トラッシュ秘譚:仮面ライダートラッシュ オープン・ザ・パンドラ 作:秋塚翔
SNSでやれな一人語りはさておき、第二話お楽しみくだされば。
――『あたしに貴方を助けさせて、お父さん』
謎のライダーから発せられたその言葉は、一同を驚愕させて余りあるものだった。
ベノムの腹から這い出てきて、ハードゴミリオンを一掃した謎のライダー。あまつさえ、ベノムをも滅ぼすと宣言した直後、確固たる事実とばかり投げ掛けられたそれに、トラッシュたちは困惑を隠せない。
特に、『お父さん』と呼び掛けられたトラッシュ――玲二は唖然とする。
「……そういうことだから」
当惑するトラッシュたちを置き、少女と思しき謎のライダーは先の宣言通り、その足許で満身創痍状態のベノムに今一度殺意的な眼差しを向ける。まだ腹を破られた傷は癒えず、ベノムは動けない。
そこでやっとトラッシュは我に返った。
「――やめろッ!」
「玲二!?」
「ヒカリ、サラを連れて避難してくれ!」
「わ、分かりましたわ!」
「なっ……!?」
感情のままに、ヒカリへと指示を飛ばしたトラッシュが、謎のライダーの阻害をすべく立ちはだかる。驚く謎のライダー。ヒカリ――エコーは受けた指示に従い、ベノムに肩を貸すと泡の煙幕を散布しつつ、その場から素早く離脱していった。
「なにをっ……自分のやってることが分かってるの!?」
「ああ、もちろんだ! 仲間がピンチで、それを助けたんだ!」
「っ!」
怒りを滲ませて怒鳴る謎のライダーだったが、そんな玲二の切り返しを聞き、なにやら沈痛そうな声の途切れを表す。見知った人物の、予想通りの答えを聞いてしまったようなリアクション。
「だよね……お父さんなら、そう言うか」
『そこだよ、そこ! 相棒がお父さんってのはどういうことなんだ!?』
「そのままの意味だよ!」
トラからの問い掛けに、謎のライダーは不親切な答えで返す。そして問答ももどかしいかのように、自分を妨害しているトラッシュへと攻撃を仕掛けた。
迎え撃つトラッシュ。執念じみた重い打撃を防ぎ、それでも圧されて後退しながら、なんとか説得の余地を窺おうとする。いくら不気味な見た目、なおかつ仲間であるベノムの命を狙う相手でも、先の言葉もあって下手な反撃ができない。
それでも幾度目かの拳打を受け止めた時、異変が起きる。
謎のライダー、その体に備わる箱型の装飾から漏れ出る黒い靄が独りでに蠢き、向かい合うトラッシュを取り巻き包み込んできた。
「な、なんだ……ぐッ!?」
意思を持つように靄が纏わりつくや、トラッシュは突然の倦怠感に襲われる。
体が異常な熱を帯び、意識が遠のいていく感覚。まるで熱病にでも侵されたかのような現象に、戦うこともままならずその場で抗い暴れる。
「! いけない!」
それを目のあたりにした謎のライダー、思わずといった慌てようでトラッシュに手を翳す。
すると、トラッシュへと纏われる黒い靄が剥離され、元の箱の中に格納される。完全に靄が取り払われると、トラッシュの状態異常は消失した。
「っは、はあ……い、今のは……っ?」
『大丈夫か、相棒!?』
「――ごめんなさい。まだ制御できなくて。そんなつもりじゃなかったの」
荒い息を吐き、トラの配慮か変身も解除された玲二に、謎のライダーはしおらしく謝罪しながら変身を解く。
素顔を晒した変身者は、声の通りの少女だった。近未来的な上下繋ぎの服を着た、くすんだ金髪の先端に茶色のグラデーションが入る端正な顔立ちをした同い年くらいの少女。やけに馴染みある顔の造形に、玲二は妙な親しみを抱く。
「い、いや。わざとじゃないならいいさ。……それで、ええと?」
「
「そうか、レナか。改めて聞きたいんだが、君は一体何者なんだ? 悪いけど、俺にはなにがなんだかさっぱり分からないんだ」
いきなり未知の敵が現れ、ベノムに異変が起きたと思ったら、そこから出てきたライダーの少女が自分をお父さんと呼ぶ――一つ取っても理解しがたいことが立て続いた現状は、玲二にとって目の前の少女こそ詳細を知るための欠かせない存在だった。
