貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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第二部始めます。
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26話 王宮採用試験――合格

 深海の底に彼女達の宮は存在する。

 

 星の守護者たる天使達からの監視と干渉を防ぐにはこの光すら届かぬ深い海の底が最も都合が良かった。

 

 深海を揺蕩う青白い発光生物が点列となって散っていく。

 その光景は、どこか彼女達の故郷である空の上にある深淵とよく似ていた。

 

 こぽり、こぼこぽ、

 

 深い海の底、穏やかで深い深海の底に彼女達は集っていた。

 

 大脳ネットワークを持つ彼女達には本来こうして集まる必要なんてない。

 

 だがどうしようもなく人間が好きになってしまった彼女達は、人の真似をしてこの、会議という非効率的な意思疎通の方法を好んで取るようになっていた。

 

「……ふわあ……眠い……あれ? もしかして、また戻った?」

 

 神殺しの十二魔星に数えられる1人の白い少女がふと円形の会議場で呟いた。

 周囲の魔族は少女の言葉に反応し、ため息をつく。

 

「はあ? マジで言うてんのん、ぺテちゃん」

 

 白い少女の言葉に反応したのは金髪赤目の美しい大魔族。

 彼女もまた神殺しの十二魔星に数えられる大魔族の1人。

 

「うん、大陸中に置いてた探知機が一斉に全部壊れてる。多分、また世界全部、壊されて巻き戻されたね」

 

 白い無表情の美少女──十二魔星、ペテルギウス・メランコニア。

 彼女は既に特異点による世界の周回に気付いていた。

 

「めんどいな、ぺテちゃんのおかげで周回に気付けても結局、記憶を持ち越せんのやったらなんも意味ないやん、なあ、みんなさん」

 

 奇妙な言葉遣いの魔族──十二魔星、プロキオン・ゼラニウム。

 彼女の呼びかけに数人の十二魔星が鈍く反応する。

 

「にしても結局、これいつまで続くん? 特異点なんぞ無視して、もう侵攻始めた方が得やろ」

 

「そういう訳にもいかないでしょ。そしたらまた特異点が発動してやり直しになるだけだよ。効率悪くてもこつこつやるしかないよね。そうだよね?」

 

 白い少女は本を読みながら、同意を求めた。

 円卓に頬杖をつく白い女。

 どこか、とろんとした目つきで惚けているような彼女へ。

 

「アステーラ?」

 

「……え? あ、ああ、そう、ね」

 

「どしたん、姉やん。いつもの元気ないように見えるなあ。自分が一番王国侵攻に乗り気やなかった?」」

 

 大魔族達が首を傾げる。

 おかしい、いつもアステーラとは様子が違い過ぎる。

 

「そう、かしら……そうだったの、かしら……」

 

 いつも静かに微笑み、つかみどころのないアステーラが、今は、何か──隙だらけだ。

 

「しっかりしてや、姉やん。アンタいつもあんなに愛がどうのこうの仰ってましたで。人間の歴史も調べあげてミリタルナ王国に特異点候補がいるって調べたのもアンタさんですやん」

 

「そう、よね、うん……特異点、かあ……もう、別にどうだっていいかな」

 

「は?」

 

「うわーアステーラ、どうしたの? 風邪? 魔族も風邪をひくんだね」

 

 無表情大魔族、ペテルギウスが魔術杖でつんつんとアステーラの兎耳をつつく。

 しおしおしゅんとしている兎耳は、ぴくりとも動かない。

 

「風邪……なのかしら。わからないわ……でも、胸が、ずっと苦しいの。何か、とても欲しかったものを見付けて、でも、なくしちゃった感じ。ぺテルギウス、1000年前、貴女も同じ症状を訴えてなかったっけ?」

 

「さあ、忘れたかな」

 

「んな事より、ぺテちゃんに姉やん、どないするん。結局。ミリタルナ王国の侵攻作戦、これ、完全に姉やんがテンションで考えた作戦やろ。王国潰して世界中がどうなるかを見たいとか不死同盟がどうのこうのいうてましたやん」

 

「んー……それも、もういいかな」

 

「えー! 姉やん、それないわあ、1000年振りにウチらで軍事作戦ごっこ出来る思うてましたのに!! ウチ、もう占領した土地の改造案やら、子孫共の転化牧場とか、男個体の養殖プラン考えてたのに! 姉やんの研究テーマにもあってましたやん!」

