貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
『どうせゲームするんなら男じゃなくて、女の子のキャラでプレイしてえな』
そのゲーム開発者はこう考えた。
そして、同時に思った。
『でも周りの奴らに、男なのに女キャラ使ってるとか思われたくねえな……』
そのゲーム開発者(※48歳独身)の感性は、中学二年生と同じだった。
故に、彼は天才だった。
『せや、いやでも女キャラを選ぶしかない設定のゲーム作ったろ』
『男は魔術無し、クソステ、レベル1制限の縛りプレイ限定キャラ。女だけ魔力とかレベルアップとか、あ、スキルも女だけ使えるようにして……っと、おっほ! 天才キタコレ』
答えは、出た。
創った。
全世界売上5000万本超。
発売わずか3年足らずで、歴代ゲーム売り上げ記録の10位以内にランクイン。
そのゲームは全世界のむっつり紳士達の心を掴んだのだ。
むっつり紳士達は、自分の理想のかっこよくてかわいい女キャラをメイクし、その世界を遊び尽くした。
周囲からの視線は気にならない。
『お前男なのに女キャラ使ってんのwww』
『エロじゃんwww』
『へえ、こういうのがタイプなんだ』
『胸大きいキャラばっかりだね』
『太もも太すぎない?』
『なんで戦うのに水着着てるの?』
心ない陽キャ達の言葉も怖くない。
そのゲームは言い訳を作ってくれたのだ。
主人公を女性にしたのも、やけにスタイルが良いのも、露出度が高い水着みたいな装備を着てるのも、全ては理由があるのだ。
紳士達は、胸を張って心無き者に答えた。
『いやwwちげえしww! こっちの方が強いからだしwww』
こうして、"灰と絶望のダークファンタジー・クライシス・ソウル”は歴史に残るAAAタイトル(超凄い神ゲー)となったのだ。
このゲームの真の魅力――プレイヤー達の脳を焼いた最大の要素が1つあった。
丁寧に作られた世界や、人物――それら全てを灰燼に帰すシナリオ。
キャッチコピーは“絶望を、叫べ”
このゲームをプレイしたプレイヤー、ゲーム配信者がこぞって呟くセリフ。
『はい、クソ』
高すぎる難易度。
理不尽なゲームバランス。
それらをクリアせねば、愛着のある世界がどんどん壊れていくゲームデザイン。
友好度が上がれば上がるほど、容赦なく死んでいく仲間キャラ。
丁寧に造られた世界は、ゲームの進行と共に滅びの道へ進んでいく。
プレイヤーと主人公は、滅びゆく世界の中、文字通り何度も死にながら、ボスに挑んでいく事になる。
このボスが、強い。
何回やっても倒せず、理不尽なまでの難易度にコントローラーを放り投げる。
『はい、クソー!』『マジクソゲー』
しかし。
『……まあ、あと1回だけやるか』『さっきのもっと早くバフかけてれば……』『あのアイテム使えるんじゃね?』『あれ…………勝てそう』『ボスゲージ見て!! ボスゲージ見て!! HPミリ!! 激ミリ!!……』『お尻ィ!! ここから始めて!! バックスタブ!!』『ローリングローリング、はあ!!?? 今避けただろうが!!』
またコントローラーを握り、ボスに挑んでしまうプレイヤー達。
クライシスソウルには愛称が生まれた。
絶望と嘆き、そして再起。
何度も死ぬ主人公と共に、何度もボスに挑むプレイヤーの姿と、ゲームタイトルからちなんで生まれたその愛称。
【灰クソ】と。
◇◇◇◇
「灰クソ……?」
意識が覚醒する。
レンガの建物、石畳の床。中世ファンタジー感のある裏路地。
目の前に、しりもちをついた泣きそうな美少年と小さな犬が1匹。
周囲には意地の悪い顔をした13歳~14歳くらいの少年集団。
俺の手には、小さな石が握られている。
「う、うう……」
「ウウウ……ワン……!」
酷く怯えた様子の美少年と、彼を守るように四つ足で踏ん張っている子犬が目の前に。
「待て……俺は、今、君に何をしようとしていた?」
「え……。えっと、石を投げようと、してた……よ。僕が、冒険者のニアさんに色目を使ってるって……」
白髪の少年が恐る恐る答えてくれる。
「どうしたんだよ、リヒト」
「今更ビビった? いいの? こいつらに石投げないんだったらお前も一緒にいじめるよ?」
「だとしたら萎えるんだけどー、トモダチだよね、ウチ達」
俺の背後で、3人の少年がにやにやと笑っている。
簡素な布の服に、茶色革の靴。
どこか牧歌的なファンタジーを感じる子供達の服装。
頭にかかった靄をゆっくり蜘蛛の巣を取り払うように払っていく。
「その白髪ブス、引っ越してきていきなり、調子に乗ってんだよね」
「ちょっと可愛い顔してるからって女に媚びすぎ」
