貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る   作:しば犬部隊

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36話 レナリアのトラウマ

~レナリア視点~

 

ウチの目の前で……信じられない事が起きていた。

 

男は、魔術が使えない。子供で知っているこの世界のルール。

理由は簡単、男は弱く、魔力がないから。

 

絶対不変のルールは、しかし。

 

「驚かせるつもりはない、ただ、君に理解してほしいんだ。俺は、君の役に立つ人間だと」

 

彼の手元で踊るように空中を舞う血液、そんな光景に塗り替えられていく。

 

出来損ないのウチでも分かる。

 

”魔術”だ。

 

魔力によって、世界の法則を己のルールによって浸食する超常の業。

最初の魔女と呼ばれる魔術師の祖が、月女神の奇跡を学習し、それを真似た事が発端とされているこの業は、女性にしか扱えないはず。

 

なのに、なのに。

 

「鮮血、魔術……」

 

「やはり知っているかい。そう、鮮血魔術、あまり多くの術はまだ覚えていないが、基本的な血の矢、そして血の矢を応用した血の刃などの初歩的な術は扱えるんだ」

 

男が、魔術を操っている。

 

「一体、どうやって……」

 

「俺は、少し……物知りでね。他の男よりは多くの事を知っているんだ。男でも魔術が使える方法、いくつかの古い呪文、そして――レナリア・カリア・ルラカナは月見台の学院学長、当代最強の魔術師:ノクトラ・カリア・ルラカナを超える魔術師になる」

 

「は?」

 

ドクン。

心臓が、跳ねた。

今、なんて、なんて言った?

ウチが、ママを超える魔術師になる?

 

そんな、事が。

 

「ふざけるなよ……オマエ」

 

……頭が、一気に冷えていく。

ママの娘に相応しい、月見台の跡継ぎに相応しい口調、ずっと練習していた強い女のふるまいがそのままに現れる。

 

ありえないのだ。

そんな事は。自分のような出来損ない――一切魔術が扱えぬ自分が、ママを、あの魔術師を超えるなどと。

 

侮辱だ。これは。ウチと、何よりママへの、

 

「私、ウチのような、出来損ないと、あの人を比べるな、男。これ以上無駄口を叩くのなら――」

 

「君は出来損ないではない」

「……え?」

 

本気で脅したつもりだった。

魔術の扱えぬ、しかし、膂力だけは人間離れしたこの肉体。

テーブルの端を握り、それを握りつぶす、机の端を掴みつぶすという異常。

 

魔力強化に長けた女でさえ、簡単には出来ない事だ。

 

「凄いな……心強いよ」

 

彼は一切怯えず、ただ、ウチがやった事を褒めた。

 

彼はそのまま不思議な声色で淡々と話す。

ウチにはまだ誰も気づいていない才能がある事。

そして自分ならウチのその才能を引き出す手助けが出来る事。

 

何故か、昔の事を、思い出す。

カレル行商街――あの街で過ごした本当に短い、ウチの初恋。

 

生涯で唯一、ウチの事を――凄い魔術師になると褒めてくれたあのセンセイ。

 

ミリタルナの第一王女や、第二王女がいたのに、一切ひいきせず、ウチの話を聞いて、ウチを膝にのせて色々なお話をしてくれた優しいセンセイ。

 

ウチの無能で――ウチが出来損ないのせいで。

 

『君は、凄い魔術師になるよ』

 

死なせてしまった、カレルのセンセイを。

 

カレルのあの夜。

魔物に襲われ、炎上するあの街の事は今でも覚えている。

 

『――レナリア、魔術は、魔術は使えないか?』

『え?』

『貴様、毎日言っていただろう! 自分はあの”ルラカナの跡継ぎ”だと!! 余が王になった暁には、貴様はルラカナの学長になっているのだと!!』

 

 銀の髪の友達は、とてもかっこいい王様になるのだろう。

 

『教師殿を助ける為に、貴様の力を借りたい!! 余のスキルとお前の魔術でモンスターを焼き払う!! それさえできれば――』

 

『ミアが道を切り開きます、姉さまと、レナさんの魔術があれば!! 先生を探して、そして、このカレルを脱出できるかもしれません!!』

 

金の髪の友達は、皆を護る強い剣士になるのだろう。

 

『そうだ、確か、魔術には人探しの魔術もあったはずだ!! 良い、いいぞ! 余達がいれば、まだ間に合う……!!