幸い、先ほどまでの険しさは見られない少女――レナはそれを聞き入れ、しかしどこか迷うような葛藤を見せた後、意を決した顔つきで怜二と対面する。
「……分かった。でも、ここじゃなんだから別の場所で。お父さんもさっきのでどう体に悪影響あるか分からないし、落ち着けるところで話す」
「ああ、分かった」
『おい相棒、いいのか?』
「とにかく今は情報が必要だ。なんでサラ……いや、ベノムを狙ってるのかちゃんと知ってからでないと、止めようにも説得力ないだろ?」
『やれやれ、相棒は人が良すぎるなあ』
「うん。お父さんらしい」
「そ、そうか?」
何故かトラとレナとで意見が合い、玲二は苦笑するしかなかった。
新東京都・中央区。
そこでも、ハードゴミリオンの魔の手が伸びてきていた。
「ギィ……!」
「イギギギィ――っ」
「ギシャアっ!!」
多数のハードゴミリオンが路上に屯している。ネズミハードゴミリオンだけに留まらず、どこから狩り出してきたのか通常ゴミリオンが変じたと思しきハードゴミリオンの姿もあった。その頭数合わせて稀にも見ない規模と化している。
既にそこで暮らしていた人間たちの姿はなく。この場所はまさしくハードゴミリオンによって占拠されたようなおぞましい光景となっている。
だが。あたかもそれを否定するかの如く、その群れへと迫りゆく者たちがいた。
「ふぅ……とんだ追加の仕事ね。面倒な代物が来てくれたものだわ」
嘆き交じりに言うのは、黒いライダースーツに身を包んだ豊かな胸の美女。通称・掃除屋。目と鼻の先で蠢いているハードゴミリオンというらしき異様な怪人の群れに、億劫そうな声を零す。
「仕方ありません。突然の案件としては、貴女のみならず社の誰もがそうなのですから。その処理を早期に行うために、こうして私も前線に派遣されたんです」
そんな掃除屋に対し、事務的な口調ながら内面労わるような口ぶりで諭すのは、ビジネススーツを着こなすこれまた豊満な胸の美女。チリヅカ・コーポレーション社長秘書、巻野凛だ。普段は余り現場に出ない役職柄であるが、此度の案件の危険度を鑑みて事態の対処を任命されている。
「まったく、私としても迷惑な話なんだよねー。せっかく気合い入れたのに、お陰で本業のイベントが中止だなんて腹立たしいったらないよ」
そして掃除屋とは別の文句を零すのは、ライブ衣装で着飾っている少女――アイドルを兼業している加々美香子ことミラ。彼女は本日ライブイベントがあったはずなのだが、肝心の会場である中央区がこんな有り様になってしまったため、急遽着の身着のまま討伐チームに参加していたのだった。
他のチリヅカ幹部二人――ネリーと来間朧は、また別のハードゴミリオン出現地点に出張っている。ここに召集された三人は、苦言もそこそこに指示通り行動を開始した。
「「「変身!」」」
『メキメキ……! バキン……! ジャンクラッシュ・デリート……!』
『シュレッド――リーン・エントリー』
『ディメンジョン――キラッキラ! 光る! 輝かす! ミラース!』
掃除屋はデリートナックラーで仮面ライダーデリートに、凛はリーンドライバーで仮面ライダーリーンに、ミラはミラースドライバーで仮面ライダーミラースに変身し、その迫力にハードゴミリオンたちの意識が一様に向く。
「さーて、こっちのお仕事でも輝くとしますか!」
「再度伝えておきますが、ネリーさんの研究報告によれば、あのハードゴミリオンには触れた相手を浸食する病原性の毒素があるようです。靄には触れないよう対処を願います」
「分かってるって。じゃあ――これで!」
『ミラーレーザー!』
リーンの忠告を気軽にあしらい、先陣を切るミラースが手を振るう。
すると、ハードゴミリオンの群れを照らし出すかのようにして、さながらスポットライトの如く四方八方から光のレーザーが放たれ、ハードゴミリオンを狙い撃った。
「む。思ったよりタフだなあ」
「でも効果覿面ね。日光は消毒作用があるからかしら」
「へへー、さすが私だねっ」
褒められたと感じてか仮面越しにニンマリするミラースを置いておき、続いてデリートとリーンが躍り出る。
『ジャンクラッシュ・ヘル……!』
『シュレッド……ショーニング!
