貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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21話 白孤星VS不死なる灰

 

 

「この感じ……懐かしい。きちんと地面に足がついている感じだ。あー、安心する」

 

「………………へ? は? なん、なんで? なんで? なんで、平気、なの? え? 100倍の重力だよ? 他の人間、前の戦争の時の不死は皆動けなかったのに……」

 

 ありえないものを見た。

 100倍の重力下で、魔力のない生き物が平気で動いている。

 同じ十二魔将、そしてもっとも女王でさえ、アステーラの重力にはあらがえない。

 なのに──。

 

「あ、そ、そっか! オーパーツ! そういうオーパーツ持っているのね。ふふ、彼氏くん、いけないんだあ、そうやって隠してさあ、ね、良い子だから諦めよ? オーパーツだけ持っていても意味ないから、ね?」

 

「教えてくれ」

 

「え?」

 

「誰が、神様なのか」

 

「え?」

 

 一瞬で、目の前から男が消える。

 アステールの感覚器官、そのどれを持っても男の動きを感知出来ない。

 

「後ろだ」

 

「ッ!?」

 

 アステールは辛うじてその速度に反応する。

 もう既に、男の蹴りが顔面に向けて放たれている。

 

「──ふ、ふふっ」

 

 刹那の間、アステールは笑う。

 

 反射術式──大魔族だけが持つチート性能。

 全ての物理攻撃、魔術攻撃を文字通り反射し、敵にそのまま返す技術。

 

 絶対不可侵、これを破れる者は同じ大魔族のみ。

 

 前の大戦でも、多くの英雄がこのチートの前に破れ去った。

 

 例外は、ない。

 

 アステールは加虐の興奮に端正な顔を歪ませる。自分に触れた瞬間、捻じ曲がる男の脚。

 

 骨と肉が砕け、響き渡る男の悲鳴。

 自分に命乞いをする男の顔、血の香り、その涙。

 

 それらを舐めとり、痛ぶる少し先の未来に笑みを。

 

 さあ、男の蹴りがアステールの頬に触れて。

 

「笑う暇があるのか?」

 

「──え?」

 

《反射術式──適応済》

 

 ひしゃげる音、骨が砕ける音、肉が弾ける音。

 

 アステールの期待通り、それらは叶った。

 

 唯一の予想外、それは。

 

「あ、が、ああああああああああああ!!??!?!?」

 

 それらは全て、自分のものだったという事だけ。

 

 蹴り飛ばされた、自分が、何故──どうやって!!?? 

 吹き飛ばされながら思考を回すアステーラ。

 

 意味が分からない、意味が分からない、意味が分からない。

 

 地面になんとか着地、2回転した首をボキボキと元の位置に戻しながら態勢を立て直す。

 

 

「え……は? なに、なん、で?」

 

「そうか、その余裕……反射術式があると踏んでいたのか。確かに厄介な能力だ。ゲームでも流石に酷すぎると一時期炎上していたな」

 

「は? ゲーム……? 何を、言って……!?」

 

「お前が人気な理由がよく分かる。そのニヤケ面が真顔になっていくのは確かに……一種のエンタメだな」

 

「は!? また、消え──」

 

「接近戦だ、頼むから原作通りに動いてくれよ」

 

「ふふ、はは、意味、わからないわ!」

 

 アステーラが地面を踏み鳴らす。

 脚から魔力を放出、点で捕えないなら面で──。

 

「それは知っている」

 

「!!??」

 

 ゴロン!! 

 また、前転!!?? 

 

 意味が、分からない。

 

 地面を踏み砕き、魔力で周囲に爆発を起こした。

 

 なのに、男は前転しただけでそれを躱す、いや、躱せるはずがない。

 前転しようがしまいが、距離を取る事以外で躱せるわけがないのに──。

 

「ふふっ、何を、何をしたの!!??」

 

「身体が全部覚えている。次、右の拳の振り下ろし、振り下ろしの軌跡にそって1秒遅れて魔力爆発が発生する」

 

「!!??」

 

 アステーラが行動を起こす1秒前に、男はまるで未来でも知っているようにその行動を予見する。

 

 拳の振り下ろしの直後、またごろん! 前転……! 

 

 懐に入られたアステーラ、胸、腹、首、身体の急所に鋭い痛みを感じる。

 

「それは──」

 

「雀蜂のレイピア──導きの武器」

 

 黄色と黒の警戒色、滴る毒液が滴る刃。

 かつての大戦において、人間も魔族も手が出せなかった人外魔境”蕩けた森”。

 そこに生息する巨大な雀蜂、その棘を刃に加工したオーパーツ。

 

 最小限の動きで繰り出される精密にして無慈悲な刺剣の突き。

 

 その全てがアステーラの反射術式を貫通し肉を穿つ。

 同時にその身体を激痛が走る、血管、魔力回路、その全てが焼け付くような痛みにアステーラが目を白黒とさせた。

 

 

「これは、──毒!?」

 

