災い転じてヒモとなす   作:ぱぱパパイヤー

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平日昼間のファミレス

 目を覚まし、身支度を整える。

 適当な服に着替えて、外に出た。家の中に一人で閉じこもっていたら、希死念慮に呑まれて狂いかねないので、とにかく外に出るのだ。

 チェーンのファミレスに入り、目についた季節限定のパフェを頼む。窓の外を眺めて、ボーッと商品を待った。

 あまり原作については考えないようにしていたのだが――考えていると、いずれ死ぬ運命なことに嫌気が差すため――そろそろ物語が始まってしまう頃ではなかろうか。

 俺は俺というキャラクターを知っている。原作では結構主要キャラで、女王蟻に気に入られるために、やたらと主人公を付け狙う「真社会」の構成員の一人だ。

 原作では俺は任務成功率100%の男だった。失敗しても必ず生きて拠点に戻り、成功するまで何度でも相手を追い詰める……とかいう陰湿なスタイルだったはず。俺はそんな面倒なことはしたくないので、原作知識を生かして色んなやつの技をパクってなんとかしているが。

 原作においては、主人公の特別な力を女王蟻が求めていることを理由に、主人公一行を襲うのが俺の将来的な死因とのエンカウント理由だが……外見年齢からして、その命令がいつ来てもおかしくない。

 原作とは違い、既に女王蟻のお気に入りにはなっているものの、どうせ能力的に俺が選ばれるはずだ。

 お冷の結露がテーブルに溜まっていくのを眺めつつ、適当に戦略を練っていく。主人公をうっかり殺したら、龍脈が乱れて国が物理的に割れてしまう。かといって、「真社会」の一人勝ちなんぞしたらこの国の治安が終わる。他も他で一枚岩ではないし、どうしたもんかな……。

 色々と考えていると、ついにパフェが届いた。甘そうでいい匂いがする。思考を一度止めて、スプーンを手に取った――その瞬間。

 バンッ! と俺の背後のガラスが鳴る。何かがぶつかった音だ。振り返ると、女が両手をついてこっちを凝視している。

 目が合うなり勢い良く駆け出し、ファミレスに入店。案内の店員を待たずに、店内を颯爽と走り抜け、俺の向かいの席に飛び込んだ。変質者?

「……!? な、んか……用、ですか」

「あ、の、あのっ、私……!」

 息切れをしながら、女が何かを言おうとする。俺はその顔に覚えがあった。

 黒い長髪に水色の目。瞳の中にあるやたらとドス黒くてギラついた瞳孔。

――主人公の顔だった。目の前にいる女は、主人公だ。

 なぜ、今? なぜ、俺?

 混乱しながらパフェをかき回す。原作ではこいつ、今頃復讐のために一族の長として血と泥塗れの地獄の中を生きているんじゃないのか?

 そしてその後カモフラージュのために通い始めた高校で、かつて滅んだはずの宿敵の一族の末裔と出会い、そっからなんだかんだで呉越同舟的な感じで「真社会」を潰すため共に戦う……みたいなストーリーが始まるはずだろ!?

 当然、どこをどう間違ってもその辺のファミレスでうっすら涙目になりながら吃っているはずがない。気高い系の現役当主、クールビューティーな女だと思っていたが……。

「どうか……私の願いを聞いて欲しい! あなただけが――あなたこそが希望なんだ……!」

 どすっとテーブルに乗せられた鞄からは、無造作に突っ込まれた札束が覗いていた。

「これで、我らが一族の悲願を――!!」

「……わかったから、それをしまってくれ。場所を変えよう」

 

 

 

 カラオケに来るのは久しぶりだった。下っ端時代の仕事の密談でたまに使っていたくらいである。

 防音設備の整った部屋で、改めて女――彼女は蜘蛛蛇(くまだら) ミサキと名乗った。やはり原作主人公だ――と向き合う。

「あんな場所で不用心にもほどがあるだろ。大体、初対面の相手になんなんだ」

 カラオケ店のCMが煩わしいので、俺は適当なメドレーを入れた。全く知らないJ-POPが場に流れ始める。分かってはいたが、いまいち緊張感に欠けた演出だ。

 ミサキは札束の入った鞄を握りしめ、俺に訴えかける。

「初対面じゃない。昨日……あなたに助けてもらった者だ」

「……昨日の? よく、助けてもらったなんて言えるな。お前は俺のことをなんだと思ってここに居る? 目撃者の身の上なら、もっと思慮深く生きるべきだ。今ここで殺されても文句は言えないだろうな」

「――殺し屋でしょう!! だってあなたは、少しも動揺せずにあいつを……! 両親の仇を殺してくれた……!!」

 歯をギリギリと食いしばり、ミサキは壮絶な笑みを浮かべた。

「ありったけのお金を持ってきた。お願い。両親を殺したやつらはまだ残ってる。お金なら払うから、あいつらを殺して欲しい。そのためだったら、私は何だってする……!!」

「……気乗りしないな」

 どういう状況だ、これは。

 時間軸がいまいち分からないが、彼女はまだ高校に通っておらず、運命の相手と出会っていないようだ。自力で仇を殺すことを諦めるなんて、漫画のスタート地点ですらありえない判断である。

 ……というか俺が昨日殺したの、こいつの仇だったのか? 相手は確かに「真社会」の裏切り者であり、元構成員だったが、別に漫画で出てたような顔有りのキャラでは……。

 ……あ? なんか……覚えがあるような気が……。……あの、漫画の……どっかの回想シーンで、親を目の前で殺した黒服の男たちを憎んでいた……みたいなのあったな。

 で、一回負けたか何かで、痛めつけられて拷問を受けたことから、さらなる復讐の炎を燃やすんだっけ……。その後、仇について調べまくって、そいつの所属していた「真社会」について知る……みたいな展開だったかな。

 あ~……なんか思い出してきたな。「真社会」の悪行や龍脈の存在を知るにつれて、大切なものを守るために、今度は純然たる意志で悪を追うっていう展開に……なるはず、なんだが。

――なんか、居るなあ……主人公。目の前に……。

 もしかして……昨日のやつ、主人公の一回目の敗北か? 俺が殺したから拷問イベントスキップした感じか?

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