貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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20話 グレートエネミー

「ご、ぼっ……」

 

 女が男を守る世界で、その男だけは女を守る為に血を流す。

 

「王城地下監獄……より火急の……知らせがあり、参りました」

 

 腹を刺し貫かれたまま、男は口を開く。

 同時に──。

 

『──待て、あれは……なんだ?』『巨人が、倒れた……?』『うそ……ゴーレムが一瞬で、全部崩れて……』『なんだ、何が起きてる?』『私、生きてる……?』

 

 地面に落ちている通信水晶から響く声。

 

「謎の“鎧の騎士”からお二人に伝言がございます」

 

『なんだ、あの鎧……』『一瞬で、魔物が死んで』『っ! 道が開けた! 進め!! 殿下と合流するんだ! あきらめるな!』

 

 水晶から届くのは、戦場に起きた変化。

 

「これって、嘘、戦場が……」「何が、起きて……援軍、か?」

 

 戸惑う姉妹をよそに、男が剣に貫かれたまま口を開く。

 

「──魔族の軍は引き受けた」

 

 ごぼり、口から血を零す。それでも男はにいっと嗤って。

 

「運命の死よ──死にさらせ」

 

 ◇◇◇◇

 

 アネスタシアを庇ったのは、あの男。

 

 あの教師と同じ香り、突如王姉妹の前に現れた奇妙な者。

 投獄されたはずの旅人、リヒト・テトグマンだ。

 状況が理解出来ない王姉妹、だが1つ確かな事がある。

 

 今、この男は身を挺してアネスタシアを救ったという事実だ。

 

「あ、ああ、あああ、ぼ、ボク、剣、ああああ……あああああああああ!! せ、先生……あ、違う、違うんです、違うんです、違うんです!! 許して、ボク、また、貴方を、ああああああああ!!」

 

 一瞬遅れて、ミアが理解する。

 自分の剣が──先生と同じ香りをした男を貫いた事を。

 疲労、魔力消耗、追い詰められた肉体はもう、精神を支える事は出来ない。

 

「でも、貴方が生きている訳ない……でも、顔が同じで、顔、え、匂い、香り、先生、先生先生、先生……ボクが、ボクが先生を、刺した? 守るって、言ったのに、あの夜、守れなかったのに、今度は、ボクが──」

 

「落ち着いて、下さい、第二王女……ミア様」

「えっ」

 

 ずぶ、ぶ。男が一歩、前へ。

 身体に更に深く剣が刺さるのも気にせず、ミアに近づいて。

 

「大丈夫、です。貴女の剣は貴女のお姉様を守る剣のまま。だから、大丈夫です」

 

 男が、ミアを抱きしめる。

 落ち着かせるような優しい声色はまるで、父親が娘をあやすような。

 

「で、でも、血が、血があ……出てますよう、先生……テトグマンさん……」

「ご安心を……急所は外れてます……」

 

 そんな訳はない。剣は完全に、男の腹を貫いている。

 ミアからゆっくり離れ、あとずさりしながら男が笑う。

 姉妹は瞬時に理解する。この男が自分達に余計な心配をかけない為に気丈に振舞っている事を。

 

「……そなた、何故、そんな、事を……余を、何故、庇って……」

 

 アネスタシアの声は震えていた。

 男に、庇われた。

 それもあの教師と同じ声と香りを持つ男に。そんな訳がない、同一人物な訳がない。それでも──。

 

「何故、男のお前が、そこまで──」

 

「──為すべき事を為したまで」

 

「「っ、あ」」

 

 姉妹は同時に言葉を失う。

 彼女達の知る男という生き物が決して見せないその高潔さ。

 

「そなたは」「あなたは」

 

 ──何者だ。姉妹が口を開く寸前で。

 

「──貴方……男?」

 

 白い女が先に口を開いた。

 男を見つめる目、瞳孔が縦に開き、真っ白だった顔は赤く染まっている。

 

「……魔族、か」

 

「えっ、え。ど、どうしよう、話、掛けられちゃった……ふふ、凄い、本物の男の子……私を見ても気絶も魅了もされないんだ? え~ふふ、どうしよ……髪型、変じゃないかしら」

 

 白い女の様子が明らかにおかしい。

 声の高さがワントーン上昇、頬を赤らめ、瞬きは増え、髪の毛を4本の腕で何度も梳きはじめる。

 

