貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
◇◇◇◇
王姉妹の説得にはかなりの時間がかかった。
いや、意外だよ。てっきり快く送り出してくれると思ってたからな。
アナスタシアもミアも頭が良い。
俺とは比べ物にならないほど優秀な彼女達だ。ルラカナを引き込めばほぼ国内の掌握に繋がる事は理解しているだろう。
そんな事、彼女達なら分かりきってるはずだが……
「どうして、そんな事が言える……? リヒトテトグマン……腕が、腕がなくなったのだぞ……今、考えるべきは自分の事だ、自分の事だけ考えるべきときに、なぜ? 私達の事を考える? 私が、私が言わせたのか……? なら、私は……」
「ミアが、ミアが、ボクが悪い……リヒトさんにこんな事を言わせた、こんな事をさせるしかない、ボクが……」
みたいなことを辛そうな顔で言われた。
だが、ニュアンス的に心配してくれるのは分かる。
この2人がまさかここまで心配してくれるなんて……。
以前から思っていた事だが、この2人はやはり……
『ま、マスタァ、さ、流石に気付いてくれた? そうだよ、この2人はね、マスターの事を……』
とても、部下想いなんだな。
『話にならんね』
少し嬉しいぜ。
2人は前周回の事を覚えていないにも関わらず、俺の事をとても尊重してくれている。
だが、どうにかこうにか夜が明ける頃には2人共納得してくれたらしい。
2人と話している時に、幻肢痛というのだろうか。
無くした腕がたまに痛み、会話を中断してしまった事が数回あったのが、申し訳ないところだ。
……なんか、幻肢痛があるたびに、どんどん2人の物分かりが良くなっていったのは何故だろうな。
さて──王姉妹が快く俺のルラカナ行きを受け入れてくれた所だ。
『歴史の捏造ってマスターみたいな人がするんだね』
ルラカナ出立までの1週間で、やるべき事をやってしまわないとな。
ここ、ミリタルナ王宮は原作でも多くのイベントが発生するロケーションになっている。
灰クソには物語の参考にメインシナリオの他に、様々な寄り道となるサイドシナリオが存在する。
これをただの寄り道と思うなかれ。
サイドシナリオの中にはメインシナリオに大きな影響を及ぼすものが多く存在する。
これをやってるかやっていないかでメインシナリオの進行が大きく変わっていく。
例えば、なんのことのない王宮での騎士団のお手伝いクエスト。
この内容は剣や魔術が重視されているミリタルナにおいて冷遇されている遠距離職を中心とした騎士団、”梟羽”と呼ばれている騎士達を育てるという内容だ。
梟羽の騎士団はファンからさまざまな愛称をつけられている代表的なのは……『陰キャ騎士団』とか。
アネスタシアやミアお抱えの騎士団、銀狼騎士と比べるとどこか皆、芋っぽいというか、地味というか、ムチムチしているというか。
だが、”梟羽”を侮る事なかれ。
シナリオが進行すると、この世界の制空権はほとんど魔族が駆る飛竜に制圧される。
そこで活躍するのが、彼女達、遠距離職専門の梟羽の騎士団だ。
サイドクエスト完了後の彼女達の活躍っぷりは凄い。
竜やでかい鳥をバリスタや大弓、ボウガンでどんどん撃ち落していく。
専用ムービーまで用意されている始末だ。
最初のむちむち陰キャ集団から、覚醒後のプロフェッショナルな出で立ちの落差はファンの心をがっつり掴んだ。
結果的に、彼女達の愛称は途中から『やれば出来る子騎士団』と呼ばれるようになっていた。
通称『やれば出来る子騎士団』のサイドクエストを進めていると、終盤でのミア・ネイチア・ミリタルナの生存確率が大幅にアップする。
アネスタシアの名前がここにないのは、アネスタシアは大抵終盤では死亡している事が多い為だ。
なんなんだよ、あのお姉ちゃん、なんで死亡しているのが当たり前なんだよ、死ぬな。
後は後宮の男官とのサイドクエスト。
内容はとある男官との友情を深めるという内容のものだ。
