貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
◇◇◇◇
ダンジョンには魔物が出現しにくいセーフポイントが存在する。
水棲の魔物の多い水路から離れた場所で俺達は休憩をする事にした。
相変わらず、レナリア以外の魔術師は魔力不足による虚脱状態のままだ。
このままじゃいかん。
食事にしよう。
幸い、月の宮で手に入れたオーパーツの中に調理用の道具もある。
なんなら食材も全てラミィの中に収納済みだ。
まあ、正体ばれの可能性が少し面倒だが……ホンおば戦では彼女達だけに戦わせてしまった。
結果的に俺は、この世界の男らしく護られてしまった訳だ。
保身の為にこのまま何もしないというのも、人としてどうかと思う。
ただでさえ、不死の身体のせいで俺はすこしづつ感性や性格がおかしくなっているのだ。
せめて人として、真っ当な道を歩む事にしよう。
「ここで簡単に食事をしましょう」
「食事って、アンタ……ここには食べるものなんて何も──え?」
レナリアが目を丸くして固まる。
俺が地面に広げていた魔導カセットコンロや、肉焼きセット、そして鍋やらフライパンに目が言っていた。
「……アンタ、それどうしたの?」
レナリアには、これはミリタルナから貸し出されたものとして説明した。
そして、収納に関しては──。
「これは、アネスタシア殿下から下賜された指輪にございます。どうやら、殿下の下さったこの指輪には異次元収納の機能がついているようでして……」
ラミィ指輪をミリタルナ王家の物品という事で誤魔化す。
我ながら完璧な説明だ。
アネスタシアがルラカナに来たりしない以上、バレるハズもないなんてすばらしい説明。
異次元収納の機能がついている物品は非常に珍しい品物だ。
それは魔術師の本場、ルラカナでも変わりはない。
「……アネスタシアが、これをアンタに? ……そっ、か。本当に大事にされてるのね」
「ひ、ひえ~、異次元収納の指輪って、それ、お、オーパーツなんじゃ……み、ミリタルナの王族すご~い」
「ま、待って。アイテム自体も凄いけど、王族にこんなものを渡されるリヒトさんって……その、従者の枠を超えているような──」
皆の反応を後目に調理を始める。
ラミィの収納空間では時間が止まっている。つまり生鮮食品だって余裕で保存できる訳だ。
魔力欠乏に効く食材を用意する。
結局肉よ、肉。
月の宮で手に入れた”星鹿のもも肉”だ。
この肉を手に入れたのは、月の宮物件の冷蔵庫だが、”星鹿”自体は、ルラカナでもよく食べられている肉。彼女達の舌にも合うだろう。
これを薄切りにして、月の宮で手に入れたタレに付け込む。
このタレが旨い。
甘辛く、それでいてがっつりした味付けはぶっちゃけ、あれだ、ほぼ焼き肉のたれに近い。
続いて、これも月の宮で手に入れたキャベツっぽい野菜を千切りにする。
じゅううううううううううううう。
脂を引いたフライパンで肉をさっと焼いていく。
タレと肉が焼ける香りが一気に広がった。
「うわ……めちゃくちゃ良い匂い……」
「うわ~流石男の人……料理の手際がいいや~」
「あれ、待って、この状況って」
「ももももももももももも、もしかしてェ! おおおおお、男の人の手料理が、食べ、食べられっ、え、わたし、やっぱり何か小説読んでます?」
肉の香りを嗅いで、へろへろになっていた魔術師達も少し元気が出たらしい。
肉がてらてらに焼き上がり、キャベツと一緒に皿に盛っていく。
最後にこれも月の宮で手に入れた乾燥スープの素をお湯で溶いて、コンソメスープっぽいものの出来上がり。
「お待たせしました。簡単なものですみません。星鹿のもも肉を俺が前にいた場所の味付けで焼き上げたものです。パンと野菜、スープも合わせてどうぞ」
肉と野菜を盛った皿、スープとパンをそれぞれに配っていく。
魔術師達がぽかーんとした顔でそれらを受け取った。
「あ、ありがと、リヒト。あ、アンタ、凄いのね……ふ、ふーん。やるじゃん……」
「あわわわわわ、す、すっごくいい香り~このお肉、輝いてるよ~」
「これ、パンも高級な白パンだよね……。街のパン屋さんの奴より柔らかいような」
「ほ、ほわああああああああああ!! お、おおおおおおお、男の人のお! 野営料理ィ!! 冒険の最中のお! 愛情のこもった手料理ィ!! し、シルバーマスク先生の小説は、やっぱり現実だったんだああああああああああああ!!」
後は、実際食べてみての味だが……。
「じゃあ、リヒト。頂いてもいいかしら?」
「もちろん。お口にあえば幸いです」
レナリアさんを皮切りに、皆が食事に手を付けて。
「「「「──」」」」
固まってしまった。
「あ、もしかして、お口に合いませんでしたか?」
しまった。流石に肉のたれ焼きは男料理すぎたか?
