貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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15話 王宮採用試験――採用!!!!

石畳の大通りは陽光を反射して白く輝く。

 

 人の往来と馬車の行き来が凄まじい。

 

 ここはミリタルナ王国の王都セントラル。 

 

 月の宮の大穴に落ちて、次に気付いた時にはもうこの都の大通りに立っていた。

 

 身体が、軽い。

 

 気を付けて歩かないと、一歩で空に飛んでしまいそうなほどに。

 

 

『ね、ねえ、今のマスターなら全然、月の宮で生活、で、できたんじゃないのか?』

 

 確かに、月の宮での生活も慣れたら悪いものではなかった。

 天使達とも殺し合いが成立する力さえあれば、十分コミュニケーションは取れていたしな。

 でも……。

 

「ラミィ、見てくれ、この都を」

 

 両脇には色とりどりの布を張った露店が並んでいる。

 焼き立てのパンや香辛料の匂いが風に混じって鼻をくすぐる。

 

 吟遊詩人がリュートを鳴らせば、子ども達がそれに合わせて手を叩く。

 うさんくさい旅商人は声高に遠国から運んできた珍品を売り込んでいる。

 

 王都の大通りは混沌とした人々の生気に満ちている。

 

「これが、人間の世界だ。月の宮は俺の世界じゃない」

 

 黒い指輪から響く相棒の声に小さく答える。

 月の宮で人生を送るのもあり、とも思った。

 

 しかし、それをすると人間ではなくなってしまう気がした。

 ……8000年という途方もない時を生きても精神が保っているのは、ぎり人間判定だろう。セーフ、セーフ。

 

 不死である俺は、覚醒したあの日から歳をとらない。

 普通の人間として生きていくのは難しいのかもしれない。

 だが、可能な限りは人の世界で、平穏な人生を目指したい。

 

「そういう意味ではキミに付き合ってもらって悪いとも思ってるよ、ラミィ」

 

『う、うひっ、し、し、しかたいな、マスターは……ワガハイは心の広いドラゴンだからな♡』

 

 ラミィの言葉に謝意を述べつつ、とりあえず人の波に従い街を進む。

 

『そ、それで、何から始めるんだ、へへ。マスター』

 

「そうだな……出来れば王宮に近付きたい。現状、一番死んだら困るのは、王姉妹、アネスタシアとミアだ。彼女達に近付くために、なんとか働き口を見つけたいものだが……」

 

『そ、そんな事しなくても、力でね、ねじ伏せればよくないか? い、今、ワガハイとマスターに勝てる存在なんて、ち、地上には存在しない、ぞ! だって、ワガハイ超強いドラゴンだし、ふひひ』

 

「ラミィ、あまりそういうの言うとフラグになるからやめようか」

 

『ふ、ふらぐ??』

 

「それにできる限り俺の正体と実力は隠しておきたい」

 

『な、なんで??』

 

「平穏の為だよ、ラミィ」

 

 この世界において不死は恐怖と迫害の対象だ。

 加えて大きな力とは往々にしてトラブルの種になる。正体は隠すに限るだろう。

 そして何より──。

 

「それに、アネスタシアとミア、2人の姉妹は男嫌いで有名でね。あまり目立つと排斥されかねない」

 

『え?』

 

 というか、他の主要キャラもほとんどが男嫌いだ。

 

 原作でも、男キャラでプレイした場合、好感度補正に大きなマイナスがかかって攻略に支障をきたすほどに。

 

 強いキャラや権力を持ったキャラであるほど、男嫌いになる傾向が強かったはず。

 そのせいで、大きなお友達からは同性同士のカップリングが人気だったな。

 

「そして何より、俺は女性に好かれるタイプではないしな」

 

 女に媚びるのがどうも苦手だ。

 ニアは俺にかなり固執していたが……あれは幼馴染補正という奴だ。

 そもそも、俺にモテる要素はない。前世でも驚くほどモテた記憶はないしな。

 

『ま、マスタ~モテないんだ、ふへへ、かわいそ♡ で、でもね、ワガハイは別にマスターがモテなくても気にしないっていうか……。あ、で、でも、王女サマ達を生かす為に王宮に入る必要があるんだっけ? どうするの?』

 

「一応計画はある」

 

