貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
「「──は?」」
ソレがいつ現れたのか、誰も認識出来なかった。
ソレが現れた途端、魔物の群れが全員跪き、動かない。
ゴブリン兵も、オーガ兵も、巨人兵も皆一様に首を垂れた。
ソレは白い女の姿をしていた。
新雪を梳いたような白髪は一房に纏められている。
白いケープに簡素な旅衣装。
病的なまでに白い肌。小さな顔、丸い眉、美術品のように目鼻が配置されている。
額から生える2本の角、そして、4本の細い腕、それこそが少女が魔たる証左。
「とっても頑張ってる子達がいたから、気になって遊びにきちゃった。ねえ、お名前を教えてほしいな?」
下側の両手で祈るようなポーズ。上側の手は頬に添え、残りの手は腰に当てる姿がサマになっていた。
人語を介する魔物──あの男、リヒト・テトグマンが再来を進言した存在。
ミアが剣をぎりりと握りしめて。
「魔族……!!」
「私達の事を知ってるの? ふふ、嬉しいな、もしかしたら、お友達になれるかしら?」
白い女が纏う魔力、その禍々しさと死臭の強さに誰も動けない。
「白い髪……赤い目、白い、角に4本腕……? 通信で聞こえてた、白い悪魔って、まさか……」
ミアは、白い女の姿と大きな箒に見覚えがあった。
王宮の書庫で読んだ本の挿絵だ。
1000年前、世界を恐怖に陥れた魔族はおとぎ話として語り継がれていた。
その中で、最も強く、最も恐ろしい12人の魔族。
星の形をした瞳を持ち、神々を打ち滅ぼした魔族はおとぎ話の中でこう呼ばれていた。
「神殺しの十二魔星……」
彼女は19個の国、5個の島、そして3柱の女神を滅ぼした。
おとぎ話では──万夫不当の武勇を誇る竜乗りの国の竜騎士も、その友たる飛竜達も、不死英雄の1人、オルデラン・でさえもその魔族の前に敗れ去った。
「
「わあ、二つ名まで知ってるの? あ、そっか。ミリタルナ王国って防衛軍の本拠地があった場所だったっけ? ネームドの記録が残ってるのかしら」
なんの事もないように呟く少女こそ、神話の住人。
格が、違う──。
「アネスタシア。ミア、クーリ、リラ、ホープ、ターニャ、ウェル、スベイン。キーラ。ふふ、皆、いい名前ね」
「「「「「「!?」」」」」」
名前など名乗っていない。なのに、全員の名をしる女。
魔力から逆算して記憶を読む、魔族のみに扱える基礎技術。
今、目の前にいる女は──。
「ふふ、怯える必要なんてないわ。私達、もう互いの名前も知ってる間でしょ? ならもう、お友達じゃない?」
遙か、怪物。
「怯えないで。私はただ、貴女達とお友達になりたいだけなの」
「……ふざけるな。お前が今、王都を襲っているんだろうが!! ボク達の仲間はお前達から都を守る為に死んだんだ! 今だって、戦場で多くの仲間が戦って──」
ミアが剣を握りしめながら激昂する。
「ああ! もしかして、貴女がミア、そっちが姉のアネスタシアかしら! すごいすごい、貴女達が王姉妹ね! やっと会えたわ!」
白い女だけが楽しそう、怒りも憎しみも関係ない場所にいるかのように。
「ああ! そうだ! 貴女達の残りのお友達はもう大丈夫よ! 安心してほしいな」
「何を、言って……」
「ほら、皆、ご挨拶して! 貴女達(……)の大好きな殿下と妹様だよ!」
白い女の言葉。
同時に、待機している魔物の群れから、ゴブリン、オーガ、巨人、複数の魔物がこちらに近づいてくる。
「──動くな。それ以上、近付くのならば焼き……あ?」
もっとも、早く違和感に気付いたのはアネスタシア。魔眼による検知でも、魔力による感知でもない。
ただ、その王の器が──。
『ごぶ、ぶぶ、無事、でん、か』
『オオォ、モウシワ、ケアリマ、オオオ』
『GUOOO……ころ、zしt……下さい……』
「ニーナス、ワイン、ベルーナ……?」
変わり果てた臣下の存在に気付いてしまっただけだ。
『『『あね、すたし、あ、さま』』』
