貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
「えはは……」
アタシは、男が大嫌い。
女に、媚び、諂うだけの豚クソ共。
奴らは女に愛を語り、その体温で女を癒す。
それを愛情だと言うけれど……それは嘘。
性欲なんてありませんって顔をしておきながら、美人に乗っかって腰をへこらせるチャンスを狙っている豚ばかり。
アタシの父は、そんな豚の1匹だった。
必死に働いて、アタシを育ててくれたママをあの男は、簡単に裏切った。
遠征で街に来た帝都の冒険者にちょっと誘惑されただけで、既婚者でありながら身体を許し、ママの心を傷つけた。
アタシはその時、学んだ。
男なんか信じちゃダメって。
女の努力や成果に寄生して生きるしか能がないくせに。
あいつらは、自分のツガイよりも条件の良い女に誘われたら誰にでも腰をヘコらせる豚だ。
豚は嫌い。
アイツらにアタシの権利、財産、心、何一つだって渡すつもりはない。
アタシは男と番わない。絶対に。
だから、1人で生きていく。
「えはは……そう、思ってたのにな……」
──対等でいたいんだ、ニア。
「んっ……えは、は」
身体が、下半身が、熱い。
地下の武器庫で1人、アタシは自分で自分の肩を抱きしめる。
さっきまでリビングに一緒にいたアイツの言葉、アイツの匂い、ああ、いらつく、いらつく、イラつく。
お腹の下、溜まる熱が取れない。
魔力とそれ以外の何かが身体の内側を這いまわる。
アレ以上、一緒の部屋にいたら、無理やりにでもあのオスを犯していたかもしれない。
「だめ……だめ、それは、ダメ……」
辺境の天才冒険者としての不敵な演技も、口調も追いつかない。
最初は、只の興味で始まった友人関係だった。
下らない男同士の陰湿ないじめに加担してたくせに、急に人が変わったかのように真っ向から立ち向かう男子がいた。
謝れない人間の方が多いのに、素直にライスに謝ったあの態度。
そんな彼が、ほんの少し珍しかっただけだ。
でも、もう違う。
アタシは今日、はっきりと意識した。
リヒトに抱くこの感情は同情でも、友情でもない。
「リヒトは、やっぱり、他の男と違う……」
女の本能が囁く。
支配しろ、保護しろ、犯せ、ドロドロに惚れさせろ、他の雌に触れさせるな。
手に入れろ──あの男が、絶対に欲しい。
「えはは」
がりっ。
唇の端を噛み、欲情を抑える。
「はー♡ ほんと、自分で働きたいとか、対等でいたいとか、女に剣を教えて欲しいとかっ……肉食系男子じゃん♡ はー、ほんっときも。きもきも。えはは♡」
訓練用の木剣を2本持って地下室から出る。
足取りが軽くなる。
今、アタシは、きっとうれしくて仕方ないんだ。
普通の男は剣なんか興味を持たない。野蛮で粗忽な女の業って言って理解する気もないのだろう。
男は何をしても、女には勝てない。
どれだけ鍛え学んでも、力でも知識でも男は女に勝てないのだ。
だから誰も努力しない。最初から男だからと成長を諦めてる奴ばかり。
最近声をかけてくる裕福な商家の長男、地方貴族の貴公子も結局はアタシの力や名声に寄ってきているだけ。
でも、リヒトは違う。
対等になりたいって言ってくれた。
それに何より──。
「アイツ、アタシの夢を……嗤わなかったな……」
男は女よりも現実を見ている、アタシの夢がおとぎ話の世界にある事を知ると、どんな男も少しバカにしたように嗤う。
でも──。
『俺は……君の夢を笑わない』
「えは♡」
お腹の下辺りがきゅーっとする。
決めた、アタシはアタシの幼馴染をアタシ好みの完璧な男に育てよう。
心臓が鼓動して、身体の毛穴から魔力が溢れてくる。
好きな男が出来た女は魔力が覚醒しやすくなるって聞いた時は、ただのバカな噂だと思ってたけど……。
まだ早い、まだ早い。この衝動は大切にとっておこう。
いつかあいつがアタシの魅力に気付いて、それで、告白とかしてきたその時に。
「ブチ犯そ♡」
◇◇◇◇
