トラッシュ秘譚:仮面ライダートラッシュ オープン・ザ・パンドラ   作:秋塚翔

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横から失礼いたします、秋塚翔です。
この度、ハーメルンで親交ある放仮ごdzさんの許可をいただき、仮面ライダートラッシュの三次小説を始めさせていただきました。

作者様の公認をもらいまして、劇場版のノリで書かせていただくので、楽しんでもらえますと光栄です。トラッシュ本編を読んでいない方は、是非放仮ごdzさんの作品欄にて。あれはいいものだ。

ではでは、堅めの前置きもこれくらいにして。どうぞご覧ください。


開門、ゼモン!

「ネリー様、こちらです」

「えエ、ご苦労サマ」

 

 新東京都の一角。チリヅカ・コーポレーションが人払いを行った区画にて、チリヅカの開発部主任――ネリー・ホワイトは社員の案内のもと現地へとやって来ていた。

 

「ここで間違いないのかしラ?」

「そのはずです。確かにレーダーではこのポイントだと」

「ふぅン……にわかには信じがたいワネ」

 

 目的の現場に着くなり、辺りを見回すネリー。彼女の問い掛けに案内役の社員が答えるものの、ネリーは依然として懐疑的な反応を示した。

 それも致し方ない。ネリーがわざわざ足を運んだそこは、これまでチリヅカで目をくれたことのない場所であったからだ。昨日まで何の変哲もない、ゴミで溢れ返った地。廃棄物症候群(トラッシュシンドローム)以降、ありふれすぎる光景の一つ。利用価値もなければ、わざわざ手を下して一掃する必要性もないその区域は、これといった特筆もありはしないところでしかなかった。

 

 ――()()が起こったのは、余りにも突然だった。

 

 都全土の状態を観測する計器の一つが、異様な数値を示したのが今日のこと。それまでは、何一つ予兆のようなものはなかった。何もないはずの地点に、突如見たことのない異常が発生したのである。とても無視できる事案ではないと、チリヅカの社長である六道捨我はどこか面白いものを見る眼で宣言した。

 その調査のため任命されたネリーは、しかしその目で現地を見てなお、疑心の方に傾いた半信半疑の念を科学者視点で拭えずにいる。

 

「妙ね。ここはゴミリオンが出現することもありえる環境ではあるけれド……こんなにも脈絡なく、しかもこの私が知覚していなかった異常が起こるナンテ。なんだか癪に障るワ」

「なので、それを解明していただきたく……」

「ハイハイ、分かってるわヨ。そのために私が出張ってきたんだからネ?」

 

 面倒げに忠言をあしらったネリーは、社員に連れられ更に奥地へと足を踏み入れる。

 そこには、先んじて到着していたチリヅカ社員らが現場を保護し、仮設のテントを設置し、様々な機器で周囲の調査分析を行っている最中だった。研究担当の社員に混じり、ネリーが製作したダストルーパーの部隊も安全管理に駆り出されているのが見て取れる。

 まだ新しい結果も出ていない様子。これは出番までまだ掛かりそうだと判断し、ネリーがつまらなそうに仮設テントに備え付けられたコーヒーを淹れようとしたその時、

 

 魔界の門が、開いた。

 

『『『『『ギイィィィーーーッ!!』』』』』

 

「っ……!? なんだ、こいつらは!?」

 

 ヴォンッ、と。

 不気味な異音が響いた直後、虚空に歪な門が形成され、その大きく開かれた亜空間から複数体の異形が飛び出してきたのだ。

 奇声を上げて現れてのは、一見すればネズミゴミリオンに酷似しているが、全身を黒い靄で覆われ、異様な雰囲気を漂わせている。明らかに理性も自我もないそれらが、狂ったようにチリヅカ社員へと襲い掛かった。

 慌てて逃げ惑う生身の社員たち。一方で戦闘要員であるダストルーパー部隊は即座に事態の対応をすべく、未知のゴミリオンとの交戦を開始した。

 謎のゴミリオンが肉弾戦で迫り来る。知性も見受けられない雑な特攻。ダストルーパーがそれに迎え撃つ形で攻撃を仕掛けた。

 

「うッ……? ぐ、ああぁ……ッ!?」

「なんだ、どうし……ぅぐ、うあぁ――ッ!!」

 

 するとどうしたことか、接敵したダストルーパーが突如苦しみだし、堪らず地に倒れ込んでしまう。見ればダストルーパーらの体にも謎のゴミリオンのものと同様の黒い靄が纏わりつき、それが意思を持つかの如く浸食しているのだった。

