貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
「妙な考えは起こすなよ、今だに首が繋がっている事をありがたく思え」
がしゃん。
地下牢の檻が閉まる。
はい、普通に投獄されました。
「王都の騒ぎが終わり次第、尋問を始める。妙な考えは起こすなよ」
理由は怪し過ぎるとの事です。
ふむ……突然現れた素性の知れない男、魔族の帰還を叫ぶ、その瞬間、1000年振りに魔族による襲撃が開始……
ツーアウトってところか?
『ふひ、い、言うほどツーアウトかな?』
アネスタシアとミアは最後まで猛抗議してくれたが、王は聞く耳を持たなかった。
「まずいな、これ」
さて、どうすべきか。
魔族による王都襲撃。
本来なら2年後に起きるはずのイベントが今、発生してしまった。
このイベントは原作において、ニアが不死として覚醒するチュートリアルイベントだ。
この戦いにおいて、どんな行動をしたかによってその後のシナリオに変化が訪れる起点ともいえるイベント。
だが──。
「アネスタシアとミアは、この戦いで多くの犠牲を出す……」
この王都襲撃イベントの厄介な所は毎周回ごとに、死亡するNPCがランダムな事だ。
あの姉妹が死なずとも、部下の多くが死に、彼女達は追い詰められていく。
歴史が狂いつつある世界を少しでも安定させる為に、王都襲撃という原作イベントへの介入は必須だ。
つまり、俺がこれから取るべき行動は──。
「脱獄しかないか……」
『や、やっとワガハイの出番?』
「そうなりそうだ……犯罪者プレイをする気はなかったのだが……リヒト・テトグマンとしてのキャリアは完全に終わりだな」
悪竜装備を使えば、脱獄は容易だろう。
指輪を鎧に変形──。
ぶちゃッ──ドサッ……。
おい、何の音だ?
すごく嫌な予感がする。
肉が斬られる音に、地面にぶつかるような音が牢獄の向こうから──。
ずる、ずる、ずる。
何かを引きずる音がこちらに近付いてくる。息を呑みながら檻から少し離れて──。
「リヒト・テトグマン様はいらっしゃいますか?」
「……マジか」
最悪だ。
血まみれのメイドが、牢屋の前に現れる。
先ほど食事会場で見た顔だ。ステーキソース用意してくれたサラッとした美人さん。
だが、どう見てもまともな奴じゃない。 彼女は首のない騎士の死体を引きずっている。
先ほどの音は、首を落とした音か。
「面会に参りました、ご機嫌はいかがですか?」
血まみれのメイド、彼女の額には2本のねじれた角が生えている。
人ではない。
それは、灰クソにおいて人類の天敵、世界を滅ぼす魔の種族。
──魔族だ。
うわあ、め、面倒だ……どうしよ……。
『ふひ、ま、ま、マスター、怖いの?』
違う、どうすれば目立たず殺せるだろうか?
◇◇◇◇
その生き物は、王宮に侵入していた魔族の1人だった。
5年前に王女アネスタシアに仕えるメイドを殺し、その脳を喰らい、その皮を被った。
彼女は、師から受け取ったニューロンネットワークの命令に従い、この牢屋に現れたのだ。
王都襲撃計画を言い当てた不穏分子の殺害の為に。
「驚きました、人間に王都襲撃を言い当てられるなんて……よりによって男個体に。この時代の男でもまだ貴方のような個体が残って──」
「──ㇲ~……ふー……こほん。ㇶ、ヒィィィィィ!! 人が、人が死んでっ!! だ、誰かあああああ、化け物、化け物だああああああ、助けてええええええ!!」
男が悲鳴を上げる。
メイドに扮した魔族、個体名“カボン”はため息をついた。
「……はあ。な~んだ。気のせいですか。てっきり強い男がまだ残っているのかと思っちゃいました。その反応だと……私の勘違いですね。でも……その顔、ふふ、かわいいなあ」
カボンは、人を殺すのが好きだ。
特に命乞いをする人間を殺すのが大好きだ。
このメイドの肉体を奪う時もとても楽しかった。