「それ分かる。ニアさんとかにも取り入ろうとしてさ」
「似顔絵とか書いて媚びるとかほんとキモイんだけど」
「てか、白髪って魔族なんじゃねえの? うちのパパも白い髪の奴と仲良くしちゃだめって言ってたし~」
この白髪の美少年がいじめられている側か。彼の足元には紙片が散乱している。
絵だ。いじめっこに引き裂かれたのだろう。
違和感を覚えるいじめっ子達の会話。なんか所作や、話す内容の全部が……。
「性格の悪い女子っぽいな……お前ら」
「「「はあ?」」」
「……少し考える、ちょっと待て」
流れ込んできた情報。あれが前世の記憶という事だけは理解できる。
俺は、社畜として死んだ。
多分、過労死だろう。
PCの画面、迫る納期、上司から10分ごとに送られる詰めチャット、噴き出る汗、心臓の痛み。
そういう死の記憶が流れ込んできた。
ある男の人生を、一気に体験したかのようだった。
他に前世の事で思い出せたのは――。
「……灰クソ」
あるゲームの記憶だ。前世の俺がハマっていたゲーム。
“灰と絶望のクライシスソウル”通称、灰クソ。
いわゆる死にゲーと呼ばれる超高難易度を誇るゲーム。俺は前世で、灰クソをかなりやりこんでいた。
ハマりすぎて、シナリオを何週もプレイした。
周回プレイを繰り返し、異なるビルドを鍛えて数十種類存在するEDのコンプリートを目指したっけ。
灰クソファンの俺は、すぐに気付く。
この街の中世ヨーロッパな建物、子供達が着ている服、夕焼け空に浮かぶ3つの月……。
「……この街の名前は?」
「はあ? お前なんなの? 急に。“カレル行商街“に決まっているだろうが」
カレル行商街……? おい、嘘だろ。
灰クソで出てくる街の名前だ。
それに、この怯えた様子の白髪おかっぱ目隠れ美少年。
俺の知っている姿と比べると、かなり幼いが――。
「君……まさか、名前は、ニールライスか? “旅絵描きのニールライス”……そこの犬は……ブラックドッグの“ロボ”……」
「な、んで? 僕、のこと、知って、るの?」
たどたどしい口調に爽やかなソプラノボイス。
灰クソのNPCの1人、“旅絵描きのニールライス”にそっくりだ。
灰クソの街。灰クソに出てくるキャラクターの少年バージョン……。
……2アウトって所か。
おい、待て。灰クソの世界に異世界転生なんて冗談じゃないぞ。
何故なら、この世界は――。
「リヒト!! お前何急にそいつに話しかけたりしてんだよ! 意味わかんないんだけど!」
「それ思うわー、マジで萎えるんだけど、そういうの。良い子ぶんなって」
「お前もいじめてやろうか? なあ、姉ちゃん」
「あー? 可愛い弟の頼みなら、仕方ないわねえ」
いじめっこ集団の奥に鎮座しているのは、ごつい生き物。
モンスターのオークみたいな迫力の女子だ……。腕が太く、迫力がある……。
「ひっ」
「ウウウ……! ワン!」
あ、子犬が女子オークに突撃して――。
「ふん!!」
「キャイン!!」
普通に蹴り飛ばされた!!
吹き飛んでくる子犬をなんとか受け止める、よし、息はしてるな。
「ワン!? ウウウ!! ……ワン!」
まだやる気みたいだ。
俺の手から飛び跳ねて、今度は、俺の隣で牙を向いている。
仲間認定してくれたらしい。心強いな。
「おーい、リヒト、その根暗ブスとクセぇ犬にさっさと石投げろって」
「お前だってそのブス調子乗ってるって言ってたじゃん」
俺はさっきまで、このいじめっこ達と一緒にニールライスと子犬をいじめていたらしい。だめだ、前世の記憶を思い出す前の自分の事が完全に飛んでいる。
「早くその臭い犬蹴っ飛ばすか、そのブスに石投げろって。そしたらまた仲間に入れてあげるからさ。ハブられたくないでしょ? お前、親もいないんだし――」
「やめだ、犬と美少年をいじめるなど、ありえん」
「は?」
前世の俺がどんな人間だったのかは思い出せない。だが、1つだけ頭に残る言葉がある。
――為すべき事を為せ。
石を強く握りしめ、ニールライスと子犬を庇うように立つ。
「かかってこい、モブ共。あと、ライス君はブスではないし、犬も臭くない。どちらかと言うと、お前らの方がブスで臭い」
「「「――は?」」」
「ああ、ついでに、お前の姉も含めて、この場ではライス君が一番可愛いぞ」
「――ぶっ殺す」
姉オークが地面を蹴ってまっすぐこちらに突進、そこまでは目で追えた。
「ぐ、ふッ」
「誰が、ブスだってぇぇぇぇぇ!! このクソオスがァァァァァァァ!!」
気付けば、俺は石畳にたたきつけられていた。
我ながらめちゃくちゃ弱い。
いや、この姉オークが強いのだ。
斃れた俺の腹にぶち込まれる姉の蹴りは一発一発が重たい。同じ生物とは、思えないな!!