 その光景に狼狽えるトルーパー部隊。未知なる攻撃にたじろいでいると、

 

「ヤレヤレ、仕方ないわネ――変身」

 

『絞り……搾られ……溢れ落ちろ……ローネ……!』『ローネ!』

 

 後方からそんな音声と共に、白い襤褸状のものが渦を巻き、ゴミリオン群を吹き飛ばした。

 呆然と立ち尽くす社員らを余所に悠然と前に出たのは、ネリーが変身する仮面ライダーローネ。気だるげにローネが出てくると、それに合わせるかのようにゴミリオンの後方にある門から新たな存在が出現してくる。

 

「――ほほう、これは面白いところに来たな」

「何者かしラ?」

 

 門の奥からもったいぶった足取りで現れたのは、悪趣味な金色生地の衣装を身に纏う恰幅のある壮年の男。さながら、時代劇の悪徳な殿様か悪代官といった出で立ちだろうか。獣じみた爛々と光る双眸がローネに向く。

 しかし、対するローネはその正体を察しながら誰何の問いを投げる。――あれは人間ではない、周りに侍らせた謎のゴミリオンと同類の、人の姿に擬態するゴミリオンだ。

 肥えた体格の男は、不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「我が名はゼモン。お察しの通りゴミリオン――いいや、あえてこう名乗らせてもらうか。我らは『ハードゴミリオン』。今現在から先の時を経た世界より来たりし、進化したゴミリオンよ」

 

 男――ゼモンの名乗り向上に、ローネは仮面越しに眉を顰める。

 

「ハードゴミリオン? それに先の時を経た世界ッテ……まさか未来から来たというノ? それはまた、予想外のものが出てきたわね。気に食わないワ」

「貴様が気に食わなかろうが気に召そうが関係ないな。我らのいた時代からすれば、チリヅカなぞもはや過去のゴミ同然。どう思われようが、我らの目的において用のない存在よ」

「へェ? なら、その目的とは何なのかしら」

「ぐふふふ――」

 

 厭らしい笑い声を零しながら、ゼモンは懐からドライバーを取り出した。

 

「嫁探し、といったところだなァ」

 

『ゼモンドライバー!』

 

 意味深な呟きと共に、次いで取り出した暗黒色のジャンクキューブを――ローネから見てちょうどトラッシュドライバーと酷似した、腰に巻き付けたゼモンドライバーへとセットする。そうしてハンドルでキューブを押し込み、変身シークエンスを完了させた。

 

「変身」

 

 宣言に応える形で、足下から靄が立ち昇り、ゼモンの全身を覆い尽くす。それが黒色の箱を形成し、軋んだ音を立てながら前面が門の扉のようにして開かれる。

 

『開門! マカイの門! ゼモン!』

 

 そこから姿を見せたのは、闇より黒い装甲を身に纏う異形。各所に箱型の装飾を飾り、それらが体を走る禍々しいラインで数珠繋ぎに結ばれる、不吉をその身に示したが如き影。

 見る者に凶兆を彷彿とさせるその名は、

 

「仮面ライダーゼモン。いずれ来りて、今まさに降り立ちし魔王だ」

「……オ腹の質量は何処に行ったのかしラ?」

「お前らがそれに突っ込むか」

 

 場違いなローネからの指摘に一瞬素で返すゼモンだが、気を取り直して大仰に振る舞う。

 

「さて。さっきも言った通り、私は貴様らに用はない。早々にお暇させてもらおう」

 

 言って、ゼモンはドライバーのハンドルを三回再度押し込んだ。

 

『ゼモン! デモニックラッシュ!』

 

「挨拶代わりだ。受け取っていけ」

「っ!?」

 

 そうしてジャンクキューブ『汚染』から抽出されたエネルギーがゼモンの右腕に収束し、見るもおぞましい波動を迸らせる。さしものローネも危機感を覚えざるを得ない。

 ゼモンはそれを叩き込むようにして右手から解放する。威圧的なエネルギーが波状に放たれた。

 咄嗟にローネはドライバーのローラーを回す。『回ローネ……サモン・シロー!』の音声に応じてマフラーと装甲が分離したシローが現れ、蜷局を巻いてローネを護る。直後、波動が到達し、トルーパー部隊ごとそれに呑み込まれてしまう。

 

 ――数秒の沈黙。シローに護られ無傷で済んだローネが顔を出すと、そこにはゼモンや取り巻きのハードゴミリオン、靄の門すら目の前から消え失せていた。

 残るのは、自分以外は攻撃を防げず黒い靄に囚われ、熱病に侵されたかのように苦悶するトルーパー部隊。ローネは面倒そうに一息ついてみせた。

 