これを進めていると、中盤以降のミリタルナ陣営のネームドキャラの毒殺確率が減少する。
ここは貞操逆転世界なので、ファンタジー王宮でおなじみの性格の悪い貴族女子に女官が、だいたい性格の悪い男貴族や男官に変わっている。
後宮に務めているのも、だいたい男だ。
彼らのサイドクエストを終わらせていると一定の世界情勢で起きる”ミリタルナ落城”の際に、結構熱いイベントが発生し、ネームドキャラの生存率が大幅に上昇する。
という事で、まずこの1週間でやるべき事は、この2つ。
やれば出来る子騎士団の育成と、後宮の男との交友。
「……いや、大事な事を見落としていたな」
そうだ。このミリタルナの城には今、最も始末しておいた方がお得な奴がいた。
父王ローラン。
前周回にて、がっつり不死連合とつるんでいたカス野郎。
原作灰クソにおいても、あいつはほぼ全てのプレイヤーから嫌われていた。
理由はシンプル、あいつは本当に自分の快楽の事しか考えていないからだ。
他の敵キャラ、魔族でさえ、本人たちすら気付いていない信念や性、存在理由からプレイヤーと敵対する事が多い中、父王ローラン、あいつだけはダメだ。
独りよがりの正義感と歪んだ承認欲求、そして他人のものばかりを欲しがる浅ましさ。
それらから起こる、幼稚な行動。
具体的には、前回のようなミアを捨て石にしてアネスタシアだけ助けようとするアホみたいな行動。
自分の命を優先する為に、アネスタシア達に戦力を貸し出さない愚行。
魔族がいなくなった途端に、手柄を自分のものにしようと閃くカスの思考。
男の嫌なところと、女の嫌な所だけを煮詰めて抽出したような奴。
原作灰クソでは、あまりにもあいつが起こすトラブルが多い為、ファンから運営に修正パッチの要望が出たほどに嫌われている。
だが、しかし、父王ローランは灰クソ発売から2か月後、唐突にネットの人気者になるのだ。
動画投稿者、チャンネル名『真顔タイム』による灰クソ動画が火をつけたのだ。
タイトル名『父王ローラン討伐TA』
内容はシンプル、ゲームスタートから以下に素早く父王ローランを処すことが出来るかというシンプルな内容。
この動画は父王ローランを蛇蝎の如く嫌っていたファンに大ウケし、再生回数は1年で370万回再生を記録する大ヒットとなった。
最初はゲーム開始から数時間ほどかかっていたローラン討伐は、試行錯誤を重ねた結果、最終的にはゲーム開始から46秒まで討伐タイムは縮んでいた。
動画の中では通算1282回、ローランをあらゆる方法で討伐したらしい。
最終的な結論としては灰クソのオープニングである王都襲撃イベントの際に、戦場に向かう前に王宮に戻り、隠し通路で安全な場所に逃げようとしているローランを、何故か用意されている玉座の裏に隠されている”隠し通路爆破スイッチ”を押して、爆殺するという運営の殺意と名付けられた仕様での討伐が答えとなっていた。
俺も、父王ローランを処そうと思う。
悪いけどアイツだけはダメだ。
ここで奴を生かしておくのは、怠惰ともいえる。
『ま、マスタァ、前に、人間の世界では殺すのは簡単じゃないって……』
「ラミィは賢いな、よく覚えているじゃないか。でもな、あれは簡単じゃないだけだ。出来ないとは言っていない」
『え?』
ここからは、言葉には出さずに思考でラミィと会話をする。
万が一聞かれていたらまずいからな。
ラミィ、きちんと準備していれば問題ないんだ。
世の中には残念だが、説得も交渉も届かない獣のような奴も存在する。
俺は俺の平穏の為に、理不尽を、不死も魔族も斃した。
人間だけ斃せないなんて、おかしいだろ。
『ふ、ふ、ふひ……いいね、マスタァ……ラミィはそういうの、好きだよ──定命の者よ。汝の平穏は……血と生贄を礎として築かれるのがふさわしい』
急にラミィが悪竜みたいな事を言い出した。
まあ、機嫌がよさそうだからヨシ。
「だが、王都襲撃はもう終わってしまったしな……」