「や、やめてっ。その人、し、死んじゃう!! 死んじゃうって!」
「わん!! ぐるるるるる!! キャイン!!」
メカクレ少年と黒い子犬が、必死に俺を庇おうとしてくれるが、やはり人数の差には敵わない。メカクレ少年は
髪を引っ張られ、犬は棒で叩かれている。
この女の異常な強さ、同じ生き物とは思えない。
女が、圧倒的に強い。
やはり、この世界は、灰クソの――。
「オヤァ?」
突如声がした。冗談みたいに可愛いソプラノボイス。
「えはは。きっしょ~、ザコがザコをいじめてるう~。女のくせに男に手を上げる(・・・・・・)とかダッサすぎてクッソワロタ」
「は? アンタ――ぶべらっ!」
「そのダサさのヤバさを理解しろ? 雑魚虫が」
どごっ。
流星のような飛び蹴り。オーク女が一瞬で吹き飛んでいく。
「ひ、ひ、に、ニア、さん……」
「ハァ? 誰がアタシの名前呼ぶのを許可したの? クソオスは消えろよ、死にたいの?」
「「「ひ、ひっ。ご、ごめんなさあああああい!!」」」
一睨みで退場していくいじめっこ達。
突如現れた少女により、俺達は助かった。
「えはは。クッソザッコ。キッモ~。……だから男は嫌いなんだよね」
緑の髪をポニテにまとめた美少女。小さな顔に白い肌、夏の妖精とスポーティさが合体したような雰囲気。
この子、どこかで見覚えが――あ。
「――メスガキ主人公?」
「――ハァ?」
彼女は、あるゲームの主人公キャラによく似ていた。その性格や容姿からファンの間ではメスガキと呼ばれ莫大な人気を誇っていたキャラクター。
「メスガキしゅじんこう? えはは、意味わかんない。オマエ、何言ってんの? アタシの名前は――」
――ニア・リセラヴェルタ。
それはあるゲームの主人公の名前。
ニア・リセラヴェルタじゃないように。ニア・リセラヴェルタじゃないように。ニア・リセラヴェルタじゃないように。
もしも名前まであのゲーム、“灰クソの主人公“と同じだったら――。
「アタシはニア・リセラヴェルタ。ちょ~最強の冒険者になる女♡」
はい、ゲームセット。33―4、終了解散閉廷。
灰クソ主人公と完全一致です。
「そんなアタシがたまたま通りがかるとか、ほんとアンタ達の人生ではありえない幸運ってこと理解してる~♡?」
「う、う、あ……」「わふ……」
「うんうん♡ そっちの白髪の可愛い子くんとわんこは理解してるようで何より♡ で~? あんたは~? 助けられた自覚おありですか~?」
「あ、それは本当にありがとうございます」
「えっ、何、急に。普通に素直じゃん……?」
瞬きを何度か繰り返し、緑髪ポニテが咳払いをする。
「えーと、てか、アンタ、あのいじめっこ達の仲間じゃなかったけ? アタシさ、弱い者いじめする奴大嫌いなんだよね~? まずはそこの白髪君達に謝るべきじゃないの~? あーでも、いじめっこが素直に謝るなんて出来るわけない――」
「……君の言う通りだ」
「……えっ?」
「ライス君、ロボ、本当に、すまなかった」
俺はライス君とロボに頭を下げる。何も覚えていないとしても、俺が悪い。
「え、え、? なんで、僕の、名前……あ、で、でも、君は、僕達を、助けてくれた、よね?」
「わんわん! きゅーん、きゅーん!」
「ろ、ロボも、君の事が、好き、みたい。え、えっと、き、君の名前は?」
「俺の、名前……?」
いかん、記憶がない。この世界の俺の名前って――。
《what's your name?》
《τετραγράμματον=Your Name》
「リヒト・テトグマン」
唐突に思い出した。俺はリヒト、この世界の俺の名前はリヒト・テトグマンだ。
「り、リヒト君、た、助けてくれて、ありがとう。ロボもそう言ってる」
「わんわん! ぼふっ、ふがっ」
「うお!」
黒子犬が飛び掛かって顔をなめてくる。やだ、このワンコ、人懐っこい。
「ふーん……素直に感謝出来て、素直に謝れるんだ」
俺をじっと見ている緑髪ポニテ、アーモンド形の綺麗な目、小さな鼻、小さな額。どこか猫っぽい美少女フェイスはどう見ても記憶にある灰クソの主人公そのもの。
「助けてくれてありがとう、リセラヴェルタさん」