ルラカナの魔術師というエリート層だ。もっとお上品な料理の方が──。
「お、いしい……」
「え?」
レナリアさんがぼそりと呟く。
そして。
がつがつがつ、もぐもぐもぐ。
物凄い勢いで肉と野菜とパンを平らげる魔術師達。
そして。
「「「おいしいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」」」
「なんですかあ~!!?? これ、なんなんですかあああああ! このお肉!! 星鹿のお肉がこんなに美味しいって知らないよおおおおおお!」
「た、タレ、これ、すごっ……ほ、本当に美味しい……お野菜もしゃきしゃきで……本当に美味しい」
ノーンさんとスッラさんには大好評らしい。
そして、委員長は──。
「ぐすっ」
ほそうすの身体、肩を震わせて涙を流していた。
ど、どっち? 本当に、どっちだ?
いや、完食してるからまずいって事はなさそうだけど……。
「ずっと、ずっと、夢だったんです……男の人の手料理を食べるの……わたし、ずっとルラカナにいるから……小説でしか、外の世界に触れた事なくて……ずっとこのまま独りなのかなって思ってたから……」
ぼろろろと涙をこぼす委員長。
もぐもぐと食事を続けているので、口に合わないという事はなさそうだ。
でも、良かった。
おおむね好評らしい。
凄い勢いで料理が消えていくのを見るのは割と気分が良い。
「うひゃ~、美味しかったあ……」
「ごちそうさまでした、リヒトさん。その、本当に美味しかったです」
「いえいえ。お粗末様です」
ノーンさんとスッラさんもかなり顔色がよくなったみたいだ。
委員長も同じく顔に生気が戻っている。
だが、どこかぽやっとした顔で。
「……結婚したいな……」
この子はそっとしておこう。
「うひ、そ、そうだ、りひ、リヒトさん。あ、あ、あ、あの、もし良かったら、結婚? 結婚しませんか? あたし、絶対にリヒトさんを、幸せにします! だから、その、毎日わたしに、この美味しい料理を作って──」
「だめに決まってるで、しょ!」
レナリアが委員長を背後から羽交い絞めにする。
「うわああああああああああああああん! レナリアさんが、わたしの将来設計を邪魔するうううううううう!! け、権力者の娘の横暴だああああああああ!」
「リヒトはお母様の賓客なの! そもそもミリタルナの従者を勝手に娶る事なんて許される訳ないでしょうが!! そうよね! リヒト!!」
「あ、ああ。結婚は今は、出来ない、かな」
「えええええええ、で、でも、わ、わたしと結婚してくれたらあ! たくさん特典ありますよおおお! 家も買うし、塔も買うし、きょ、興味があるなら魔術も教えるしいいいいい!」
ぱたぱたと委員長が骨の浮いた腕を騒がしく動かす。
しかし、レナリアの拘束を剥がせる気配はない。
「あはは~魔術って、委員長~。リヒトさんは男の人だよ~」
「だよね、男の人は魔術に興味ある訳ないじゃん」
ギャル2人の言葉。
しかし、俺にとって委員長の言葉、”魔術を教える”というその言葉は──。
「魔術を? マジすか?」
「「「……え?」」」
非常に興味がある。
ふと思い出した。
そうだ、原作灰クソには友好度が高くなったキャラから魔術や剣技を教えて貰えるイベントがあった。
通称”
キャラからの好感度が一定以上かつ、プレイヤーキャラの能力値が一定以上ある場合に発生する個別イベントだ。
灰クソではお気に入りのNPCと様々な関係を結ぶ事が出来る。
もちろんその中には師弟関係もあるのだ。
内容はシンプルに、NPCの得意な魔術や技を教えて貰えるというお得なイベントだったはず。
そうか。
ルラカナの魔術師達は、原作では全滅しているので不可能だが、この世界では彼女達が存命中じゃないか。
「それは、ちょっと、興味があります、ね」
ノーンさんが使っていた水精の使役や、スッラさんの使っていた他者強化魔術、そして委員長が扱っていた影の群れを召喚する魔術。
これらを覚える機会があるかもしれないのだ。
アクションゲームで大事なのは、基礎ステータスももちろんだ。
しかし、俺がもっとも重要だと思うのは”選択肢の量”だと思う。
剣、魔術、弓、仲間、オーパーツ。
持っている手札が多ければ多いほど、選択肢があればあるほど戦闘行為におけるアドバンテージは増えていく。
まあ、あとシンプルに楽しいし。
「きききききききききききき、聞きましたか! みなさあああああああああああああああん!! り、リヒトさんはア! わたしに、魔術を教わりたいみたいですよ! うひ、うひひ、お、お、お、男の子の、
レナリアの拘束から逃れたらしい委員長が、両手を突き上げて固まる。
昔ネットで見た万歳をしている猫ちゃんを思い出す。
「り、リヒトく~ん、そ、その、ウンディーネとの契約とか~、興味あったり~?」
「り、リヒトさん、その、強化魔術ってきっと、男の人にも役立つと思ったり……つ、つかなくても理論とかを勉強するだけでも、その、色々良い事はあると思うんだけど……」
「うわ、めっちゃ知りたいな……」
「「!!」」
ギャル2人がくわっと目を見開く。
ルラカナの魔術師に直接、魔術を教えて貰える機会……これは是非ともものにしたい。
まさか、変態おじさん以外にも、強化イベントがあるとは……。
くいっ。
「ん?」
「…………アンタ。今更魔術を教わる必要あるの?」
レナリアが俺の裾をぎゅっと掴んで、上目遣いでこちらを見つめてくる。
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