貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
魔力を纏ったニアが、縦横無尽に駆けながらオルデランを翻弄する。
「おいおいおいおい! 結構強いなァ……ちっ、魔力外皮や魔力強化まで月の売女共と同じかよ!! こりゃ、絶対障壁に進化すんのも時間の問題、か」
「アンタ、ギルドを襲った時と比べて──弱くなった?」
「──ぎゃははは! まあ、こっちにゃそれなりに、強さのネタがあるもんでなァ! お前らみてえに気分でパワーアップできねえんだっつの!」
ナタと剣がかみ合う。
つばぜり合い。ぐぐっとオルデランがナタを押し込むが、ニアはビクともしない。
2メートルもある巨体の男を、膂力で完全にニアが上回っている。
「
ぐらっ、ふわっ。
周囲のがれきが一気に浮いた。
それが一斉に真上から、オルデランに降り注ぐ。
ニアの固有魔術、念動力のようなものだ。シンプル、故に汎用性が高い。
「うお!? なんじゃあ、そりゃァ!!」
自分を狙って降り注ぐがれきから逃げる為、大きく飛びのくオルデラン。
奴の方が余裕はない。
「魔力の固有進化系……権能、いや、スキルって奴かァ!? クッソ、どんどん形質遺伝が重なってやがるな、オイ!」
「不死の対処法はアタシも知ってる。お前達、死んだらその場で再生し続けるしかないんだよね」
ハイライトの消えた瞳のニアがオルデランを見つめている。
「なら殺し続けて封印してやる」
「怖え~……! やっぱ女は悪魔だなァ!」
この世界では、不死の対処法が確立されている。
様々な方法があるが、ニアが狙っているものはその中でも最も原始的なやり方。
やり方はシンプル。
不死は、死から再生する際、完全に無防備になるのだ。そこを永遠に殺し続ければ、不死は死んだままの状態になる。
後は、再生の限界まで殺し続ける作業だ。
灰クソのゲーム内でも通称リスキルと呼ばれていた方法。
「チッ、強い奴の相手は面倒だァ」
銃を構えるオルデラン──だが、問題なし。
お前の銃の発射タイミングと予備動作は、知っている。
バカデカい銃を構え、銃口を1度縦に揺らして、ああ、うん。
「我、血の導きに従い悪竜に至る者。今こそ、共に神を喰らわん!! ”血の矢”!!」
ぎゅる!
放たれた銃弾に向かって血の矢が吸い込まれるように飛んで互いに破裂する。
本日6本目の血の矢、まだいける、まだ撃てる!!
血の魔術の性質と銀血弾の相性は最悪にして最高。
俺がいる限り、奴の銃弾はニアに当たらない。
「ああくっそ!! またか!! 撃ち落とした!! 撃ち落としやがったな!! 俺の銃弾を!! クッソ! 銀血術式の血を追う性質を利用……! 違う、俺の癖まで知ってんのか!? 銃の発射タイミングが読まれてる!? なんでそんな芸当が出来る!!?? お前ほんとになんなんだよ、クソガキが!!」
「凄いでしょ、アタシの
「げっ」
ずばっ。
ニアの西洋剣、地面を這うように振り上げたソレがオルデランの右手を両断した。
ぼとん、がしゃん。
右手とそれで握っていた銃が落ちる。
オルデランが、ごぼごぼ血が流れる腕の断面を見つめていた。
「……男の方も底知れなくて不気味だが、女もやべえな……衛星からの支援が切れてるとはいえ……まさか白兵戦でここまでボコボコにされるなんてなあ」
倒せる、殺せる。
「ニア、このまま援護する、奴を──」
「……こんな所で、使うつもりは、なかったんだぜ」
オルデランが、残った左手で大ナタを腰ダメに構える。
居合の構えのような。そこから振りかぶってもニアにも俺にも当たらない。
「対象の脅威度を“十二魔星級”と認定」「高濃度魔力外皮による肉体強度への対応が必要っと」
なんだ、その構え。
「AMTデバイス──使用申請。──敬意と受け取ってくれや、お前らへのよ」
ゲームでも見た事がない。
「対──部隊の権限により自己承認──デバイスON」
なんで、お前そんな届かない位置からナタを振りかぶって。
「まずは、一番厄介なお前からだ──UTUSEMI」
「「ぇ?」」
キンッ。
あ、れ?
