貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
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崩れていく、崩れていく、崩れていく。
彼の身体が、崩れていく。
姉妹は反射的に気付く。彼の正体に──。
死んでも死なず、しかし、ついに滅びる時に土ではなく、灰に帰るもの。
この国では恐怖と排斥の対象になっている存在。
彼は──不死だ。
そして、同時に──。
「あ、あ、あああ、まさか、ああ、そういう、事なのか……そんな、そんな」
「ね、えさま、これ、って、ああああああああ!!??」
姉妹は聡明だった。
故に同時に、気付いてしまう。
全て──説明出来てしまうのだ。
カレルにいたあの教師と目の前にいる彼。
どれだけ声や香り、そして在り方が似ていようと同一人物の訳がないのだ。
どうやってあのカレルの夜を生き延びたのか。
いや、生き延びたとして何故、年を取っていないのか。
なぜ、男なのに魔術を扱い、戦う事が出来るのか、
説明が、ついてしまう。
それらすべての謎は、不死、の一言で。
不死だから、あの夜からずっと──ずっと──。
「待って、待ってくれ! そんな、そんな事、あ、あ貴方は、馬鹿な、あ、あ、だとしたら、私は、ずっと、貴方を、1人きりで? 見つけれも、せず……?」
「あ、あああ、あああああ!! 姉さま、姉さま、先生の、先生の腕が、崩れて──」
ぼろっ、落ちた男の腕に、ミアが反射的に手を伸ばして──ぼろっ「え」腕が灰となって崩れていく。
さらさらした感触が、ミアの指をくすぐった。
「──あ、あ、あえ? み、ミア、ミアが、今、今、今、貴方の、腕を、壊した、んですか?」
ミアの声は震えに震える。
今日何度も心折れ、しかしそのたびに立ち上がった彼女。
しかし、これが決定打になった。
「あ」
「ああああああああああああああああ、あああああああああ!! 治って、治って、下さい、お願い、治ってえええええええええ!!」
ミアが灰を何度も何度も掬う、でも、緩い風に吹かれて消えていく。
アネスタシアですら、もうその光景を見る事しか出来ない。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
ミアが茫然と風にさらわれる灰を見つめて呟く。
なんだ、これは。
妹の悲鳴が、どこか遠く響いているように聞こえる。
待て、待て、待て。
アネスタシアの優秀な頭脳は、本人の意思とは反して思考を導く。
つまり、だ。
もし、彼が不死で、彼が教師殿で、教師殿が彼だった場合──自分達は再び教師殿に会えたのだ。
ずっと。ずっと忘れられなかった、人生を変えてくれたあの出会いと再び出会えて。
彼はまた、自分たちの元にきてくれて、魔族から救ってくれて、それで?
え?
灰に、なっている?
あ、え、ああ、あれ? 教師殿の腕が落ちている、何故だ、不死なのに、不死は死にすぎると滅びる。不死の滅びは灰になる。灰になると、どうなる。またもう会えない。
なんで、彼がこんなに傷ついている?
魔族と戦ったからだ。
なんで、魔族と戦った?
──君達が必要なんだ!!
「あ、え。私、のせい……?」
アネスタシアは時間をかけて事実にたどり着く。
自分が、皆を守れなかったから彼が戦った。
自分が妹を守れなかったから、彼が戦った。
自分のせいで、彼は、再生できないほどに傷ついて。
「──私のせいで、貴方が、死ぬ?」
灰が、風にさらわれていく。
「また、いなくなる、の?」
アネスタシアはまるで、子供のようにぼそっと零す。
ぼろ、ぼろろろろろ。涙が、もう止まらない。
「やっと、会えたのに?」
アネスタシアも、ミアも、今日多くを失った、喪い過ぎた。
そして、目の前で今、再び与えられた奇跡が、消えようとしている。
「2人共、落ち着きなさい」
「「っ」」
優しい声、姉妹の大好きだった彼の声だ。
「……おいで、話をしよう、近くに。ミア君、腕はもういい、近くに」
「は、い」
「あ、あ、は、はい……」
姉妹は男のそばに、ゆっくり、ゆっくり灰に代わっていく男、近づくだけで消えてしまいそうな彼に少しでもそっと、そっと。
彼に怒られるかもしれない。
姉はまず、それを恐れた。
彼に失望されるかもしれない。
妹はまず、それを恐れた。
だって、姉妹はその男を見捨て──カレルに背を向けたのだから。
「良かった、2人共、生きていたのか」
「「え……」」
だから、男の言葉が信じられなかった。
彼から届くのは──。
「ありがとう、生きててくれて。そうか、俺は……全部喪った訳じゃなかったんだな」
男からの感謝の言葉だったから。
自分達はののしられ、憎まれるはずだ。
なのに、男はどこまでも嬉しそうに。
「はは、俺はバカだな。そうか、あの時の子達が、キミ達だったのか。大きくなったな、2人共」
男の灰の息を吐いて笑う。
「とても、綺麗だ」
想いが、溢れる。
「私、私達は、貴方に救われたっ! 貴方がいたから、ここまでこれた!」
「ミアも、姉さまも、あのカレルの想い出を胸に、生きてきました! どれだけ、嫌な事があっても、ここまで生きてきて、悲しい事ばかりだったけど! 生きてきました!!」
その姉妹は、あの白い孤独な星と同じだった。
愛を知らないのだ。
親から注がれ、満ちるはずだった器は空っぽのまま。
ただ、ただ、幼少期の頃に期せずして与えられた男との思い出。
残り火のようにかすかなそれを抱いて生きてきただけ。
姉妹の世界には、姉妹と友しかいない。
姉妹は互いを大切にしていた。
姉妹は友を臣下を大切にしていた。
そうすれば、誰かが自分達を大切にしてくれると思ったから。
姉は平等な世界を望んだ。
妹は姉の望む世界を望んだ。
その世界ならば、誰かが自分達を護ってくれるかもしれなかったから。
姉妹は、他者を、世界を愛そうとした。
いつか誰かが自分達を愛してくれるのではないかと思った。
「安心してくれ、この程度、じゃ、死なない。俺は、死なないんだ」
姉妹は理解している。
それがこの世界のルール。
これは、彼の嘘。
だって、男はどこまでも優しい人なのだ。
教師殿で、先生で、彼で。
いつも、いつも。
「ずっと、私達を護ってくれていた」
「あなただけが、男性である貴方にずっと、私達は救われてきました」
姉妹は、ありったけの感謝の言葉を男に告げる。
そして、そして、最後に残った言葉。
あの夜から、ずっと聞きたくて、聞けなかった言葉。
これは、最後で、最悪のわがままだ。
でも、愛を知らない、大人になれなかった子供達は聞かずにいられなくて──。
「教師殿は、妹を、私を」
「先生は、姉さまを、ミアを」
「「愛して、くれていたのですか?」」
姉妹は、男を愛した。
愛されたいから──愛したのだ。
男は、小さく微笑んで。
「俺は、キミ達を」
ぼろ、男の下あごが、灰となって崩れた。口が、もうない。
男の言葉は姉妹には、届かない。
風が、吹く。
男の身体は灰となり、風が、姉妹の前から男の全てをさらい取っていく。
◇◇◇◇
〜リヒト視点〜
このタイミングで口が崩れる事あるんだ……。
《実績:”灰と共に去りぬ”を達成》
《特異点・アネスタシア・ネイチア・ミリタルナが覚醒準備段階に入りました》
《父王が、不死連盟と共謀し、王姉妹の追討軍を結成しました》
《絶望エンドNo66が始まります》