「このまま追うのは骨が折れそう……ますます気に食わないわネ」

 

 そう独りごちつつ、手近な部隊員へと歩み寄る。先のダストルーパー同様、苦し気に悶えるダストルーパーの一人に、ローネは平素の声を投げ掛ける。

 

「マズは、そうね。貴方たちから症例を調べさせてもらおうかしら。せっかく検体を作ってくれたことダシ、私は私のできることを思う存分やらせてもらうワ」

「ひ……ひぃッ……っ!?」

 

 仮面越しに好奇の笑みで顔を歪めて、ネリーは言うのだった。

 

 

 

 

 

 ここは新東京都。その一角。

 チリヅカが規制していたところとは別の場所で、一つの騒ぎが巻き起こった。

 

「ギイィィィッ!!」

「ヒっ……や、やめろっ! 来るなぁ!」

 

 けたたましい奇声を上げ、あの異様な姿のネズミゴミリオンが暴れていた。

 未来から来訪したというゼモンの呼称を用いるなら、ネズミハードゴミリオンか。

 そんなハードゴミリオンの集団は、人間を標的としていない。襲っているのは、一般のゴミリオンだ。通常の姿形をしたゴミリオンたちに対し、意思疎通の余地もなくハードゴミリオンの群れが襲い掛かっていた。

 やがて、あえなく捕まったスパイダーゴミリオンがハードゴミリオンの発する黒い靄に呑み込まれる。しばし苦痛の叫びを上げるスパイダーゴミリオンだが、靄が全身を覆い尽くすと、だらりと脱力した。

 

「――っハアァ……ッ」

 

 黒い靄に呑まれたスパイダーゴミリオンは、ハードゴミリオン同様の状態と化し、低い唸り声を上げる。まさしく浸食をされ、他の通常ゴミリオンもまた、一体また一体と同じく身も心も黒く染め上げられていく。

 そんな現場に駆けつけてきたのは、三人の青年少女。

 

「な、なんだこれ。ゴミリオンが、ゴミリオンを襲っている……?」

『どうなってるんだ、こりゃあ!?』

 

 一人は仮面ライダートラッシュに変身し、無辜の人々のため、見知った誰かのために戦いに身を投じる心優しき青年、八多喜玲二。そして相棒である変身ドライバー、トラ。

 

「しかも襲われている方のゴミリオンも様子がおかしくなりましたわ!」

『まるで獣の共食いみたいだねえ』

 

 一人は仮面ライダーエコーとなり、玲二の信念に共感し、自身も戦いの場に飛び込み、自らの血の運命に抗い続ける少女、慧月(ヒカリ)。彼女に力を貸す変身ドライバー、エコちゃん様。

 

「とにかく止めないと!」

『大いに賛成だぁ! なんか知らんが、あの変なのからは無視できない匂いがするぜぇ!』

 

 一人は仮面ライダーベノムという凶悪な力を身に着け、その力に振り回されながらも、自分を受け入れてくれた玲二たちと共に戦う決意をした少女、北内沙羅(サラ)。そんな彼女に憑りつく形の、なにやら意欲的にこの状況を見ている変身ドライバー、ドッくん。

 

 計三人の人の世を真に守る意思を持つ彼ら彼女らは、それぞれドライバーを装着し、手慣れた動作で変身を行う。

 

「「「変身!」」」

 

『ジャストラッシュ! あっと驚く! アトミックブロック!』

 

『エコードレス、響け……エコー……エコー……エコー……エコー……!

 

『マゼマゼ……! ベノミックス……!』

 

 三者同時変身。玲二は仮面ライダートラッシュ・アトミックブロックに、ヒカリは仮面ライダーエコーに、サラは仮面ライダーベノムに変身し、ハードゴミリオンの集団へと挑みかかる。

 

『待つんだ相棒! なんかこいつらヤバいぞ、下手に触れるな!』

「っ、確かにあの靄は良くなさそうだな……!」

「ならば私の出番ですわ!」

 

 果敢に攻撃しようとするが、トラの忠言を受け踏みとどまってしまうトラッシュ。それをフォローするように飛び出したエコーが、ホーキージャベリンを手にハードゴミリオンを刺し貫く。

 

「ギイィイッ!?」

 

 浄化の力を持つエコーの攻撃に、ハードゴミリオンは堪らずといった風に悲鳴を上げる。だが、一瞬洗い流された靄はすぐさま元通りとなってしまった。

 

