の血の研究をしている時間がそれなりに長いと鳴女さんから聞いた気がするけど、時間がかかることもあり、原作通りの行動も行なっているのだろう。

 

 そんなことを思いながら、手にしていた本に栞を挟み、静かに閉じれば、無惨様は私がいる部屋から接続されている別の部屋へと徒歩で向かって行った。

 

 あ、入った部屋に一瞬フラスコが見えた。鬼だから睡眠がいらない分、色々と調べることができるんだろうな・・・・・・。

 

 ─────・・・・・・そう言えば、原作内で珠世さんは禰豆子の血を調べながら、同時に炭治郎が倒した鬼から採取された無惨様の血も合わせて人間に戻る薬を作り上げたけど、あの原作の話って、大体どれくらいの時が経過した話になっていたんだろ?

 

 炭治郎が鬼殺隊になるべく、鱗滝氏の元で修行と鍛錬を重ねた時間は二年だったはずだけど、そこから選別を乗り越え、鬼殺隊に必須な日輪刀などを入手するまで一週間から二週間かかり、そこから鬼殺隊としての行動を開始した。

 

 漫画の中だと度々時間の経過が記されていたけど、それから計算しても、大体一年から一年弱・・・・・・辺りだろうか?

 となると、その短期間で珠世さんは禰豆子の血と、無惨様の血の分析を済ませたことになるはずだから、設備が結構整っている無惨様がこっちの血液を分析し終わるのってかなり早くなるような・・・・・・?

 それとも、あれは大正の技術があってこそ?明治と大正の研究機器の進化や成長はどれ程差があるのだろうか・・・・・・。

 

「・・・・・・まぁいっか。考えてもわからないし。寝よ寝よ。」

 

 少しの間考え込んだが、すぐに難しすぎると判断した私は、無惨様から許可を出されたこともあり、まとめられていた髪を静かに下ろして、ウサギの簪へと視線を落とした。

 

「・・・・・・あれ?簪もらったのはいいけど、お上の方々から贅沢はあまりしちゃいけないって言われてなかったっけ?」

 

「簪は、女人が髪をまとめるために必要な道具ですので、規制はかなり緩いですよ。」

 

「そうなの?」

 

「はい。ガラス細工でできた物であれば、規制の対象になっていたと思いますが、真鍮と、赤瑪瑙であれば、規制の対象にはなりにくいかと。」

 

「なるほど・・・・・・あれ?でも、無惨様が選ばせようとしていた簪の中には、トンボ玉や、ガラス細工があしらわれた物がありませんでした・・・・・・?」

 

「恐らくですが、うさぎ様は基本的に城の中から出ることがないため、問題はないと判断し、用意していたのかもしれませんね。」

 

「ええ・・・・・・?」

 

 それはそれでどうなんだと少しだけ思いながらも、私は自身がいる部屋の押し入れに入れていた布団を取り出す。

 このお布団、ふかふかのふわふわだから寝心地が良いんだよね。

 

「就寝しますか?」

 

「はい。夜遅くまで起きていたら、無惨様に怒られそうですしね。無惨様が必要としているのは私の血液ですし、もし、体調を崩したりして、質に異常が出ていたりしたらいけないので。」

 

「わかりました。では、灯を消しておきます。おやすみなさいませ。」

 

 鳴女さんと少しだけ会話をしながら、いそいそと布団の中に潜り込めば、私がいる部屋の明かりが消える。

 真っ暗闇過ぎて何も見えないが、枕元より少し離れた位置に置いた、簪と結い紐、それと鏡の位置は把握できていたため、軽くそれを撫で上げた。

 

 ─────・・・・・・綺麗な簪と鏡・・・・・・無くさないようにしないと。

 

 どうしてそれらを渡されたのかはわからないけど、無惨様が折角用意してくれた装飾品は、とても嬉しい物だった。

 こっちを利用するために用意された物だとしても、前世で誰かに物をもらったことはなかった。

 あったとしても、誕生日の時に家族や友人からもらうだけで、男性から何かをもらうなんてことは、前世でも今でも初めての経験だったのだ。

 だからこそ、すごく嬉しかった。こんなに綺麗な物を、与えてくれたことが。

 

 ─────・・・・・・うーん・・・・・・これまでの鬼の行動からすると、鬼殺隊側の鬼を根絶やしにする、無惨様を終わらせるって考えは正しいことだし、仕方ないことだと思うけど、無惨様には無惨様の理由があるし、なんとも複雑な気分である・・・・・・。