合流を目指していた他の隊の臣下達は、魔物に変えられていた。
周りを囲んでる魔物は全員、よく見れば彼女達の装備の名残りを感じる。
「おい、嘘だろ……お前たち……」「こんな、こんなのって……」
近衛騎士達も、周囲を囲む魔物が戦友達の変わり果てた姿という事に気付いた。一気に動揺が広がる。
「素敵! 姿が変わっても、すぐにわかっちゃうのね! ご名答! 彼女達は、貴女が合流しようとしてた残りの子達!」
「……我が臣下に、何をした?」
「お友達になって貰ったの! 戦場でずっと頑張って臓物をこぼすまで戦って、王姉妹の為に、とか、殿下、妹様~って最期まで諦めなかったから、可哀そうになっっちゃって……貴女、本当に愛されてるのね!」
「──戻す方法は?」
「え? ないわ? どうして?」
「……貴様、貴様、余の臣下に、このような真似をして……タダで済むと思っているのか」
アネスタシアの握り締めた手から、血が零れる。
それを見た白い女が星の形をした瞳をぱちくり。
「え? 怒ってる、の? なぜ? 彼女達は、生きてるからいいじゃない?」
シン……。誰しもが言葉を喪った。そして。
『お、お、おおおお』
悶え始める魔物達。身体を痙攣させ、目や口から青い血を零す。
「あ、大丈夫、痛がってるだけよ。他人の魔力による転化はかなり、肉体に負担がかかるみたいなの! でも大丈夫! 痛いだけで死なないからね!」
魔物達の肉体は自壊と再生をずっと繰り返していた。それは永遠の責め苦でもある。
「てめえ……」
「ま、待ちなさい! クーリさん!」
「ここまでバカにされて、我慢できるか!!」
「もう、すぐに怒るんだから。本当に幼稚で愚か。でもそれが、人類だけが持つ、愛情って奴なのね」
魔族が、どこか懐かしむような眼で騎士達を見つめ。
「ねえ、私もお友達になりたいな」
白い女の目が、赤く輝く。
「権能”星枷”」
パンッ。4本腕による柏手。白い女の権能発動の合図。
ずっーー。
「がっ!!??」
王姉妹、近衛騎士達の身体が、一気に地面に押し付けられる、見えない何かに潰されているような。
「貴女達はとても魔力の才能に溢れている。だから、肉体が死の危機に陥るとそれを防ぐために覚醒するの。ほら、がんばれ、がんばれ♡ 早く強くならないと、
「あね、様、これ、やば……リラ!! 逃げ、ああああああああああ」
「クーリさん!? これは、なに、魔力が、溢れて、あああああああああ!!」
ぼここここ。
『『『『『』』』』
「嘘……」
「ばか、な……」
王姉妹の目の前で、全部終わった。
アネスタシアがうつ伏せに倒れたまま、手を伸ばす。
「アネさ、ま……ごめ、ん」
「殿、か……おそ、ばに……」
でも、届かない。
「はい、おしまい♡」
じゅっっぼ。
魔力が暴走、近衛騎士達の肉体が変異し、魔物に変わった。
幼少の頃から共に過ごした友人達、幼馴染のクーリとリラも等しく魔物と化した。
『『『『』』』
魔物に変えられた者達が苦しみ始める。魂の殺人。暴走した魔力がずっと、ずっと彼女達を苦しめる。
「あはあ、これで皆お友達ね!」
『あ、ねさ、ま』
『いもう、と、さま』
『『『『『『ころじ、て』』』』』
「「──」」
アネスタシアとミアは、戦う事を選んだ。
その結果が、これだ。
魔族だけが、笑っている。
「この時代の人間も同じなのね。魔物に転化したら、皆、決まってお友達に殺してって頼むんだ。信頼って奴だよね? いいなあ、私もね、そんなお友達が欲しいんだあ……それってきっと愛情なのよね?」
白い女がうっとりと笑う。
よだれ、血走った目、魔物達が悶えている。
「わあ、凄い凄い! 意思だけで、魔物の本能を抑えてるんだ。見て、皆、貴女達の肉を喰らいたいのに我慢してる! これも、愛情の1つなのかしら?」
魔物としての本当を必死で抑えながら変異した騎士達が苦しみ続ける。
「お前っ!!」
「落ち着け、妹よ」
「姉さま?」