最近は、冒険者ギルドの給仕以外のアルバイトを行っている。
今日のバイトは、家庭教師のバイトだ。
「……教師殿、昨日の話の続きを頼む。バトルオブセキガハラ、孤立したオニシマヅはどうしたのだ?」
「きっと、トウ軍に降伏したんだよ、じゃないと、皆死んじゃうもん」
「いや、セップクっす! ほら、一昨日話してくれたホンノウジのヘンみたいな感じっすよ!」
銀髪ウルフロング少女、金髪の二房ポニテ少女、そして魔女帽子の青髪少女。
3人の生徒は全員、貴族のお嬢様だ。
貴族のお嬢様達は、家の跡取り修行として5歳から10歳の間、親元を離れ暮らさなければいけない。
仮面はその修業の一環。魔除けの意味合いもあるとか。
教師である俺も、彼女達に余計な影響を与えない為にと銅の仮面をつけて名前も素性も隠して授業を行っている。
これも全部貴族の慣習って奴だろう。
「残念ですが、不正解です。島津は降伏も、そして諦める事もしませんでした」
「「ええ~!!」」
金髪二房ポニテ少女と魔女帽子青髪少女が驚く。
「…………撤退?」
黙考していた銀髪ウルフロング少女が口を開く。
「ご名答です、お嬢様。島津軍は約300の軍勢で80000の敵方に孤立するも、撤退を成功させ、指揮官を本国に生還させました」
「「ええっ!!??」」
「……どのような戦術を用いた? 80000の敵に対して、300の味方。逃げる事すら叶わぬ兵力差ぞ? どうやって……」
「敵陣のど真ん中を中央突破、敵本陣の脇をかすめ、指揮官の生還を成し遂げました」
「「「……はい?」」」
前世の記憶。
自分の事は朧気にしか思い出せないが、前の世界の歴史や常識の事は覚えている。
そんな記憶の1つ戦国時代の話を、東方辺境のおとぎ話として聞かせているのは理由がある。それは──。
「中央突破……? あの平野の戦場……あの状況から?」
「そ、それって敵に向かって撤退したって事? あ、で、でも、おとぎ話、だから……」
「みーちゃん、知らないんすか? 東方辺境のおとぎ話は、実話の可能性もあるってウチの実家の研究者さんが言ってたっすよ!」
歴史の話、キッズ達の食いつきがめっちゃ良いのだ。
前の教師は彼女達と打ち解ける事ができず、クビになったらしい。俺も最初は彼女達に警戒され、口も効いてくれなかった。
そこで彼女達と打ち解ける為に、様々な試行錯誤を経たうえでたどり着いたのが、これ。
東方辺境という未開拓の地域のおとぎ話として、俺の知る世界の歴史や戦史を紹介する事だった。
関ケ原の戦い、その中でインパクトの高い島津の退き口の話は非常にウケが良かった。
まあ、前世の世界でも色々漫画になってるしな、島津。
彼女達は貴族の女、この世界ではバリバリ戦う側の存在だ。戦国武将と相性がいいのかもしれない。
……鬼島津に感銘を受ける彼女達の思考は、少し心配になるけども。
授業は、いつも貴族区にある彼女達の宿舎屋敷で行う。
ニアの邸宅以上の豪華さだ。天窓すらある……。
天窓から注ぐぽかぽかした陽光を浴びながら授業は進んでいく。
「……教師殿、そろそろ──いつものを、頼みたい」
銀髪ウルフロング少女が本を閉じ、ぼそりと呟く。
この子がこの3人の中のリーダーだ。歴史や戦術の話の飲み込みも一番良い。
彼女の言葉が合図だったように、他の少女もじっと動きを止めて、俺を見つめる。
場の空気が、変わる。
ごくっと、少女達全員が喉を鳴らした。
「あー……はいはい、じゃあおいで」
これは、きっとあまり良くない事だろう。
だが、このバイトを続けるにあたって彼女達の希望を叶えるのは重要だ。
やむを得ない。金払い相当いいからな。
俺はソファに座る。
「……我が妹よ、教師殿の膝へ」
「でも、お姉ちゃんが先の方が……」
「姉たる者、妹を優先するのは当然だ」
「お、お姉ちゃん……!」「あーあ、姉妹仲良いのは羨ましいっすねー」
キッズ達の間で順番が決まったらしい。
二房ポニテちゃんがぴょこんと俺の膝に乗ってきた、背中を預けてくる。