 原作では、王宮勢力に加担する為には特殊なイベントをクリアする必要がある。

 

 通称、【臣下問答イベント】

 これを、原作知識でごり押しするのだ。シンプルイズベスト! ようやくゲーム転生っぽい事が出来そうだぞ。

 

「それにしても、やけに人が多いな……」

 

 ゲームと全く同じの豪華な石畳の街。

 メイン通りは、人でごった返している。道に並ぶ露店の数も多い。

 前世の記憶、夏祭りのような活気だ。

 

「聞いたか!? 王宮の従者を募っているらしいぞ!」

「王女姉妹様達、直々に試験を行っているとか!」

 

 周囲の男達がやけに興奮している。

 従者を募集している……? 

 どういう事だ? 募集するようなものじゃないはずだ。

 

「あ、そこのお兄さんもどうだい? 王宮で男性の従者を募集中だよ! 1年に1回の催しだ!」

「これは……」

 

 渡されたチラシには、ミリタルナ王城での仕事の詳細が書かれている。

 近衛騎士団の食堂運営、王城の清掃、そして王姉妹の世話……だと? 

 

「特に黒髪の男は割とあの男嫌いの殿下も少し優しくなるとか! チャンスじゃないかい? 場所はここをまっすぐ行った城の近くさ! 幸運を!」

 

 ちらしおじさんはそのまま次の男にチラシを渡しに行ってしまう。

 

「何かがおかしい……」

 

 原作でも、あの王姉妹は男嫌いで有名なキャラだったはず。

 王宮で何か俺の知らない異常事態が起きているのか? 

 渡りに船の状況ではあるが……。

 

「こんなイベント、知らん……!」

 

 ◇◇◇◇

 

 私の名前は、アネスタシア・ネイチア・ミリタルナ。

 

 その日は年に1度の王宮従者を募る日。

 カレルが、滅んだ日でもある。

 

 舞台の上で王宮の従者を志す男達が、自分が以下に優れているか、美しいかをアピールし続ける。

 

 王宮従者の職は、本来であれば貴族子息にのみ許される職位だ。

 私が父と交渉し、1年に1度、こうしてしいの者を募るようにしている。

 

 ──これは、果たせなかった約束の供養。

 

 どうしたって忘れる事が出来なかった。

 カレル行商街でほんのひと時の間、私の“教師殿”だったあの男を。

 

 カレルが滅んだあの夜──私は彼ではなく、妹と友を選んだ。

 彼を探す事もせず、逃げたのだ。

 

 幼い頃、彼と交わした約束──大人になったら、我が邸宅──つまり王宮に迎え入れると。

 彼は笑って受け入れてくれた。捨てたのは私なのに諦めきれない。

 だから、こうして──毎年、彼と同じ黒髪の男を限定に従者を募っている。

 生きている訳はない。

 

 彼の付けていた教師の仮面。

 その近くに埋められていた首なしの死体。

 

 損傷が激しく、獣人の嗅覚も、探知魔術も意味をなさなかった。

 だが、誰が見ても思う事。

 

 彼は、もう死んでいる。

 

 だが、もしも、もしも、また会えたのなら、その時は──。

 

「是非とも王宮にこの私をお迎え下さい! 

 

 これで17人目。この男も違う。

「……姉さま、アピールが終わったようです」

「……不採用だ、次」

 

 隣に立つ妹の言葉に返事をする。妹の顔も私と同じく無表情のまま。

 違う。やはり、違う。

 

「私は王都の由緒ある聖職者の家計で~~~」

 

 化粧や衣装で飾るだけでは隠せない奴らの本性。

 下卑た目だ。私や妹の顔、肉体にと欲情のみをぶつけるその視線。本人は隠しているつもりだろうそれが不快で溜まらない。

 

「次」

 

 違う、全然違う。

 

「不採用」「不合格」「必要ない」

 

 彼が私達を見ていた目と、今、私達を見る男の目がまるで違う。

 小賢しく髪を黒に染めた見目だけは良い男達。

 

 同じ髪の色、同じ生き物、同じ性。

 教師殿と同じはずなのに、全てが違う。

 

「お、お、おおそれながら私の何が問題なのでしょうか!? 

