貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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28話 クエストの始まり

 

 ◇◇◇◇

 

「……少し、手を握ってもいいですか?」

 

 寝転んだベッド、ミアの囁くような声が耳に溶ける。

 

 白魚のようなミアの手、剣を握って振るい続けているソレは子供の頃と比べるとしなやかになっていた気がする。

 

 ふと思い出すのは灰クソの原作知識。

 

 灰クソ公式グッズの中には、人気キャラによるASMRボイスが存在する。

 

 キャラクターごとに設定されたシチュエーションボイスという奴だ。

 

 例えば売上一位のアネスタシアのボイスは、温泉で彼女の湯浴みを手伝いながら繰り広げられるしっとりシチュエーション。

 

 普段は王族として振る舞い、時に苛烈な面を見せる彼女の素の姿を楽しめるボイス。

 

 例えばボスキャラ、あの白孤星のアステーラにもシチュエーションボイスは存在する。

 

 内容は魔族ルートを選んだプレイヤー向けのもの。

 廃墟になった王都や魔術学院を旅しながら自分が裏切った人類がどのように死んで、何を思っていたのかをアステーラと語り続ける業の深いシチュエーション。

 

 アステーラに空っぽの王座の間で、膝枕されたまま、多腕でいろんな場所をよしよしされながら、自分が裏切ったヒロイン達の末路を聞かされる倒錯シチュエーションの虜になった紳士達も多い。

 二度と紳士を名乗るな。

 だが、魔族ルートのファンが多いのも事実だ。

 ゲーマー、あまり人類好きじゃないのかもしれん。

 

 そしてもちろん、ミアにもシチュエーションボイスは存在する。

 内容は王道デート。

 王都でのお忍びデート、ミアは初めて姉以外と2人きりで外に遊びに行くという設定だ。

 

 王都の市場で買い食い、カフェで休憩、馬に乗って郊外を遠乗り、静かな泉でピクニック。

 

 そして、夜は街を見下ろせる時計塔の展望台で次のデートの約束をするという内容だ。

 

 内容だけ見れば非常に可愛げのある甘酸っぱい内容なのだが、シチュエーションボイスの後半になるとあるネタバラシがされる。

 

 それは……。

 

「姉さまは、起きません……ふふ、今だけ僕とリヒトさん、2人きりみたいですね」

 

 ──そのデートはアネスタシアにも内緒で行われていたという事だ。

 

 ミアがアネを尊敬し、心酔し、愛している事は間違いない。

 

 前の周回、アステーラとの戦いが証明している。

 ミアはアネの為なら死ぬ事が出来る。

 

「あの、それで、リヒトさん、1つお願いがあるのですが……」

 

「は、はい、なんでしょうか……」

 

 だが、それと同時にこの子は──。

 

「あ、頭を撫でて下さい……」

 

 結構、あざとい。

 

 こう、姉の影に隠れて控えめな顔しながらウインクしてきたり、秘密の合図を送っている姿が似合うというか。

 

「だ、だめですか?」

 

 潤んだ瞳で言われると、断れない。

 まあ、ギリだろう。頭を撫でるのはギリだ、ギリ。

 

 ふわりとした髪、恐る恐る手を載せるイメージで彼女の頭を撫でる。

 すげえふわとろの髪の毛。撫でる度に甘い香りが鼻を衝く。

 

 すげえな美少女。

 

「んっ……ふ、ふふっ……リヒトさん、さっき姉さまが言っていたカレル行商街の話、覚えていますか?」

 

「あ、はい……」

 

 俺が手を止めると──。

 

「あ、もう……撫でるのやめないで下さい。んっ」

 

 ミアが俺に更に体を寄せてくる。

 

 小柄な彼女のがすっぽり俺の懐に収まるように身を寄せてきていた。

 

 え、付き合ってたっけ? みたいな距離感だ。

 

「ふふふ、男のヒトってやっぱり結構大きいんですね」

 

 ミアが俺の胸に顔を埋めぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 

 この子……多分素でやっているのだろう。

 天性であざとい。

 

 カレル行商街でのニアの誘惑を経験していなければ、ミアを抱きしめていたかもしれない。

 無駄な日々など1つたりともなかったのだ。

 

 アネ、頼む、目を覚ましてくれ。

 キミの妹さん、ちょっと男心をくすぐりすぎる……! 