カボンはメイドの命乞いを今でも覚えている。
田舎の家族を養う為に王都に出てきた事、夢はあたたかな家庭を築く事。脳を喰らう事でカボンはメイドの全てを知った。
『お、願い、殺さないで……』
『無理です♪』
あの命乞いを断った瞬間のメイドの顔が忘れられない。
頭蓋骨を割られ、脳をすすられ、四肢を切り取られてなお、あのメイドは最期まで命乞いを続けた。
生きたかったのだろう。死にたくなかったのだろう。夢や、理想、やりたい事がたくさんあったのだろう。
カボンはメイドの生への執着に感動した。
感動し、涙を流しながらメイドの脳を啜り、皮を被った。
冷たい星の海で生まれる魔族は、暖かな日の光の中で生まれる人間に憧れるのだ。
カボンは、魔族は──人が大好きだ。
そして、大好きなものを殺したくなるのが魔族という生き物の性癖だった。
「ここには誰も来ません。命乞いをしても、もう助かりません」
だから、この男も殺す。
本当は何故、魔族の帰還を知っていたのか、色々と聞くつもりだった。
だが──。
「ま、待ってくれ……! だ、誰か!! 本当に誰もいないのか!!」
見よ。この男の怯えようを。
魔族の襲撃を言い当てたのは、只の偶然だろう。
「聞いて下さい。これから貴方をゆっくり殺します」
もう尋問も必要ない。楽しく殺すだけだ。
「私の権能は肉体のカーボン化、この時代の人類には何を言ってるかわかりませんよね? 全身が武器のようなものだと思って下さい。優しく優しく、素手で解体してあげます」
命乞いが、聞きたい。
カボンは欲情していた。
「貴方の事を教えて下さい。名前は? 故郷はどこ? 家族や友人はいるの? 夢は? やりたい事は? どうして生きているの? ねえ、教えて? ゆっくり、ゆっくり死にながらあなたの生が聞きたい」
カボンの両手が、黒く変色する。そのまますーっと牢檻を撫でる、
バターでも切るかのように、鉄格子が斬れた。もう、魔族と人を隔てるものは何もない。
「──ひっ、て、鉄格子を……嫌、嫌だァ! こ、来ないで、お、俺に近づくなあああああ!!」
尻もちをついた男の目には一杯の涙が溜まっていた。
その表情がどうしようもなく、そそる。
「ああ、もう、あまり興奮させないで……! もう、もうッ! そんな顔で怯えないで下さい、我慢、できなくなっちゃう! 魔族の極上の肉体で、抱きながら殺してあげますね♡」
カボンが、するりと服を脱ぎ、白い肌を露わにする。
「だ、誰かああああ ほ、本当に近くには誰もいないのか!? た、助けて、助けてくれる人はいない!!??」
「可哀想……なんて、可愛いんでしょう……いいですよ、何度でも言ってあげます」
カボンが熱い息と共に、男を抱きしめ、その耳元に呟く。
「この場には──私達しかいない。存分に泣いて、喚いて、絶望して──」
誰もいない。カボンはそう言って、男の下半身に手を伸ばす。
「――その言葉が聞きたかった」
誰もいないと、言ってしまった。
「──え?」
ボッ。
カボンの黒く変色した右腕が斬り飛ばされる。
ぶしゅ~。栓が抜けたように青い血が噴き出し、壁を汚した。
「……あれ?」
「肉体を炭素化させ、武器となす……そのスキル覚えているぞ。お前、原作の中ボスだな? 名前は……黒躍のカボンだったか? クソ、お前が王城でメイドとして紛れ込んでるなんて聞いてないぞ」
男は豹変していた。先ほどまでの怯えはもうどこにもない。地面に落ちたカボンの腕を拾い、まじまじと見つめる余裕すらある。
「──は? は、え、ァ、ァああああああ!!??」
遅れて、カボンが悲鳴を上げる。
今、ようやく理解したのだ。
自分の腕が、目の前の男によって──斬られた事に。
驚くべき事は、男は武器の類を持っていない。
ただ、彼の腕にいつのまにか黒い籠手がはめられている。
あの籠手での手刀を食らった?