 

ウチは、きっと何にもなれない。

 

『使えない、っす』

『……は?』

『……え?』

『使えないっす、ウチ、ウチ……魔術が、使えないっす。ごめん、ごめん、アネスタシア、ミア……』

 

その瞬間の、友達の顔はもう思い出せない、思い出したくない。

 

『ウチ……ほんとは、何も出来ない、落ちこぼれなの……!』

 

失望、怒り、呆れ。

そうだ、ウチはあの時友人も失った。

 

炎の記憶。

カレルで、何も出来なかった、役立たずのウチ。

 

ウチが魔術が使えなかったせいで――センセイは死んだ。

そして、友達にも嫌われて――。

 

「ウチは、出来損ないなんだ……! お母さまの娘なのに! ウチは、魔術を使えない! 肝心な時に何も役に立たない! 誰にも期待されず、誰かを裏切るバカなの!!」

 

「そうか」

 

「あっは! がっかりした!? アンタはウチを利用したかったみたいだけど、そんな期待すら応えれられないのよ! 残念でした~とんだ貧乏くじ&読みの甘さでしたね~! そんなんでやっていけんの~? お母さまが腕を治すって言ってもさ~一度傷物になった男なんて女は選ばないっしょ」

 

違う、違う違う違う違う。

こんな事、絶対に言っちゃならないのに。

ああ、ウチはなんで、いつもこんなに出来損ないで愚かで、バカで――。

 

「そうか」 

 

……。

彼は、ただ、穏やかなままだった。

穏やかな海や、静かな湖――子供の頃、いつかどこかで見たようなそんな光景――。

 

「ハッ、んだよ、その顔……なんで、なんで、オマエ……今更……言い返さねえんだよ……ウチは、男に……オマエみたいなケガしてる男に、こんなひどい事言う女だぞ……」

 

「……知り合いの女性に、君とよく似た境遇の人がいたんだ」

 

「え?」

 

「その子も、母親を尊敬し、彼女に認められるために苦悩していた。その子の願いは、母親に認められる魔術師になる事だったんだ。……結果的に、彼女は努力と試練を経て覚醒した。ずっと求めていた特別な力に目覚める事が出来たんだ。ずっとなりたかった、母親にも負けない、凄い魔術師になったんだよ」

 

「……ハッ、そりゃ、めでたしめでたしのお話じゃない? 何、アンタ、ウチにもそうなれって? お行儀よく努力して、頑張って、欲しいものが手に入って――ウチとは全然違う!! そういうさあ、持ってる奴とは全然違う! 願いや目的を叶える事が出来る奴らとは――」

 

「いや、彼女の願いは永遠に叶う事はない」

 

「あ? なんで」

 

「彼女の母親は既に亡くなっていたからだ」

 

「――え……」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。この世界の、いや、失礼……学長、ノクトラ・カリア・ルラカナはまだ生きている」

 

彼は、まるで遠いどこかを見るような目でウチを見つめる。

 

「君は、出来る訳がないと言う。だが、それは本当にそうか?」

 

「男は魔術を使えない、出来るワケがないからだ。でも、今、君の目の前では何が起きている?」

 

「……男が、魔術を使ってる……」

 

「そして、君の願いはまだ、叶う。何故なら学長は生きているのだからね」

 

――諭すような、言い方。

自分が情けなくなる……。でも、ちっぽけなウチはここまで言われても――。

 

「なんなんだよ……」

 

「なんなんだよ、オマエ……! あ、あのさあ、自分の状況理解してる?」

 

「ここは、ルラカナ。男がどんな扱いされるか知ってんの!? 共有実験動物よ、ウチ達、魔術師にとって、アンタら男はそんな存在に過ぎないの! たまたまお母様が学長になってからは男を使った過激な実験は禁止されている……! でもね、ルラカナの殆どの女は男を外から回収する子種製造機と実験動物だと思ってるワケ。お前の目の前にいるウチだって、ウチだって!! 出来損ないだけど、魔術師なんだ!! 

 

「君は、そんな事をしない」

「はあ!? それが、舐めてるって――」

「君は母親を悲しませるような事はしない」

「っ」

 

どんな脅しも、癇癪も通じない。

 

ただ、彼は――男とは思えない包容力でウチをあやすように。

でも、どこまでも対等に。

 

「取引だ、レナリア・カリア・ルラカナ。俺は君に必要なモノを提供できる。技術も知識も、惜しみなく与えよう」

 

「なんで、だよ」

 

声が零れる。

 

「なんで、ここまで言われて、怒らないのよ、失望しないんだよ……! ウチは、こんなにも、ダメな女で――」

 

誰よりも知っているのだ。

自分が出来損ないだと。

 

()()()()()()()()()()

 

「――」

 

『《《君は凄い魔術師になるよ』

 

ありえない、ありえない事だ。

でも、今、彼はあのカレルのセンセイと全く同じ事を。

 

気付けば、ウチは――。

 

「アンタ、誰だっけ?」

 

「ミリタルナ王宮の、只の従者ですよ。レナリア様」

 

「違う……名前」

 

急に、なんかその、顔が、熱い。

意味わかんない、意味わかんない。

ウチは、他の魔術師と違って男には興味ない。

だって、ウチは男なんかにかまけてる暇はないから。

 

出来損ないのウチは、早く、早くお母様に認めて貰わないと――。

 

「リヒト・テトグマンと申します」

 

あ、まず。

顔が、熱くて。

胸が、お臍の下が――熱ッ。




 
 御覧頂きありがとうございます。
 カレルで脳焼き済みのお子様、3人目です。
 
 先日は書籍化発表のお知らせ御覧頂きありがとうございました!
 今月20日が発売日になるので、宣伝が多くなり申し訳ございません!
 引き続きルラカナ編をお楽しみ下さい!

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