隠し通路爆破が使えないとすると……アレだな。
父王ローラン討伐TAにもあった……『普通に暗殺』
動画では確か、父王ローランが独りになるタイミングを調査し、暗殺していた。
夜中の12時頃に、不死連合との魔術通信の為、自室で1人になる機会があるのだ。
よし、今回はそこで始末しようか。
善は急げ。
と言う事で、夜、さっそく俺は作戦を開始した。
王宮の構造はゲームと全く同じ、つまり俺のゲーム知識ががっつり役立つ。
この病室から、王の私室がある王塔までは窓から出て屋根伝いに行けば、壁を登って到達できる。
普通の方法で行くとなると、近衛兵や騎士達に見つかるだろう。
だが、しかし。
「ふ、ふふふ、ついにがっつり使うチャンスが来たな」
ラミィの中に格納しているオーパーツ。
月の宮で手に入れたでたらめガジェットを使えば、容易な事だ。
オープンワールドゲームなんて、こういうアイテム使ってズルするのがいっちばん楽しいんだから。
しかし、さっそくちょっと問題発生。
部屋の前に気配を感じる。
「リヒト……今夜からは、私とミアが其方の夜の番をする……」
アネスタシアとミアが看病の為に病室を訪れていた。
おい、良い人すぎるだろ、この2人。
貴女達、王族ぞ?
俺、平民ぞ?
気持ちはありがたいが、今はまずい。
こうしている間にも、原作では、父王ローランは不死連盟との密談やらその母体であるデドマン帝国との内通やらミリタルナにとって厄介事にしかならない事をしている。
とはいえ、アネもミアも言い出したら聞かない性格だ。
看病はいいですと言って、素直に引き下がる女ではない。
……背に腹は代えられない。
あまり気は進まないが……アレをするか。
俺は扉越しに声を漏らす。
「アネスタシア様、ミア様……お気持ちはありがたく。しかし、今夜はどうかお引き取りを」
「な、何故だっ……私達は、邪魔、か?」
「いえ、そのような事はございません、ただ、今は……うっ、くっ」
はい、ここで全力の痛がる演技。
なるべく、こう、急に痛みましたよみたいな感じでっと。
「!? リヒトさん!?」
扉の向こう側からは、ミアの悲痛な声が聞こえる。
「どうした!? リヒト……! まさか、痛む、のか? す、すぐに医者を──ミア、医務官を──」
「殿下……ミア様、それには及びません……。ただ、痛むだけです。聞き苦しいものを聞かせて申し訳なく」
「何を、何を言うのだ!? 聞き苦しいだと!? そんな事はない! 決してそんな事はない! ケガを負わせてしまったのは、私の責任だ! 私が」
「お2人に……見られたくないのです……痛みに喘ぐ、情けない姿を」
「「あっ……」」
王姉妹は急に大人しくなる。
名付けて、”失った腕が痛む姿を見られたくないので部屋には入らないでね作戦”。
最悪の作戦だが、最善の説得方法だ。
予想通り、善人の王姉妹はぴたりと物分かりがよくなった。
「そう、か……私は、私は、また自分1人で……自分の事しか考えてない……」
「ミアも、です……僕、また、自分の気持ちだけで、リヒトさんの事、何も考えてなかった……」
扉の向こうで、ぺしょぺしょになっている王姉妹の気配がする。
待てども、その気配は消える事はない。
俺に気を遣って部屋に入るのはやめたけど、部屋の外で待機しているらしい。
王族がやる事じゃねえだろ、申し訳ないわ。
だが、このまま扉の前にいられると行動が出来ない。
なので──ここで役に立つのが、月の宮での8000年修行の成果。
月の宮で手に入れたオーパーツ”虚像の抜け殻”だ。
その効果、”使用者の簡易的なコピーと簡単な動作の再現”
まあ、要は劣化版コピーをその場で1体用意する事が出来る。
原作灰クソでは、犯罪プレイをする時のアリバイ工作や囮として使われていたアイテムだ。
今回は、俺の身代わりをしてもらう。
虚像を起動すると、俺そのものなコピー体が出現する。
命令は、ベッドで寝転んで、定期的に幻肢痛に呻け、だ。