 

 そんなことを思いながら、自身が持ち合わせている複雑な心境に、モヤモヤとした気持ちを抱きながら、私は静かに目を閉じる。

 令和の世では、夜更かしなんて当たり前で、普通に寝る前にスマホをいじったりしていたけど、明治にはそんな道具はない。

 LEDの電気もないし、灯りを消してしまえば真っ暗闇。できることと言えば、こんな思案ばかり。

 でも、こっちで二、三週間も過ごしていると体内時計が出来上がってしまい、暗くなる=眠るの方程式が出来上がってしまうと言う。

 

 ─────・・・・・・ん、眠くなってきた。寝よ。

 

 しばらく目を閉じていれば、すぐに眠気に襲われる。

 それに従うようにして、私は静かに呼吸を繰り返し、夢の中へと意識を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 【side KIBUTUJI.】

 

 鳴女を通し、その場でうさぎが眠りに落ちたことを確認した私は、しばしの間、無言になり、その場で一つ溜め息を吐く。

 

「・・・・・・私は何をしているのだ。」

 

 呟かれた言葉は、自身が起こした行動に対して抱いた理解不能だと言う呆れだった。

 ・・・・・・たまたま出会した白子の娘。自身の血を分解してしまう効能を持つ稀血を宿していた珍しい人間。

 これから先の未来、数百年、数千年とかかっても、なかなか巡り会うことはないであろう珍妙な子供。

 

 その程度の認識だった。珍しい体質、珍しい血液、死をも超越した完全なる生き物へと至るために、利用することができると思ったために、飼い殺すことに決めただけだった。

 役に立たなければ切り捨てる・・・・・・全てはいつも通りの考えだった。

 

 だが、目的のためだけに飼い殺すつもりでいた珍妙な小娘と過ごすうちに、認識が少しずつずれ始めていることに、思わず表情を歪める。

 

「私が・・・・・・こんな小娘如きに絆されるなど・・・・・・」

 

 “あり得るはずがない”・・・・・・そう紡ごうとした口は閉ざされる。

 脳裏に過るのは、私の元から一時的に離れ、黒死牟と過ごしていたうさぎが、ころころと表情を変える姿。

 

 私の前では、ただ小さく笑いながら、時折ずれたような言葉を口にしてくる大人びた幼子。

 私が近寄るなと思っている時は、言葉を紡ぐことなく様子見をして、特に苛立ちなどを抱いていない時に、ほどほどに話しかけて来る。

 その姿は、あまり不快だとは思わなかった。役に立たぬ駒や、人間共とは違い、心地良さすら覚えていた。

 私と言う存在を、そのまま尊重するような行動は、好ましいとすら思っていた。思ってしまった。

 

 だが、うさぎを預けた黒死牟の目を通して私が見たのは、興味津々に黒死牟の刀を見て、それに気づいた黒死牟から声をかけられた瞬間、一瞬だけ目を丸くしては、目を輝かして笑ううさぎの姿だった。

 

 未知に触れた時は、年相応に驚きながらも、好奇の色を瞳に宿し、会話の中で見せた表情の中には、少しだけ拗ねたような様子も見せる。

 “面白くない”・・・・・・自身に過った感情のまま、私はうさぎの元へと向かった。

 

 私が姿を見せた際、うさぎはびっくりしたように悲鳴を上げ、そのまま慌てふためいていた。

 初めて見せた、うさぎが持ち合わせている明確な感情。しかし、表に出てきたうさぎの焦燥は、すぐになりを潜めてしまい、謝罪と共に見えなくなった。

 恐る恐ると言った様子で、自身の姿を見つめ返す姿は見せたが、その姿には不快感しか抱けなかった。

 

 だが、同時に鼻腔を掠めた金木犀のような香りに、その不快感は消え失せてしまい、その香りに心地良さを見出してしまった。

 調子が狂う・・・・・・それ以外の言葉が見つからぬ程に。

 

 私はすぐにその場から離れた。うさぎを生かす為に持ってきていた握り飯だけを手渡し、夕方には戻ると告げながら。

 私の言葉を聞き、黒死牟とうさぎはすぐにそれを承諾し、互いが行うべき行動に移していたが、その際に一瞬見えた姿は、今でも思い出してしまう。

 

 『怒られてしまいました・・・』、眉をハの字に下げ、うさぎが紡いだ小さな呟き。

 落ち込みと言う言葉が当てはまるような表情の変化に、何故その感情を私の前では見せようとしないと吐き出したくなった。

 

 “面白くない”・・・・・・私の前ではなく、黒死牟の前で表に出されていく感情は、不快だった。

 お前を拾ったのは誰だ?お前の主は誰だ?お前に、うさぎの名を与えたのは誰だ?