そして、その苦しみを、アネスタシアが許容するはずはなかった。
重い身体、未だ立ち上がれないままに、その目を使う。
「臣下よ、友よ。余を許すな」
アネスタシア、覇王たる素質を持つ者が、幾万の葛藤を秒に満たない時間で終わらせる。
為すべき事を為す。古い思い出の言葉が彼女達の背を押した。
「スキル“魔眼イオマグヌッソ”」
姉の蒼い焔が、魔物達を焼く。苦しまないように最大の火力を以て。
『『『『『あ――』』』』』
魔物達は、穏やかな死に顔で逝った。抵抗も悲鳴をなく。
「う、そ……!」
比べて、白い女は目を丸くする。
「え? ど、どうして!!?? なんで、なんで殺したの!? 彼女達は、貴女のお友達でしょう!? え~!! ひどい事するのね!」
どこまでもうすら寒い言葉。友情、それは冷たい星の海で生まれた彼女達には理解できない感情。
故に、白い女はその感情と関係に憧れた。
「あ、でも、こんなに簡単に殺せたってことは……そっか! わかったわ!」
あこがれただけだった。
「もしかして、お友達じゃなかったの?」
「「お前だけはここで殺す──」」
王姉妹の言葉が重なった。
ぞっ、アネもミアも魔力量が更に増していく。
強化された肉体が、重力から抜け出した。
「あ……もしかして、嫌われちゃったかしら? それは嫌だわ、ねえ、私、何か間違えたかしら? 駄目な所があったら、教えて欲しいのだけれど……あら?」
ボッ。白い女に銀の焔が絡みつく。
「貴様、もう喋るな」
「あれ? ふふ、燃えちゃうわ。凄い権能、いや、スキルね。これって、女王個体の防衛反応に似て……あ、もしかして──貴女達が、特異点?」
白い女が銀焔を一瞥、ぼしゅっ、銀の焔が地面に叩きつけられる。
「!? 貴様──が、あっ」
地面を蹴り、一瞬で距離を縮めた白い女が、4本ある腕の1つでアネスタシアの首を掴み持ち上げる。
「その眼、よく見ると女王の月眼と似てるわ、ふふ、もしかしてアタリをいきなり引いてしまったかしら?」
「何を、言って、いる……!?」
「あれ? 自覚はないの? じゃあ未覚醒なのね。でも、変ね。特異点の力を使ってないのならば、王都襲撃への対応の早さはどういう事かしら? 私が魔族だっていうのもすぐに理解してたし……──ねえ、もしかして」
白い女が赤い目を輝かせ、微笑んだ。
肉食の虫が笑ったような、笑顔で。
「
「──なんの、話だ」
「ふふっ、ごまかすのが下手ね。もう、カボンたら、何のために潜入させていたんだか……すぐサボるんだから、帰ってきたらお仕置きね」
ふと、白い女が視線をミアに向ける。
凝縮された魔力が、ミアの周りの周囲を蜃気楼のようにゆがめて。
「姉さまに、触るな」
「あら?」
ぼっ。
ミアの剣が白い女の腕を断つ、首を絞められていたアネスタシアは解放された。
「凄い凄い! 魔力での武器強化、とても上手! たった1000年でここまで出来るなんて凄いわ! 魔族以外で魔力外皮を破られるなんて思ってもいなかった!」
白い女は断たれた腕を嬉しそうに眺めほほ笑む。
「姉さま……ミアにお任せ下さい……」
ミアの魔力を帯びたロングソード、白い女の肉に触れただけで、刃が既に欠けている。
「げほっ。……ミア、貴様は退け。奴は余がここで仕留める」
「聞けません」
「なに?」
「ここで退いたら、騎士団の皆に、顔向けできない」
「皆、夢があった。やりたい事もあった。でもそういうの全部捨てて戦った。守りたいものを守る為に戦って死んだ。皆の代わりにボクが貴女を生かす」
ミアがアネスタシアを庇える位置に立つ。
「ボクは──貴女の妹だ」
かた、かたかた。
ミアの構えた剣先は震えている。実力者だからこそ分かる隔絶した差。
身体中の細胞が逃げろと叫ぶ、死ぬ、死ぬ、逃げろ、逃げろ。ミアはそんな本能の叫びをねじ伏せる。
どうか、神様。ここでボクに命を使わせて下さい、死者の世界で友人達に、姉さんの為に死んだといわせて下さい。
「……ミア、貴様を死なせるつもりはない」