 

「うん、気が乗らないの。だからごめんね」

 

 アステーラはそれきり、またぽーっとどこか遠くを見つめるような顔で黙り込む。

 

 他の大魔族達は、錯覚のような思いを抱く。

 アステーラの顔は、まるで人間のような、温かい生き物達が持つ”熱”を帯びているように見えて。

 

「えー、アステーラ君、ミリタルナ攻め、辞めちゃうのかい?」

 

 声を上げて部屋に現れたのはベレー帽に糸目の美しい女。

 簡素なシャツにサスペンダー付きのズボン。

 他の魔族と違い、まるで普通の人間のような服装だ。

 

「げ」「うわでた」「……」

 

 ペテルギウス、プロキオン、アステーラ。3人がそれぞれゴキブリを見つけたような表情を浮かべる。

 凡そ感情というものが存在しない魔族にしては珍しい反応。

 

「ふふふ、そんなに嬉しそうな顔をされると楽しくなってしまうね。うん、それにしても面白そうな話をしてた。アステーラ君、どうしたんだい、君らしくない」

 

「何が言いたいの? シュガー」

 

 シュガーと呼ばれた糸目ベレー帽の美少女が喉を鳴らした。

 

「君は僕と同じだろう? 物憂げな顔は似合わない。大魔族として君の”愛”というテーマには興味があってね。僕の闘争と君の愛はきっと人間の本質に最も近いものだ」

 

「シュガー、もう一度聞くね。……何が言いたいのかしら」

 

「アステーラ君が行かないなら、僕がミリタルナを堕としてくるよ」

 

 シュガーのからっとした言葉。

 ぴくっとアステーラの大きな兎耳が痙攣した。

 

「人間が多い所を攻めるのが1番楽しい、おっと違う違う、戦術的に効果が大きいからね、あの辺は眷族であるモンスターも多いし、何より王族同士の仲も悪い! 色々楽しめそうだ」

 

「それに何より! あの王都には強い女が多いからね。可愛い後輩とも遊べそうだ! それにそれに! ミリタルナは防衛軍の元本拠地! 彼らにもまた会えるかもしれない! ああ、いいねえ! また、200年前の戦争が出来る! 前回は不完全燃焼に終わったしね」

 

 やる気満々のシュガー。

 彼女は1000年前の大戦で10柱の神々を神話体系諸共葬り去った戦闘狂だ。

 

 感情のない大魔族ですら、シュガーを前にすると、少し……疲れる。

 なので、もう、まあ、お前が行きたいんなら好きにすれば? みたいな空気が流れ始めて──。

 

「うーん、ダメよ、シュガー、それはだめ」

 

「ええ~なんでだい? アステーラ君は来なくてもいいからさ。僕がそのままミリタルナ侵攻してくるって!」

 

「だから、ダメ」

 

「どうして?」

 

「貴女が行っちゃうと彼に迷惑がかかりそう」

 

「「「彼?」」」

 

 アステーラの言葉に大魔族達が首を傾げて。

 

「………………え?」

 

 何故か、アステーラ自身も首を傾げていた。

 

「……わたし、どうしちゃったのかしら」

 

 アステーラがきょとんとした顔で、自分の胸を抑える。

 

「心臓が、うるさいわ……」

 

 そこには、星核と呼ばれる機能があるだけ。

 鼓動もせず、ただ、冷たいそれぞれの宇宙を内包する魔族の器官。

 

 そのはずだが──。だけど。

 

「何かしら、lこれ。胸が、苦しいわ、フフフ、でも、不思議、ね」

 

 とくん、とくん。

 アステーラの胸の中にある何かが鼓動する。

 

 それは、魔族にはない、故に彼女達が求めて仕方ないはずの──熱そのもの。

 

「あまり、嫌じゃないの」

 

 他の大魔族は、今まで見た事ないアステーラのその表情に言葉を喪って──。

 

 

「ふーん! そうなんだ! じゃあ、僕はそろそろミリタルナに向かうね!!!!」

 

 シュガーはそんな事気にしない。のほほんとそのままミリタルナへの転移門を創り出して。

 

「じゃあ、行ってきま──ぎゃふん!!」

 

 ドゴン!!!!!!! 