「嘘、あなた、やっぱり、魅了されてないよね? わたしを見ただけで脳が無事、欲情もしてないね? えー、なんで? 嘘、そんなのがいるの??」

 

 大魔族の興味が、完全に男に移り始めている。

 

「ねえ、お姉さんとお話ししよう? 魔力もないのにどうやってここまで来たの? お腹刺されたの大丈夫? 痛くない? なんで、アネちゃんを庇ったの? 凄い勇気だね? かっこいいね? 怖くないよ? 偉いね、よく頑張ったね?」

 

 白い女の声がどんどん高くなっていく。

 興奮している。ミアへの操作が解除されるほどに。

 

「名前は? どこに住んでるの? 好きなタイプは? 交尾は好き? ほんとにどうやってここまで来たの?? 魔物、たくさんいたでしょう? 怖かったよね? だって魔力もないクソ雑魚生物なのにどうやってここまできたの? お腹、痛いよね?? 嘘、嘘、嘘、この時代でもまだ君みたいなのがいるの?? え、待って。尊い、え、嘘、命を賭けてお姉ちゃんを庇ったの? 嘘、あは、あはははは」

 

 明らかに様子がおかしい。姉妹に向けていた表情とも違う。

 

「貴方、とてもいい香りがする。月の香り……もう、エッチなんだから……あ、血が流れてるね、可愛いね……ふふふ、身体が熱い……」

 

「ぐっ」

 

「こっち、来て」

 

 白い女が、魔力で男を手元に引き寄せる。

 四本の腕で、ぎゅっと男の手を掴んで。

 

「──うん。一目見て、決めました。私と交尾してください」

「しない」

 

 男は口から血を吐きながら答える。

 

「ふふふ、貞操が固いのね、そんな所も、タイプだわ」

「──!? ッグ、あ」

 

 男が、急に頭を押さえて苦しみ出す。白い女が、魔力を男に流し始めた。

 

「いいよ? 大丈夫だよ? すぐに、私の事が好き好き~ってなるようにしてあげるからね?」

「あ、が、あああああああ」

 

 ぼこ、ぼこここ。

 膝をつき、悶える男。

 腹に剣を刺したまま魔力を流し込まれる、白い女の都合の良い生き物になるように変えられていく。

 

「よ、止せ!! 何をしている!?」

 

「て、テトグマンさん!! 逃げて、逃げて下さ、あ、あ、ボクが、剣を……刺さってるから……」

 

「あれ、貴女達。まだいたの? もう帰っていいよ?」

 

「「……は?」」

 

 白髪少女の姉妹へ向ける目は、褪せていた。

 既に、白髪の少女は王姉妹への興味を喪っている。

 その興味の行く先は、この男。

 

「お腹の傷、痛いね? 苦しいね? お姉さんが治して──あ、血……」

 

 女が4本の腕で男を抱きしめる。

 下側に位置している2本の腕で、男の腹から流す血を手で掬い、そのままぺろり、血を舐めて。

 

「あ、あ、あ、脳に来る、脳に来る、濃くて、蕩けて、まろうびでそう……」

 

 美しい、しかしどこまでも恐ろしい。

 人の上位、人の捕食者。

 魔族が食欲と性欲の両方を宿した笑みを男に向ける。

 

「は、あ……もう我慢できない。ね? ここで交尾しよ? 大丈夫、お姉さんが優しくしてあげるから、ね? ね? そういうの、彼氏って言うんでしょ? ね? 私の彼氏君になって? 大事にするから、ね?」

 

 白い女に身体をまさぐられ続ける男。

 

 男は固まっている、きっと恐怖でどうしようもないのだろう。

 止めなければならない、だが、姉妹は動けない。

 魔族の放つ魔力が、あまりにも濃く、大きすぎて。

 

 姉妹は脳が焼け落ちそうになる感覚に顔をゆがませて──。

 

「アネスタシア様、ミア様……!! お逃げ、下さい!!」

「「──っ」」

 

 絞りだすような、男の声。

 王姉妹は愕然とする。

 

 なんという事だ。

 腹を剣で貫かれ、魔力に侵される、そんな状況にありながら男はそれでも声を振り絞ったのだ。

 

「今なら、逃げれるハズです! 魔族が俺に集中してるうちに、早く!!」

 