「誉れはない、浜で死ぬまでもなく」

 

「ふ、ふふふ! 凄い……! 凄いわ、彼氏君! ここまで出来る男がまだ、この世界に残ってるなんて!!」

 

「まだ余裕がありそうだな」

 

「あはあ! そう見える!? そうでもないわあ!! でもなんでだろうね、今ね、彼氏君──」

 

 一切の遊びなく、男の刺剣がアステーラの首を穿つ。

 だが、同時に──。

 

「少し、楽しいんだ──権能”星枷”」

 

「なるほど、そう来たか」

 

 一瞬で、互いに互いの意図を理解する。

 両者の実力は、見た目ほど離れていない。

 

 男が繰り出した攻撃は、そのどれもが人間レベルの相手なら必殺の一撃。

 

 しかし、アステールは遥か高み、神話の住人。

 

 着実にダメージが溜まっていても、未だ命には届かない。

 

 首から血を流し、毒に侵されながらもアステーラが宙に浮かび逃げる。

 男の動きはあくまで縦と横の二次元機動、だが、魔族であるアステーラは違う。

 

 空中は彼女の領域。

 

「卑怯とは言わないわよね。わたしの彼氏君」

 

 再び空を埋め尽くす魔力の矢礫、流星群れのような光景。

 

 ただタフで、ただしぶとく、ただ物量を用意出来る。

 

 白孤星のアステーラ、彼女はその生物としての真正面の強さで──この星の神をいくつも葬ってきた。

 

「貴方はわたしの重力で死なない唯一の人。ねえ、わかる? 冷たいはずの胸が今、熱いの」

 

「毒の影響だ」

 

「冷たい夜の中で生まれたわたしが、今、初めて貴方達人類の熱を知れた気がする。生の喜び、死の恐怖──ふふ、身体中の血がお湯になったみたいなんだ」

 

「だから毒の影響だ」

 

「彼氏君、もしかしたら、君がわたしがずっと探していた存在なのかもしれないね」

 

「話聞いてないな、こいつ」

 

 アステーラはその複腕で自分を抱きしめる。

 

「自分で自分を抱きしめてもね、愛情は分からないの。わたしはわたしの生存の為に行動するけど、貴方達は違うでしょ? でもね、貴方をわたしのものに出来れば、わたし、愛情を知れる気がするんだ」

 

 重力が渦巻く。

 

 アステーラの手に白い大弓が握られる。

 

 ”星明かりの大弓”──かつてとある弓の神と共にあった神造兵器、その無垢白の美しい姿はそのままに、神から魔へと引き継がれた兵器がつがわれる。

 

 星の輝きが、その弓に集中して。

 

「彼氏君、大丈夫だよ、死んでもね、作り直してあげる。貴方の事ね、もっと知りたいから」

 

 詰みだ。

 

 本気になった大

 

 ただし──。

 

「ありがとう、アステーラ、俺は今──感動している」

 

「え?」

 

 死にゲープレイヤーを除いて。

 

 

「本当に──備えていて良かった、同時に思うよ。灰クソ、死にゲーをプレイしていて面白い瞬間はたくさんあるが……この世界でもそれは同じらしい」

 

 男が、不敵な笑みを浮かべる。

 

「自分の対策が強敵にハマる時が、一番面白いな」

 

 男は知っていた。

 原作において、体力を削られた白孤星のアステーラが行う最大の大技。

 

 上空から幾万の魔力の矢礫と同時に、超威力の大弓による一撃を放つ事。

 

 そして、その対策を。

 

 普段は悪竜の鎧に忍ばせているオーパーツ、その1つの封印を解く。

 左手の薬指につけた指輪に触れ──。

 

 

「インベントリ接続──オーパーツ選択──”毒眼の大弓”」

 

「え?」

 

「お前の星明かりの大弓の発射よりも、毒の目の大弓の方が速い」

 

 弓を空から構えるアステーラが固まる。

 

 男の指輪から黒い泥が漏れ出した次の瞬間には、もう男が大弓を構えこちらを狙って。

 

「!! ”星の一矢──」

 

「死にゲーの最適解を知っているか?」

 

 男の大弓に、溜めも詠唱も必要ない。

 とある暗殺者が愛用し、いつしか月の宮に祀られたそのオーパーツは元の持ち主と同じようにただ、正確に冷徹に獲物を射抜く。

 

「あ、う、そ……」

 

 それだけだ。

 

 アステーラの心臓を──矢が貫いた。

 

「やられる前にやる、だ」

 

 空中で仰向けになり、動かないアステーラ。

 

 男──リヒト・テトグマンに油断はない。

 

 二矢目をつがう、今度は狙うは頭。完全に殺しつくす──。

 

「あ、は」

 

「……原作では──これで終わりだったんだけどな」

 

 放った二矢目が、一気に収縮し、ねじ曲がり、ぺちゃんこに潰れる。

 

 手元の大弓に亀裂が入り、粉々になり果てる。

 

 重力の権能を、武器に使われたのだ。

 