「りひ、と?」
ニア? どうした? なぜ俺の方を振り返っている?
顔、瞳孔が開いて。
どさっ、
あれ? いつのまにか地面が目の前に。つまずいたのか? 起き上がらないと──「あ」──足が、無い。
胴体、腰から先が無い。
上半身と下半身を真っ二つにされていた。
痛い、痛い痛い痛い痛い。
斬られた。
どうやって、ナタは当たっていない。
「ァ──。あ、ああああああああああああああああああああああああ!!」
ニアの絶叫。
「あー、愛されてんなあ、ガキ。こりゃ躱せねえわ」
ごごごごっごごごごっご。
瓦礫が隕石のように遥か上空からオルデランに降り注ぐ。
「りひと? りひと、え……え? ま、待って、待って、待って」
ニアが駆け寄ってくる、ダメだ、戦闘に集中しろ。
オルデランは、まだ、死んでいない。
クソ、大きな声、が、出ない。
「い、いと尊き始祖たる月よ、愛しき者の傷を貴女の光でふさぎたまえ”癒す月明かり”」
ぽうっ。
ニアが俺の傷口に両手をかざす。
「あ、あ、なんで、血が、止まらない……あああ、なんで、なんで、なんで!?」
ニアが何度も俺に回復魔術を使用する。
しかし、それは血の流出を遅くする事しか出来なかった。
「ああああ、やだ、やだ……! どうしよう、どうしよう、どうしよう……足、リヒトの、足、そうだ、つなげて、繋げてあげなきゃ……」
まずい、ニアが明らかに錯乱し始めている。
ニアを安心させなければ。
「に。あ」
「──ッ、何、リヒト、痛い、痛いよね? ああ、アタシ、アタシがっ、アタシが絶対になんとかする! アンタを絶対に死なせな──」
落ち着け、今は戦闘に集中して。
そう言おうとした瞬間──。
「ごぼっ」
「えっ」
ぼたぼたぼた
ニアの目の前で血を吐いてしまった。
ぴちゃっ
彼女の白く綺麗な顔を俺の血で汚してしまう。
ごぼっ、がぼっ、黒い血が気道をふさぐ。
俺は、もう助からない。
でも、お前は特別で、この世界の英雄だ。
俺ごときの死は、お前の道になんの影響も──
「リヒト──いや、イヤァァァァァァァァ!! 死なないで!! 死なないでええええええええ!! 置いていかないでえええええええ!! ああああああああああ!! なんで、なんで、リヒトが死なないといけないの!! 神様!! 月の女神様、お願い、たった1人、たった1人の愛した男なの!! アタシのつがいを!! リヒトを連れて行かないでええええええええ、返してえええええええええええええええええええええええ!!」
ニアの絶叫。
様子がおかしい。
髪の色が、綺麗な新緑の髪が、真っ白になったり、また緑に戻ったり明滅している?
魔力も、青い魔力が赤に変わったり……。
それに、目だ。
目の瞳孔が縦に裂けて……。
「おーおー、魔力暴走か。転化が始まってらァ。その執着心、あいつらとそっくりだぜ」
キンッ。
瓦礫の山が、小間切れに刻まれる。
そこから這い出たのは、血だらけのオルデラン。
「1回の攻撃で、5回以上死んだのは1000年前以来だ、しっかり化け物じゃねえか、女」
ぐちゅちゅ、潰れた肉が巻き戻るように再生している。
ふっと、ニアの魔力が凪いだ。
「なんで、おまえがまだいきてるの、なんで、りひとを、斬ったの?」
「ァ? ぎゃっはっは、決まってるだろ──俺が、不死だからだ」
「──ふし、しんぞう、月女神教の言い伝え……ふしの心臓があれば、傷を治せる?」
「そりゃプロパガンダだ。月の化け物の……あー……待て、月女神教? ……まさか、宗教体系までもう乗っ取られてんのか? 1000年前の負けも痛いが、100年前の負けが決定的だったな、こりゃ」
「よこせ、しんぞう、お前の、心臓、アタシの幼馴染の為に──!!」
何が、起きている?