「優しいのね、彼氏クン、ふふ、もう、素敵、どうしよう、本当に好きになっちゃいそう……可愛い、可愛い、可愛いなあ、怖いよね? でも頑張ったんだね?」

 

 此の状況でなお、男は姉妹の身のみを案じていた。

 

「なぜだ……なぜ、そこまでして」

「ボク達の為に、なんで、そこまで……今日、会ったばかり、なのに──」

 

 だって男は、自分勝手で、感情的で、責任を取らず、女に寄生するくせに女を見下す。

 男はいつだって、女を利用するだけ。

 王ですら、自分の保身の為に女に死ねと言う世界で、なんで、この男は──。

 

「必要なんだ」

「「……え?」」

「俺には、貴女達が必要だ──だから」

 

 ただ、まっすぐと男は姉妹を見つめて。

 

「絶対に、死なせはしない」

 

「「──」」

 

 痺れ。

 男の言葉、男の顔、必死な姿。それを見た途端、姉妹は雷に打たれたような痺れを感じた。

 

 それは一瞬で、下腹部から脳みそにまで広がる。

 圧倒的に無力で弱い存在である男の叫び。しかし、この男は姉妹の事のみを案じていた。

 それが──彼女達の本能に響いた。

 

「──ミア」

「──姉さま」

 

 響きすぎた。

 

 女の本能が、姉妹から恐怖や怒りを取り除く。

 あとに残ったのはより純粋な欲求のみ。

 

 支配しろ、手に入れろ、そして──命に代えても、必ず守護(まも)れ。

 

 女の本能が囁く。この男が──絶対に欲しい。

 

「その男から」「離れろ」

 

 青い炎のような魔力が、姉妹の身体から吹きあがる。

 

 魔力暴走、肉体の制御限界を超え、姉妹の力が唸りを上げる。

 アネの目から流す血が蒸発し、ミアの捻じれた腕がぎゅるぎゅると音を立てて癒えていく。

 

「──魔力暴走? ここにきて? ふふ、この男の子の言葉が子宮に響いたのかしら? そうよね、女の為に命を賭けてくれる男なんて、この時代では天然記念物だよね。貴女達もこの子を抱きたいんでしょ? ──でもごめんね、この子は私の彼氏クンだから」

 

 アステーラが4本の腕で男を後ろから抱きしめたまま、妖艶な笑みを浮かべた。

 

 この世界の主役。

 魔族と女の殺し合いが始まる。

 

「私の彼氏クンを狙うのなら、容赦しない。気に入った男の子の為に覚醒するなんて、貴女達もきちんと魔(女)だね」

 

 空が白い女の魔力で暗く染まっていく。

 

「──君達の、一歩先のステージを見せてあげる」

 

 世界が魔力によって侵されていく。白い女の身体から闇が噴き出す。

 

 十二魔星と呼ばれる大魔族のみが扱える神域の業。

 

 この星の神々ですら破る事が敵わなかった大魔族の力の理由。

 

「──全て、遥か遠くに思うがいい。星の虚ろ、空の帳、月のまどろみ──それらは全て我らの中に最初から」

 

 あっという間に周囲は異空間と化した。

 

「宇宙は脳にある──月牢領域(ムーンフォール)

 

 空には暗黒と満点の星空が広がり、足元の地面は星屑の砂が広がる。

 現代の人間なら、気付くかもしれない。

 その光景は、月面に似ていた。

 

「これは……」「結界……姉さま、この場所は……何か妙な」

「魔力によって己の心の風景を現実に展開する結界術。貴女達も、あと数世代を経ればできるようになるかもね」

 

 魔族と女の殺し合いが始まる。

 貞操逆転死にゲー世界。

 この世界の主役は彼女達だ。

 

「私と彼氏クンの愛情たっぷりらぶらぶ交尾を邪魔するのなら、死んでね?」

「反吐が出る、下奴め」

「同意のない性行為に愛はありません」

 

 魔族も、そして姉妹ですら、男を、リヒト・テトグマンをか弱い存在としか理解していない。

 

 男に出番はない。

 男は守られるだけの存在。それがこの世界の常識だ。

 

「ふふ、ほんとはアネちゃん達だって、彼氏クンを抱きたい癖に」

 

 だから口走ってしまう。

 