俺が椅子にされている感じだ。
彼女が着ている仕立ての良いドレス。それでは隠せない柔らかい少女の身体の感触が全身に伝わる。
自然に背面ハグみたいな形になる。
「えっと、先生、ボク……重く、ない、ですか?」
「羽のように軽いです、お嬢様」
「えっ……わ、あ……ァ……」
二房ポニテちゃんが顔を抑えて丸くなる。
「……教師殿、我が妹を撫でるのを許可する」
これも、仕事だ。
俺は二房ポニテちゃんの頭を撫でる。
「んっ……え、へへ、先生になでなでされるの、好き、です」
成長したら海外モデルになれるほど、容姿が整っている美少女がふにゃっと笑う。
前世の世界では確実に何らかの条例に触れる行為、だが、この世界では男が欲情される対象の為、条例は存在しない。クソ異世界がよ。
「……剣の訓練も頑張っているみたいですね、ご立派です」
「え……なんで、それを知って……」
「手のタコや傷を見れば分かります」
「……男の人から見ると……剣の稽古って野蛮って、思い、ます……か? 王きゅ──実家では、男の人に、剣術の稽古とか見せると野蛮って言われて……」
二房ポニテちゃんがしゅんとする。
この世界の男の価値観、特に貴族の男のそれは歪んでいる。女達に守られている割に冒険者や騎士といった戦闘に関わる職の者を軽んじるのだ。
この世界の男と女は……何か歪んでいるように感じる。
「お手を失礼します」
「え、あっ」
二房ポニテちゃんの手を握る。
小さくてあたたかな白い手。しかし、手のひらや指先の皮の感触は硬い。
俺も剣の稽古をしているからよくわかる。
手がこの状態になるまでに、この子がどれだけの犠牲を払ってきたのか。
マジであの重たい鉄の棒を振り回すの大変だからな。
ここまで手が痛むまで、眠れない夜もあっただろう。
「あ、えっと、先生。手、ボク、ゴツゴツして気持ち悪いから……」
「美しい……」
「え?」
「この手は、お嬢様が努力なされている証です。怖がったり、バカにしたりするなんてありえません。本当に凄い手だ」
よく見れば手首や前腕もしっかり発達している、基礎訓練をおろそかにしてない証拠だ。
キレてるキレてる!! 手首の筋肉がキレてるよ!
「……っ」
この子が灰クソの主要人物かどうかはわからない。
だが、いずれ始まる本編ストーリーにおいて、戦う事の出来る人間はいくらいても困りはしない。
戦えない俺に出来るのは、戦う事の出来る者の邪魔をしないくらいだろう。
「……う、わああ、あああ、あああああ……」
「えっ」
泣いちゃった……!
今、どこに泣く要素あった??
これだから女心って奴はわからん……!!
「「……」」
いかん。残りのキッズ達が無言でこっちを見ている。
このままじゃ、バイト代に支障が出るぞ……!
「お、お嬢様、泣かないで下さいな」
「ひっく、だ、だって……ひっく……そ、そんなこと、言われたの、初めてで……男の人は皆、剣とか、野蛮だって──」
なんとか、泣き止ませないと……!
「野蛮なんかじゃない」
「えっ」
「その剣はきっといつか、お嬢様とお嬢様の大切な存在を守る為の正しい力になる。野蛮なものなんかじゃ決してない」
「そ、そんな事、初めて言われました……えへ、先生みたいな……男の人、初めて……うん、分かった、ボク、泣かない」
お、泣き止んだ。
俺、教師の才能あるかもしれんぞ。
「先生が危ない時はボクが剣で守ってあげるね……」
ん? なんか言った?
まあ、いいか。この子の次もメンタルケアをしないとキッズが2名。
二房ポニテちゃんの次は、魔女帽子ちゃん、ウルフカットロングちゃんの順番で抱っこしながら頭を撫で、褒めたおす。
「え、へへ。せ、センセイは良い人っす。ウチみたいなバカにも、優しく教えてくれて……」
「君はバカじゃない。その強い好奇心は魔術師として素晴らしい素質ですよ」
「!! あ、あの、センセイ、も、もしよかったら、いつかウチの実家に遊びに来ないっすか?
