トラッシュ秘譚:仮面ライダートラッシュ オープン・ザ・パンドラ 作:秋塚翔
久々更新。なんとか形になりました。
「目を覚ますんだレナっ! こんなことしたって――ぐ、うぅ……ッ!」
「もうやめろ相棒! これ以上はマズいぞ!?」
無感情に攻撃してくるパンドラ。それを受け止めながら説得を試みるトラッシュだが、こうしている間にもベノムトラッシュ形態がもたらす副作用が肉体を苛んでいく。
負担の重い形態だが、この力あってこそパンドラの汚染を伴う攻撃に耐えられている現状。トラの警告はもっともであるが、形振り構ってはいられない。
凶行に走るパンドラ――レナを正気に戻すために。
しかし、相対するパンドラはまるで自身の正体を自認し、それに受容と諦観をしてしまったようにトラッシュへの猛攻を繰り返していた。あたかも自分は、人間と敵対するゴミリオンだと受け入れるように。自暴自棄にしては思い切りがすぎる無機質な攻撃が向かってくる。
「ぐふふふ。そうだ、お前が始末するのだ、我がパンドラよ」
その様を喜劇か何かのように眺めているゼモン。厭らしげな笑いを零し、自らの吐露した真実が引き金となって起こされた争いを悪辣に見届けんとしている。
「レナ! お前はそれでいいのか!? それがお前の意思なのか!?」
「――」
悔しくも、ゼモンの思いのままとなっている状況下。なおも語り掛けるトラッシュに、パンドラは何も答えずして黒い靄――パンデスモッグを繰り、それが無数の腕と化させて差し向ける。
対するトラッシュはそれらを渾身の力で打ち払う。霧散する靄。その合間からパンドラが更に畳みかけるようにして靄の塊を物量的に打ち出してくる。
「っ……!」
――もういっそ、倒してしまえれば。
ふと頭を過った考えを、トラッシュは自ら投げ捨てる。
真実に追いつけていない混乱もあるが……それだけはやってはいけない。
自分を『お父さん』と呼ぶ、未来から来た少女。その正体が偽りのものであれ、それをこれまでの敵のように見て倒すことなんてできなかった。騙すためでなく、未来の世界を救うがためにやって来た少女を、どうして父と呼ばれている自分が手を下すことができようか。
故に、こちらから手は出さない。出せない。甘い考えであっても。攻撃を防ぎ、副作用に耐え、どうにか目の前のパンドラへと声を届かせようとする。
これが俺の意思だ。そう、彼女へと訴えかけるかのように。
「うあああああ――ッ!!」
猛り声を上げ、パンドラが拳を振りかぶる。
それを、トラッシュは受ける姿勢。いかに耐性あるとはいえど、決してダメージがない訳でない一打が繰り出されんとする。
が――
ピタリ、と。パンドラの動きは寸前で止められた。
「お、父さん」
「! レナ……!」
絞り出されるように、自責を込めた声がパンドラから発せられる。
説得の結実を確信したトラッシュが喜色の声を返すと、か細い返答が届く。
「ごめん、なさい……あたし、お父さんの娘じゃなかった。それなのに押しかけてきて、勝手にお父さんだなんて呼んで、ごめん」
「そんなことない! 事実がどうだって、俺はお前を本当に未来から来た自分の子供なんだと思った。それは今も変わらない! 誰がなんと言おうと、ここにいるレナが娘だって思えたのは他でもない俺の真実だ!」
「……ありがとう。嬉しい。偽者だって思い出しても、やっぱり今のあたしは
だから、とパンドラ――レナは力を込めて言う。
「もうお父さんに迷惑はかけない。自分のことは自分で片を付ける」
「レナ? 何を……!」
そう言い切って、戦闘をやめて一跳びに退いたパンドラはドライバーへと手を掛ける。
『オープン! ガサゴソ……パンデミックライシス!』
音声を発したドライバー。さらに続けて、そこからあるものを取り外す。
それは紛れもなく、レナがパンドラへの変身に用い、レナにとって我が身と等しい黒い箱状のアイテム――パンデミッキューブだった。
その行為に玲二のみならず、傍観していたゼモンが過剰に反応を見せる。
「っ何をする気だ、パンドラ!?」
「ゼモン、悪いけどあたしはあんたの思い通りにはならない。最初はもうどうでもよくなったけど、お父さんの言葉を聞いて分かった。
――たとえ偽者だとしてもあたしは八多喜麗奈……八多喜玲二の娘よ!」
初めて狼狽を見せたゼモンに対し、パンドラは不敵に笑って、
「はあぁぁぁぁッ!!」
「や、やめろオオオオオーーーッ!」
ゼモンの制止も振り切り、