 月牢領域──大魔族によって展開されたその異空間に亀裂が入り始める。

 だが、まだ壊れてはいない。

 

 ここからだ。

 

 この世界はゲームではない。アステーラも、もはやゲームのボスキャラを逸脱している。

 

 ここからは、彼女という命、それが最期に見せる悪あがき。

 

「わたし、今、生きてるわ」

 

 領域に、紫の稲妻が走る。

 

 空を、空気を、地面を割る、神をも喰らう魔力が外敵を屠らんと蠢く。

 

「わたしは、知りたい、人類の愛情、を……貴方なら、きっと知っているはず」

 

「なんで、俺なんだよ」

 

 めききや。

 

 アステーラが、逆さまに浮いたままリヒトを見つめる。

 目から青い血を流し、心臓の潰れた胸を隠そうともせず。

 

「あなたは、おんなを、まもった」

 

「おとこが、おんなをまもる。おんなだけがおとこのためにしんでいくせかいで、あなただけがおんなをまもった。われわれのいでんしせんりゃくのそとがわに、われわれのいとしないいのちとしてそんざいしている」

 

 真っ赤な目が、リヒトを見つめる。

 

「わたしは、思うの。あなたが彼女達を守る理由はない、それだけの実力、それだけの強さ、己の生存だけを目的とするなら──彼女達に関わる必要はない」

 

「故に、あなたはきっとアイを知っている」

 

「冷たいわたし達が知らない温かさを知っている、だから、知りたい、見せてほしい」

 

「わたし、愛情が知りたいの、好きなの。それでね、だからね」

 

 ゆっくり、アステーラの表情が戻っていく。

 元の不敵な、無菌室で育った怪物のような表情。

 

 きっとそれは人類とは相互理解不可能な──。

 

「そういうの、全部壊したいの」

 

「言うと思ったよ」

 

 空に浮かぶ魔力の矢礫。

 それが極限まで大きくなる。

 1つ1つが星のように輝き始める。

 

 重力が、狂う。

 

「権能限界発動──外敵を認知。名称不明──人類、男個体を、惑星侵略における地球防衛軍を遥かに上回る戦略級の脅威と認定」

 

「対天使殲滅級法則浸食現象の使用申請──”惑星環境支配戦闘機・アステーラ”の指揮権により申請を自己承認」

 

 魔力の矢礫が1つに集まる。

 アステーラの頭上、重力がそこ一点に。

 地面の砂や岩石が全てそれに集まっていく。

 

 彼女は──月を作った。

 

「おい……こんなの、ゲームになかったぞ」

 

「対天使殲滅級法則浸食現象──即ち”魔術”」

 

 月が、落ちてくる。

 

 それはもう、不死だろうとなんだろうと人が、どうにか出来るものじゃない。

 

 数千年無茶な努力とバカみたいな修行をし、何度死から再生しようと至れない領域。

 

 リヒトが足掻いたからこそ、生まれる世界のゆがみ。

 

 本来ならば、これは起きない戦闘だった。

 

 原作にも存在しない、リヒトの知らない大魔族の本気。

 

「最終警告──彼氏君、今なら、逃げてもいいよ」

 

「……」

 

「後ろで寝ている2人の姉妹、それを置いていけば、見逃してあげる、どうする?」

 

 大魔族──悪魔からの提案。

 あの質量の攻撃──不死といえど、滅ばない保証はどこにもない。

 リヒトの脳裏には、オルデランの最期が今も残る。

 

 きっと、不滅の者など存在しない。

 逃げるべきだ。

 王姉妹は駄目でも、他にも救うべきキャラはいる。

 

 そもそも、ここまでシナリオが狂っている。よくやった方だろう。

 それに、王姉妹の精神を安定させる為の臣下達は救えなかった。

 もう詰んでいる、これ以上戦っても意味がない。

 

 リヒトの思考が回る。

 回って、回って──。

 

 ──えはは。

 

 ふと、懐かしい笑い声が聞こえた気がした。

 

 それだけで、もう理由はいらない。

 

「”我、血の導きに従い悪竜に至る者”」

 

 指先を空に。

 親指を撃鉄に、人差し指を中指を銃身に。

 初めて覚えた魔術、己の身を守る為に覚えた血の魔術を、今度は──他人を守る為に。

 

 

「──そっか、もう言葉はいらないね」

 

「”今こそ、共に神を喰らわん──”」

 

 血の魔術が、不死の命を喰らい、射手の合図を待つ。

 

 限界まで命を魔術に捧げる、血管も心臓も臓器も壊れていく。

 

 だからだろうか。

 リヒトは気付かない。あるいはラミレルアスさえいれば気付けたかもしれない。

 

 背後、気を失っている王姉妹。

 その美しい顔、長いまつげに飾られた瞼が動いて。

 

「ん……んう……」

「あ、れ……ここ、は……」

 

 王姉妹が、意識を取り戻しつつあった事を。

 

 

 

 

 




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