「じゃあ、始めましょう? 魔族と女、互いの生存の為の、戦いを」

 

 決して、その男の前で口にすべきではない言葉を。

 

「ここにはもう、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「その言葉が聞きたかった」

 

 

 言っちゃった。

 

「え?」

 

 男が、魔族の腕の中から消えていた。

 

「あ」

「え」

 

 次の瞬間──アネスタシアとミアが糸の切れた操り人形のように倒れる。

 

「え?」

 男だ。

 

 さっきまで抱きしめていたはずの男が、今は倒れた姉妹を同時に受け止め、ゆっくりと地面に寝かせている。

 

 魔族は辛うじて見逃さなかった。

 男が、姉妹の首に手刀を振るった瞬間を。

 

「あれ……え?」

「気絶させただけだ。これで彼女達に俺の正体がばれる心配はない」

 

 男は落ち着いていた。

 魔力による干渉で苦しんでいた時の面影はまるでない。それどころか、

 

「君、え、どうやって──いや、それよりも、今の動きは……」

「──げほ、ごほっ。少し待て。チッ。臓器が傷ついているな」

 

 黒い血を吐く男、致命傷の証、普通の人間なら終わりの合図。

 知っているだろう、普通は1度死んだらおしまいだ。

 

「は?」

 

 だが、この男にとってそれは只の回数でしかない。

 

「1回死亡だ」

 

 ずぶり。男が自分の腹を貫いている剣を引き抜く。

 

 ドサッ、斃れた男、その身体があっという間に灰になって消えていく。

 そして。

 

 しゅううううう……灰が舞い、集い、形を成す。

 灰が、あっという間に、男の形に戻る。それは特別な不死の証。

 

「──彼氏クン、何者?」

「死にゲープレイヤーだ」

 

 ◇◇◇◇

 

 冒険者や幼馴染からのセクハラの次は伝説の魔族からか。

 

「やはり、ロクな世界ではないな。灰クソ」

「うそ……不死……? でも、今の再生方法は、何?」

 

 4本腕の白い美人が、目を大きく見開いている。

 白孤星のアステーラ。

 12人の神殺しの大魔族。

 伝説の魔族、灰クソ隠しボスキャラの1人。

 

 灰クソ原作での突破率17%の強ボスだ。

 

 当然、こんなゲーム序盤に登場する予定のキャラではない。

 本来ならば、ゲーム終盤、魔族と協力するルートや、世界連合が発足し、最期の反転攻勢を仕掛けるというイベントでようやく戦う事になるボス。

 

 こいつが、このチュートリアルの戦いで登場している。

 原作の歪み。もうなんでもありだな。

 

『ま、マスター、き、聞こえる? そ、そっちはどう?』

 

 鎧騎士として魔族の軍勢を屠っているラミィとの思念会話にも成功。

 

「魔族の結界内に閉じ込められた。問題ない、計画通りだ」

 

『も、問題だよ……ぜ、絶対、すぐ、助けにいくから』

「約束通り、お前を1人にするつもりはないよ、ラミィ」

『──すぐ行くから』

 

 ラミィの声が遠くなる。

 さて、それじゃ、やるか。

 

「すごい。すごい、すごいすごいすごい!! 私の彼氏クン不死なの? ふふ、皆に自慢しちゃお」

 

「不死なら、少し遊べるよね? 彼氏クン。上下関係を今からきちんと刻まないと」

 

 アステールが人差し指の先を俺に向けて。

 

「基礎攻撃魔術“魔力の矢つぶて”」

 

 伝説の存在、神話の住人。人間では扱えない魔力の神髄を操り、古い神々を食い滅ぼした魔。

 

「あなたは何度殺したら心が折れるのかしら? ふふ、心が折れた不死とお話するのは結構好きなの、ねえ、彼氏クン」

 

 満点の星空が映される、その全てがアステーラの操る魔力の矢つぶて。

 この世界の人間からしてみれば、戦う事自体が間違い、神に等しい神話の住人。それが十二魔星、アステーラ。

 

「今日から私が、君の神様だよ」

 だが、俺にとっては──。

 

《神殺しの十二魔星──白孤星のアステーラ》

 

「違うね、お前は只の神ボスだ」

 

 降り注ぐ魔力の矢礫を全て避ける。

 前ローリング、横2回ローリング、前ステップ、横ステップ。

 

「……え? 避け、てる? え?」

 

 魔力の矢の雨は止まらない。

 でも、知ってる、避ける事ができる。

 

 全部、ゲームと同じ挙動……!! 