「実家? ああ、機会があればぜひ」
う~む、我ながら流れるような社交辞令。
貴族のキッズの心を傷つけず、かつ、彼女達の親御さんに報告された場合も、まあ、なんて上手に生徒を捌く教師なのかしら、となる事は間違いないだろう。
「ほんとっすか!! や、約束っす! 約束っすよ!」
うんうん、ちびっこの話だ。数か月もしたら忘れるだろう。
俺は良い感じに微笑んで頷いておく。
「うひ、うひひ、センセイ、やった、ウチの実家、学院にきてくれるんだ……相談役の席を空けておかないと……」
魔女っ子帽子の次は、銀髪ウルフカットロングちゃん。
「……教師殿、貴方は……王に必要な資質を何と心得る?」
「王、ですか……?」
何言ってんだ、こいつ。
まあ、中二病の走りだろう。適当に話を合わせておくか。
「ビジョンがあるかどうか、かと。俺の知る日本史、じゃない。御伽話に出てくる王たる者は皆、天下を、世界をどのように変えるかの展望を見ていました」
「ビジョン……展望、か」
可愛いを超えてもはや美しい、芸術品のような容姿の銀髪ウルフカットちゃんが俺の膝に座ったまま呟く。
顔の上半分が隠れている銀の仮面を被っていても、鼻の形とか唇の形とか、モデルさん感が半端ない。
「余──いや、私は、対等な世界が作りたい。女が男を守るだけではなく、互いが互いに能力を発揮し、支え合える世を」
「それは、ありです」
「……意外だ。そなたは男であろう? よ……私の考えはそなた達の特権を奪うものでもあるのだぞ」
「維持する努力もなしに成立する特権なんてないほうが健全ですよ、お嬢様」
中二病の走りだろう。ここは年長者として温かく見守ろう。
まだ小学生のくらいの年齢だ。親元を離れて寂しいのもあって、こう、将来王様になるよロールプレイがしたくなったんだろうな。
わかるよ、俺もガキの頃、自分が神の生まれ変わりだと思い込んでいたからな。誰にでもあるものだね、そういう黒歴史。
生徒達のメンタルケアも、業務範囲だ。
俺は銀髪ウルフカットロングちゃんの言葉を遮らず、ただ話を聞き続ける。
いつのまにか、大きなソファでキッズ3人に囲まれている。
銀髪ウルフカットロングちゃんを膝に乗せたまま、二房ポニテちゃんと魔女帽子ちゃんも、俺の腕に左右から抱き着く形。
暑い。キッズ特有の高い体温に包まれている。
「教師殿、あなたの身体は……存外に大きくて分厚いのだな」
「ぼ、ボク、男の人の手ってゴツゴツしてるの知らなかった、です……か、っこいい」
「センセイ、く、首筋、これ、筋肉っすか? なんか、すごい、男の人の身体、って、なんか……」
……これ、俺、貞操の危機とかではないよな?
えっ……全然振りほどけない……ぅゎょぅι゛ょっょぃ……。
「待て、動くな、このまま少し、じっとしていてくれ、少し、眠りたい」
「あの、えっと、先生がほめてくれたボクの手、握って欲しいなって、あ、すんすん、えへ」
「くんかくんか、うへ~、センセイの匂い、うっへ、首筋、濃い……」
この子達、俺の匂い嗅いでる……? 俺、臭いのか?
だが、振りほどけない。そのまま俺は、バイト時間一杯、生温かいキッズ達に密着されたまま授業を続ける。
「「「……すん、すん、すん」」」
やっぱこれ、匂い嗅がれてるわ。
それに心なしか、彼女達の俺を見る目……興奮している時のニアや、冒険者達から感じる視線に似ている……?
いや、いやいやいや、いくら貞操逆転死にゲー世界っつったって、キッズですよ?
……気のせい、だろう。むしろ意識してる俺の方がロリコンになってしまう。
──あ、そろそろ次の家庭教師行かなきゃ……。
次のバイトは──エルフのちびっこ軍団への授業と、獣人クラスの皆の授業か。
……金って稼ぐの大変だなあ。
読んで頂きありがとうございます! ブクマ、感想恐縮です。
引き続き楽しんで頂けるよう頑張ります。