本体たるパンデミッキューブを自身の必殺キックで勢いよく蹴り抜き、粉々に割り砕いた。
「――レナっ!」
パンドラ自らの手により砕け散るパンデミッキューブ。
その破片が舞い散る中、変身解除され力なく崩れ行くレナをトラッシュ――玲二がすかさず抱き留める。
「おとう、さん……」
「レナ! お前、体が……!」
小さな生身の体を抱きかかえるも、そんなレナの肉体は徐々にその輪郭を曖昧とし、解けるようにして透けていく。愕然とする玲二に対し、レナはこの結果が分かっていた風に弱く微笑む。
当然のことだ。ここにいるレナはパンデミッキューブが模倣した存在。パンデミッキューブがあってこそ成立している命である。その本体とも言えるパンデミッキューブが破壊されれば、肉体を維持する力の繋がりはなくなってしまい、たちまちキューブもろとも消滅する定めなのだ。
そのことを理解した上で、レナは自らの意思でパンデミッキューブを破壊した。本物の自分が封印を解き、結果として身を滅ぼし、悪しきものの我欲で求められていた本体たる未来のオーパーツ。それを壊し、レナは八多喜麗奈としてのケジメを付けたのだった。
消えかかる自分を抱く父と認める青年に、レナは諭し掛ける。
「……いいんだよ、これで。あたしは後悔してない。後のことをお父さんに任せることになるのは悔しいけど、これであたしは自分の過ちを贖った。死んだはずの人間が正しく消えるだけだよ」
「だけど……!」
「大丈夫。あたしのことは未来の出来事。お父さんたちにとっては先の話だよ。あたしは信じる……お父さんだったら、きっとなんとかしてくれる。その時に、本物のあたしに会ってあげて?」
「レナ――」
詰まらせるように名を呼ぶ玲二。その響きには、このレナの求める父の想いも感じられて。
それだけで、ここにいるレナという存在は満足できた。信頼できた。
「お母さんと仲良くね。大好きだよ、お父さん――――」
最後にそう優しく言い残し、
レナは光が散るようにしてその存在を消し去った。
「っ、レナ……!」
短い交流で、余りに唐突な別れ。しかし玲二の中には確かにあるものがあった。それはまだ若い彼がちゃんと言語化はできないが、目の前にいた娘への紛れもない愛情で――その娘から託された想いを継ぐ意思だった。
絶望の未来を変えるために。
先の世で正しく彼女と出会うために。
玲二は悲しみより強い決意を心の内に抱く。
――そんな情景を唾棄するかのように、身勝手に憤る存在が一つ。
「…………ふ、ふざけるなッ! なんてことを、なんてことをしてくれたんだ……! パンデミッキューブは我らが未来より来る際の基点としていたんだぞ! それを壊すなど……これでは元の世界に戻れんではないかッ!」
先ほどまでの余裕はどこへやら、目の前で起きたことに狼狽し怒気を窺わせるゼモン。そこには身勝手な言い分しかなく、伴侶などと宣っていたレナに対する感情は自身のものとならなかった怒りのみだった。
『レナはお前の思い通りになるくらいなら、自分で自分のやったことを清算して覚悟を決めたんだ! これでもうお前が求めるものなんか何もなくなった! 大人しく観念しろ!』
「観念……? 観念しろ、だと?」
トラがゼモンに向けて宣言する。
それを聞きつけたゼモンは――決定的に怒りを露わとした。
「――誰に物を言っているッ! 私は王だ、世界を統べし新たなる王だぞ!? たかが下等種ごときが、この私に不敬な口を叩くんじゃあない! 私こそが塵塚怪王をも超える魔王なのだァッ!!」
振り切った感情を隠しもせず、ゼモンは口汚く罵りかける。
その感情のまま、力任せに取り出して見せるのは――全面がびっしりとひび割れた模様をした、おぞましき雰囲気のジャンクキューブ。
「こうなれば出し惜しみなしだ……! あの胡散臭い『商人』の思惑通りになるのは業腹だが、それよりも忌まわしい貴様らの存在を、そのゴミみたいな意思ごと完全に破壊し尽くしてくれるわァッ!!」
怒りに任せて叫び、ゼモンはドライバーにそれ――ジャンクキューブ『破壊』を装填する。
『デストラクションッ!!』
途端、ゼモンを中心に周囲のあらゆるものが崩壊していく。
「なっ……!?」
『どうなってんだこりゃあ!?』
空間が歪む。
形あるものは砕かれ、風景は引き裂かれ、空気は壊され、時空をも破り散らかす。ある程度の足場を残し、異界のようになった空間内で、それら破砕されたものが怒涛の勢いでゼモンを取り囲む。
ゼモンがハンドルを押し込んだ。
「変、
『破滅ッ! 壊滅ッ! 死滅ッ!