いや、違う、ただの手刀ではない。
「ああああああああああ、ど、ど、どうやって──ァァァァァ」
激痛に悲鳴を上げるカボン、もう先ほどの余裕はまるでない。
「その悲鳴で誰も来ない事を見ると……本当に牢獄の監守は全滅しているようだな。信じるよ、ここにはお前と俺しかいない訳だ、黒曜のカボン」
「……な、ぜ、私の名前を──いや、それより、貴方、さっきまでと……別人……」
傷口をカーボン化させ、出血を防ぐカボン。
髪はばらけ、目を見開き、驚愕の声を漏らす。
目の前の男の──雰囲気の代わりように。
「お前がいるという事は……王都を襲っているのは十二魔星の“白孤星のフリージア”か? 確か、お前達は師弟関係だったな」
「は──?」
カボンの心臓が激しく動く。男の言葉は全て正しかった。
王都を襲っている大魔族の名前も、彼女が己の師匠である事も。
何故、何故、何故? 今カボンは生まれて初めての感情を味わっている。
その感情の名前を、彼女は思い出せない。
「──俺の名前は“リヒト・テトグマン。年齢は17歳。もう年を取る事はない」
男が──リヒト・テトグマンが急に言葉を紡ぎ始める。
「 自宅はない……家族も友人も皆死んだ」
「は……?」
「夢は安全な王宮勤め。サービス残業をするつもりはない」
淡々と語り出す男。カボンは何も、理解できない。
「俺が求めるものは平穏。冷たい水、涼やかな風、作りのしっかりした家に、暮らしに困らない金、外敵やストレスのいない毎日。必要なのはそれだけだ」
「何を、急に、言って……何のつもりですか!!」
「俺がどれだけ人畜無害な人間かを伝えているんだ。平穏だよ。俺は只、人生を穏やかに静かに暮らしたいだけ。そんなちっぽけな願いすら、この世界は許してくれないがね」
男がカボンを見る目は、人が殺すと決めた害虫を見つめる目だ。
「お前達のせいだ。魔族に不死、どいつもこいつも人殺しだの世界を滅ぼすだの……まあ、何が言いたいかというと、つまり、お前は俺の平穏を壊す外敵だという事だ」
ズッ……。男の指輪から闇が噴出した。
闇は蠢き、あっという間に男の身体を包んで──騎士鎧と化す。
「そ、それ、は……」
「悪竜装備──月の宮で手に入れた俺の最強のオーパーツ」
ビュン。男の姿が消えた。カボンの感覚器では追えない速度で男が動いたのだ。
次の瞬間には──。
「あ、がッ!!」
カボンは地面に叩きつけられていた。
背後、後頭部を掴まれ、うつ伏せの態勢で地面に押し付けられる。
「ば、かな……魔力も、無しに──こんな動き……!! それに、そのオーパーツ……なんだ、それ、それは──」
「月の宮の重力はこの世界の1000倍。そこで10年近く鍛えれば、こうなる……クソ、まだ身体の動かし方がしっくりこないな……「
「月の宮──!!?? 我々魔族ですら到達出来ていない暗黒領域、人間がそんな場所に行ける訳、生存できる訳──」
「俺は不死だ。もう人間じゃない」
「は?」
「だが、それでも平穏が欲しくてね──可能な限り、人間として生きたいんだ。その為に、俺の正体を知る者は生かしておけないな」
「あ──」
カボンは己の感情の正体を、理解した。
全身から噴き出す汗、整わない呼吸──これは恐怖。
「あ、あああああ!! わ、私は、私は、魔族だ!! 魔力も使えない劣等生物に、殺される訳ない!!」
カボンが全身から炭素を放出、針ネズミのように全て鋭い棘となって男へ──。
「ラミィ」
どろり。
男の鎧、その一部が変化する。鎧の背中から生えた触手がその棘を全て防ぐ。
ぶちちち! 残った腕も力任せに引き抜かれた。
「あ、ああああああああ!! こ、いつ、殺そうとしている!!?? 私を、魔族を──魔力も使わずに、人間のままで、魔族を──!!??」
――『や、めて。お、願い、殺さないで……』『無理です♪』
「あ……っ。や、めて……!! お、お願い……!」
カボンの脳裏にふと、メイドを殺した瞬間のやりとりが浮かんで──。
「こ、殺さないで……」
「無理だ、さっき言ったろう?」
詰んでいた。その男と2人きりになった時点で。
「俺の正体は絶対に秘密──目撃者は生かしておけないな」
それが、カボンの聞いた最期の言葉だった。
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商業の原稿が重なっていて更新頻度は落ちますがコツコツ更新していくので引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。