その世界は、呪われた世界。
女だけが異常に強く、男がクソ雑魚で戦えない世界。
もしも、この世界がそんな灰クソの世界だとしたら。ここは、この世界は――。
「ふ、ふーん、ふーん。ま、まあ、謝るのくらい当たり前っしょ~♡ その調子で平伏して感謝してむせび泣いていけ~? ク・ソ・ザ・コ、オトコちゃん?」
――貞操逆転死にゲー世界。
俺は、なんてバカな世界に転生してしまったんだ……。
◇◇◇◇
~あれから3年~
俺は、リヒト・テトグマン”
現在17歳。
貞操逆転死にゲー“灰クソ”の世界に転生した哀れな男モブだ。
前世の記憶を思い出して、3年が経つ。
この3年、必死に様々な検証を行った。
街の教会で書物を読み漁り、行商人から周辺の地理情報を仕入れ、街の冒険者ギルドでバイトして冒険者達の話に耳を傾けて。
結論。
ほぼ9割、この世界は“灰クソ”の世界である。
歴史書の内容や、地名、その他諸々が、灰クソ設定資料集¥5300―に載っていた内容と一致した。
だが、まるきりゲームそのものな世界という訳ではないらしい。
ゲームではNPCとして決められた言葉しか喋らない者もこの世界では普通に生きる人間として振舞っている。
灰クソに限りなく似た異世界って感じか……。
そこから少し悩んだ。
転生モノでお約束のチートやらギフトは……今の所無い。
転生モノによくある神様とかお助けメッセージみたいな便利機能的なものとも今の所出会えていない。
転生チートで最強を目指そうルートは今のところ、非常に難しい。
そこで俺は、現実的な目標を立てた。
目標は【平穏な暮らし】だ。
具体的に言うと【帝都での安全な事務仕事】を目指している。
その目標の為に、俺は今――。
「おーい、そこの少年、エール4つと炎尾トカゲのスモークステーキお願い!」
「こっちのテーブルにもトパーズワインちょうだいなー」
「給仕さーん! さっき頼んだレッドテールのレアステーキまだー?」
活気溢れる冒険者の酒場。
溢れる注文、豪快な笑い声、戦場のような忙しさ。
「はい、4番テーブル様、エール4つお待たせ致しました! 炎尾トカゲのスモークステーキもすぐ出来上がります! 5番テーブル様、トパーズワインはグラスとジョッキどちらで……はい! ジョッキありがとうございます! 6番テーブル様、レッドテールレアステーキは今焼き上がり中です! もう少々お待ちを!!」
――冒険者ギルドの酒場で給仕のアルバイト中です。
愛想よく、酒や食事を配膳する。……膝より短い短パンに子供用スーツみたいな服を着て。
なんだ、この服……趣味の悪いエロ漫画に出てくるショタじゃねえんだぞ。
だが、背に腹は代えられない。
何はともあれ、まずは金だ。
親を亡くし、天涯孤独の身であるらしい俺が生きていくには金がいる。
むわりとした熱気。
燻された木の香りに、強い酒と、女の汗の甘い匂い。
店の中心にある巨大な暖炉では炎が揺らめき、その近くで巨大な肉がじっくり炙られ、汗のような脂を滴らせる。
ここは、行商街カレルに唯一存在する冒険者ギルド。
異世界ファンタジーお馴染みの光景だが……。
この冒険者ギルド、何かがヘン……。
大きな武器や鎧を身に着け、大酒を飲み、仲間と騒いでる冒険者。
それら全てが、女性だ。
男の冒険者は1人もいない。
これこそ、灰クソ世界の特徴――女性最強世界。
男女の思考や貞操観念が逆転した異世界で、俺は――。
「ねえ、見て。あの給仕の子……新人かな、黒髪、いいね……」
「太ももエッロ……ああいう一見地味な男がさ~夜だと積極的だったりするんだよね~」
「ちんちんみたい」
「見てあのケツ……あれ絶対筋トレしてるよ~。誘ってるのかな?」
「あの普通でちょうどいい感じが一番エロイってはっきりわかんだね」
「抱き潰した~い、絶対Mだよ、あの子~」
「ちんちんみたい」
女性冒険者からエロイ目で見られながら仕事をしています。
クソ異世界過ぎるだろ。
御覧いただきありがとうございました。
良ければブクマして続きをご覧くださいませ。
ありがとうございます。9万文字書き溜めあるので、毎日更新します。