「やはり妙ですわ……これまでのゴミリオンとは何かが違いますわね」

「ああ。でも、やることは変わらない。逃げ遅れている人もいるし、とにかく倒さないと――」

 

 と。トラッシュとエコーが意見を一致させていた時だった。

 

 

 

「――う、がっぐ、ぅぐあああああ……ッ!?」

 

 

 

「! サ……サラ!?」

「サラさん!? え、どうしたんですの!?」

 

 突如として、共に戦っていたベノム――サラが苦しげな声を上げたのだ。腹部を押さえ、耐えられないといったように立っているのもやっとな様子。

 

『どうなってんだ!? 相棒の……いや、"俺たち"の中に何かいるぞ!? なんなんだ、こいつは!』

 

 サラのドライバーであるドッくんも声を荒げる。

 一方で、ハードゴミリオンらもまた、遠巻きに様子を眺めている。狂気的な威圧感を醸すそれらだが、今この時はなにやら狼狽えている態度。訳が分からずも、何か不穏を感じ取るトラッシュたち。

 そうこうしている内に、サラ――ベノムの腹部は異様なほど膨れ上がっていく。

 

 

 

 そして、

 

 

 

 ずるり……っ、と、

 

 

 

 ベノムから一体のライダーが這い出てきた。

 

 

 

 周りが立ち尽くす中で、ベノムの腹からゆっくりと産まれ出てくる。

 それは、何故かトラッシュの容姿に良く似ていて、奇妙な拘束具を纏う禍々しき姿をしていた。箱のような装飾より黒い靄が漏れ立ち、その靄がハードゴミリオンのそれと似通っているように感じる。

 生まれ出たその存在は緩慢に顔を上げ――その血涙にも似たラインの走る貌で周囲を確認。

 そうして、すぐそこにハードゴミリオンがいることに目が留まった。

 

「っ……ここ、にも……!」

「ギ、ギィィィッ!!」

 

 ハードゴミリオンを目視した謎のライダーは、歯噛みするかの如く怒りを覗かせる。対するハードゴミリオンはそんなライダーに向け、今度は猛然と狙いを定めて飛び掛かっていった。

 謎のライダーは自らのドライバーに手を掛ける。

 

『オープン! ガサゴソ……』

 

 トラッシュに酷似する見た目の一方、ベノムドライバーに似る腰に巻いたドライバーにある黒々したキューブがセットされる部分を開く。

 

『パンデミックライシス!』

 

 そのまま閉じると、驚異のエネルギーが右腕に纏わりつく。

 危機を覚えるハードゴミリオン共。だがもう遅い。一匹とて逃さない声音と佇まいで、謎のライダーは右腕を差し向ける。

 

「死に絶えろ……!」

 

 恨み言じみた言葉と共に、放たれた波動がハードゴミリオンを呑み込む。なすすべなく呑まれたハードゴミリオンたちは悲鳴すらままならず、分解されるように跡形なく消え去った。

 一部始終を目撃したトラッシュたちは、なお呆然とする。

 

「っ、ぅ……」

「! サラさん! 大丈夫ですの!?」

 

 と、ヒカリがサラの呻き声に我へと返り、駆け寄っていく。

 ――が、それより早くサラの許に接近していったのは……謎のライダーだった。

 

「なっ!」

「何をする気だ!」

「……何を、だって?」

 

 未知の相手に語気を強めるトラッシュ。その言葉に、あたかも謎のライダーは嘲笑するかのように返し、未だ腹を突き破られたダメージの抜け切らないサラ――ベノムを視線で射抜き、言う。

 

「簡単なことだよ。こいつを滅ぼす。そうすれば、全て解決するんだ。あたしの過去も、現在も、未来も……そのために、あたしは未来からここにやって来た」

「未来、から……?」

 

 すぐに呑み込めない言葉を零す謎のライダーは、悲痛な少女の声で続ける。

 

「あたしはこいつを、ベノムを滅ぼしに来た。未来を滅茶苦茶にする、この元凶を。だから邪魔しないで。いくら貴方でも、邪魔しないで見ていてほしい――

 

 

 

 あたしに貴方を助けさせて、()()()()

 

 

 

「――はッ!?」

『相棒が、お父さんだぁ!?』

 

 場違いな声が、剣呑な場に響いた。




新たな敵ゼモン、そして謎のライダー登場。
一応ここで補足しておくと、ゼモンのモデルは妖怪モチーフの多いトラッシュ本編に倣い、妖怪の魔王・山本五郎左衛門から来てます。ぬら孫の山ン本が印象的。

この調子で連載していく所存なので、しばしのお付き合いいただければ幸いです。
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