貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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12話 月の宮、1000年目

◇◇◇◇

 

 ~銀髪ウルフカットロング改め──第一王女アネスタシア・ネイチア・ミリタルナ視点~

 

 

「えっ、あっ……」

 

 引きつったその声は、誰のかも分からなかった。

 

 崩れ落ちた礼拝堂の残骸、未だ燃えくすぶる瓦礫。

 

 大陸の最大宗教、月女神教の庭園。人が埋葬されている形跡。

 

 

 あの銅色の光が沈んでいた。

 あの名前も知らない教師が、律儀に決まりを守ってつけていた銅色のお面が。

 

 

「……先生?」

 

 

 誰かが呟き、全員が無意識に顔を伏せた。

 

 気付けば、私も唇を噛んでいた。膝が勝手に震える。

 

 土とススと血に汚れた銅の仮面は、ひどく冷たく見えた。

 手を伸ばせば、きっとひんやりとした感触が指先に伝わるのだろう。

 

 誰もその場から踏み出す事が出来ない。

 

 その銅のお面を近くで見てしまえば、確認してしまえばそれが彼の遺品だと確定してしまう。

 

「うううう、キューン、くうううううん、うううう、わあああ、ああああああああ!!」

「すん、すん、キューン、ふん、あああああああああああああ!!」

「トレーナーアアアアアアアアアアアア、ヤダアアアアアアアア!! わああああああああ、嘘つき、嘘つきいいいい! 大人になるまでずっと一緒って言ってくれたのにいいいいい」

 

 獣人の少女達が、鼻を抑えて泣き始める。

 

 ああ……そうか、彼女達はもう理解させられてしまったのだろう。

 その人間種よりも優れた嗅覚により。そのお面が誰のものか。

 

 耳も尻尾も萎れた獣人達の遠吠え交じりの嘆きが、むなしく響く。

 

 

「うっ、オエッ、ゥオエ……あ、あ、あ、貴方、貴方貴方貴方貴方貴方……嘘、よね。貴方が、こんな、そんな……」

「………………教授……ふ、ふふ、これも、ワタシへの……試練……? ふふ、もう、教授ったら……ほんとに、つれない、ね……オエエエエエエエエエ」

 

 エルフの少女達も、理解したのだ。

 高い魔力への感受性によって、この場所に生きた者はもう誰もいないことを。

 

 ただでさえ病人のように白い顔を真っ青にして、震える。華奢な身体は折れそうなほど心もとない

 

 

「もし……もしボクたちが先生を、探してたら……」

 

 ミアのか細い声が、瓦礫の間に吸い込まれていった。

 何も答える事が出来ない。

 

 私だ。

 

 妹と友人を優先し、即座に屋敷の隠し通路を使って街から逃げる判断をしたのは、私だ。

 屋敷の窓から炎に包まれる街を見た途端、即座に判断出来た。

 

 教師殿と妹と友人。私はその天秤の判断を迷う事なく下した、下せてしまった。

 

 私の、せいだ。

 私の選択が、彼を殺した。

 

「は、はは……嘘、っす。そんな、そんな事あるわけ、ない、センセイ、センセイセンセイセンセイ」

 

 友人のレナリアの悲痛な声。

 目には光がなく、ただ、静かに涙を流し続けている。

 

 

 私は、貴方にもらったものを何も返していない。

 

 貴方を我が王宮に招くという約束も何も果たせていない。

 

 私は貴方を見捨てたのだ。なんだ、私は、あれだけ貴方に惹かれていながら、私は、どうして? 