 奴の手から、放たれる魔力の矢礫。同時に空からとんでもない数だが、どう動けば避けれるのか、全部分かる! 

 

「……当たらない?? なんで? あれ?」

「はは、ははははは!! 最高だ! お前、ゲームと同じ神ボスじゃんかよ」

 

 思い出す、そうだ、白孤星のアステーラ。

 灰クソ屈指の人気ボスであり、人気キャラ。

 その蠱惑的な容姿や、言動、ルートによっては友好キャラにすらなる出番の多いボスだった。

 

 だが、何よりの人気の理由は──アクションゲームのボスとしての完成度。

 

「な、なんで?? なんで当たらないの!!?? なんで、転がって避けてるの!!??」

 

 初見では躱す事なんて不可能だろうという魔力攻撃。

 しかし、慣れれば意外にも素直な攻撃、タイミングがリズムで覚えられる戦闘挙動。

 アクションゲーム作るのうまいね、ほんと、あの会社。と言いたくなるほどの神バランスで調整されたボス。

 

 それが、アステーラ。

 

 ゲームでも圧倒される迫力を持つ光景──それが今、目の前に。

 

「はは、すげえ……」

 

 わかる、全部覚えてる。

 魔力光が空に滞留し、輝く、はい、その一秒後に射出!!

 

 躱す、躱す、躱す、躱す、躱す躱す! 

 

 どうん、どうん、どうん。

 

 地面に落ちてはじける魔力、その音すらゲームと同じ。

 

 おめえ、なんでこういう所はゲーム完全再現で、肝心な所はぐちゃぐちゃなんだよ。

 逆であれ! そこは逆であってくれ!! 

 

 なんて事を考える余裕すら感じる。

 

 回避を可能としているのは、ゲーム知識。そしてそれを再現できる俺の極まった身体能力だ。

 月の宮での重力訓練、天使との戦闘経験は無駄じゃなかった。

 ラミィ無しでも、ある程度はやれそうだ。

 

「…………嘘、全部……避けた? え? 転がって……へ? なに、それ」

 

「勇気の前ローリング。前ロリだ」

 

「前、ロリ……? 意味が、分からない、……なんで避ける時にわざわざ転がるの?」

 

「回避時には2Fの無敵時間が発生するからな。あ、それはゲームの話か」

 

「あは、あはははははははは!! 面白いね、面白いね! 彼氏クン、いいよ。不死なんだもんね、そのくらい生意気な方が面白いもの!」

 

 空気が軋む。

 赤い魔力が、アステーラの周囲で赤い雷となって渦巻き始める。

 

「私の足元に口づけする貴方を、皆に自慢するのが楽しみになってきたな♡」

 

 美しい顔で恍惚な表情を浮かべていた。

 

 はあ……なるほど、これが魔族の認識か。

 

「……お前、まだ勘違いしているな」

 

「?」

 

「今際の際だ、本気でやったほうがいい」

 

「焦る? 私が? ふふふ。あははははは。うん、いいよ。彼氏君」

 

 大魔族はどこまでも、余裕な顔。

 

 籠に入っているハムスターを見つめるような目を俺に向けて。

 

 

「大魔族の力を教えてあげる──重力100倍」

 

 ずんっ。

 空気が、凹み、地面が砕ける。

 

 世界の重力が、100倍になった。

 

「苦しいよね? 辛いよね。100倍の重力で動ける人間なんている訳がないもの。不死である貴方も、それは同じ。もう喋る事も出来ないだろうけど、あ、息すらできないか」

 

「このまま、芋虫みたいに這いつくばるキミに、どっちが上か、誰が神様かをしっかり身体に教えてあげるね」

 

 伝説の魔族が、微笑んだ。

 

彼氏クン(ペット)

 

「ああ」

 

「………………え? 彼氏君、なん、で、立って……え?」

 

「教えてもらおうか」

 

8000年の成果を、ここで。

 




お待たせしました!!
引き続き楽しんで貰えるようにコツコツ更新していきます!

今月発売の新刊【凡人呪術師のたのしい異世界悪役プレイ】もよろしくお願い申し上げます!

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