『う、う、ううっ』
おお、すげえリアル。
虚像が俺そっくりそのもののうめき声をあげる。
ゲームの説明文では、とある滅びた小国の王が自分の影武者を作る為に作った魔術道具らしいが、結局、その王は虚像と自分の違いが分からなくなって狂死したらしい。
分かるよ、俺も月の宮では何度かそんな羽目になったからな。
まあ、もう慣れたので多分使用しても問題ないだろう。
これで、違和感なくアリバイの作成完了。
静かに窓を開けて、壁伝いに王宮を進む。
時刻は深夜──あいにく天気がよく月明かりがよく届く。
王宮の敷地内は24時間体制で警備網が敷かれている。
いくら夜で、屋根伝いと言ってもいつか見つかってしまうだろう。
ここで、使用するオーパーツは”狩人の帳”。
その効果──”完全なる隠密、透明化”。
まあ、言ってしまえば光学迷彩って奴だ。
身体を透明にして、周囲の景色に溶け込むようになる。
月の宮の天使達はこれを使っても俺の位置を看破してきたが、地上で狩人の帳を看破できる者は少ないだろう。
このオーパーツも使用者は、次第に自我が溶け、世界と自分の境目を無くし消失するという説明文が記されている。
だが、それも問題なし。
自我の消失とかは8000年前に通り過ぎている。
どうなろうとも、俺は俺。
平穏を求め、この世界の理不尽を排除する。
そういう精神攻撃は既に、適応済み。
オーパーツを駆使し、あっという間に王の私室がある尖塔に到着。
壁をよじ登り、尖塔の頂上に到着。
そこから床に仕込まれている隠し扉を開き、王の私室の天井裏に到着する。
オーパーツ”透かしモノクル”。
壁や遮蔽物を透視する事が出来る。
ついでにオーパーツ”壁耳”も使用。
文字通り、遮蔽物の向こう側の音を集める事が出来る。
これらのオーパーツを使用し様子を伺うと……どうやら父王は室内にいるらしい。
何をしているのだろうと、天井裏から様子を確認した所──どうやら誰かと会話をしているようだ。
魔術通信、遠隔地と通話しているな。
内容は……。
『ええ、手筈通りです。アネスタシアはいずれ、帝国に献上しますとも』
『いずれ、ミリタルナはデドマン帝国のものになるでしょう』
『それにアレは賢い。ミリタルナの生き残る道がそれしかないと悟れば喜んでその身を捧げるでしょうね』
『はい、親の薫陶です、あれは自慢の子どもですよ』
『そういう子なのですよ、昔からそういう風に教育しています』
『ああ、簡単ですよ、洗脳魔道具です。無意識化で、アネスタシアは危機に対して己の命だけを賭けるようにすりこんでいる』
『ええ、先王である妻にそれがバレた時は面倒でしたが、貴公たちのおかげで邪魔なあの女も処分出来た、一石二鳥でしょう』
『子とは親の為に生まれてくるものですから。光栄ですよ、私の血からあのような使える女が生まれた事はね』
『……ミア? 物好きですね。ええ、どうぞ、お好きにお使い下さい。あの穢れた売男の血のゴミを引き取って貰えるのなら、これほど助かる事もない』
『子供の幸せは、親が幸せに暮らしているのを見る事ですよ』
『彼女達もきっと喜んでくれるでしょう。私の幸せな姿を見せる事が親としての歓びです』
『ええ、では、計画通りに。アネスタシアとミア、不死連合にお渡ししますとも』
……ほんっとこいつ、殺した方がお得な奴だな。
正直、ほんのちょっぴり、いかにローランと言えど、まだ何もしてない状態のコイツを処すのはどうかなと思わなくもなかったが……。
父王、処すべし、だな。
通話が終わったタイミングを見計らい、天井の隠し扉から部屋にお邪魔する。
「良い夜ですね、ローラン陛下」
「……は?」
身体を大きく震わせ、目をまん丸に開き、固まるローラン。
今回の父王ローラン討伐TAの記録はどの程度のものだろうか。
御覧頂きありがとうございます。
他作品の原稿と同時進行なので遅くなり申し訳ない。
紅の砂漠を封印して書いてるので、早めに更新していきます。