 

「す~、す~……すやぴぴぴ」

 

 この面白目隠し美人、睡眠優良児すぎるだろ。

 凄くのびのびした寝息を立て、起きる気配はまるでない。

 

 ……仕方ないので、ミアに言われた通り、頭を撫でておく。

 

「あ、ふふ。……こうしてると、カレル行商街で僕達に授業をしてくれてたセンセイを思い出します……。姉さまも、僕も、その人をずっと探しているんです」

 

「……さようですか」

 

「はい。その男のヒトはとても、とても不思議な方でした。あの男嫌い姉さまも、少し変わってる友達も……人には懐かないハズの獣人、それに深き森の高飛車エルフも……皆、そのセンセイの事、ちょっと好きだったんですよ?」

 

「へ、へえ……」

 

 好きか……。

 恐らくちびっこが親とか親戚とかに言う牧歌的な好きの事だろう。

 

 そこまで懐かれていたとは……。

 

「僕も、そのセンセイの事が好きでした。授業の合間にこうして抱きかかえてよく頭を撫でてくれたのを覚えています。ふふ、姉さまも、よくセンセイに撫でられてたんです」

 

「は、はあ」

 

「センセイに撫でられてる時の姉さま、可愛くて……。幸せそうでした。……なので、後で、姉さまも、撫でてあげて下さいね」

 

「い、いえ、それは流石に恐れ多く……」

 

「大丈夫、絶対に怒りませんよ。でも、姉さまはそういうの自分では言えませんから……」

 

 とろんとした瞳で微笑むミア。

 ふむ、表情がエッチだな。

 

 睡眠優良児ナイスバディ銀髪美人と、あざとい系ベビードール金髪美少女に挟まれ、なんかピロートークみたいな声量で言葉を躱すこの時間。

 

 血の魔術による血流操作を少しでも甘くすれば、マジで下半身がマズい事になりそうだ。

 

「私達は、その人の顔も、名前も知らないんですけど……何故でしょう……リヒトさんに撫でられてると……あの時の気持ちを思い出しちゃうな……」

 

「そ、そうですか」

 

 まあ、本人だしな。

 でも、良かった……ベッドの中で要求されるのが手を繋ぎ頭を撫でる事だけで済んだ……。

 

「どんな気持ちって聞いてくれないんですか?」

 

 うん? この子、一体何を言って……。

 

「ちょっと体がむずむずして、切ない気持ちになります。センセイに撫でられてた時と同じです……なんで、なのでしょうね?」

 

 何言ってんだコイツ。

 ふと、ミアと目が合う。

 戦場では剣のように冷たい目をしている彼女、この閨だとずっとチェシャ猫のような女の目をしていた。

 

「……キス、します?」

 

「何言ってんだ、コイツ」

 

 あ、まずい、つい本音を零してしまった。

 王族に使う言葉遣いじゃ……。

 

「あ、っ、ふふ……今の、ちょっといいです……センセイも、度が過ぎるとこうして叱ってくれてたな……」

 

 なんか、ご満悦なんですが。

 

「あの、リヒトさん。い、今の、今みたいな事、何か、言ってくれませんか? ちょっとこう、怒るような、たしなめるような……でも、年上の余裕がある感じで……」

 

 ミアの端正な顔が紅潮し、瞳孔が開き始めている。

 どんな性癖だよ。

 

 だが、彼女は俺の雇い主。ここは素直に従っておくか

 

「ミア様」

「サマなしで」

「……ミア」

「っっ、ハイ」

 

「寝なさい」

 

「!! ふ、ふふふ、王族にそんな口応え、いけないんだあ……♪」

 

 びくくくくっ。

 ミアが体を震わしながら、しかし嬉しそうに微笑む。

 

「……貴方は、本当に変な人ですね……普通の男ならもう理性なんかなくなってるに決まってるのに、とても紳士で穏やかで……抱きたく、なる……」

 

 ミアの手が俺の腰をぎゅっと抱き寄せてくる。

 おい、力が強いって。

 ラミィを起動しないと抵抗できないぞ、この膂力。

 ラミィ? 

 

『う、うう……マスタァが……ワガハイ以外の雌とピロートーク……ワガハイ、最強のドラゴン過ぎてSEX:必要なし。なんだァ……頂点は常に独りなんだあ……サイキョーすぎるんだあ……うわあああん……』

 

 ちょっと今、こいつ(ラミィ)と喋るのめんどくさそうだから放っておくか。

 

「ふふ、暖かい……安心、す、る……やっぱり、センセイの、香り……似て……すう、すう……」

 

 ミアが気付けば、目を瞑っていた。

 寝ちゃった……。

 おい、結局こいつも健康睡眠優良児じゃねえか。

 姉妹揃って寝つきめちゃくちゃいいじゃんすか。

 

「……すぴゅ」

 

 がしり。

 ミアと反対側、つまりアネの方から腕が伸びる。

 

 むにゅん。

 

 う、うわああああああああ! 

 アネスタシアも抱き着いてきたぁぁぁぁぁ! 