ニアの髪が一気に伸びて、真っ白に変わっている。
白髪……? なんだ、あの姿は?
魔力が赤く変化し、雷のようなものが魔力に交わる。
びききききき。
ニアの身体に、赤い鎧のようなものが生え始めて──。
「死ね──不死!!」
「銀血術式、装填完了──AMTウェポンM802対物ライフル”コイン・オルゴール”」
ゴウン!!
もう血の矢での迎撃は出来なくて。
「あっ」
銃声、瞬間、ニアの腹に風穴が開いた。
「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
それでも、ニアは進む。
ずるっ、まがまがしい魔力を身体に纏い、縦に裂けた瞳孔を見開き、地面につくような白髪を振り乱して。
「魔力供給機関破壊──トドメだ、UTUSEMI」
「に、あ」
オルデランに立ち向かうニアへ手を伸ばす、でも、意味が無かった。
「あああああああああああああああああ!! ころしてやる、ころしてやるころしてやるころしてやる、殺してやる、殺して──ぁッ」
キンッ。
ニアの身体がふらっと立ち留まる。
ずるり、その場で、上半身と下半身で別れるように真っ二つ。
周辺のがれきも同じように斬られている。
空間の──切断?? おい、灰クソで、そんなの、なかった、ぞ。
「おっえ……衛星の支援なしでアンチデバイス使うと負担がとんでもねえな、オイ」
「知らな、い……。神父オルデランが、そんな技使う、なんて……」
何が起きたか分からない。
ただ、奴のナタが空を切った瞬間、ニアが斬られた。
「よお、黒髪のガキ。まだ喋れんのか? この時代の男とは思えねえほど気合入ってんなァ。惜しいぜ、お前が不死だったら間違いなくスカウト対象だ。まさか魔術を使うたァ、予想より早く遺伝子同化が進んでんのか? いや、だが、ダディの研究では男の遺伝子には……まあ、いいか」
瓦礫に腰を掛け、オルデランが呟く。
「な、んで……どうやって、斬った、アレは、なん、だ……」
「アレはなんだってそりゃ、こっちのセリフだぜ。お前、ほんと気味悪い奴だったな。全部手の内読まれてるような……。まあ、お前はもう死ぬからいいや。で。いいのか? そこの女も、そろそろ死ぬぞ」
「こひゅー……っ、り、ひと……」
「ニアッ……」
2メートルほど離れた場所で、ニアが死にかけている。
髪の毛が元の色、長さに戻っていた。
「これでも神に仕える身でな。俺達の神はお前達の神と違って慈悲深い。……最期の時くらい2人きりにしてやるよ」
そう言って、オルデランは炎の向こう側に消えた。
冒険者ギルドの残骸に残るのは、俺とニアだけ。
「りひ、と……ど、こ……暗い、寒い……痛い、よ……」
「く、そ……」
痛い、痛い、痛い。真っ二つにされた場所、もうないはずの下半身から激痛が昇る。
それでも、地面を這って、ニアの元へ。まだ、俺が生きている内に……。
「りひ、と……? ごめん、ね、アタシ、勝て、なかった……ごめん、ね」
痛々しい。上半身だけのニア、聞いた事のないか細い声で声を漏らす。
「に、あ……回復、魔術で、自分を治せ……」
「え、はは……ごめ、ん。ちょい、無理そ……魔力が、遠くて……あ、そっか、アタシ達の魔力って……お胎に……ごぼっ」