息を合わせ、振るわれた二人の拳が地面を叩く。打ち込まれたエネルギーが指向性を持ってハードゴミリオンに迫り、アスファルトが粉々に弾ける威力によりハードゴミリオンたちが吹き飛ばされた。
「ッギイィィィ!!」
「っ、本当に面倒ね……!」
それだけの攻撃を喰らってなお、ハードゴミリオンはゾンビのように立ち上がり敵と定めたデリートたちに襲い掛かる。舌打ちを鳴らし、デリートが更に攻撃を仕掛けようとした。その時だ。
「――ふはっ。なんとか間に合ったわー」
と。
軽薄な声が届き、何事かと振り返るデリートたち。
そこには、口ぶり通りの薄っぺらい笑みを浮かべたプリン髪の少女がいた。
「んじゃま、始めますか。いいよね?」
少女がそう声をかけた相手は、自身の腰に巻かれる無骨なドライバー。
『承認。パーソナルネーム:
「ならお言葉に甘えて!」
『サイラドライバー!』
無機質に答えたドライバー――サイラドライバーを起動し、取り出したるこれまた無骨なデザインのジャンクキューブをセットする少女。そうして備え付けられるグリップを掴み、もったいぶった動作で構えた。
「変身、っと」
『スクラップ!』
グリップがキューブを叩き割るようにして押し込まれる。それにより発生したエネルギーが少女の背後に物体として――
『バラバラ……組ミ立テ……』『ダイナソー!』
化石恐竜の破片が各所にアーマーとして纏われ、少女は変身を果たす。
骨じみた装甲を纏った、茶褐色のライダー。相貌は肉食恐竜の化石を思わせる無機質かつ凶暴性を感じさせるもので、野生の剛烈を表した気迫を醸している。
そんなライダーに変身した少女に、デリートが訝し気に問う。
「誰、あなた?」
「禊木流可。仮面ライダーサイラ」
端的に答えた少女ことルカ――サイラは、それ以上の問答は無用とばかりにハードゴミリオンの一団へと攻め入った。
「ふはっ!」
猛然と攻めてきたサイラに、ハードゴミリオンは狼狽。触れればただでは済まない相手に対し、サイラは無謀なほどに接敵していく。
だが、そのままの勢いでハードゴミリオンを次々殴りつけるサイラは、一向に浸食の傾向が見られない。
「ふはっ、いいねえ」
『ジャンクキューブ:「化石」ニヨル浸食耐性、100%』
息を吐き出すようにして笑うサイラ。更に続けざまハードゴミリオンを一人でなぎ倒していき、頃合いと見てかドライバーのグリップを掴み取り、一回押し込んだ。
『スクラップ! ブレイクラッシュ! ダイナソー!』
そうして発生したエネルギーを足に収束。それが肉食恐竜の頭骨の形状となり、逆脚を軸としてその場で横回転したサイラが、回し蹴りの要領で攻撃を繰り出す。エネルギー状の化石恐竜の顎が範囲内に捉えたハードゴミリオンを喰らい千切るように一掃した。
「うわ、すっご……何あれ、増援?」
「いいえ、サイラなどというライダーはチリヅカにも、これまでに確認されているライダーにも該当するものはいないはずですが……」
「……」
その光景を眺めるしかなかったデリートたち。突然見知らぬライダーが現れ、否応なく敵を掃討したのだから致し方ないことではある。相手を測りかねていた。
一方、デリートらから仕事を横取りした形のサイラ。向かう敵のいなくなった周囲を見渡して、ふぅんと不満げに息を吐く。
そして――ふと思いついたかのように、デリートたちへと襲い掛かった。
「「「っ……!」」」
突然の凶行に驚愕し、しかし即座に各々回避行動を取るデリート、リーン、ミラース。
「どういうつもりっ!?」
「いやぁ。ちょい物足りないから、あんたらで発散しよっかなーってさ」
「くっ、そういう手合いか……ますます面倒ね!」
好戦的な姿勢のサイラに、苦虫を嚙み潰すようにデリートが言い、臨戦の構えを取る。
デリートナックラーを握り渾身の一撃を見舞う。並のゴミリオンならそれで昏倒している打撃を、サイラは悠々と受け止めて逆に引き寄せるようにして接近、拳の一打を返す。
「っち……!」
「ふはッ、いいねいいね! 楽しめそう!」
「させないわよ!」
矢継ぎ早打拳を振るうサイラに防戦のデリート。すると、横からリーンが援護すべく介入する。
『シュレッド……ショーニング! 赫灼之巻! メラメラー!』