 ミアの女の子らしい身体という可愛い表現では決して足りない、とんでもないナイスバディの感触が五感を襲う。

 

 すげえの。

 もう、暖かくて良い匂いがして柔らかいのはだめだって。

 胸だけじゃなくて、太ももがまずい。足絡めないで! 

 

「う、動けん……」

 

 胸にはミアを抱きかかえ、反対側からはアネスタシアに抱きかかえられた状態。

 

 他人がこの状況だと羨ましくて仕方ないかもだが、いざ自分がこの状況になるとパニックになる。

 

 俺は不死になってから眠る事が出来ない。

 あるとすれば、気絶や、再生の際にたまに休眠状態くらいだ。

 

 つまり、意識ががっつりある状態でこのマシュマロ王姉妹サンドで一夜を?? 

 

 頭がおかしくなる……! 

 

 なんとか抜け出さなければ……。ここはオーパーツ”影走りの遺骨”を使って──。

 

 

「母上……」

「お母さま……」

 

 寝室に響いた王姉妹の声。

 

 寝言、か? 

 

 ……そうか、確かこの2人は母親を亡くしていたな。

 彼女達の母親は確か、賢王と呼ばれていたはずだ。

 

 ゲームでは、明言されていないが、父王ローランドの手によって暗殺されたという匂わせ設定があったはず。

 

「……う、うう」

「お母さま、どこ、です、か」

 

 ……彼女達はずっと、喪い続けている。

 

 理不尽だ。

 

 前世の世界も、灰クソ世界も結局同じ。

 真面目な人間ばかり、誰かの為に頑張る人間ばかりババを引かされる。

 

 正しい努力は報われる事なく、得をするのは一部の狡賢いカスばかり。

 

 俺はもう彼女達と関わってしまった。

 言葉を交わして、触れ合って、人となりを知ってしまった。

 

 報われて欲しいと思ってしまった。

 俺が平穏にたどり着く時には彼女達にも穏やかな平穏が訪れていて欲しい。

 

「……君達を死なせるつもりはない」

 

 今度こそ、上手くやる。

 その為に俺は月の宮で永い時間を過ごしたのだから。

 

「教師殿……」

「センセイ……」

 

 彼女達の寝言。

 祈るか。

 せめて夢の中だけでは、思い出の中だけでもどうか、王姉妹に平穏があらんことを。

 

 夜が過ぎていく。

 2人共安らかな顔……。

 アネは目隠しをつけてるので正直表情は分からないが少なくとも寝息は穏やか。

 ミアはスヤスヤのまま、夜は過ぎる。

 

 眠れない夜を、俺は祈りながら過ごした。

 

 どうか、これ以上マズい事が起きませんように。

 

 ◇◇◇◇

 

 マズい事が起きた。

 

 朝になると、すぐさま従者としての1日が始まる。

 王姉妹の身だしなみを整えて、朝風呂に入れて、着替えの用意。

 

 この辺はゲーム知識とニアのお世話という実体験で完璧にこなした。

 

 王宮の連中は随分と驚いていたが、王姉妹はご満悦だったので良し。

 

 そして、そのまま朝の王都の見回りに向かう。

 数人の護衛と共に市場や、大通り、商業街と廻っていたのだが……。

 

 その途中でトラブルが発生した。

 

 轟音と衝撃、間一髪で体が動いた。

 

 王姉妹を突き飛ばした所までははっきり覚えている。

 

 ああ、クソ、今自分が斃れているか、立っているかすら分からない。

 

「……なぜだ、何故!? 何故、こんな事になるのだ!? そ、其方、今、余とミアを、庇った、のか? あ、あああ」

「……え? え……? 嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘やだやだやだやだやだやだやだやだあああああ」

 

 王姉妹の悲鳴と怒号まじりの声が響く。

 

「なんだ!? 何が起きた!?」

 

「アネ様とミア様は無事だ!! じ、従者殿だ、従者殿が、お二人を庇って……!」

 

「い、医者だ!! 医者か魔術師をすぐに呼べ!!」

 

「りゅ、竜が空から落ちてきたっ!?」

 

「アネ様とミア様を、従者殿が庇って――従者殿が竜に轢かれたぞ!!」

 

 周囲で、護衛の騎士の怒号。

 さて、何があったかを一言で説明すると──。

 

 空から竜と馬車が落ちてきた。

 

 伝え間違いはない、事実だ。

 王姉妹の朝の散歩の供をしてたら、竜が曳く空飛ぶ御車が落ちてきて、王姉妹を庇って竜車に轢かれました。

 

 ……クソイベントの予感がしてきた。

 

 





ブクマ外さず読んでくれてありがとうございます。
3月4月は更新ペース多めでお送りします。
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