ニアの口から零れる血が止まらない。
「リヒト……前、暗くてよく、見えないんだ……近くに、いるの?」
「ニア……ここだ、ここにいる」
「えはは……リヒトの、声……だ。ね……え……手、にぎ、って」
差し出された手を思いきり握る。
冷たい。そして、驚くほど小さくて細い手だ。
こんな手で、俺を守ろうとしてくれていたのか。
「あ、手……暖かい……あーあ……えはは……こんな事、なら……りひと、抱いてりゃ、良かった、な……」
「死ぬ奴の、セリフ言うな! 大丈夫、大丈夫だ、お前は、死なないっ! 死なないんだ!」
「夢、たくさん、あった、の……ママ、ごめん、ね。パパ、酷い事、言って、ごめん……ね」
どんどん零れる血、ニアの命が少なくなっていく。
「りひと、と、けっこん、して……幸せにしたかった……つきの、みやも、見つけてない……帝都に行って、剣、聖にリベンジマッチだってしたいのに……やだ……」
死ぬという事がなんなのか、今、痛いほど理解する。
それは願いの喪失、それは未来の消失。
「まだ、やりたい事、たくさん、あるのに……」
くしゃっと顔を歪ませるニア。だが。
「死にたく、ないよぅ……りひとぉ」
「大丈夫だ」
ニアの手を強く握る。
「お前は──不死だ。ニア・リセラヴェルタ」
そう、ニアは不死だ。
灰クソのメインシナリオ、ニアは王都で、オルデランと戦い、敗れて死ぬ。
しかし、それは終わりではない。
そこからが、不死の英雄・ニア・リセラヴェルタの物語の始まりだ。
「お前は終わらない。お前は必ずお前の夢に手を伸ばす……! 俺はそれを知ってるんだ!」
「え、はは……なんだ、それ……そんな、訳、ない……じゃん。物語の主人公じゃ、あるまいし」
「お前は灰クソの主人公だ! お前は死なない! 死んでもここから這い上がり、物語が始まるんだ……!」
「え、はは、出た、たまに言うリヒトの意味、分かんない奴……でも、それ、いい……ね。リヒト……じゃあ、リヒトも? リヒトも、不死? アタシ、だけ、不死だったら、離れ離れに、なっちゃう、じゃん」
「っ……」
言葉を呑む。
俺は死ぬ。ニアが死を克服したその時、俺はもう存在しない。
彼女は、不死が最も恐れるものが何かを知っていた。
「だったらいいなあ……。アタシの夢が叶うんなら、リヒトをアタシのお婿さん、に、したい……なあ」
俺は、今から最悪の嘘をつく。
死ぬ行く俺に出来る事。
それは、ニアに希望を魅せる事だ。
不死として覚醒するニアが、主人公として戦えるように。彼女の傷になる訳に行かない。
ああ、ちくしょう。結局俺は最期の最期まで口だけのカス野郎だ。
「ああ、俺も、きっと不死だ……! そう、だから、これからずっと、一緒だ……!」
「そっか……じゃあ、復活したら、超抱く……。まずリヒトを、抱きつぶすから。ちょ~いちゃらぶの、えっち……したい……キスとかも、めっちゃするし、空っぽになるまで、絞るし……それでも、いい?」
「好きにしろ……! なんでもしていい!」
「えはは、言質……取ったあ……」
ニアは満足そうに口元を綻ばせる。
これで、良い。
ニアが不死として目覚めた時、俺はもういない。
だけど、ニアを絶望のまま死なせる訳には行かない。不死に大事なのは何より希望なのだ。