 何故、私の前では感情を見せない?何故、黒死牟の前では表情を変える?

 時間の経過を見ても、私の方がうさぎと共にいる時間が長いはずだ。だと言うのに、何故、お前は私の前で表情を崩さない?

 

 募る苛立ちに、目の前にある物を全て薙ぎ倒したくなる。だが、この場にはうさぎの血液もあり、緩やかに漂う金木犀の香りが、一瞬の行動を制御する。

 そのことに再び深く溜め息を吐き、私は部屋にあった椅子へとそのまま座り込んだ。

 

「・・・・・・本当に・・・・・・お前の血は調子を狂わせる。」

 

 私が持ち合わせている血液の分解・・・・・・それを可能としているが故に、苛立ちや、食人衝動と言った物を抑制してしまうことができることはすでにわかっていた。

 自身の感情が昂る中、ほのかに揺蕩う金木犀の香りが嗅覚を掠める度に、理性的になるのである。

 

 だが、最近わかったことは、それだけではない。

 西洋に存在する香水と呼ばれる液体や、日本にある匂い袋などは、温度の変化により香り方が変わる。

 うさぎの稀血の匂いにもそれは適応されているのか、うさぎの体温が加わることにより、その匂いは強くなる。

 それを感じ取る度に、自身の頭は冴えていき、苛立ちは完全に霧散されていく。

 

「何なんだ、お前は・・・・・・」

 

 これまで生きてきた中で、ここまで苛立ちが抑えられ、理性的になり、頭が冴えるような時はあっただろうか?

 私が持ち合わせている記憶の中に、そのような経験は一つもなかった。他人に干渉され続けるのは不快以外の何物でもないはずだと言うのに、私の方へと踏み込むうさぎには、それを抱くことがない。

 

 黒死牟の元に預けていた時も、感情を見せるように表情を崩すうさぎに対する苛立ちより、何故、私より先にお前がうさぎの表情を崩しているのだと言う剣士に対する苛立ちの方が強かった。

 うさぎを最初に見つけたのは、私だと言うのに、何故、私より先にうさぎから懐かれているのだと、感情的になりそうだった。

 

 ─────・・・・・・何故、私がこのような考えを抱かなくてはならないのだ。

 

 脳裏を過った言葉に、再び溜め息を吐きたくなる。

 

 ・・・・・・不意に、私は先程のうさぎの姿を思い出した。

 戸惑いながらも、真鍮で作られた月とウサギの簪を両手で持ち、ウサギの目に嵌る赤瑪瑙を見つめながら、笑みを浮かべていた姿だ。

 その時のうさぎは、いつも私の前で見せている笑みとは違い、明確な喜びを把握することができる笑みだった。

 

 女人が物を男から受け取った時、心から笑うことがある・・・・・・うさぎの笑みは、まさしくそれを感じ取れる程のものだった。

 

 “ようやく表情を崩したか”・・・・・・そのようなことを考えながら、私はうさぎの月光のような髪を、街中で見た若い娘がしている髪型を参考にしながらまとめ、うさぎが選んだ簪を挿した。

 最初のうちは不思議そうにしていたが、その時に手渡した手鏡を使い、自身の髪が結われていることに気づいたうさぎは、わずかに頬を染めながら、綺麗だと小さく呟いた。

 

 綺麗だ何だと言う言葉は、私にとっては瑣末なもの・・・・・・だが、うさぎが明確に喜びを見せ、表情を崩し、頬にわずかな紅色を乗せて笑う姿に、何かが満たされる感覚は確かにあった。

 

 ─────・・・・・・そのまま、感情は私の前だけで出せばいい。

 

 確かに抱いたわずかな欲・・・・・・支配欲や優越感、独占欲などと言った感情にも似た思考。

 このような物を、他人に向けるようなことになろうとは思わなかったと考える。

 同時に、これまで他人に対する関心など皆無に等しかった自身の変化に、わずかながらの驚きを抱く。

 うさぎは、どうやら、見た目や体質だけでなく、影響力まで異質だったらしい。

 

