貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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22話 異世界に来たのならノリノリでかっこいいセリフ言ってもいいよね。あ、ダメっぽいわこれ。

 月が落ちる。

 血の矢がそれを迎え撃つ。

 

 不死の命を全て使い、練り上げられた血の魔術が月に向かって放たれる。

 カレルで習得した時とはくらべものにならない威力、巨大な血の矢が主の命を喰らって空を裂く。

 

 拮抗する月と矢。

 見下ろすは魔族、見上げるは不死。

 

 一瞬、堕ちゆく月を血の矢が押し留める。

 

 だが、しかし──足りない。

 

「無駄だよ、彼氏君」

 

 ず、ずずず。

 月が、ゆっくりゆっくり堕ちてくる。

 ばしゃ、ぱしゃ。魔力で編まれた血の矢、少しづつそれが解けてゆく。

 

「まだ、だ……!! 我、血の導きにしたが……がっは……」

 

 血を使いすぎた事で、死亡が進む。

 灰化した身体を繋ぎとめる。

 

「あは、あはあはははははあは!! 凄い、凄いわ! 彼氏君! 十二魔星でさえこの月を受け止める事が出来る者はいないのに! なんて健気に頑張るの!? ああ、もっと、もっと魅せて! 彼氏君クン!!」

 

 クソ、好き勝手やりやがってこの野郎……! 

 

 自分1人ならなんとでもなる、この大質量攻撃、逃げ場はなくとも死ねば良いだけだ。

 

 数十回の死亡になろうとも、今更なんの問題もない。

 

 だが、ここは灰クソ、最も難しいのはゲームと同じ──。

 

 NPCキャラの生存が一番難しい。

 なんでゲームのめんどくさい部分だけは原作完全再現してんだ、この世界は!! 

 

「ねえ、ふとおもったんだけど、彼氏クン、どうして貴方はそんなに頑張るの? 不死なら別にそんな必死に攻撃を防ぐ意味ってあるの?」

 

 魔族からの問いかけ、それはある意味当然の問いだった。

 

 俺の背後には意識のない王姉妹がいる。

 分かっている、ここで2人を助けたとて……もう詰んでいる。

 

 原作においても、死亡に限らず精神崩壊や闇堕ち、多種多様な方法で死んでいくメインヒロイン達。

 臣下を失ったという事は恐らく、復讐鬼自滅パターンの世界線に突入しているのだろう。

 

 こうなってしまってはもう──グランドルートもクソもない。

 

 俺はもう、失敗している。

 何のための戦いかももう分からない。

 

 逃げたい、投げ出したい、もう辞めたい。

 

 理性は叫ぶ、もういい、逃げろと。

 

 俺は不死だ。

 

 世界の終わりまで自分の生存だけ望めばいい。

 全てから目を背け、限りある平穏を享受すればいい。

 

 ああ、そうだ、カレルとよく似た街に小さな家を買おう。

 冒険者になるのもいいだろう。

 簡単な魔物を倒し、金を稼ぎ、家具を揃え、肉を焼いてゆっくり食べよう。

 

 休日には釣りに行ったり山に登ったり、サウナ、そうだ、あとはサウナがあればそれでいい。

 

 8000年もあの化け物達に殺され続けたんだ、それくらいの贅沢は許される。

 そして、後は戦火から、魔族から逃げて逃げて逃げて──世界の終りまで平穏に過ごせばいい。

 

 平穏を求めるのならば、もう、それで──。

 

 

『えはは』

『まだ、やりたい事、たくさん、あるのに……』

『死にたく、ないよぅ……りひとぉ」

 

 

「……バカか、俺は」

 

 

 それじゃ。あの夜が俺を許してくれない。

 

 ああ、そう考えるとなんだかだんだんイライラしてきたぞ。

 どうして俺ばかり、こんな予想外の目に合わないといけないんだ? 

 

 誰だ、なんだ、俺をこんなに追い詰めるのは? 