不死は戦い続ける事ができる、心折れぬ限り。
「あり、が……と……りひと、まだ、いる……?」
「いる、ここに。ここにいる!」
「そ、か……ごめ、ん……アタシ、ちょっと、眠たい……から……少し、眠る、ね……それで、起きたら、また……一緒に……冒険、して……家にはリヒトが、いて……えはは」
光のないニアの目。
俺は今更、俺の幼馴染が綺麗なのだと気付いた。
その目がじっと俺を見ている。
「リヒト、キス。したい……」
「……分かった」
ニアの唇に唇で触れる。
初めてのキスは、どうしようもなく柔らかくて、熱くて、湿っていて。
鉄さびの香りがした。
「えはは……唇ガサガサ……じゃん。でも、嬉しい……やった、リヒトの……初めて、貰ったから。覚えてお、けよ、ナ~……?」
至近距離、ニアの顔。本当に綺麗な顔立ちをしている。
「リヒトの初めては、アタシ、だ、って」
ちゅ。
再び、ニアが口づけを。だが、それはすぐに終わり──ニアは動かなくなった。
「ニア……?」
ニアの身体から、力が完全に抜けた。
握ったままの手、そして体はぞっとするほど冷たい。ここにいるのに、ここにはいない。
目は濁り、顔は固まり、でも、すこし笑っている。
ニアが、死んだ。
だが、大丈夫。
彼女は不死だ、これから復活し、彼女の真の物語が始まる。
灰クソの主人公は、皆、特別な不死。
死んだ瞬間に、その身体は灰となり、任意の場所で再構成される。
ゲーム上の仕様で、敵キャラからリスキルされない為のシステムだが、確か設定上も何か意味があった気がする。
……こんなゲーム知識も、もう俺には必要ない。
「この先が、見られないなんて残念だ……」
俺はこれから死ぬ。
やはり、灰クソの世界で”平穏”に生きようなんて──無理があったか。
俺が、転生したこの人生に意味はあったのだろうか。
結局、何も成し遂げる事が出来なかった。
「あ……」
ふと、思い出す。
ライス君が絵を描く時、ペンが紙の上を滑る音。ニアとの剣の稽古で流した心地いい汗。 涼しい夜に見上げた月。穏やかに過ぎた時間。
銀仮面の貴族の少女達への授業。お面を被ったエルフや獣人の教え子とのひと時。
屋敷の天窓から注ぐ、柔らかい陽光。
「ああ、そうか……最初から、俺は──もう手に入れていたのか」
この街には、平穏があった。
ゆったりと続く優しい時間、俺が求めていたものは手元にあったのだ。
もっと、早く気づけていれば。もっと、もっと大事に。
目を少し、閉じる。
よかった、死ぬのは思ったよりも怖くないし、痛くもない。
ニアも同じだったら、良い、な。この先、君
「ニア……不死たる君の──これからの冒険に、溢れんばかりの祝福と……平穏が、あります、よう、に……」
俺はそのまま、真っ暗の世界に意識を委ねた。
《earth to earth, ashes to ashes, dust to dust》
《No one lives forever》
……………………。
…………………………。
…………ん? あれ? どれくらい時間が経った?
もう死んだのか? いや、普通にまだあれだな、上半身だけの状態だな……。そろそろ死ぬのかな……
いつ──俺は死ぬ?