「千年生きる中で、まさか、このような子供に巡り会うことになるとはな・・・・・・」

 

 長生きをしていれば珍妙なことが起こるとは聞いていたが、まさに、今がその時なのだろう。

 そんなことを思いながら、私は目の前にある机に向き直る。

 

「西洋の道具は輸入され、研究環境は整ってきてはいるが、やはり限界は来るか・・・・・・。

 少しずついい物へと変化していくのはこれまでの経験上からわかってはいるが、少なくとも五年以上はかかりそうだな・・・・・・。」

 

 だが、五年や十年が何だと言うのか。これまで長く生きてきた者からすれば、それは瑣末な時間経過に過ぎない。

 私の手元にうさぎがいる限り、うさぎが生き続ける限り、問題など存在していないも同然なのだから。

 

「鳴女。今宵も私は『青い彼岸花の捜索』と、『日の光を克服する鬼の試行』を行う。

 うさぎの血の研究は、少なくとも数年はかかりそうだからな。これまで通りの行動も並行する。今からいう場所へと飛ばせ。」

 

「かしこまりました。」

 

 隣の部屋に足を運び、眠るうさぎの様子を見つめていた鳴女に声をかければ、鳴女はすぐに承諾の言葉を口にする。

 それを確認したあと、私は布団に包まり眠るうさぎへと視線を向けた。

 

 わずかに入り込む接続した部屋の明かりにより、うさぎの髪は白銀に輝く。

 相変わらず、珍しいまでの月魄色だと思いながら、うさぎの手元へと視線を向けてみれば、私が与えた簪と手鏡に触れたままであることに気がついた。

 眠りに落ちたまま、簪と手鏡に触れているとは、何ともおかしな寝姿だ。しかし、呆れと同時に出てきた“それも悪くはない”と言う考えに、私は少しだけ固まる。

 

「フン・・・・・・人間だった時、数人程妻をあてがわれたことはあったが、このような感情は、全く抱いたことはなかったな・・・・・・」

 

 絆されていない・・・・・・その言葉を完全に否定する感情の変化に、溜め息を吐きたくなりながらも、私は眠るうさぎへと近寄る。

 髪が長いためか、寝顔は完全に隠れている。邪魔だと思い、その髪を軽く払いのければ、無防備としか言いようがない幼なげな寝顔が現れた。

 

 ここへと連れて来たのは私自身であり、食らうことはないと告げたのも私自身。

 とは言え、人喰いの鬼が複数いる中で、これ程無防備に眠るとは・・・・・・いささか警戒心が足らないように見える。

 

「全く・・・・・・無防備以外の何物でもないな。逃げる術を持たぬ幼子だと言うのに・・・・・・」

 

「恐らくですが・・・・・・それだけ、無惨様を信頼しているからかと思われます。

 この城の中で、うさぎ様にとっての一番の安全地帯は、うさぎ様を食らわないと言った、無惨様のお側だと思いますので。」

 

 鳴女から告げられた言葉に、少しだけ無言になる。

 だが、すぐに頭を切り替えた私は、鳴女に今宵、向かおうと思っている位置を告げ、そのまま私は移動した。

 

「・・・・・・私を信頼するなど、愚かにも程があるな。」

 

 だが、向けられているそれは、決して不快なものではなかった。

 数週間で、大分狂わされてしまっているなと思わなくもない。しかし、確かに抱いた心地良さに関しては、否定する気にならなかった。

 

 

 

 




 うさぎ
 初めて家族以外の男性から贈り物をもらい、かなり嬉しかった稀血のうさぎ。
 無惨様が自身に簪と手鏡を与えた理由は正直言ってわかっていないが、与えられた簪と手鏡は、ずっと大事にしようと笑みを浮かべる。

 鬼舞辻無惨
 うさぎに絆されつつある鬼の始祖。
 自身の行動に対し、理解不能だと思いながらも、うさぎから齎される心地良さを否定することができず、溜め息を吐く。
 黒死牟や鳴女に対し、ころころと表情を変えるうさぎを見て面白くないと思ってしまったことは、これからの彼の生活に、沢山の変化をもたらすことになる序章に過ぎないのだが、本人は気づいていない。

 鳴女
 うさぎ様と過ごす無惨様、何やら雰囲気が柔らかくなりますね・・・・・・と、送り出した自身の主を見送った後考えていた琵琶の鬼。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。