「姉さま?」
「先も言ったはずだ、やるなら、共に、だと」
互いに視線を交わし、並び立つ姉妹。
カレル行商街のあの夜、逃げる事しか出来なかった少女達は成長し、女となった。
挑み、戦い、死ぬ。それこそがこの世界の女という生き物。
「本当にかっこいいのね、貴女達」
じゅるるる、断たれた腕があっという間に衣服ごと再生。
「どうしよう──殺したくなっちゃった」
「「やってみろ、化け物」」
姉妹と魔族の殺し合い。
示し合わせるまでもなく、姉妹は連携して行動する。
「権能──」「遅い」
白い女の4腕が手を叩こうとした瞬間、アネスタシアの銀焔が彼女を包む、焔を払った次の瞬間には──。
「腕、貰います」
「まあ! すごいすごい! もう2倍の重力に慣れるなんて!」
魔力強化された肉体で一気に距離を詰め、アステールの腕を再び叩き斬るミア。
「白兵戦でここまでやれるなんて! ワイバーンを討つのも納得ね」
だが、しかし、戦いの結末はいつも呆気ない。
勝敗を決めるのは想いでも、覚悟でもない。ただ、強いか弱いか、それだけだ。
「ふふ、年下の魔族に訓練を施してる気分だわ、あ、こういうのはどうかしら」
ブン。人類には不可能な速度で練られた魔力。
白い女の指先から放たれたのは基礎攻撃魔術“魔力の矢つぶて”。それが上空へ放たれて──。
「魔力の矢つぶて。いい魔術よね。十二星の1人“星見のハッブル”が作った魔術様式、その全ての基礎であり、深奥でもあるのだから」
「なに……この、矢の数……」
ミアが茫然と上を見上げる空、埋め尽くさんばかりの魔力の矢礫。
人類最高峰の魔術師集団“月見の学院”の魔術師でも戦闘中に扱える魔力の矢礫は100に満たない。
「さあ、教導の時間よ、まだ死なないでね?」
「この……!」
それを遥かに超える、数千にも及ぶ魔力の矢礫。それが一斉に降り注いで──。
「──目障りだ」
ぼ、ぼ、ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼ。
銀の焔が降り注ぐ魔力の矢礫を飲み込んでいく。
「ミア、奴を斬れ。貴様の邪魔はさせぬ」
「──お言葉のおままに!」
アネスタシアが防ぎ、ミアが攻める。姉妹の間に言葉は要らなかった。
降り注ぐ魔力の矢を、アネスタシアの銀焔が受け止める。
とっくに魔眼の使用限界を超え、既に両目とも視力は0.01以下に。それでも。
「ぐ、あ」
限界を超えて稼働しろ、魔眼よ、妹に傷1つつけさせるな。王たる前に、自分は──。
「姉さま!!」
目から銀の血を流し始めるアネ、それを振り返るミア。
「構うな!! 斬れ!! ミア!!」
「う、ああああああああ!!」
姉の声に後押しされ、ミアが駆ける。
魔力によって、強化された肉体は限界を超え、完全に倍の重力に適応していた。
「──凄いわ、たった1000年魔力に馴染んだだけで、もう基礎攻撃魔術を受け止めるなんて。愛しい幼体達ね。でも、だからこそ、残念だわ」
白い女、神話の住人が眩しいものを見つめるような目で。
「──貴女達人類に、これは絶対に破れないもの」
ミアの剣が、棒立ちの白い女の首に──。
「“反射術式”」
「えっ? あ──あ、ぎ、あああ!?」
がきっ。
剣が白い女の首に触れた瞬間、ミアの剣が1本、粉々に砕ける。
同時にその剣を握っていた腕も肘から先が回転するようにねじ折れた。
「あ、あああああああああああああ!!??」
「魔力操作の応用、物理法則を捻じ曲げて攻撃エネルギーをそのまま相手に返す技術なのだけれど……貴女達にまだ早かったかな?」
人類には絶対に破れない魔族の基礎魔術。
生き物としての、レベルが違う。
「くっ。ミア!! 腕は!?」
「ぐ、う、いえ、問題ありません、姉さま、右腕が死んだだけ、まだ左腕が残って──ぇ、あ? ああああ、あああああ!?」
突然左手で頭を抱えて苦しみ始めるミア、もだえながら、震える左手で剣を握る、その剣は姉に向けられている。