「男に恥を掻かすための場だと感じ、酷く傷つきました……」

「殿下の男を見る目が冷たくありませんか!?」

 

 喚く貴族の男達。他の平民の男も口こそ噤んでいるが皆、似たような表情だ。

 

 そうだ、私は男が苦手だ。

 論理立てて話す事をしない、常に優先するのは己の感情のみ。

 

「……疲れるな」

「……姉さま、ご無理なさらないように。このような事をしてもあの方は……」

「……」

 

 妹の言いたい事は分かる。

 あのカレル行商街の出来事から8年が経っている。

 

 もし、彼が生きているのなら25歳……男ならどこかの家に嫁いでいる年齢だ。

 彼のような男を、他の女が放っておく訳もない。

 

 8年前でさえ、いつも彼には女のマーキングが施されていた。

 ご丁寧に魔力が混ぜられた香り──もし、生きていたとしても、彼はもう誰かのものになっている事だろう。

 

「8年、か」

 

 少し、疲れた。……いや、心のどこかでは分かっている。こんな事をしても無駄だ。

 どうせ、もう二度と教師殿と会う事は出来ない。

 余が、私が彼を見捨て──。

 

「次」

 

「──はい、私は……旅人です。今しがた、王都に到着致しました。高名な王姉妹様達に一度お目通りしたく参上した次第です」

 

「なんだ、あのみすぼらしい男は」

「ぼろのローブに、ただの布の服ってwww」

「勘違いした田舎者だろう」

「時間の無駄だ!! さっさと消えろ!!」

 

 

 周囲の男達からの嘲笑。

 ああ、こういう所も嫌いだ。

 集団でわめきだすと止まらなくなる。

 

「王宮で仕事をする事を夢見ておりました。この通り見た目も、学も、家柄もない身ですが……命を賭けて職務に努める事を誓います」

 

「……ほう」

 

 その男の言葉は、これまでの男が一言も発していない言葉。

 職務、努める。嫌いではない響き。

 いや、それどころか少し心地よくすらある。

 

 どきっ。

 

 ……? なんだ、これは? 

 

 目の前の志願者の声を聴いただけで、体温が上がって……。

 

 私はじっと、従者志願の男を見つめる。

 

 なんの変哲もない黒髪の男。

 顔も、特徴のない顔、身体つきは……襤褸のローブに包まれているが、筋張った指や肩幅から鍛えている事だけはわかる。

 

 黒い指輪が左手の薬指に……既婚者、なのだろうか。

 

「?」

 

 なんだ、私は? 

 なぜか、妙にこの男の事が気になって……。

 

「──姉……さ、ま」

「?」

「あの、貴方、すみません。もう1歩、いえ、2歩ほど、こちらに近づいて戴けませんか?」

 

 震える声でミアが呟く。

 壇上で私達が座る椅子に、男が1歩、近付いた。

 

 

 どうした、妹、よ……。そう言おうとした。

 

 だが、声が、出なかった。

 ふわり、風に乗って──懐かしい香りがした。

 

 月と石鹸の香り。その匂いを嗅いだ瞬間に勝手に言葉が漏れた

 

「「──採用」」

 

「「え?」」

 

 周囲に侍る最も信頼する幼馴染の近衛騎士が声を漏らした。

 

「あ、アネ様……? じゃない、で、殿下、今、なんと?」「妹様? どう、なされたのですか?」

 

 護衛の騎士達が、己の主君に声を向ける。

 しかし、その声はそれ以上聞こえない。

 

 集まった観衆が騒ぎ始める。

 

「妹よ。早急にこの者を王宮へ」

「はい、姉さま。警護を倍にします、魔術通信ですぐに騎士団の準備を進めます」

「部屋も用意せよ、食事と酒もだ」

「既に手配を開始しております、姉さま」

 

 観衆がさらに騒ぎ出す。

 なんで、あのような者が、とか。選ばれなかった男達の抗議の声が一気に。

 

「そ、その方(ほう)、名前は?」

「あ、あなたの、名前は……」

 

 私とミアは同時に、同じ言葉を紡ぐ。

 意味のない事だ。

 だって、私達は教師殿の、彼の名前すら知らないのだから。

 

「リヒト・テトグマンと申します」

 




御覧頂きありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。
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