サイラを引き離し、そのまま炎熱を纏う拳を繰り出す。
「私もいるよぉ!」
『ミラーレーザー!』
更には、ミラースも割り入って光のレーザーを滅多打ちしてくる。
三対一の構図。けれどサイラはというと、それらも余裕そうにいなしていく。
「はい邪魔ー」
そして合間を縫い、徐に足裏で地面を蹴り付ける。
「きゃあぁっ!?」
そうすれば、地面からエネルギーでできた
更にサイラが掌を突き出し、それをデリートに向ける。
「ほいっと」
「く……ッ!?」
今度は
「この……!」
リーンが制圧すべく拳から火炎を放つ。放射火炎が攻撃直後の無防備状態なサイラに浴びせ掛けられるが、サイラはそれに堪える様子もなく、真っ向から受け止める。
そのままリーンとの間合いを詰め、万力の如き握力で掴み上げた。
「っか、は……っ!」
「ふはっ、いいじゃんいいじゃん。気に入ったよ。どう? このあとホテルに付き合ってくれるならお仲間放っておいてあげてもいいけどー?」
「っ! その手を放しなさいッ!」
「んー? あー、そういうことかー。ふは、ますますいいじゃん。掃除屋さんと、あとそこのアイドルちゃんも一緒に相手してくれたら楽しめそう」
チリヅカの仮面ライダー三人を圧倒し、いかにも余裕そうに嗤って宣うサイラ。ギリギリと、リーンを掴んだ手が力を緩めない様を見て、デリートが怒り心頭で闇雲に殴りかかろうとする。
刹那、サイラの背後から迫る影が目に映った。
『サイケデリックライシス!』
「うわッ!?」
鋭い音声と共に放たれ来た蹴撃。間一髪で気配に気付いたサイラは邪魔なリーンを突き飛ばし、両の腕をクロスさせ攻撃を防がんとする。直後、轟く衝突音。サイラはその威力に大きく弾かれてしまうも、防御が間に合ったためにダメージは軽微な模様だ。
翻って、サイラを襲撃した存在が着地する。
「――おいおい。結構マジでやったんだが、今のを耐えるのかよ」
『お嬢の一撃が通じないとは、まるで岩盤みたいな硬度だ』
「貴女は……ルイン!」
そこに立っていたのは――仮面ライダールイン。萌月瑠衣。ルーインズドライバーと一緒に驚嘆の声を漏らしつつ、油断なく臨戦の立ち姿を取る。
対し、サイラは溜め息を返した。
「ふははっ、ルインも来たかー。この四人相手はちょい骨が折れるなぁ。ベッドの上だったら大歓迎なんだけど」
『退却ヲ推奨シマス』
「だよね。ま、腕試しは済んだってことで。そんじゃあまた次の機会に~」
そう一方的に言い、サイラは一跳びでその場から離脱した。
「なんだあれ、自分勝手なヤツだな」
呆れ気味に零し、変身解除したルイン――ルイ。そんな彼女の許にデリート――同じく変身を解いた掃除屋が歩み寄ってくる。
「……助かったわ。礼を言わせて」
「別に。こっち来たついでだ。前の戦いでドライバーをくれた借りの支払いだな」
「あれはネリーの貸しだと思うけど……」
「チリヅカの部外者である俺からしたら誰に返そうが一緒だ」
ぞんざいに応えるルイ。まあぶっちゃけ、ネリー本人に恩を返すのは、身内の掃除屋目線でも気が進まないのでルイの行動も間違ってはいないだろう。
「さてと。俺はこのまま怜二たちのところまで顔出しに行くが……もののついでだ、チリヅカの持ってる情報も手土産にするから隠さず教えてくれるか?」
「図々しいわね……まあ、お陰で凛が無事だったし、私個人の借りの返しね」
仕方ないといった風に息を吐き、掃除屋はルイに情報を開示した。
「――うぅ、どうして私がこんな目に遭うの? もうやだ、早く会いたいよネリー……っ」
「あちらも片付き次第、ネリーさんを招集しますので辛抱してください」
ミラースの陰気がぶり返した様に、リーンは適当に対応をするのであった。
第三勢力的ライダー、サイラ。恐竜というか化石モチーフのライダーです。色々と妙に訳知りな様子だが…?
人類からすれば歴史的価値のある化石だけど、人類以外の目線ではその他に利用価値のないゴミという解釈のジャンクキューブを使ったトラッシュ系ライダーになりますね。…生み出しといてあれだけど、恐竜の化石にロマン感じる身としては抵抗感じざるを得ない。
そして玲二をお父さんと呼ぶ少女、レナ。その詳細は次回にて。