「……ミア?」
ぼこ、ぼこここ。ミアの身体から変異が始まる音がしていた。
「はい、終わり」
「体が、何で……どこで、権能を使う素振りなんて、なかったのに……」
ミアは既に、白い女の権能の影響下にあった。
「ふふ、びっくりした? 私の権能、発動条件なんてないの」
「は?」
「権能発動のタイミングで手を叩く。不思議よね、これだけで皆勝手に勘違いしちゃうんだもの。戦いに慣れてる子ほど、その傾向は強いかな」
ぼこ、ぼこここ。
ミアは今、完全に白い女の権能の支配下にあった。
「ああ、安心して。ミアの形は変えないわ。そもそも私の権能は人間を魔物に変える能力じゃないし」
「何を、ぬけぬけと、臣下は、貴様に──」
「私の権能“星枷”の能力は重力の操作。貴女の部下を魔物に変えたのは……私じゃないわ」
「……は?」
「貴女のお友達はただ、魔力で体内の魔力と遺伝子構造をちょっと操作しただけ。あ、遺伝子っていうのはね……そっか、科学技術は衰退してるんだっけ? ふふ、じゃあ、今のは気にしないでね」
んーと背伸びする白い女、まるでちょっとした気持ちいい運動を終えた後のようなさわやかさ。
「あ……それじゃ、重力も分からない? 私の権能は、重力の操作なんだけど……わかるかしら?」
「重力、だと……」
「あ、よかった! 重力は伝わるのね? うん、妹ちゃんは今、重力操作の応用で、私の操り人形になってるの。振り払うのは難しいかな? 私の権能、100倍の重力まで扱えるから、それを超える力でもない限り、終わりなの」
重力の操作。白い女がその気になれば、人間だけでなく、世界そのものすらも思い通りに変える事が出来る。
あまりにもでたらめな能力の規模。
姉妹は思い知らされる、目の前の存在が神話の住人だという事に。
これは最初から、戦闘ですらなかった。
「や、め、何を、身体が、勝手に……」
剣を構えるミア。その切っ先は、魔物ではなく、姉に向けられている。
「アネスタシアちゃん。私ね、あなた達の愛が羨ましいんだ」
「……は?」
「1000年前、人類と戦った時、私は感動した。あなた達は愛という魔族が持ち得ない素晴らしい力を持っている。ヒトは自分以外の誰かのために、時に信じられない力を発揮するよね。あれ、本当にすごいと思うの。私達はね、あなた達の愛に負けたの」
「魔族はすごく欲しがりなの。魔族はね、人間だけが持っているものを欲しがるの」
「私は白孤星のアステーラ。私が求めるものは“愛情”」
「数千年生きても、私はまだ愛情っていうものの本質が理解できない。だからね、お勉強したいんだ。愛の色々な形を。男女の愛、友人の愛、家族の愛、異種族の愛。それでね、今日は」
「姉妹の愛を、勉強したいな」
絶望と、それを啜る悪魔が嗤う。
「私ね、知ってるの。人間の愛は命の危機にこそ、その真価を発揮するって」
「だから、姉妹で殺し合って欲しいなって思ったの」
「──あ、まさ、か……やめろ、ボクの、ボクの身体で姉さまに剣を向けるな!! この剣は、姉さまを守る為に──」
操作された自分がこれから何をさせられるのか。ミアは否応なく理解させられてしまう。
「ミアちゃんにはこれから、アネちゃんを斬って貰いたいの。アネちゃんがそれでどうするかを観察したい」
優しい声が姉妹を包む。
「愛する妹に斬られる事を選ぶのか、それとも自分を守る為に妹を殺すのか。貴女達の姉妹の愛がどんなものなのか、見たくなっちゃった」
その生き物の名前は魔族。
人と似て、人とは違う生き物。
「貴女達、とってもかっこよかったから、好きになっちゃったんだ」
白い女の言葉、そのあまりの理解不能さに姉妹はしばらく茫然としていた。
同じ言葉、同じ容を持っている生き物なのに、何1つ、何1つとして何を言っているかが分からない。
そんな空気の中、声を絞りだしたのは──ミア。
「──は、はは! ば、馬鹿め! ね、姉さまを、甘く、みたな!」
「ん?」