 いや、もう分かっている。

 俺からあの平穏を奪ったモノ、俺を追い詰めるモノ。

 それは不死であり、魔物であり、魔族であり。

 

 言ってしまえば──世界だ。

 

 この世界は、何1つ思い通りに行かない。

 

「……白孤星、1つ聞かせろ。何故、このタイミングで王国を襲った?」

 

「さあ? なんとなくかな?」

 

 魔族だから、それだけでは理由が出来ない意味の不明さ。

 もう間違いでもなんでもいい。

 この世界は俺の事が嫌いなのだ。

 

「ありがとう、覚悟が出来た」

 

 世界が王国を滅ぼすのなら、救う。

 世界がこの姉妹を殺そうと言うのなら殺させない。

 

 生半可な平穏は要らない。

 求めるのは、完全な勝利、完全な平穏。

 

 この滅びゆくクソ死にゲー世界を

 

「めちゃくちゃにしてやる」

 

 死ぬ運命のNPCは全員救う。

 世界に嫌われている者がいれば、そいつも拾う。

 とにかくこの世界で起きる悲劇やクソイベントを全てぶち壊してやろう。

 

「本当に頑張るね、彼氏クン。ねえ、教えて? なんでそんなに──」

 

「嫌いだからだ」

 

「え?」

 

「俺を追い詰めるお前達(世界)が、大嫌いだからだよ」

 

 逃げた先に、平穏はない。

 このクソった死にゲー世界を蹂躙した先にしか、俺の求めるものはない。

 

 ならば、やる事は決まっている。

 血よ、もっとだ。

 大きくなれ、俺の命を吸って──もっと、もっと、もっと!! 

 

 

「そもそも、なんで、この2人が死なないといけないんだ!!」

 

 俺は、知っている。

 ゲームをやった事で知っている。

 

 この2人、王姉妹はいつも──。

 

「この2人はいつも、他人の為に戦っているじゃないか」

 

 誰かのために戦って、傷つき、痛み、病み、堕ちて死んでいく。

 

 ゲームなら、良い。だが、これは現実だ。

 

「そんな奴らがこんな死に方して良い訳がない!」

 

「世界が、この2人に死ねというのなら──この2人を誰も守らないのならば──」

 

 血よ、血よ、血よ。

 さあ、役に立て。

 俺は、主人公の代わりに、ここにいるのだから。

 

「この2人は」

 

 8000年のクソメタ修行はこの時の為に。

 

「俺が、守る」

 

「あは、かっこいい」

 

 腕から噴出する血が魔力と交わり霧散する。

 血の矢は更に巨大になり、月を押し上げて。

 

「ははははははは、ははははは!! なんだかだんだん、楽しくなってきたぞ!!」

 

「最高だね、彼氏クン!!」

 

 

 さあ、火力勝負だ。

 ノリノリになったおれは、本当にこの瞬間まで気付かなかった。

 

 

「魔力、展開……全、魔力制限、解除……」「……魔力炉心、点火」

 

「え?」

 

 背後から聞こえる茫然とした声。

 ……王姉妹が、本当に本当に愕然とした顔で俺を見つめ、魔力を回し始めていた。

 

 …………このパターンで気絶した相手が起きる事ってあるんだ。

 

 

 ◇◇◇◇

 

 生きててよかったと感じた事がない。

 

 暗闇の中、私は思う。

 

 この世界は残酷で、不平等だ。

 弱者が強者に虐げられる世界──ではない。

 

 弱者が、強者を蝕む世界。

 

 女が男を守り、養うのが当たり前。

 女には魔力があり、男にはない。

 同じ生き物でありながら、両者には隔絶とした生物としての強度差が存在する。

 

 だから、これは役割分担なのだ。

 

 ああ、それは生き物として正しい。

 強い者が弱い者を守る。それはきっと正しいのだろう。

 

 でも、それじゃあ強い者は誰が守ってくれるのだろう。

 

 答えは簡単だ。

 誰も守ってくれない。

 弱者をいくら守っても、見返りはなかった。

 むしろ、私達は見捨てられたのだ。

 実の父にすら、女だからという理由で。

 