 

 妹もレナも泣きながら、貴方を探しに向かおうとしていた。

 それを制し、無理やり逃がれさせたのは──。

 

「私だ……」

 

 脚に力が入らない。

 この街に戻るまでの3日間、ずっと願っていた。

 あなたなら、生きているのではないかと。

 貴方は普通の男とは何かが違った。

 

 女に頼るだけじゃない、女に寄るだけじゃない。貴方は1人で立とうとしていた。

 そんなあなたなら、もしかしたら……。

 

 だが、現実は、こんなものだ。

 私のせいだ。私のせいだ。私のせいだ、私のせいだ、私のせいだ、そうだ、アネスタシア」

 

 

 お前が、殺した。

 

 

「姉さま……お気を、しっかり……」

「私が、教師殿を、貴方を死なせた……!」

 

「やりもせず、試しもせず、只、己と身内を優先した……!!」

 

 何が、王か。

 何が、対等な世を作るか。

 友と取り合うほどに、貴方が欲しかったのに、

 

 

「ち、がう、わたしも、とれーなーを、群れの仲間だったのに、わああああ……!」

「わたしのせいだよ! 私が走ったから、皆も走ったんだ!」

「……ふ、ふふ、貴方が褒めてくれた、弓も魔術も、何も役に立たなかった、あたしは、無能……ふふ」

「教授、ワタシの、せい、だよ、ね? 」

 

 誰も自分以外の誰かを責める事はなかった。

 全員が、自分を槍のように突き刺すために言葉を吐き出す。

 

 

 奇しくも、今日、ここに集まったのは人間、獣人、エルフ。人類勢力の次世代の後継達。

 

 ミリタルナ王宮の王姉妹、魔術学院の正当後継者、深き森の支配者の娘達。

 他にも次々とどこからともなく、身なりのいい少女が集い、その銅色のお面を見て泣き叫ぶ。

 

 石畳に膝を打ち付ける音、拳で胸を叩く鈍い衝撃音、すすり泣く息の切れ目に混じる、声にならない叫び。

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 口々に繰り返されるその言葉は、やがて意味を失い、嗚咽に溶けていった。

 幼い肩が揺れ、爪が自分の腕に食い込み、喉が裂けるほど泣き喚く。

 

 廃墟の教会に、まるで鐘の音のように響く泣き声が、夕暮れの空に吸い込まれていった。

 

「……教師殿を、こんな場所に眠らせておくことは出来ない……」

 

 

 私の呟きに、妹とレナリアは同意してくれた。

 服が汚れるのも構わない、変わり果てた貴方の姿を見る事になっても構わない。

 ただ、こんな所に貴方を眠らせておくことだけは出来ない。

 

 私は、銅色のお面が置いてある近くの地面を素手で掘り始める、

 妹は近くの棒を、レナリアは浮遊魔術を使ってそれを手伝ってくれた。

 

 

「わ、わたしも」

「あたしも」

「とれーなーを、とれーなを……ぐすっ」

 

 気付けば、回りの名も知らない少女達も手伝ってくれた。

 獣人達が的確に土を掘り返す。

 

 

 エルフの少女達とレナリアが探知魔術で、土の下に埋まっているものを感知する。

 

 そして、土の下から見つけたものは──。

 

 ああ、そんな、そんな、なんて、なんで、貴方が、こんな目に──。

 

 

「……貴方、なのか? 教師殿」

 

 

 顔も知らない、名前も知らない、彼方の貴方。

 

 

 これが、貴方か? 

 

 

 土の下から出てきたのは、首がない、男の遺体。

 

 

 

 ──ああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 

 ◇◇◇◇

 

 ~一方その頃、月の宮。カレル滅亡から3日後すなわち月の宮生活3000日目! +

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?? あ、いける? あ、ダメだ、また死」

 

 ぷちちゅ。

 

 またつぶれた。

 俺の身体は灰になり、また再生が始まる。

 

 月の宮にきて多分8年くらいが経ったはずだ。

 その8年間、俺はこうしてずっと潰れて再生して、潰れて再生してを繰り返している。

 永遠リスキル状態だ。いくら灰になって移動できても世界全体が1000倍の重力なら意味はない。

 

 にしても、一向にこの1000倍の重力に慣れないな。

 もう自分が潰れた数も9999回までは数えていたが、それ以降は分からない。

 

 いや、もうきついのなんの。

 1000倍の重力によって、俺はこの8年常に死に続けている。

 

 内臓は破裂し、骨は砕け、肉は潰れる。

 

 精神がおかしくなる暇もない、

 こうして灰になっている間は割と思考ができるが、それも一瞬、律儀に体はまた潰れる為だけに再生。

 