「姉さまは、選択を間違えない! 姉さまは王になるお方だ! あの夜だって、姉さまは決断した! 姉さまに、このようなまやかしは通用しない! ボクを人質にしても無駄だ! ボクに、人質の価値はない!!」
姉さまが、惑わされる訳ない。だって、姉さまはあの夜も決断した。
あのカレルで、あんなにも、大好きだった先生を切り捨てる判断すらたった1人で下した。
姉さまはいつだって正しい判断を──。
「姉さま、ボクを、ボクを焼いて! ボクが死ねば、姉さまは──」
「──魔族。聞かせろ。生き残った方は──余の妹はどうなる?」
「姉、さま?」
ミアは、姉が何を言っているか理解できなかった。
「わあ! 素敵! アネちゃんの中ではもう答えは決まっているのね! 安心して! 生き残った方は、私の名に懸けて命を保証するわ! どう? 満足してくれる?」
「……約束は守れ」
アネスタシアが手を広げる。
「何を、している──の、姉さま……。姉さま!! 何で、手を広げて──何してるんだ、姉さま!」
体を縛られたまま、ミアが悲鳴を上げる。
姉が無抵抗のまま、立ち尽くしているのを見てしまう。
「魔眼を使って……!! ボクを焼いて!! お願い!! 簡単だろ!! このままじゃ、ボクが、姉さまを殺し──なんで、なんでだよ!?」
悲鳴を上げながら、ミアの身体は操られるままに、駆けだす。
剣の切っ先は、無抵抗の姉の心臓に向けられていた。
「早く、ボクを殺して!!!! 姉さま!!」
魔族に操作された肉体は、ミアの意思の一切を無視して動く。剣が止まらない、剣が止まらない、剣がもう、姉の心臓へ──。
「──バカを言うな、愚妹め」
姉の顔は──穏やかに微笑んでいる。
「余は──私はお前のお姉ちゃんだぞ」
──あのカレル行商街の夜以来、消えた姉の満面の笑顔がここに。
「嘘、なんで、姉さ──お姉ちゃああああああああん!! やだああああああ!!」
魔族は嗤っていた。
アネスタシアも笑った。
せめて妹の傷にならぬように、せめて妹が最期に見る自分が笑顔であるように。
妹の剣が、眼前に迫る。
走馬灯。
妹や疎遠になった魔術が得意な友との出会い。
「すまない、友よ」
死なせてしまった臣下達との思い出。
「すまない、クーリ、リラ、皆」
そして、最後に残ったのは。
「教師殿……」
幼い頃に出会った救い。自らを肯定してくれたあの優しい眼差し。
思い出すのは彼との約束。彼だけが笑わないでいてくれた己の夢。
──対等な世界を作りたい。女が男を守るだけじゃない、互いが互いに能力を発揮し、助け合う世界を。
ああ、なんて自分はバカなのだろう。
その夢をほめてくれたあの人を、捨てたのに。なんて、都合がいい。
「──また頭を撫でて欲しかったな」
これは──罰だ。彼をあの夜、見捨てた己に相応しい罰──。
《ED 姉妹の終わり》
《アネスタシア・ネイチア・ミリタルナ:妹によって斬殺 ミア・ネイチア・ミリタルナ:姉を殺した事に発狂、自殺》
どんっ。
ず、ぶっ。
鈍い音がした。
「……?」「え……」
「あれ……? 今、何か、声が……」
アステーラが首を傾げていた。
ミアの剣が肉を貫き、刀身を伝って落ちる血が鍔を赤く染める。
「──なん、で」
無傷。
アネスタシアの玉体には、傷1つない。
突き飛ばされていた。ミアの剣がアネスタシアの心臓を貫くよりも先に。
「──ご無事で、すか」
男だ。
全力疾走のまま突っ込んできた男がアネスタシアを突き飛ばしたのだ。
そして、その剣に代わりに貫かれた。
アネスタシアは無傷、血を流したのは、男だけ。
「う、そ……なんで、なんであなたが──」
「なぜ、貴様が、ここに……なにを、している──」
姉妹が、目を見開く。
「「リヒト・テトグマン……?」」
リヒト・テトグマンの心臓を、ミアの剣が刺し貫いていた。
読んで頂き、ありがとうございます。
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