《earth to earth, ashes to ashes, dust to dust》
寒い。寒い。
暗い、暗い、暗い。
ああ、怖い、怖い、怖い、怖い。
早く終われ、終わるなら早く。
ああ、クソ。でも、やっぱり。
「死にたく、ねえな」
《
《
《
ぎぎぎぎぎぎぎぎ。
《上半身分離による致命的損傷、腰部断裂による外傷性ショック死》
《死因解析──地〇〇衛〇正式採用AMTデバイス№09:UTUSEMIモデルによる空間切断》
《適応開始》
がちゃん。
まだ死なない。まだ、死んでいないぞ。
何かがおかしい。俺は目を開く。
「は……?」
さら、さららららら。
体が砂に、いや──灰になっていく。
ニアの身体じゃない。俺の身体だ。
特別な不死であるはずの彼女の身体は未だ冷たい肉のまま。
「待て、待て、待て待て待て……! なんで、俺の身体が灰に──これじゃ、灰クソと同じ、おい、待てって、なんで、俺、おい、俺じゃない、俺じゃないだろ!!」
さら、さら、さら。
斬り飛ばされた俺の下半身が、灰に代わっていく。
「なんで、俺が──ニアじゃなくて、俺が──!!」
サラッ。
口が灰となり、砕ける。意識が薄れ、広がっていく。
《YOU DIED》
死んだ肉体が灰になる。
俺の意識は世界に広がる。
《斬撃耐性Ⅰ獲得、AMTデバイス耐性Ⅰ獲得》
そして、気付けば……。
「……は?」
再生していた。
灰となって消えたハズの身体が元に戻っている。
斬られたはずの足がある、流れたハズの血が全部戻っている。衣服だって、そのまま。
無傷のまま俺は1人、燃える街に立っている。
「……あ? え……?」
何が起きたのか分からない。
「ニ、ア……?」
「……」
返事がない、只の屍のようだ。
彼女は目覚める事もない。灰になる事もない。
だが、俺は今、灰となり、灰から再生し、生きている。
「は……はは……はは、ははは……」
灰クソの原作知識。
それが俺にある1つの理解をもたらす。
認めたくない、なんでだと叫びたい。意味が分からないとパニックになりたい。
だが、そんな下らない感情よりも、巨大な現実がここにある。
友人の死、生活の死、幼馴染の死、全てを喪ったこの理解不能な状況、それよりも1つ。
理解しないといけない事がある。
「俺は──不死だ」
ニアでは、なかった。
この世界の特別な不死は、俺の主人公、俺の幼馴染ではなかった。
なんだ、この状況は。
死にゲー世界に転生して、俺が知っているキャラが実際に生きて、俺の知らないシナリオとイベントで皆が死んでいく。
理不尽。
目の前に、圧倒的な理不尽が立ちはだかっている。
それこそが、この世界はゲームではないという事の証拠。一気に全てを投げ出したくなる絶望が広がる。
「あ……」
俺は、この絶望を知っている。胸をかきむしりたくなる衝動、叫んでも叫んでも何も戻ってこない徒労。
世界とは悲劇なのだ。
ふと、初めてコントローラーをぶん投げた日を思い出す。
アレは確か、そうだ、ラスボスを倒したのに、ヒロインも仲間も全員死んでしまったエンド。
何かの選択肢を1つ間違えた結果、主人公だけが生き残り、世界が全部壊れてしまった灰クソのBADエンド。
誰もいない街で1人、主人公が空を見上げたムービーからエンドロールが始まった時、俺は思わず呟いた。
「はい……クソ……」
だが、俺は結局、そのゲームをやめる事は出来なかった。
その生き物は悲劇を何度も何度もやり直す。
その生き物は、何度コントローラーを投げ捨てても、再び握り直す。
その生き物は、何度も何度も絶望を繰り返す。
その生き物は何度も立ち上がる、何度も描き、何度も見据え、何度放り捨てたって、何度もコントローラーを握る。
その生き物は絶望を叫びながら立ち上がる。
俺達、死にゲープレイヤーは何度もこれを体験している。
俺の友人を殺したボスが。俺から平穏を奪った奴がまだ息をしている。
「……ニア、剣を……借りるぞ」
魔鉱石で鍛えられたニアの剣を拾う。
俺はこの世界で無力な男として生まれた。
戦う術も、才能も力もない。最弱の存在だ。
けれど。
「あいつだけは、殺す」
俺は不死だ。もう──条件は整っている。
そうだ、リヒト・テトグマン。お前の目の前には、コントローラーが置かれている。
大切な仲間や友人を、ボスに殺されたら、何をすべきかなんて、決まってるだろ。
《CONTINUE?》
「コンテニューだ」
コントローラーを握れ。
◇◇◇◇
「よお、こんばんは」
「……お前、マジか」
オルデランはすぐに見つかった。
殺したはずの俺が動いているのを見て、鼻に皺を寄せて目を見開いている。
「あー……ガキ、つまりお前も、不死って事でいいんだな?」
「どうやらそうらしい」
「あー、一応聞くが、仲間になるつもりはねえか? お前、なんも知らねえんだろ、この世界の事」
「10年後、ミリタルナ王国に魔族が帰還する事くらいは知っている」
「……驚く事に疲れてきたぜ。ほんとにこっちにつく気はねえのか?」
「俺は……為すべき事を、為すだけだ」
ニアの剣を構える。オルデランに俺の意思が伝わったらしい。
「そりゃ残念」
再びオルデランが、大ナタを構える。空間を断つ斬撃。アレが、来る。
不可視の一撃、躱す事は不可能。
「UTUSEMI」
《斬撃耐性、AMT耐性──適応》
がきん!!