 強者だからという理由で死地へ。

 

 私は今日、理解した。

 

 この世界で信用出来るのは妹と僅かな臣下だけ。

 

 カレルの街で出会えた教師、あの奇跡のような人はあの夜、炎に包まれ消えた。

 

 この世界は残酷だ。

 

 よく理解している。

 自分がどれだけ民を守っても、王として弱き者、男を守っても誰もそれに報いてくれない。

 

 自分だけなら、良い。

 王たる者として生まれた己はその理不尽を受け入れる必要がある。

 

 でも、妹は? 臣下は? 

 

 彼女達にも、この世界のいびつなむなしさに付き合わせていいのか? 

 どれだけ守っても、導いても、それを当然とし、感謝すらなく、更に要求を増やすだけの男達。

 

 自分は平等な世界を作りたかった。

 女が男を守るだけじゃない。互いが互いを尊敬し、守る世界を。

 

 だが、現実の世界は理想とは程遠い。

 

 

 ああ、なら、もう良い。

 

 弱者め、愚民め。

 もう良い、もう良い、もう良い、もう良い、もう良い。

 

 貴様達が、私達に強者としての振るまいを求めるのならば──もう良い。

 

 支配してやる。

 

 取るに足らない、魔力も持たぬ劣等種共。

 貴様らを守る為に、我が臣下は、我が友は死んでいった。

 貴様らには、代償を支払う義務がある。

 貴様らの下等な命1000をもっても、我が深化の命に及ばない。

 

 取るに足らない劣等種、貴様らが望んだのだ。

 私が──余が覇王たれ、と。

 

 ぼこっ。

 

 暗闇の中、水の音がした。

 余は、目を開く。

 

 そこには、余がいた。

 

 真っ赤な目、真っ白な髪で微笑む余、自身が。

 

 ああ、まるで──兎みたいだ。

 

 もう1人の余が、笑顔のまま手を差し出す。

 

 その手を握ろうとして──。

 

 もう1人の余がふと笑って、上を指さした。

 

 上? 何がある? 

 

 どうせ、何もない。もう、目を開きたくない。

 何を見ても、どうせ、どうせ、どうせ。

 

 

 

 誰も、私達を守っても、救っても──見てくれさえしないのだから。

 

 それでも、目を開く。

 仲間の死体、臣下の死体、どうせ、そんなものしか映らない。

 

 

 目を、開く。

 

「──うそ、だ」

 

 魔族が、月を落とそうとしている。

 そして、それを押し返そうと魔術を使う──男がいた。

 

「あり、えない──」

 

 いつのまにか、同時に目を覚ましたらしい妹。

 彼女もまた、茫然とその背中を見つめている。

 

 その大きな背中に、逃げ出そうとする意志は見られない。

 魔術を使うたびに、灰となって崩れかける身体を己の力のみで支え、血反吐を吐きながら魔族に抗い続けている。

 

 それどころか──。

 

 ”そもそも、なんで、この2人が死なないといけないんだ!! ”

 ”この2人はいつも、他人の為に戦っているじゃないか”

 

 男は──彼は私達の事を見ていた? 

 何故、どうやって? 

 そんな疑問はしかし、次の瞬間に焼けとけてしまった。

 

 ”世界がこの2人に死ねというなら、この2人を誰も守らないのならば”

 

 

 

 

 ”俺が守る”

 

 

 

 

 ────。

 ──。

 ―。

 

 嗚呼、私は──。

 

「魔力、展開……全、魔力制限、解除……」「……魔力炉心、点火」

 

 生きてて、良かった。

 

 




読んで頂きありがとうございます!
更新遅くて申し訳ございません。これからも週1更新目指してコツコツ続いていくので週刊感覚でご覧頂ければ非常に助かります。

感想ブクマ、ありがとうございました! 評価もほんと助かります。
次回は決着と、姉妹の情緒がぐちゃぐちゃになります。曇らせてえ~。
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