 一気にシュガーが、地面にめり込んだ。

 重力、それは白孤星のアステーラの権能。 

 

「ねえ、わたしのお話、聞いてた? ミリタルナを攻めるのは、気が乗らないの」

 

「ァハーハ!! アステーラ君! どうしたんだい! いつもは飄々として受け流してばかりの君が、今日はやけに好戦的じゃないか!! 嬉しいよ! いてててててて、待って待って、潰れる潰れる」

 

 地面にめり込んだシュガー。

 

 頭から外れたベレー帽を手で手繰り寄せそのままかぶりなおす。ああ、まだ地面にはめり込んだままだ。

 

「王都への襲撃は、少し慎重になった方がいいわ。作戦はまた考え直す、その間はどんな魔族も手出しは許さない。なんて、わたしらしくないかしら?」

 

 椅子に座ったまま、微笑むアステーラ。ぺろりと青い舌を出しながら。

 

「いだだだだだだだだ!! 潰れるって! アステーラ君、おーい、おーい! 権能解いてくれないかーい? と、見せかけてエ!! ダッシュ、ダーシュ! ビーダッシュ!!」

 

 アステーラの重力に押しつぶされていたシュガーが、ぬるりとその拘束から抜け出す。

 

 その場から走り去ろうと。

 

「ダメって言ってるの、分からない?」

 

 アステーラが手のひらを掲げる。

 シュガーの身体は──ぼじゅっとキューブ状に潰れた。

 重力の権能、それは大魔族の肉体ですら、容易に滅ぼして──。

 

 

「おお? あは、あははははあ、アステーラ君、今の割と殺す気だったねええ!!」

 

 真っ青なキューブが、元気にしゃべる。

 シュガーだ。キューブ状になったままで、何も変わっていない。

 

「いいねえ! 数百年ぶりに君から殺意を向けられた気がするよ、もしかして、君が僕と遊んでくれるのかなあ?」

 

「貴女と遊んでも面白くないわ。不滅星のカプス・シュガー」

「あははーはア、釣れないねえ、白孤星のアステーラ・ノヴァリア」

 

 アステーラと、キューブ状になったままのシュガーがにらみ合う。

 

「星の開拓は、わたしの主機能よ」

「星の生命抹殺が僕の主機能でねえ」 

 

 膨大な魔力がぶつかり合い、空間が歪みだした。

 

 大魔族同士の争い、それは本来であれば星間での戦争に等しい規模になる。

 

「あらららら、どないする、ぺテちゃん。なんか姉やんも、シュガーさんもやる気満々やね」

「私はさっさと逃げる事にするよ、この2人の殺し合いなんてどうせ決着つかないからね」

 

 あーあ、みたいな顔をしながら巻き添えを嫌った他の十二魔将はそれぞれの月牢領域を展開し、避難を始める。

 

 そして、最後に残ったのは今まで一言も発さなかった最も強い大魔族と──彼女の傍であくびをこらえていた緑髪の美少女。

 

 玉座に座る最強の魔族と傍に立つ少女が言葉を交わす。

 

「えはは、ねえ、王様。いつもこんな感じなの?」

 

「顔合わせをするとトラブルが起きるのは……お恥ずかしながら、はい」

 

「王様も大変だね」

 

「そう言ってくれる方がいると、助かります……もう誰も言う事聞いてくれなくて」

 

「あのアステーラさんっていう人、あんなに好戦的な人だったっけ?」

 

「いえ……もしかすると、前回の周回で何かが起きたのかもしれません」

 

「何かって?」

 

「さあ、そこまでは全く、我々に理解できるのは、特異点による巻き戻しが発生したかどうかだけですから……でも、そうですね……もしかすると」

 

 最も強い魔族は、アステーラがどこか嬉しそうに権能を同族に振るう姿を眺めながら呟いた。

 

「何か──良い出会いでもあったのかもしれません」

 

「フーン……いい出会い、かあ。えはは、なんで、そー思うワケ?」

 

 緑髪の少女の問に、王は少し悩んだ後。

 

「女の……勘、でしょうか?」

 

 ◇◇◇◇

 

『ね、ねえ、ますたあ、これって、何が、起きたの?』

 

「分からん、なーんも、分からん」

 

 ラミィもどうやら俺と同じ認識らしい。

 

 世界が銀色の焔で焼かれて、次に気付いた時は全てが元に戻っていた。

 