痛い。だが、あの斬撃を腹に喰らっても……俺の身体は真っ二つになっていない。
「は?」
「我、血の導きに従い悪竜に至る者。今こそ、共に神を喰らわん」
しゅる、じゅばっ。
血の矢が、大技後の後隙をさらすオルデランの胸を抉った。
「っ!!?? ントに、どうなってんだァ!! てめえは!! AMTデバイスを──いや、斬撃自体を無効化!!??」
理屈は分からない。だが、状況は分かる。
何故か、斬撃の効果が薄くなっている。
「──オルデラン、俺がお前の運命の死だ」
「──その言葉まで知ってんのかよ」
運命の死。
ゲームでは不死のキャラクターが好んで使う言葉遊び。不死達にいつか訪れる終焉の時を現す言葉。
この世界では不死であろうと、死ぬ時は死ぬのだ。
だが、俺は死ぬ訳には行かない。
俺に運命の死は必要ない。
「運命の死よ、死にさらせ」
展開した血の矢をオルデランに打ち込む。
だが、すぐに魔力と血の限界が訪れる。
「血液不足に魔力不足だぜ、月の化け物と違って人間は魔力を血に変換できねえ。詰みだ──」
「本当に、そう思うか?」
戦闘中の魔力切れ。
ゲームでも起きる事だ。
しかし、対処法はある。
不死の俺だから出来る対処法が。
「……は? ガキ、お前、なに、を……」
《戦術的自害行為と判定》
《頸部の斬撃に耐性適応中止》
ニアの剣で、俺は俺の首を掻き切った。
熱さ、痛み、首の大きな血管を斬った事で、また俺は死んだ。
身体が、灰に代わっていく
しゅうううううううう。
遠のいた意識がはっきりと戻る。
灰クソ原作において、主人公は死から再生した場合、ステータスが全て回復していた。
なら、俺はどうなる?
「我、血の導きに従い悪竜に至る者。今こそ、共に神を喰らわん」
灰から、俺の全てが再生される。
肉体も、それが纏う衣服も。
体力も──魔力ですら。
「血の矢」
しゅるるるるるる。
指先に、血の矢が滞留する。
血も魔力も元通り。
「なるほど……ゲームの仕様が現実に落とし込まれるとこんな感じなのか」
「お前、まさか、魔力を回復させる為に、自害した、のか?」
「理解が早いな、流石、同じ不死だ」
「同じ、不死……? どこがだよ、お前、その再生、そりゃ、なんだ……」
オルデランの声は震えていた。
「灰、から……再生しやがった……」
「俺とお前、どっちが不死の名を冠するに相応しいか」
ここから先は泥試合。
化け物同士の醜い争い。
《
「不死の性能比べだ、お前は何回殺したら死ぬのかな」
《τετραγράμματον
「――
ここまで読んで頂きありがとうございます。
またブクマ、評価、非常に助かります。
引き続き、お楽しみ頂ければ幸いです。