 あーもう、既に重力を感じる、重力を。

 死に続けるせいで、眠る事も食べる事も飲む事も出来ない。

 そして、死んで再生する事でそういう身体の不調や精神の異常も全部リセットされる。

 

 だが、少しづつ進歩している気がする。

 8年前は、再生した瞬間に潰れて死んでいたが、最近、数秒持つようになってきているような。

 

 お、そろそろ身体の再生が完了するぞ。

 

 さて、今回は何秒もつか──。

 

 

「お? いける──ぐぎゃっ!!」

 

 

 そして、ただ潰れて再生して、つぶれて再生する生き物の状態で、多分10年ほどが経った。

 

 

 

「お? いけるか? お、お、お? あ、ダメっすわ」

 

 ぶちゅっ。

 

 だめだ、数秒が5秒安定になる。

 

 そこからさらに100年

 

 潰れる、再生、潰れる、再生。

 

 

「おおお? 今回は割と我慢出来て、いたっ、いたたたたたた、あ、潰れるわ、クソがァ!!」

 

 ぶちゅっ。

 

 200年、300年、400年……そして……月日は経って。

 

 

 

 ◇月の宮到達から1000年目、地上ではカレル滅亡から1年が経過◇

 

 

 ぎぎぎぎぎぎぎ

《1000倍重力による人体潰死を確認》

《死因適応開始──異常環境の為、適応に異常な時間が必要》

《重力耐性Ⅹ 肉体強化Ⅴを獲得》

 がちゃん

 

 

「お?」

 

 身体が、潰れない……! 

 めたくそ体が重たいけど、死んで、ない。

 

 月の宮、1000年目にして、ついに俺は到達したのだ! 

 

「死んで、ない?」

 

 

 俺はついに、月の宮での四つん這い生活に成功したのだ!! 

 

 ふ、ふふ、まだ身体が重たくてハイハイしか出来ないが……これは進歩だ。

 肺も内蔵も潰れてない。

 

「ふ、勝った。俺の異世界転生は──」

 

『莠コ髢薙く繝・繝ウ? √?? 莉頑律縺ッ貎ー繧後※縺ェ縺??』

 

「……ん?」

 

 俺を見下ろす白銀メタリックな巨体。

 天使だ。

 生き物と機械が合体したような見た目。

 長い首の上に鎮座する兜は鋭く前へ尖り、顔の部分には十字のスリットが見える。

 白い翼はよく見ると、鏡面のようなものがいくつも重なって形を成している、ソーラーパネルみたいだ。

 

「やばい」

 

 天使。

 それは、灰クソにおけるクソボスの頂点。

 

 そのボスは1体1体がラスボス級の性能、何度倒してもまたわいてくる不滅、そして何よりプレイヤーを恐れさせるのは──奴らは。

 

 

 

『縲弱∴縲∽ココ髢薙く繝・繝ウ縲∽サ頑律縺ッ蜍輔>縺ヲ縺? k縺ョ? 溘?』

『縲朱♀縺ウ縺溘>縲』

『縲弱°繧上>縺? ス橸シ√?? 蝗帙▽繧馴? 吶>縺ォ縺ェ縺」縺ヲ繧九? ∬オ、縺。繧? s縺ェ縺ョ繧ォ繝 ^^縲』

『縲主庄諢帙☆縺弱※轤主瑞縺阪◎縺?? √≠縲』

 

 

 ──群れで現れる。

 駄目だろ、ラスボスより強い化け物が群れは。数の暴力ってゲームだと一番やっちゃいけない奴だろう。

 あ、これ、ゲームじゃなかった。

 

 まずい、1体の天使が炎を吐いて──熱

 

 じゅぼっ

 

《超高熱による蒸発死》

《YOU DIED》

 

 

 ……はいクソ。

 

だが――。

 

しゅうううううう。

 

「ここまで我慢したんだ、今更、諦める訳ないだろ」

 

俺は四つん這いのまま再生し、天使の群れと相対した。

 




読んで頂きありがとうございます。
お盆の間は毎日更新です、よろしくお願いします。
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