貞操逆転世界で湿度高めヒロイン達を無自覚に沼らせる転生者~死にゲー世界で鬱エンドを迎えるヒロイン全員救う、全員が曇る 作:しば犬部隊
授業が終わり、その男教師は屋敷を後にする。
ここからは、教師――リヒト・テトグマンが知る事はない時間。
残された銀仮面の少女達が、仮面を外す。3人が全員、とんでもない美少女。信じられないくらい小さな顔、白い肌、整ったパーツが露わになる。
すでに彼女達の成長後の美しさは約束されていた。
「今日も、センセイのなでなで……良かったすね……」「うん……」「ああ……良い」
端正な顔をぼーっとさせ、ソファに座り込む。
彼女達にとって、リヒト・テトグマンによる授業は刺激が強い。
面白いおとぎ話を中心にした理性的な授業、言葉の節々に感じる確かな知性。自分達の異質さを受け入れてくれる度量、何より感じる自分達への思いやり。
そして、男性特有のヒステリーを全く感じないあの空気。
前の教師も男だったが、自分よりも理知的な少女達に対して、すぐに癇癪を起す男だった。
「……やはり、教師殿は他の男とは違う」
銀髪ウルフカットロングの言葉に、他の2人が何度も頷く。
「ボクの手……かっこいいって言ってくれた……手を握って……ふふ、先生の手、大きかったな……」「ウチの事、バカじゃなくて……コウキシンが強いって……魔術師の才能があるって、褒めてくれたっす……」「ああ、彼はやはり、普通の男とは違う。こんな地方都市に腐らせておくのはもったいない」
そうなると、もうこれだ。
思春期に差し掛かる直前の彼女達は、教師に甘えに甘え始めてしまう。
これまで、彼女達は幼いながらそれぞれ、男に失望していた。
「後宮の男官、母の側室達から感じる下卑た目……」
銀髪ウルフカットは周囲の男が自分の顔や胸や臀部を見るあの視線が嫌い。
「……守られる事が当たり前のようにふるまうあの傲慢」
二房ポニテは己の弱さを恥じもしないその精神が嫌い。
「薄っぺらい愛想、女の財産や能力に寄生する事前提の在り方が」
魔女っ子帽子はその生き方が嫌い。
彼女達は幼いながらそれぞれ、男に失望していた。
「でも、教師殿は違う」「先生は別」「センセイは違うっすね」
彼は――ただ真っすぐ自分という人間を見て必死に接してくれる。
それが彼女達にとってどれほど心地よく、どれほどの救いになっているか。
故に、男教師、リヒト・テトグマンだけが知らないのだ。
「ていうか、センセイの匂い、エッチすぎないっすか?」
「「わかる」」
「石鹸と汗が混じった匂い、満月の日の匂いがするの、ほんとえっちっすよね」
「「すごくわかる」」
――己の貞操の危機を。
彼女達は、リヒトの肉体に興味津々だった。
「警戒心、なさすぎっすよね……保護しなきゃ……」
「あんな男の人、他の女が放っておく訳ないよ……お姉ちゃん」
「……その通りだ。妹よ」
少女達は既に、
リヒトの前では決して出さない低い声で少女達が言葉を交わす。
「……気付いたか? 我が妹、ミアよ」
「うん、姉さま、はっきり分かったよ。お兄さん、匂いをつけられてる。強い魔力、多分、A級冒険者クラスだ」
「あっはっは……気分悪いっすね~。マーキングされてる気分っすよ~。センセイはウチのなのにな~」
リヒト・テトグマンにこすり付けられている別の女の匂い。
それすらも、少女達は認識している。匂いが纏う魔力も、籠められた想いも。
「
「
「問題だ。何故なら彼は当家への仕官がすでに内定している」
「「……あ??」」
この世界の女は、気に入った男に対して――執着が強い。
彼女達のような特別な存在はなおさらに。
銀髪ウルフカットロング少女の青い目と、魔女帽子少女の糸目から覗く赤い瞳が互いを映す。
かたかたかた。
彼女達の魔力が波動となって部屋を揺らし始めた。
「いずれ余は教師殿を当家に――ミリタルナの王宮に招く。余が王となった暁には相応の立場として召し上げる故に」
銀髪ウルフカットロング少女――改め。
ネイチア大陸最大国、ミリタルナ王国第一王女。
アネスタシア・ネイチア・ミリタルナ。
これより先の未来、灰クソ本編において――覇王と呼ばれる女。
「あっはっは、それも笑えないっすね。センセイは、ウチの実家――魔術学院に招く事に決めてるっすから~学長になったウチの相談役になってもらうんすよ」
魔女帽子少女――改め。
魔術師達の総本山。月見台の魔術学院、次期当主。
レナリア・カリア・ルラカナ。
これより先の未来、灰クソ本編においては――人類最強の魔術師“月砕き”として覚醒する者。
「け、喧嘩はやめようよ、お姉ちゃん、レナちゃん、ね?」
二房金髪ポニテ少女――改め。
アネスタシアの妹にして、ミリタルナ王国第二王女。
ミア・ネイチア・ミリタルナ。
これより先の未来、灰クソ本編においては最強の不死――勇者として覚醒する者。
「ね、姉さまに、レナちゃん、落ち着いてよ! ボク達が争っちゃだめだよ!」
「……ミアよ、しかし、だな」「いくらミアちゃんでも、センセイの事は譲らないっすよ」
ミアが2人を仲裁――。
「――まずはセンセイに匂いをつけてる冒険者に対処しなきゃ。ボク達3人協力しないと、あの女に勝てないよ」
すんっと、真顔になるミア。
その顔は、教師に見せていた妖精のような笑顔ではなく、抜き身の刃に近い怜悧な顔。
「「確かに」」
もうダメだ。
覇王も、星砕きも、勇者も、もう手遅れ。
灰クソ本編では、男性嫌いのメインヒロイン達。
その性癖は年上の紳士お兄さん家庭教師という属性で歪められてしまった。
彼女達を責める事は出来ない。
この世界の男に慣れていた彼女達に、転生者の価値観によってもたらされるお兄さん力は劇薬すぎたのだ。
教師であるリヒトも知る由もなかった。
ゲームの知識はあくまで本編以降からのもの、メインストーリーが始まっていないこの時期はゲームにおいて語られる事のなかった時代故に。
加えて、顔隠しの銀の仮面、そして互いに名を名乗らない取り決めが、致命的なすれ違いを生んだのだ。
「教師殿は……自覚がなさすぎる。己の希少性、己の価値に」
「ボク達、早く大人にならなきゃ……強くなって、先生を守ってあげないと。先生は男で、ボク達は女なんだからね」
「っすね。そのためにもっと勉強して訓練して――センセイに相応しい女にならないと」
「ていうか、先生、ボク達以外の女(・)にも授業してるんだよね」
「――不快だ」
「――むかつくっすね」
リヒト・テトグマンの知らない所で、原作が大きく変わり始める。本人だけが知らないのだ。
「「「保護しなきゃ」」」
メインヒロイン達が、自分に沼り始めている事など、決して。