 ──時間が巻き戻っている。

 

 チラシを受け取り、そのまま王宮前の広場に向かう。

 

 そこでは俺の記憶通り、従者の採用試験が行われていた。

 

 うん、完全にこれ戻ってるな。

 まるで、ゲームのセーブ&ロードのようだ。

 

 意味がわからん、だが、現実を受け入れるしかない。

 

 時間が巻き戻っている。

 

 それを認識した俺は即座に、王都の近郊に移動し魔族の大軍を探す。

 理由は分からないが、もし時間があの王宮採用試験前に戻ったのなら、まだ間に合う。

 

 アネスタシアとミアの臣下達を魔族の大軍から救う事が出来るのでは? 

 

 そう思ったが──おい、どういう事だ。

 

「……魔族の大軍、来ないな」

 

『そう、だね』

 

 既に時刻は夜、アステーラを斃した時はまだ夕方にもなっていなかった。

 前の記憶では既に魔族による王都襲撃が発生した時間を超えても、何も起きない。

 

 念のため、そのまま草原で夜を過ごす。

 朝になっても、何も起きなかった。

 

 あれえ? どういう事だ? 

 

 一旦状況を整理する為に、王都へ戻る。

 

 すると──。

 

「はいはいはい、あ!! 黒髪の兄さん!! アンタ、昨日の試験には行かなかったのかい?」

 

 ちらしおじさんにまた捕まった。

 なんでも彼が言うには、今日も試験を行っているらしい。

 

 ……向かってみるか。

 アネスタシアとミアがそこにいるはずだ。

 

 そう思って広場に向かった瞬間──。

 

「「合格」」

 

「え」

 

 前回の試験と同じように、姉妹と目が会った瞬間、王宮に連行された。

 

 しかも今回は、前回の試験と違って食事しながら国勢を話すというものではなかった。

 

 普通に大浴場に連れられて、水着姿の姉妹の入浴の手伝いをさせられた。

 

 超スタイルのいい姉妹の背中を流したり、洗髪したり、洗体したり。

 

 この世界らしいバカイベントだったが、収穫もあった。

 

 アネスタシアとミア、この2人は何も覚えていない。

 俺とは初対面になっている。要は俺があの家庭教師だと気付いていない状況だ。

 

 ……あれ? 

 これ、めちゃくちゃチャンスでは? 

 

 不死バレもしていない、教師バレもしていない。

 そして、彼女達の臣下も全員生き残って、王都襲撃も起きていない……。しかも、王宮内にはあのメイドに扮していたカボン(魔族)もいない。

 

 あれ、クリアしちゃったんじゃないすか? 

 とか浮かれていたら、その日のうちに俺は王姉妹の従者として王宮に正式採用が決まった。

 

 おいおいおいおい、来たかもしれん。

 俺、この灰クソ異世界攻略上手かもしれないんだが。

 

 そんな事を思ってルンルン気分で用意された王宮の自分の部屋を整理しているとあっという間に夜が来て──俺の王姉妹の従者としての初仕事の命令。

 

 ”王姉妹の閨”に呼ばれた。

 

 閨、である。ねや、ね。ねや。つまり寝室。

 

 おい、この世界の男が真夜中に女の部屋に呼ばれるのってつまり──いや、ないないないない。

 そんな事はないよ、ありえないよ。

 

 2人の閨は、王宮の離れに存在する。

 

 後宮の男性達からの嫉妬の視線に襲われつつ、離れの門を叩いた。

 大丈夫、相手はあの王姉妹だ。

 

 冒険者ギルドのお姉さんやむっつり幼馴染とは違う。

 きっと何も起きないさ。──門が

 

「よく来たな、我が従者」

「夜中に申し訳ありません、従者さん」

 

 スケスケのネグリジェを着た王姉妹が、天蓋付きのベッドの上に座っている。

 

「「……」」

 

おい、なんか顔を真っ赤にした美人姉妹がいるって。

心なしか鼻息も荒いし、なんかこの部屋湿度高いって。

 

 ……貞操の危機。貞操の危機じゃないか、久しぶりだよ、この感じ。

 

 ばたり、部屋の門が、閉まった。

 

 

 あ、あの害悪父王は明日暗殺します。





沼らせ転生を引き続きお楽しみ下さい!
たくさんのブクマ、評価、感想ありがとうございます!


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