スベテ終ワラス……デストラッシュッッ!!』
次の瞬間、ゼモンの肉体は
あらゆる全てを手当たり次第に破壊し、それがエネルギーへと変換されていく。それを引き起こした原因であるゼモン自身も例外ではなく。破壊の渦が暴威となって巻き起こされた。
そして一瞬の後、ゼモンが元いた場所には一体の異形の装甲が構築された。
それは奇しくも、トラッシュ・アトミックブロックフォームに酷似していた。くすんだ灰色のボディに、汚れた黄緑色のアーマーを纏う、四角形の頭部と複眼を持つ異形。ただし致命的な相違点としては、まるでボロボロに壊れ砕け、再利用不可能となった瓦礫ゴミなどでそれが構成され、その顔は歯を剥き出して凶暴な相貌となっていることだろうか。
そしてなにより――変身しているのは、人類と世の未来にとって害がすぎる悪意。
仮面ライダーデストラッシュ。
世界を壊し、生命を砕き、そして何一つも残さない――破壊の神。
「ふうゥッ……私をこの姿にさせた代償は重いぞ、八多喜玲二」
重苦しく、憎悪に満ちた唸りを漏らすゼモン――改め、デストラッシュ。
「我が身をも捨て、もはやこの姿を解くことは死を意味する……その代償として、まずは貴様の命を砕き散らしてくれるッ!!」
輪をかけた傲慢さを前面にし、デストラッシュが醜悪に吠える。
「っ、そうはいくか!」
対するトラッシュ、新たな姿となった敵を前にして勇猛果敢に立ち向かう。
足場の一つの上で疾駆し、思い切り拳を振りかぶる。
ベノムトラッシュ形態の剛力で固めた右拳が、重く鋭くデストラッシュへと打ち込まれた。
が――
「無駄だ」
「なっ!?」
大地すら割らん威力の渾身を真っ向から受け、しかしデストラッシュはまったく動じない。
アーマーの防御かと一瞬過る。が、違う。まるで攻撃自体を無効化されたような――
「爆ぜろ」
デストラッシュが凶悪に開いた掌を突き出す。
即座に退くトラッシュ。危機感ゆえに。
だが、虚空に掌が翳されると、そこにある空間そのものが破裂し壊れるかのように弾け、それがあたかも爆裂のごとくトラッシュを吹き飛ばした。
「っぐあぁ!?」
トラッシュが背後の足場に墜落する。まるで近距離から爆撃を受けたようなダメージ。
そこにデストラッシュが容赦なく攻撃を畳みかける。
「潰れろ」
広げられたデストラッシュの両腕にエネルギーが凝縮されていく。
それは捩れた巨腕の形を取り、不規則な機動を以てトラッシュを捉えんと襲い来る。
危険を感じ足場を飛び渡って回避するトラッシュ。巨腕は決して小さくはない足場を粉々に握り潰し、それにより更に巨大化して追いすがってきた。
『デストラクション……破壊? まさか、物体を破壊したエネルギーを利用してるのか!?』
その様子を見て、トラが相手の力を突き止める。
ジャンクキューブ『破壊』。それはまさしく破壊の力。操る破壊エネルギーがあらゆるものを壊し砕き、そうして発生した破壊エネルギーをも取り込んで無尽蔵に破壊を生む、破壊の永久機関。
変身者の身体すらも贄とする、究極なる破滅の力だ。
「この世界を破壊なんてさせない……!」
巨腕の猛攻から逃れ、トラッシュは止めるべく攻勢に出る。
『トラッシュ! クロスベノミックス!』
ドライバーを操作し、必殺音声を鳴らす。
ベノムの毒性がトラッシュの肉体を激痛で蝕みながら強化。
盛り上がった筋力を最大限に発揮して跳躍し、同様に限界まで増強された右脚を力の限り間近へと迫ったデストラッシュに炸裂させた。
ズガアァンッ!! という衝突音が異界に響き渡る。
先の大魔王形態にも通用した一撃を、
「……なっ……!?」
防ぎもせず受けたデストラッシュはまったくの無傷であった。
「破壊の神となった私に破壊を生む攻撃は通らん。それが道理だ!」
憎悪の内に、優越の笑みを滲ませて言うデストラッシュ。
破壊を伴う攻撃が効かない――それすなわち攻撃そのものが通用しないということ。絶望的な事実を突きつけられたトラッシュは絶句するしかない。
デストラッシュがドライバーのハンドルを押し込む。
『デストラクションッ!! デストラクラッシュッ!!』
破壊エネルギーが壊した物体、概念を巻き込みデストラッシュに収束する。
「っ!? これは……!」
『う、動けねえ!?』
それは空間をも歪め、咄嗟に飛び退ろうとするトラッシュの動きを封じてしまう。
収束したエネルギーがデストラッシュの胸部で圧縮され、
「滅べ」
一瞬の無音から、
誇張無く世界を壊さんばかりの衝撃が炸裂した。
レナ決死の自滅。一度は自分が世界の敵と諦観したものの、玲二の呼びかけに本物のレナ同然の覚悟を示した形です。劇場版ドライブの顛末はこうであっても良かったんじゃないか、という個人的願望を投影してみたり。
それによりブチ切れたゼモンが破壊のライダー、デストラッシュに。見た目のモチーフはまんまトラッシュのアナザーライダー化って感じです。ゴミの力で誰かを守るトラッシュというヒーローに対して全てをゴミとして破壊するハードゴミリオンという悪意の対比。破壊の神を自称するだけに、破壊を伴う攻撃が全無効となります。
因みに変身音声は、トラッシュの原作者である放仮ごdzさんの過去作でオーズのオリ形態として登場したハカイシンコンボから拝借しました。
希望と絶望がぶつかり合う決戦。次回もお楽しみいただければ。